最後に乗った車の運転手の顔を思い出せますか?「ありがとう」を忘れた21世紀に若き起業家が伝えたいこと


 

「20代の僕たちは、数千万円もする高級車を所有することに、ちっとも憧れていない。もっと言えばオンボロの車で、気心の知れた友人とドライブしながら、二度とないこの一瞬を笑って過ごしたい。だってそっちの方が、豊かな人生だって思うから」

現代において、知ることや所有することの価値は、相対的に低下している。24時間インターネットに接続され、生まれた頃から欲しいものがいくらでも手に入るからだ。大げさな話ではなく、私たちが暮らす社会はそんなものだろう。

進化し続けるテクノロジーが、生産と消費を繰り返す経済成長のループに輪をかけた結果、埋まる隙間のない満たされた若者たちの価値観が変わりつつある。嵐のように過ぎ去る日々に置き去りにされてきた、小さな幸せを拾い集めることが、若者たちのトレンドになっているようだ。

移りゆく価値観の変化を、モビリティを例に挙げて考えてみよう。かつては高級車を所有することが若い世代の憧れを象徴していたが、そんな価値観はもう過去のもの。ライドシェアリングサービス「Uber」が世界を席巻し、モビリティをシェアする時代になった。そして今、新たに“乗車体験”をもシェアするサービスが注目を集めている。マイカーを運転するドライブ好きと、クルマに乗って移動したい人をマッチングするプラットフォーム「CREW」だ。

「CREW」を展開する株式会社Azitの吉兼周優と須藤信一朗は「未来を予測したら、モビリティ体験をリデザインする必要があることは明白だった」と語る。

Photo by 撮影者

「CREW」を展開する株式会社AzitのCCO須藤と、CEO吉兼。

「誰かを喜ばせたい」という想いだけでつながった、“暇な大学生”の2人

 吉兼と須藤の出会いは大学生時代に遡る。当時デザイナーで、一緒にタッグを組んでくれるエンジニアを探していた吉兼が、アプリ開発を行うイベントで“背が高くて声のでかい丸刈り坊主”須藤に声をかけたことからすべてが始まった。

width="100%"

吉兼:もともとスマホアプリのサービスを作ることが好きでした。自分が手がけたサービスを利用した誰かが喜んでいる…たったそれだけのことかもしれないですが、僕にとってはそれが、何にも変えがたい喜びだったんです。大学生は、お金はないけど時間があります。どうせなら、楽しいことに時間を使いたいなって。一緒にサービス開発を手伝ってくれる仲間を探していたら、とにかく目立つ奴がいたんですよ。今、一緒に「CREW」をつくっている須藤です。

須藤:新しいもの好きなので、日本で民泊ブームが起こる前からAirbnbを利用していました。当時はシェアリングサービスが一般的ではなかったので「家を汚されたらどうするの?」なんて言われることもありました。でも、そんなこと全然なくて。ゲストが家に置手紙を置いて帰ったり、お土産をくれたり、「一期一会の出会いってなって素晴らしいんだろう」と感動したんです。「僕もそんなサービスを作れたらいいな」と思ってイベントに参加したら、吉兼に声をかけられて。「無休で無給で、誰かが喜ぶサービス作んない?」ってアホなこと言い出すもんだから、「こいつ気が合うな」って思ったんです(笑)。

 2人の出会いは、決して特別なものではない。誰しも経験したことがあるであろう単なる「友達さがし」だ。しかし、2人にとってその出会いは「偶然」では片付けられないものになる。

 「誰かに喜んでほしいな」「自分が直接価値を届けられるような仕事がしたいな」「これからの人生、楽しく生きていたいな」。改めて口に出すのが照れくさいほどにピュアな感情を持つ2人は、その日から一緒にサービスをつくりはじめた。

踏みならされたキャリアパスを歩くより、“ありがとうが溢れる社会”を創りたかった

 1つ年上の須藤は先に就職したが、働き始めてみると、吉兼とサービス開発をしていた頃の熱意や仲間と同じ目標に向かって切磋琢磨する“クサい”楽しさを感じられなくなってしまっていたそうだ。

 吉兼も同じ気持ちだった。「常識とされる、たかが“会社に就職するだけ”のことで、やり残したことをそのままにするなんてもったいない」。吉兼は就職活動を辞め、須藤は勤めていた会社を退職し、事業案も考えることなく会社を創業した。

 2人が目をつけたのは、「ドライブシェア」。2人に共通する「自分たちが直接価値を届け、その価値が人を媒介にして広がってほしい」というコアに直結するサービスだった。

width="100%"

吉兼:学生から社会人になり、個人から会社になり、環境や立場が変わりましたが、つくりたいサービスや目指していることは変わっていません。消費者に価値をを直接届けたくて、喜んで欲しくて、それがネットワーク化すれば、もっと提供価値が大きくなる。時代の流れを読みながら、その想いを最大化できるサービスを考えたんです。

width="100%"

須藤:シェアリングサービスは、心から感謝を伝える人と、その感謝を受け取る人がいる。どれだけテクノロジーが便利な社会を創造しても、たった一回の「ありがとう」には勝てないんですよ。インターネットの中心には、いつだって人がいるんです。僕の原体験にある感動をもっといろんな人に知って欲しくて、ドライブシェアサービスを展開することに決めました。

 インターネットは「効率化」によって社会を変革してきた。オフラインの店舗はオンライン化し、コストを削減することで利益を上げている。ライドシェアリングサービス「Uber」はハイヤーのオンラインマッチングプラットフォームを持ち込み、煩雑な工程を削ぎ落とした。
 
 しかし、「効率化」は完全に定量化できることである。誰がサービスを手がけようとも一律の指標があり、ただその効率化が繰り返されるだけだ。ただ、人の感情を定量的な指標で判断することは難しい。「CREW」は、ドライブ体験の共有を通じて、「ありがとうがもたらす感動」という何の判断基準もないことを本気で世の中に伝えようとしている。

僕たちのサービスは、Uberやタクシーの敵じゃない。

width="100%"

 「CREW」の1回あたりの利用料は、ガソリン代・高速道路料金といった「ドライバーの実費分」とプラットフォーム手数料等で、数十円単位から利用することも可能だ。ご存知だとは思うが、東京都(東京都特別区、三鷹市、武蔵野市)のタクシー初乗り運賃は410円である。アプリを起動し、目的地とドライバーをタップさえすれば、現在地へ自動車が駆けつける。

 「CREW」は安価で、便利に移動できる優れものだ。ともするとUberやタクシーとの競合のように思うユーザーもいるかもしれない。しかしながら、吉兼も須藤も、そんなサービスをつくることを志向していないそうだ。

吉兼:最後に乗ったタクシーのドライバーさんの顔を覚えていますか?…きっと覚えていないと思うんですよ。タクシーはとても便利なサービスで、きっと何度も利用するでしょうし、「Uber」もそうです。どちらも、人の暮らしを豊かにしているのは間違いありません。でも、死ぬときに昨日乗ったタクシーのことを思い出すかといえば、きっとそうではない。

僕は、自分の作ったサービスが、死ぬ瞬間に思い出してもらえるようなものであったほしいんです。それくらい誰かの心に感動を刻むようなプロダクトがつくりたい。僕らはプロダクトを作ることから始まったチームなので、その想いだけはきっとこれからも変わらないのだと思います。

 吉兼の話を聞いた須藤は、こう続けた。

須藤:僕自身、よく「CREW」でドライバーをしています。以前とても心温まるエピソードがありました。車を走らせてユーザーを迎えに行ったら、僕の分のコーヒーを買っていてくれたんです。僕が嬉しいのはもちろんですが、コーヒーをくれた彼も嬉しそうなのが印象的でした。

きっと世の中は、所有することよりも、体験を介して心の充足を得る方向にシフトしています。まだまだ小さな会社の、ドライブシェア事業で起こった小さなエピソードですが、きっとこうした体験価値を社会は求めている。それは、これまでの人生で僕が感じた感動と同じ。「CREW」を全国に広げていけば、幸せな暮らしをつくる一助を担えると思っています。

width="100%"

シェアリングエコノミーが加速する現代社会で、人間が忘れちゃいけないこと。

 「CREW」は、精神的な豊かさを持って暮らすために生まれたサービス。大量生産・大量消費社会に抗う“カウンターカルチャー”とも言えるだろう。ただ、効率化を追い求める社会に問いを投げかけたいわけでもなければ、パンチを食らわせたいわけでもない。

 ただ、便利になっていく社会の中で見過ごされがちな“小さな幸せ”を、ドライブを通じて届け続けたいのだ。彼らの言う「ドライブシェア」という言葉には、そんな思いが込められている。

 これから先、AIによる仕事の効率化やロボットによる労働の代替によって、各所で効率化を追い求める動きが加速していくだろう。そうすると、人々の余暇は増加する。増えた余暇時間で、人々は新たに何を求めるだろうか?

 最後に「CREW」を運営するAzitのミッションの一部を紹介したい。

“誰かのために、人の役に立つことを提供し、そこにおもてなしの気持ちを加え、「ありがとう」とお互いに伝えあい、人と社会がゆるく長く関わりあい続けられるように”

 私たちがたどり着くべきは、破壊と創造が繰り返される「イノベーションの21世紀」においても変わらない「ありがとうがもたらす感動」なのかもしれない。

***

CREW

CREW | ドライバー申し込みApp store | Twitter

width="100%"

All photos by Keisuke Mitsumoto
Text by Mitsufumi Obara
Content direction by Be inspired!
ーBe inspired!

 

この記事を読んでいる人はこの記事も読んでいます!
余った食べ物は“アプリ”でお隣さんとシェア。食品廃棄を減らす「21世紀のご近所付き合いの形」とは。
  同じアパートに何年も住んでいるのにご近所さんの顔も知らない…。これは都市ではよくある話ではないだろうか。親の世代は「寂しい社会になったもんだ」というけれど、子どもの頃から...

Untitled design(140)
この記事が気にいったら
いいね!しよう
Be inspired!の最新情報をお届けします