30歳を迎えたカリスマPR稲木ジョージが、受け身な日本の若者に伝えたい「情報を鵜呑みにしない生き方」。


カッコいい(とされている)ニューヨークに住んだからといって、あなたも自動的にカッコよくなれるものでもない。

この言葉を聞いてハッとさせられる人は少なくないのではないだろうか。これは、ファッションPRとしてアメリカンアパレルの渋谷レディース店を全250店舗の中から売上世界一に導いたのち、ニューヨークでゼロからキャリアをスタートさせ、現在はデジタルPRとブランドのコンサルティングを専門とする会社「George Root Ltd.」のCEOを務める稲木ジョージ氏(以下、稲木氏)が今年の10月に出版した書籍、『ニューヨークが教えてくれた、「自分らしさ」の磨き方』からの抜粋だ。

Photo by 撮影者

「細くて若い子」を理想とする日本のマーケティングと、それに疑問を持たない消費者たち

 日本社会で凝り固まっているものといえば、“美の定義”が挙げられるのではないだろうか。稲木氏が仕事の拠点とするニューヨークは「人種のるつぼ」で、さまざまなグループの人たちと隣り合わせで生活する環境だ。そんな土地柄もあり「肌の色や体型など外見の多様性」が反映された、「ボディポジティビティ*1/ボディダイバーシティ*2」をうたうファッションブランドがニューヨークで誕生していることも多い。またアメリカ全土を見ても大手衣料メーカーが同様のコンセプトでPRすることも珍しくない。しかし、稲木氏によると、もちろん全企業ではないが、一部はマーケティングのためだという。

 アメリカでは、たとえばファッションショーで白人ばかりをモデルに起用すると、他の人種の人が「なぜ白人ばかりなんだ」と特定の人種を排除していることを訴えることが必ずある。そのため、マーケティングで「多様性を考慮する必要性」が生じているのだ。

 では、なぜ日本では「美の多様性」の広がりがあまり見られないのだろうか。彼いわく、単にマーケティングの一環として発信されているだけの、狭い“美の定義”に多くの人が支配されてしまっていることに問題があるそうだ。だからこそ、見聞きした情報を鵜呑みにしないことが大切となってくる。批判的に考えることができなければ、広告やファッションショーで見ることの少ない“一般的な美しさ”から外れた人たちの存在に目を向ける必要性に気づくこともできない。

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日本においては、多様性についてやっと言われてきたくらいだから、あと5〜6年くらいかかるんじゃない?まずダイエット大国だし、「細くて若い子がよい」という考えが一般に浸透してしまっている。それを疑ってかからないとだめじゃない?

 稲木氏が確立させた「デジタルPR」という言葉が使われ始めたのが、2013年。それが一般に浸透するまで4年もかかった。そう考えると、人の外見の多様性を反映させたマーケティングが日本で広まるまでには、まだ時間を要するのだろう。

(*1)どんな体型でもポジティブにとらえようという考え方
(*2)体型の多様性を受け入れようという考え方

「真面目ルック」とか「初デートルック」にとらわれないで

 「美の多様性」と同様に、日本の若者を取り巻く雇用環境にある「年齢至上主義」や「容姿に基づく差別」などは、トップダウン(権力を持った人々から下へ)で変えていくしかないと稲木氏は話す。

そういうのはさ、会社が変えなきゃいけないよね。大企業がこういうのをやりましょう、とか廃止しましょうってなれば、社会に大きな影響を与えられるから。本には、そんな企業で働く人が読んだときに、「うちの会社はダメかも」って思ってくれたらいいなってことをたくさん書いてる。もっと若かった頃にすごく悔しい思いをしたから、そういうのを変えたかったんだよね。

 マーケティング業界の誰かが決めた「美の定義」のように、企業が決めたルールに社会が従ってしまう傾向は日本では強いものではないだろうか。それだからファッションを見てみると「真面目ルック」なるものが存在する。

入社式の写真を見ると、映画で出てくるようなクローン大量製造工場みたいに、女の子たちがみんな七三分けなのよ。でも結局入社したら髪の毛を自由に染めたりとかメイクしたりとかし始めるのにね。これが“真面目ルック”っていうイメージを与えようとする企業や社会にも責任はあるけど、それを盲信してしまって固執しちゃう子たちもよくない。人って一人ひとり似合うメイクとか髪型が違うのだし。別に僕だって真面目だけど、“真面目ルック”はしてないわけよ。

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 また稲木氏は、そのような「〜ルック」に合わせていれば安心だという人たちは、いつまで経っても自分自身が社会の波に流されて変わっていくことになると危惧する。日本のファッション雑誌でよく見かけた「初デートルック」だって、ファッションがわからない人たちに向けたものにすぎないが、それを知らず「これを着たら間違いない」と信じ込んでいる人は少なくないだろう。

 デジタルPRやコンサルティングで新時代を担いながら、今年で30歳を迎え若者たちを先導する立場にもある彼はこう話している。

これまでに時代を築き上げていた人生の先輩たちが、いまの日本を作ってくれたんだよね。彼らに感謝するとともに、未来をこれから羽ばたく若者に託して、新しい日本を築きあげられたらって思います。

世界から見ると、子どもっぽい日本の若者たち

 日本の「美の定義」に多様性が反映されていないことだけでなく、人と同じことをするクローンのような若者が増えてしまった責任があるのは、社会や企業だけではない。それは自分の基盤がなく、人に流されやすい若者たち自身にもある。これから羽ばたく彼らが新たな日本を築くためには、何が必要だろうか。

人に合わせてちゃだめだと思う。基盤が固まっていないと自分が何かわかっていない状態だから、基準がなくて人に合わせることさえできないし、自分が流されちゃってどんどん変わっていくだけだと思うんだよね。今までって上司とか友だちに好かれなきゃいけないとか、彼氏がほしいからこういう人になりたいって「人に合わせること」が多かったかもしれない。それをやめて「自分に合わせる」とマスに好かれようとしていないから、人からの評価は賛否両論になる。でもそれでよくない?って。

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 彼によると、人に流されないようにするために必要なのは、他人ではなく「自分の基盤」に合わせて考えることなのだ。それができないと、いつまで経っても他人と同じ道をたどるしか選択がなくなってしまう。

スマホで見た情報がすべてだと思っているなら、知らないことに興味を持って自分で考えるようにしたほうがいい。ディスるわけじゃないけど、日本の人たちってヨーロッパの人たちに比べてすごく子どもっぽい。遊ぶだけのサークルに入ってる大学生の子たちも少なくなくて、経験値が低すぎると思う。だってみんなさ、適当に学校に行ってバイトして好きなものを買って、これ着ている自分かっこいいみたいな感じじゃん。

 そう一概には言えないかもしれないが、まわりの人に合わせてサークル活動ばかりの毎日を送り、時期がくれば流れに身を任せて就職活動に勤しむ大学生たちが日本では多数派ではないだろうか。一方、アメリカやヨーロッパでは自分で経験値を広げて道を開いていくような考え方が存在し、卒業後すぐに進路を決めず、バックパッカーとなって世界を巡るというような選択も特にクレイジーではない。そのせいか彼が滞在先で会ったヨーロッパの学生は経験が豊富で、あらゆる国を渡り歩いたからこそ話せるような興味深い話をしてくれたという。

ニューヨークに行けば、カッコよくなれるわけじゃない

 ではサークルの活動に留まらず何かをしたいからって、ニューヨークなどの“憧れの都市”に行けばいいのではない。「ニューヨークに行ったらカッコいい」「ニューヨークに行けば個性的になれる」そんな幻想を抱いている人が存在する。稲木氏はどこかの国や都市へ行くこと自体をステータスだと思い込んでいる日本の人たちに対して、さらりと「ダサい」と言い放った。

大学生のときにさ「私ずっとニューヨークに住んでいました」って言う人が絶対にいるのよ。貧乏で留学に行けなかったからちょっと妬んでいたのかもしれないけど、たった3ヶ月しかいなかったのに、“住んでいました”って自慢して言っちゃう人はダサいとしか思えない。

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 彼は決して「ニューヨークに憧れを持つな」「ニューヨークはよくないところだ」と言っているのではない。憧れを持つのはいいけれど、それが単なるイメージによるものだとしたら、そこにカッコよさは“ない”だろう。それから、彼によると多くの人が抱いている幻想と異なりニューヨーカーは意外にも個性的ではない。

日本はすごく安全な国だから、どんな格好をしても許される。日本では派手でもいいけど、ニューヨークって意外に派手じゃだめなんだよね。クレイジーな人だと思われる。ニューヨークには3年くらいしか住んでいないけど、アメリカ人ってすごく独創的でgoing my wayとか個性的って思っていたけど、違うよ。結構グルーピー*3な、似たような格好をしている人が多い。だから僕はエッジかかりまくっているからニューヨークでも浮く。

 したがってニューヨークに行けばカッコいいわけではなく、そこで何をしたいのか、何を磨きたいのかを考えてから行くことが重要なのだ。自分の基盤が固まっていれば、現地の雰囲気に流されることなく、実りのある時間を過ごせる可能性が高くなる。

(*3)徒党を組む人

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“イメージ”だけでは、実際のところはわからない

 写真でしか見たことのない「憧れの都市」だって実際に行ってみないと実情や自分が何を感じるかがわからないのと同じで、彼についてもインスタグラムを見るだけではわからない。SNSで有名な稲木氏をインスタグラム上でしか見たことがない人も多く、それぞれの人が持つ彼に対するイメージは、彼の投稿を見て勝手に膨らませたものであることも少なくないだろう。

 実際のところ彼自身もそれを強く感じており、またPRという「裏方」の仕事をしているのにもかかわらず、自分の名前やイメージが一人歩きしてはいけないと考えていた。今回の書籍の執筆の機会はそんなタイミングに得たもので、書籍を出版したことで稲木ジョージとはどんな人物なのか、彼の側面や経歴を多くの人に伝えるチャンスになったという。

 そんな稲木氏は「そこらに溢れている情報を鵜呑みにしたり、イメージだけで物事をとらえたりしてはいけない」と若者に向けて強く語ってくれた。「自分の基盤」を築き、誰かが決めた典型的な考え方やルール、いわゆる“常識”と呼ばれていることを「本当にそうなのか」と疑い、稲木氏のように「人に流されない人生」をあなたも歩み始めてみてはどうだろうか。

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George Lozano Inaki

Website | George Root Ltd. Website | Instagram | Twitter

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稲木ジョージ氏の自伝はこちらから。

All photos by Mathias Adam
Text by Shiori Kirigaya
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