栃木県の“平和を作るプロ”に聞いた。「食卓を囲むことが、宗教、肌の色、文化の多様な社会を作ります」。


 

「多様性を求める声」がいつの間にか「排外主義」に陥るこのご時世、本当の意味で平和を作るためには何が必要なのか。もちろん暴力ではない。言論だけでは足りない。何か、市井における具体的な行動が必要だ。

今回Be inspired!が紹介するのは、20ヵ国以上の人々が共同生活を送る、1973年、栃木県の那須塩原に創立されたアジア学院。そこで教員をつとめる山下 崇(やました たかし)さんは、「平和は食卓から作る」と言う。いったいどういうことだろうか。栃木の片田舎から全国へ。平和を作る達人たちの取り組みについて聞いてみた。

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真ん中に立ち、指導しているのが山下さん

知る人ぞ知る、“草の根の農村指導者”を育成する学校。

 アジア学院は、「公正で持続可能な社会」を作るための実践的な学び(後述)を提供し続けてきた。来年で創立45周年を迎える学院の卒業生は、現在1300人以上。彼らは世界中に点在しており、そのネットワークは今も広がり続けている。

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 学院は毎年アジア・アフリカの農村地域から、それぞれの土地のリーダー約30人(学院いわく“草の根の農村指導者”)を学生として招き、9ヶ月間の研修を行う。この研修のなかで、学生たちは公正で持続可能な社会を作るための方法や考え方を学んでいくわけだが、同時に、国籍、宗教、民族、習慣、価値観、倫理観などの“文化の違い”を認める寛容さも身につけていく。

 この寛容さがいわゆる多様性を生み出すのだが、自分の常識から外れた異文化を受け入れることはそう簡単なことではない。この点について筆者が質問を投げかけると、山下さんは「コミュニケーションを取る」ことの重要性を繰り返し説いた。

これはもう触れ合うしかないよね。初めて会って、会話をして、偏見が解かれていく。シンプルに言うと、やっぱり会うって大事なんだよね

 どこにいても誰かと繋がることができる現代、それでも物理的な距離を超えるどこでもドアは生まれていない。生の触れ合いが最も体温を感じさせるコミュニケーションであるという事実は、21世紀の今も不動のものだ。

 画面を通した絶景よりも、生で見た絶景の方が心に焼き付くのと同じように、二次元でその人を知るよりも、直に触れ合ってその人を知る方が情報量は圧倒的に多い。

 FacebookがFace to Faceを超えるコミュニケーションを生むことはないのだ。

 続けて山下さんは言う。

その上で、できれば一緒に何かをする、楽しく時間を共有することができればなおいいよね

 これがアジア学院の多様性コミュニティの基盤となっている。

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「食卓から平和を作る」とは。

 アジア学院での実践的な学びの核は、「フードライフ」と呼ばれる、「食べ物といのちは供に切り離すことができない」という理念を体現した毎日の生産作業(フードライフ・ワーク)にある。

 アジア学院は複数の田畑や家畜小屋を所有しており、ほぼ自給自足(一部の調味料を除く)で運営されているのだが、それらを耕し、育て、収穫し、解体し、再び循環のサイクルに戻すのは学院に関わる全員の役目だ。

 毎日の生産作業と消費作業を通して、食べものといのちの繋がりを肌で実感する。この時間を全員で共有することが大切なのだと山下さんは言う。

みんなで食卓を囲んでいる風景っていうのは、絶対的にピースフルであるとおれは思うんだよね。人間は食べものがなければ、死んでしまうし、気が立って争いを起こしてしまうから。平和を表す象徴的な部分が、この食卓を囲むという風景なんだけれど、さらにそこに至るまでのプロセスをみんなで共有できればもっと良いよね

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 食ほどその国の文化と密接に繋がっているものもない。調理方法から保存法、テーブルマナーまで、往々にして各国の常識は他国の非常識になり得る。それぞれの味覚は風土に左右され、ベジタリアンやハラールなど、固有の好みやルールもある。

 そんな異文化の交差点、食卓から平和を作る。みんなで育て、みんなで採って、みんなで食べる。アジア学院の多様性コミュニティを担保しているのは、食卓を通しての異文化交流なのだ。

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「多様性社会」の実現のために。アジア学院から学ぶ、私たちにできること。

 現政権が掲げた「2020年までに訪日外国人4000万人」が達成できるのかは置いておいて、近年日本を訪れる外国人の数は爆発的に増えている。(参照元:HUFFPOST)東京や大阪といった大都市はもちろん、地方でもその姿を見かけることがもはや珍しくない。労働人口の減少による外国人労働者の必要性が議論されていることなども含め、島国日本は今、確実に変換期を迎えている。(参照元:YAHOO!ニュース

 その中で懸念されていることの一つが文化的摩擦であるが、こればかりはすぐに解決できるものではない。それこそ草の根の地道な活動が必要になる。

 じゃあ私たちに何ができるのか?とりあえず、「ご飯食べに行こうよ」と言うことぐらいはすぐにできるだろう。これは何も、文化圏の違いに限った話ではない。自分の意見と反対の人を誘ったって良い。

 日本人の議論下手は指摘されつつあって、確かに議論が平行線を辿ると「この人は私と合わない」という結論に至ってしまう人が多い気がする(自戒を込めて)。でも、一つの意見が食い違うというだけで、その人と私の関係を終わらせてしまうのは違う気がする。

 そんな時に、「じゃあご飯行こう」と言えるかどうか。そういう選択の積み重ねが、近い将来嫌が応にも訪れるであろう多様性社会で、うまく生きていけるかどうかにつながる。というのは言い過ぎだろうか。

 少なくとも、アジア学院の理念は世界中に平和の種を蒔き続けている。そろそろ筆者も、その種蒔きに参加してみようと思うのだが、あなたも一緒にどうだろう?

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アジア学院

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All photos by アジア学院
Text by Yuuki Honda
ーBe inspired!

 

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