「消費=幸せ」ではなくなった日本人へ。渋谷区在住ヒッピーが語る、“今”に満たされる豊かな村生活の魅力

Text: Saori Matsuo

Photography: Jun Hirayama unless otherwise stated.

2017.10.27

Share
Tweet

FacebookやInstagramなどのSNSがあれば、誰とでも、遠く離れた会ったことのない人とでも“友達”になれる。いつからか“友達”の定義は、一緒にいた時間に関係ないものへと変わってきた。SNSの存在によって、人と人との関係性がフラットなものへとシフトしてきたといえるかもしれない。

そして、インフルエンサーと呼ばれる多くのフォロワーを持つ“誰か”が、SNS上で情報をシェアすれば、一瞬にして何万人、何十万人へと情報が拡散され、地球の裏側の情報さえも一瞬で手に入る。

そんな21世紀に台頭したSNSは、ヒッピーカルチャーに酷似していると語るのが、鯉谷 ヨシヒロ(こいたに よしひろ)氏、38歳だ。渋谷区在住の彼は、都心の資本主義のなかでヒッピー的な暮らしを実践していることから、現代版ヒッピーという意味を込め、自身を「ソーシャルヒッピー」と呼ぶ。今回Be inspired!は、ソーシャルヒッピーが現代社会に起こす影響、そして彼が立ち上げた「Coビレッジ」のプラットフォーム「NuMundo JAPAN」についてうかがった。

「Coビレッジ」とは、エコビレッジやヨガトリートセンター、パーマカルチャーセンター、オーガニックファームのような新しい生き方を実践している、生活共同体の総称のことをいう。

width=“100%"

「SNS」と「ヒッピー」の意外な共通点。浅く広くゆるく繋がるネットワークとfacebook並みの拡散力

「ヒッピー」と聞いてあなたは何を頭に思い浮かべるだろうか?自由人?スティーブ・ジョブズ?ラブ&ピース?はぐれもの?それとも…?すべて正解かもしれないし、不正解かもしれない。つまりヒッピーに正確な定義があるわけではない。

そもそもヒッピームーブメントが起こったのは、今から50年以上前の1960〜70年代。社会に疑問を持ったアメリカの若者たちが、自由を求め反社会的ムーブメントを起こし、社会現象となったのがヒッピーの歴史の始まりだといわれている。

ベトナム戦争が始まったのもちょうどその頃で、平和的な反戦運動をしていたヒッピーたちは、戦争の元となる資本主義から脱却するために「自給自足するコミュニティ」か「定住せず旅に出る人々」の二種類に分かれた。

23歳の頃からそんなヒッピーカルチャーにどっぷりと浸かり、海外でヒッピーたちとともに馬に乗ってコミュニティを渡り歩く「移動循環型コミュニティ」を経験した鯉谷氏は、「SNSとヒッピーには共通点がある」と考察する。

ソーシャルメディアのようなことを、ヒッピーはインターネットを使わずに50年前からやってきた。今まではよくつるむ仲間が「友達」だったけど、それがSNSの普及と共に変わって、浅くつながっている人たちも“友達”と呼べるようになってきたんです。これはまさしくヒッピーの価値観。今になってリバイバルされている。

そして彼らは、服装や髪型でお互いを認識し、知らない人とでも出会った瞬間にハイタッチをして、すぐに仲良くなる。ハイタッチが今でいう「Facebookの友達申請」みたいなものだろうか。常に「全員仲間、全員友達」という感覚だから、家にも泊まらせるし、仕事も紹介する。だからヒッピーは「無職・無一文で旅に出ること」を恐れないのだ。

それだけではない。ヒッピーは現在も全世界に何百万人と存在し、世界中でつながっている。アメリカで年に一度開催されるバーニングマンの前身「レインボーギャザリング」のような大きなイベントは、開催場所や日時をネットにあげない。口コミだけで地球の裏側まで伝え、数日間で2,000人〜10,000人がひとつの場所に集まるという。

そんなヒッピーたちが独自に築いてきた、ゆるっとつながっている「友達の感覚」や、一瞬で拡散する「口コミネットワーク」は、今のSNSと似ていると鯉谷氏は言う。

width=“100%"

ソーシャルヒッピーたちが「2拠点生活へとシフトする」理由。

鯉谷氏の肩書きであるソーシャルヒッピーの頭についている“ソーシャル”。これは「都心の資本主義のなかで、うまく人や自然とつながりながら、ヒッピー的な暮らしを実践している」という意味が込められている。当時のヒッピーとの大きな違いは、都心の資本主義の暮らしと、地方の自給自足の暮らしの間でバランスよく生きているということだ。

資本主義の仕組みがおかしいってみんな感じていても、その枠からは出られない。ほとんどの人が、稼いだお金で、知らない誰かに衣食住をアウトソーシングしているのが今の現状。そこに疑問を持たない、気に留めない人も多い。たとえば富士山が噴火したり、大震災が起こって流通が止まれば、東京は3日ともたないかもしれない。これは持続可能なんだろうか、100年先でも続いているのだろうかって思ってしまったんですね。社会の仕組み自体が歪んでいるから、どんどん持続可能とはかけ離れた、厳しい方向になっていってるなと感じてます。

それに、自分が搾取していることに気づかない人もいる。生活や仕事に追われて地球との循環が目に見えていなくて、自分たちが受け取っている恵みをきちんと地球に還元できていないし、それで社会が空回りしているところもある。だから、一旦社会の仕組みから外れることで、その循環に気づく必要がある。

そのためにも、より多くの人が中央集権的なところから外れて、自分のライフスタイルを探していくことが大事だと感じてます。

width=“100%"
Photo by Yoshihiro Koitani

鯉谷氏のように今の社会システムに危機感を感じたソーシャルヒッピーたちは、都会から地方へ移住し、自分たちが理想とする村“Coビレッジ”をつくっているのだ。

Coビレッジをつくっているのが、当時のヒッピーかと言われるとちょっと違うと思います。どっちかというと、都会でバリバリやっていたクリエイター層が田舎に移り住み、コミュニティをつくり始めたという方がしっくりきますね。

最近、資本主義社会や貨幣経済に疲れてしまった都市に暮らす感度の高い人々が、海外や日本でも増加しているように思う。そして彼らは、「農的な暮らし」や「地域のつながりを大切にした暮らし」、「今の経済システムから離れた新しい経済圏やコミュニティ」を求め、お金を介さず、コミュニティのために自発的に自分のできることをする“ギフト経済”が成り立つような村を世界各地につくっている。

width=“100%"

“価値観が変わる体験”を提供するプラットフォーム、NuMundoとは。

世界にはすでにこのようなCoビレッジが多く存在する。アーティストのコミュニティや建築家のコミュニティなど、コミュニティによってルールや住んでいる人が異なるのが特徴だ。先日、鯉谷氏は誰もがヒッピーライフを体験できるCoビレッジのプラットフォーム「NuMundo JAPAN」を立ち上げた。「NuMundo」は、スペイン語で「新しい世界」というを意味を持つ。

「地球をケアしている」「教育を提供している」「宿泊できる」、これら3つの条件を満たすCoビレッジの宿泊情報や、様々な体験プログラムを紹介するサービスを提供している。日本版では日本全国の42拠点(2017年10月24日時点)を紹介。また、日本だけでなく、アメリカ、コスタリカ、グアテマラ等、世界中の360拠点以上のCoビレッジが登録済みだ。さらに、世界のCoビレッジを紹介しながら、同時にコミュニティ同士のネットワーク構築の役割も果たす。

サイトには「Coビレッジを探す」と「体験を探す」の2つのメニューがあり、言語やアクティビティなどの条件でCoビレッジを検索することができるようになっている。

日本でも仲間と一緒にコミュニティをつくって、衣食住を自分の手に取り戻そうとしている人が、今すごく増えてきているんですよね。ただ、彼らも完全に資本主義から脱却しているわけではなくて、自分たちの生活を担保しながら、きちんとお金も稼いでます。彼らのように、今の社会の枠に縛られず自由な生き方を手に入れるには、自立、分散、中央集権的な社会からの脱却、“お金を使わなければ生きていけない”という制約から外れる必要があります。

でも、みんながみんな資本主義から抜けるのは難しいと思うから、少しそういう経済圏から外れて生きてみるだけでもいい。最近ある会社でも、週3会社勤務、あとは自給自足生活をすることを推奨しているところも出てきていますよね。

だから、このサービスを通して、少しでも社会に疑問を持つすべての人にCoビレッジで“価値観が変わる体験”を届けたいと思ってます。

width=“100%"

現代人が忘れている「“今”に満たされている感覚」を取り戻すために

最後に鯉谷氏は、現代人が忘れている“大事なこと”を教えてくれた。

僕自身も、Coビレッジで本能的に生活していて、“今”に満たされ、それをみんなと共有することで、それ以上求めなくなるっていう感覚を感じたんですね。そこには過去を考えて悔やむことも、未来を心配して忙しくなることもないんですよ。都会だと分単位で生きていて、とにかくやらなければいけないことに追われ、健康や家族をないがしろにしてしまう。でもそのやらなければいけないことって、本当に自分の人生を豊かにしているかっていったら、別だと思うんですよね。

現代人は忙しさからか、ヒッピーカルチャーが大切にしている“今”に満たされている感覚を忘れてしまっている。大切な人と一緒にいる時間や、その瞬間にしか見ることのできない景色を大事にでき、すでにある幸せに目を向けることから、心の充足感へとつながるのだ。

必ずしもヒッピーになれば人生が豊かになるということではない。ただ、今の生活にモヤモヤしたものを感じていたり、新しい生きがいを見つけたいと思っているなら、鯉谷氏が提案するNuMundoで、ヒッピーカルチャーを体験してみてはどうだろうか。いつもの都会暮らしから逸脱し、自分を俯瞰的にみることで「自分の人生の豊かさとは何か」を考えるいいきっかけになるかもしれない。

鯉谷 ヨシヒロ氏(こいたに よしひろ)

NuMundo JAPAN

width=“100%"

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village