デンマーク流「シェアオフィス2.0」。21世紀の〝職場〟はコミュニティに、そしてライフスタイルへ

Text: Taiga Beppu

2017.3.17

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※この記事はウェブメディア「EPOCH MAKERS」の提供記事です。

EPOCH-MAKERS
EPOCH MAKERS – デンマークに聞く。未来が変わる。

世界の片隅で異彩を放つ、デンマーク。この小さな北欧の国は、情報化がさらに進んだ未来の社会の一つのロールモデルになり得る。EPOCH MAKERSはその可能性を信じて、独自の視点から取材し発信するインタビューメディア。

URL:http://epmk.net

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この記事を読み終えた時、あなたの「職場」の概念は瞬く間に崩壊する。少なくとも、実際にそこに足を運んだ僕は衝撃の連続だった。そんなシェアオフィスの代表の二人にお話を伺うと、ここはもはや「シェアオフィス」でくくるべき場ではないことを知る。デンマークの革新的なシェアオフィスから、21世紀の生き方のヒントを探るインタビュー。

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Britt Christiansen|ブリット・クリスチャンセン & Mikkel Küster|ミッケル・クースター/span>

5te STED 共同創始者

首都コペンハーゲンの中心に構えるシェアオフィス「5te Sted(フェムテ・ステッド)」。2人で5年前に設立。部屋1つ、デスク6つから始まり、現在は3フロアに約70社、112人所属(2015年当時)。

00年以上の歴史を持つこの5階建ての建築だが、リノベーションとこだわりのインテリアによってモダンで空気が良い。初対面でも声をかけられて、和気あいあいとした空間。

サイトはこちらから

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シェアオフィスのルール?ないです。そんなのいりません!

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ー以前このシェアオフィスに一度だけお邪魔したことがあったんですが、雰囲気がとにかく素晴らしくって! それで「どうしても」と、今回のインタビューに至りました。まずビックリしたのが、ここにはルールが一切ないと…。

ブリット:ここに来た人、みんなまずそれを言うんですよ!「なんでこのシェアオフィスにはルールがないの?」って(笑)。

ないですよ。だっていりませんから。ここは、「共有の職場」であるのと同時に、みんなが「自分の家」のようにリラックスして過ごせる場所。

いつでも子供を連れてきていいし、ペットの持ち込みも自由。「オフィス内でうるさくしないでください」「汚れた食器は自分で片付けてください」なんていちいち書かなくても、このオフィスはちゃんと回ります。ロッカーに鍵をかけるなんてもってのほか。ルールがなくても、何の問題もなくって。

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ールールを作って問題解決しようとするのは、思考停止していますよね。むしろ、むやみに境界線を作った方が、新たな問題が起きやすいんじゃないかと思っていて。

ミケル:僕もそう思いますね。たとえば、このシェアオフィスには専用のスマホアプリがあるんですよ。アプリを開けば、ランチの席やミーティングルームの予約などができて、オフィスのメンバー同士でもコミュニケーションが取れるような仕組みになっていて。実はこれ、運営する僕たちじゃなくて、オフィスのメンバーが作ってくれたんですよ。誰かが頼んだわけでもなく、ここにいる2つのアプリ制作会社がコラボして、勝手に作って、「これ作っといたから、今日からみんなで使おう!」って。僕たちも本当にビックリで!!(笑)大げさではなく、こういうクリエイティブなコラボレーションって僕たちも把握できないくらい毎日のように起こっているんですよ。

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先週も、あるグラフィックデザイナーが3週間の休暇を取りたいと言っていて。そしたら、「私がその分の仕事をやっておいてあげるよ」って、このオフィスにいる他のグラフィックデザイナーが、彼女の一番のクライアントの仕事を請け負うことに。

きれいごとではなく、ここでは「誰かの仕事を奪う、奪われる」という価値観は存在しないんですよ。
「あなたを助けてあげたい」「一緒にハッピーになろう」って、自然と思えるみたいで。

ーお話を伺っていると、ここはあまりにもピースで、クリエイティブで、もはやカルチャーショックです…。

ブリット:だから正直、私たちがやることってほとんど何もないんですよ(笑)。「お皿はちゃんと食洗機に入れなきゃ〜」って注意するくらい。私なんか、みんなからは「お母さん」って呼ばれていて(笑)。ここはそんなアットホームなオフィスなんです。

カフェテリアに込めた秘策

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ーこの規模で、そんなユニークなシェアオフィスは日本では聞いたことがありません。きっとデンマークでさえ、ほとんどないと思います。なぜそんな「場」を作れたんですか?

ブリット:たしかにデンマークでも他にはないと思います。「みんななぜそうしないの?」って逆に聞き返したいくらい!(笑)そうは言っても、こんな風に作れた理由を説明するのは本当に難しくて…。小さなことの積み重ねの上に成り立っていることだから、これといった答えがあるわけではなくて。でもまず言えるのは、私たちが最初から明確に「こういうオフィスを作りたい!」というビジョンがあったこと。リラックスしながら仕事に集中できて、まわりには仲間がいる、そんな居心地のいい職場。このオフィスを立ち上げた5年前は、どれだけ探しても、そんな場所はなかったんですよね。それなら自分たちで作ればいいじゃんって。

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ーそんな二人の思いから、このシェアオフィスは生まれたんですね。その思いを実現するために、どんなことをしたんですか?

ブリット:もちろん仕事場といえばミーティングルームも大切ですが、私たちが一番重要視しているのが、今いるこのカフェテリアなんです。このオフィスはそれなりに広い方ですが、コーヒーが飲めるのはここしかなくて。ここまで来ないとコーヒーを淹れられない。

正直、ものすごく不便。でもそれ以上に、みんなが自然と集い、顔を合わせてコミュニケーションが生まれる場を作りたかったんです。

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「競争」より「共創」のコミュニティを

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ーハード面からソフト面をうまくデザインすると、コミュニティを自然な形で作り上げることができるんですね。

ミケル:そうですね。ここは単なるシェアオフィスじゃなくて、一つのコミュニティなんです。去年の冬も30人でスキーに行ってね。みんな自分の家族とか、恋人や友達を連れてきて。今年の冬の開催が決まっていて、次でもうなんと3回目(笑)。誰かが大きなプロジェクトを成功させたら、夜にここで集まってお酒を交わしてお祝いすることも日常茶飯事で!

どうしてこうなり得たか考えると、このオフィスには競争がないことが大きいですね。市場では競合関係にあったとしても、ここの中では仲間で、お互いから学び合い、時には一緒に仕事をする。

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ーピースなコミュニティであるのと同時に、クリエイティブなチームなんですね。

ミケル:でも、コミュニティを運営する上で大切なことがあります。人を選別すること。スクリーニングです。たとえば、「仕事とプライベートは絶対に一緒にしたくない」という人、または、「私は独立したばかりで、毎日12時間働かないとダメなんです」という〝仕事人間〟もお断りします。

僕たちはそれくらいここに根付いているカルチャーを大切にしています。そのカルチャーを生み出したのが、お互いへの理解であり、同じ価値観を持つ安心感であり、このカフェテリアなんです。

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未来を先取りするライフスタイル「仕事と遊びの垣根がないからこそ」

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ーこのシェアオフィスはデンマーク的だなって思う一方で、デンマークとは違うような気もしていて。というのも、デンマークではもっとワークライフバランス、「仕事」と「遊び」を区別することが重視されているのに、ここではむしろ「仕事も遊びもごちゃ混ぜにしちゃえ!」という感じですよね。

ブリット:そうですね。なぜ私たちがそれほどまでにこだわるかというと、社会を変えるような素晴らしい仕事が生まれたり、想像を超えたコラボレーションが生まれるのは、いつもプライベートなディナーテーブルの上だったからなんです。

たとえば、自分の家族や友人などを招いて行った、このオフィスでのパーティーでのこと。ここに勤めるある女性起業家が、仕事のことを忘れてビールを飲みながら、ふと、「私、エコな家を建てようと思っているの」と。すると、「私、エネルギーを節約する設計を専門とする建築家を、このオフィスで知っているわ。明日彼を紹介するね!」と。その時こそ、最高な仕事が生まれた瞬間なんです。ここからそのプロジェクトは着々と進んでいて、ちょうど今建設中で。

なので、私たちはライフスタイルを提供していると思っています。ただの、共有する職場ではなく、「ワーク」と「ライフ」の境界線を曖昧にしながら、居心地のいいコミュニティを作り上げ、その中で幸せな生き方(=ライフスタイル)を提案しているんです。

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ーしかもここで提案されているライフスタイルはどの国の人でも共通する世界観ですよね。

ブリット:このビジネスがもっとうまくいったら、世界に進出しようと思っていて。その中の候補に日本もありますよ!ここにはアヤ(本メディアでも取材させていただいた、日本人女性起業家の岡村彩さん)もいるしね。私たちが日本に持ち込んで、それが「カッコいい」「イケてる」となれば、日本人の仕事観や人生観にインパクトを与えられると思います。特に日本では、私たちの世界観は圧倒的に他と違うはずだから。

いつか日本でシェアオフィスを開ける日が来ることを願っています。日本のシェアオフィスももちろん「ルールなし」ですね!

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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