「日本の銀行が環境破壊に加担する事実」を知らない日本人へ。25歳のアクティビストが提案する解決策とは

Text: Jun Hirayama

Photography: Jun Hirayama unless otherwise stated.

2017.8.16

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「クライメート・ジャスティス」という概念を知っているだろうか。

先進国に住む日本人なら知っていてほしい「気候の公平性」と訳されるこの言葉は、先進国に暮らす私たちが、石油や石炭などの化石燃料を大量消費してきたことで引き起こした温暖化への責任を果たし、すべての人々の暮らしと生態系の尊さを重視した取り組みによって、温暖化を解決しようとするコンセプト。

気候変動はCO2の排出によって引き起こされる。CO2排出が多い国は圧倒的に欧米、中国、日本を含む先進国。その中で、被害を被るのは、理不尽にも排出に最も貢献していない国の人たち。そんな不公平な状況があって、それはおかしいだろうっていう意識が海外では高まっている。

そう語るのは、欧米社会で広まるコンセプト「クライメート・ジャスティス」を日本で、一般市民に訴えかける活動をしている25歳の青年、清水=ピュー・イアン(以下、イアン氏)。

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今回Be inspired!は、国際環境NGO 「350.org」の日本事務所のフィールドオーガナイザーである彼が環境アクティビストになった理由、クライメート・ジャスティスの重要性、そして「誰でもできる気候変動を止める方法」を伺った。

大学卒業して、彼が環境アクティビストになった理由。

生まれは大阪、育ちは東京。イギリス人の父、日本人の母をもつイアン氏。彼が環境問題に興味をもったのは、小さい頃の育った環境が理由の一つだという。

環境問題に関心を持ったのは、子どものころからずっと自然に近いところで育ったからかな。9歳の時に母と沖縄の海に遊びに行ったぼくは、沖縄の綺麗な海に魅せられて、その頃から毎年行き始めて、15歳くらいからは沖縄のダイビングショップでホームステイして、毎日海に潜るような生活してた。他にも小さい頃に海外の海やジャングルにも行かせてもらい、自然が身近にある生活をずっとしてたから、環境というものに対して強い愛着があるんだよね。

東京で育ったシティボーイでもありながら、幼少期を大自然の中で過ごしたイアン氏。自然を愛するがゆえに「日本人の環境問題への無関心さ」「クライメート・ジャスティスの欠如」に胸を苦しめていたという。

沖縄の海に潜ってると、観光客がサンゴの上に立って、ボリボリボリって音を立てて踏んで歩いているのを目の当たりにするんだよね。サンゴが破壊してるのに、平気な顔をして立ってる。小さいながらも、そういうの見ていて「やめてほしい」って思っていた。悲しかったし、切なさみたいなものも覚えた。なんで全然わかんないんだろうなって。

「サンゴを踏むことでサンゴが死ぬ」。先進国である日本に住んでいるにも関わらず、そのことを知らない人が、まだ日本には存在する。そんなサンゴを踏む観光客に対して、悲しさや寂しさを抱きつつも、海の圧倒的な美しさ、海の深さを覗き込んだ時のゾクゾクと来る恐怖感に魅せられた彼は、成長するにつれて“あること”に気づく。それは、人間が呼吸する空気から、食卓に並ぶ食べ物、自分が身につける洋服、消費するエネルギーまで、全てが自然に依存していること。今の人間と自然の関係性に疑問を抱き、大学時代に「どう自然と付き合うべきか?持続的な暮らしはどうしたら実現できるのか?どれだけ今の生活が持続的じゃないのか?」という問いを繰り返していく。

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大学で「環境の歴史」という授業を受けていたとき、やっぱり今の文明はあらゆる環境破壊の上に成り立っているってことを再確認した。例えば、今のイギリスって「芝生がきれいな国」って言われているけど、昔は木々に覆われていて、船や帆船を作るために森林が伐採されて、だから今は芝生ばかりが残っているていう事実がある。

資源に制限がある地球で、無制限の成長を目指すことは、根本的な矛盾がある。この矛盾を無視し続けると、いつか社会や経済が「破綻」するのが目に見えている。だから、自分の中で環境問題はキー・イシューだなって考えるようになった。自分には守りたい風景や自然があるし、身近なところにたくさん環境破壊が隠されていることに気付いたから、どうにかしなきゃなって思って、大学時代に環境問題に取り組むことを仕事にすることを決意した。

子どもの頃に芽生えた「環境への関心」は、大学時代に確信へと変わり、彼のアクティビストへの道が始まった。環境問題に対して取り組むと言っても方法は限られている。国連に入るのか、環境NGOに入るのか、企業のCSRやるのか…。どの道に進むか悩んでいた彼は、まずは経験積むことが大切だと考え、自分の目の前にあったチャンスを掴んだ。そのチャンスとは、「ダイベストメント(投資撤退)」という明確な環境問題に対してのアクションを日本人に訴える活動をしているNGO「350.org」だった。

国連でも、企業でもない、「NGO」という道へ。

たまたま、大学生の時に気候変動の勉強でナオミ・クライン著『This changes everything』を読んでいた彼は、その本でNGO「350.org」の存在を知り、知り合いを通して350.orgの日本事務所を立ち上げた古野 真(フルノ シン)氏と2015年の7月に出会う。

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2015年のアースパレードの時のイアン氏と古野 真氏
Photo by 350.org

350がちょうどその時(2015年7月)、日本オフィスを立ち上げた直後で、スタッフを募集してることを聞いて、就活の時期だったし(まあ就活はしてなかったんだけど笑)、日本事務所代表のシンのコンタクトを知人に教えてもらって、会うことになった。その年の8月にベトナムで開催された第一回目の気候変動リーダーキャンプに誘われて参加し、その流れで350でインターンとして働き、そのままメンバーに加わった。最初から「気候変動」にいちばん興味があったわけではなく、350のメンバーになってから「ダイベストメント(投資撤退)」や「気候変動」に積極的に取り組んで、アクションを取っていこうってなった。

※350.orgは米国ニューヨークを拠点にしている国際環境NGO。現在188か国において活動を展開しており、日本事務所は化石燃料ダイベストメントを日本で広めるために2015年4月に設立された。

で、一体「ダイベストメント」ってなに?

あまり聞き慣れない「ダイベストメント(投資撤退)」とは、インベストメント(投資)の逆の意味で、もともとは金融用語として使われていた言葉。今では化石燃料関連企業から投資をやめる「化石燃料ダイベストメント」のことを指すという。近年、気候変動や二酸化炭素排出量の削減など環境課題への関心が高まる欧米を中心に急成長する、企業や学校、個人を含む誰もが「気候変動に加担する事業・企業への資金提供を中止します!」と公に宣言できるアクションの一つなのだ。イアン氏はこのダイベストメントこそ誰もが取り組むことができる気候変動を止めるアクションだと語る。

学生時代に環境に対するあらゆる取り組みの間で揺れていた時、アメリカのハーバードやスタンフォードなどの大学で、自分と同じ世代の学生たちがダイベストメントのキャンペーンを自ら組み立てて展開し、大学っていう組織を相手に変化を生みだしていることを知った。

大学生なら大学にダイベストメントを求めることができるし、自分が渋谷区の住人だったら東京都とか渋谷区にダイベストメントしてくださいって申し立てられる。あるいは年金基金にも言える。いろんな対象に対して、本当に誰でも取り組むことのできる具体的な方法がダイベストメントだなって思った。

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欧米の若者たちが自分たちの未来のため、そして環境を守るために始まったダイベストメント・ムーブメント。残念なことに、ダイベストメント宣言をしている企業や大学が日本では未だにゼロ。日本では、環境問題へ関心を持っていても、中々行動に移さない傾向がある。そのため、明確なアクションを提示する必要があるとイアン氏は考える。

イベントで登壇していても、「気候変動やばいよねー」「そうだよねー」で終わっちゃうことを何度か経験した。問題意識を持つこともものすごく大切なんだけど、その一歩先にある「行動」こそ社会にとってのリアルなインパクトを生む。だから自分の活動では、「じゃあこれをこういう方法で解決しよう」っていう明確なアクションを「ダイベストメント」という形で広げているつもり。

日本人がダイベストメントを「するべき理由」と「しない理由」

明確かつ、誰でもできるアクションであるダイベストメントを、日本人が「するべき理由」が存在するという。

日本のメガバンク(みずほ銀行、三井銀行、三菱UFJ銀行)は、アメリカのネイティブアメリカンが住む地域の環境破壊を進めて、地下埋設型石油パイプラインの建設をするプロジェクト「ダコタ・アクセス・パイプライン」に超巨額なお金を流していることがわかっている。みずほ銀行と三菱UFJ銀行に関しては「筆答融資主」と呼ばれる、世界の融資した銀行17社の中でトップ2でお金を融資していて、2つの融資額を計上すると約50%くらいにまで及ぶ。この一件もあり日本の銀行は海外からの目をつけられていて、先日もNYのみずほ銀行の前でデモ活動が行われた。

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「ダコタ・アクセス・パイプライン」に関して言えば、日本が一番加担している国なのにも関わらず、日本人が一番考えてないというのが現状。節々に日本人のクライメート・ジャスティスの意識の低さを感じてならないが、日本が「ダイベストメントしない理由」もあると彼は以下のように分析する。

「ダイベストメントをしない理由」は考え始めたらいくらでも上げられると思う。出る杭を打つ社会的風潮や、企業・銀行・政府の深いつながり、国民の政治や社会問題への無関心、などなど。

でも一方で、公害問題が熾烈な70年代の時期は、水俣病とかがあって、実際に何万人規模の運動は起きていたし、原発でも安保でも辺野古の運動でも、何か目に見えた不正義があれば人は動いてる。あれだけの人が立ち上がってる事実があるから、正義っていう概念がないというより、行使するきっかけがないとか、行使するハードルが高いんだと思う。あとは単純に正しい情報がそれを必要としている人に届いていないこと。自分は、今はまだ芽生えていないだけで、クライメート・ジャスティスや環境の意識はいつかは生まれると思っている。

口座を変えれば、社会は変わる。

現在日本の350.orgは、誰もが参加できるようにハードルを下げた、気候変動を止めるキャンペーンを展開しているという。

今、展開しているキャンペーンは「MY BANK MY FUTURE」。調査をして、化石燃料に巨額に融資・投資している銀行とそうでない銀行がわかっている。その情報を元に、化石燃料に巨額に融資・投資している銀行に対してアクションをとることを提案している。そのアクションの方法はいろいろあって、宣言に署名したり銀行口座を変えたり、もっと持続的に活動したい人は350のボランティアになって、活動を広める担い手になる。

銀行口座は、若い人でももっているから、銀行っていう対象は身近に感じる対象でもあると思っている。普段「ATMに預けてるお金がどこで使われてないるのか」っていう意識しないと思うけど、このキャンペーンを知ることで、裏では思いにもよらない現実があることに目を向けてほしい。

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Photo by 350.org

僕たちだけでは絶対に作れない「ダイベストメント・ムーブメント」

ダイベストメントも、クライメート・ジャスティスもまだまだ広まっていない日本で、気候変動を止めるため、環境問題への意識を高めるために活動するイアン氏が、最後に教えてくれたのは「自分たちの危ない未来予想図」と「個人の力」についてだった。

このまま気候変動が悪化すると、2100年には東京で一年の100日以上が30℃を超える真夏日になると予測されている。最近の話でいうと、九州地方を襲い30人以上もの命を奪った豪雨も、「ピザポテ」の販売休止も全て気候変動による異常気象がその背景にある。日本以外の国では、気候変動に伴う海面上昇により人々の暮らしが奪われようとしていたり、気候変動の影響で悪化する干ばつや水不足によりすでに難民問題が発生している。

気候変動について調べる、宣言に署名をする、銀行口座を変える、350.orgのボランティアになる。「ダイベストメントは、誰もが意思表示ができて、ささやかだけど変化をもたらすことができる」とイアン氏が言うように、大きな問題も小さな問題も解決するためには、あなたの小さなアクションが必要なのだ。

彼の環境への愛、そして自然を大切にして欲しいという想いが、日本の若い世代を巻き込み、日本人のクライメート・ジャスティスという意識を高め、ダイベストメント・ムーブメント呼び起こしてくれると信じている。スーパー猛暑が囁かれている2017年の夏。来年以降の夏、さらなる暑さに苦しむか苦しまないかは、あなたの小さな一歩にかかっているのだ。

Ian Shimizu-Pughe

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350.org日本事務所フィールドオーガナイザー 清水=ピュー・イアン(Ian Shimizu-Pughe)。1992年1月24日、大阪府生まれ東京都育ち。日本人の母と英国出身の父を持つ。東京都世田谷区のセント・メリーズ・インターナショナル・スクールを経て、国際基督教大学(ICU)を卒業。子供の頃より自然環境に強い興味を示し 、高校時代の夏休みは沖縄の石垣島や宮古島でシュノーケルインストラクターとしてアルバイトに励んだ。ICU在学時に環境問題に本格的な関心を持ち始め、学外で環境問題に関わる活動に携わるようになる。古野真との出会いをきっかけに、2015年9月より国際環境NGO「350.org」日本事務所のフィールドオーガナイザーとして勤務を開始。現在もオーガナイザーとして活動中。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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