「多様性」と「差別」が混在する矛盾だらけのアメリカで生まれた「有色人種」というプライド|アメリカで“日本人”として生きることとは。VOL.1

Text: Noemi Minami

Cover: STORM LUU

2017.7.19

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アメリカ、と聞いてあなたは何を思い浮かべるだろうか。ハリウッド映画やポップミュージックは日本でも大人気だし、アメリカからチェーン店が日本に上陸すれば大行列。リベラルで自由?オープンで自己主張が激しい?持ってる印象は人それぞれ違うだろうけど、大抵の人がなんらかのイメージを持っているのではないだろうか。

アメリカは歴史的、政治的観点から見ても、文化的観点から見ても日本に大きな影響を与えてきた。しかし、アメリカは日本をどう思ってるんだろう?実際アメリカに住んだらどうなのだろう?日本人としてアメリカ社会ではどう受け入れられるのか?そんな疑問をふと感じた。

そこで今回Be inspired!では、アメリカで育ったある4人の“日本人”*1に、話を聞いた。「アメリカで“日本人”として生きることとは」を理解するために、彼らがシェアしてくれた個人的なストーリーをVOL.1、VOL.2と2本の記事に分けて編成した。わたしたちが日本を出ることはたとえなくても、アメリカに実際に生きた人々のリアルな声を知ることで、少しでも日本を外から見つめ、日本人とは何か、自分とは、そして世界への理解が深まれば嬉しい。

(*1)彼らのアイデンティティが日本人でも、アメリカ人でも今回は容姿的観点からアメリカ社会で「日本人」として見られることがあるのを考慮してインタビューを行った。そのため、本人のアイデンティティとは関係なく、文章内では“日本人”と表記する。

入江 嶺【学生】

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ーどれくらいアメリカに住んでいましたか?アメリカのどこですか?

19年間、アメリカ合衆国(カリフォルニア州)。

ーアメリカの好きなところはどこですか?

年間を通して安定した気候と人
。

ーアメリカの嫌いなところはどこですか?

車社会であること、日本と比べると美味しい食事が限られること。

ーアメリカで“日本人”でいていいことは?

日本文化に精通しているからこそ 、お米の魅力を誰よりも知っていること。

ーアメリカで“日本人”でいるのが嫌なときは?

私はアメリカで産まれ育ったがゆえに、自身のアイデンティティとしては、自分はアメリカ人であると常に考えていました。だが、見た目が日本人だからこそ、学校でも仕事でも日系人としてしか扱われないところが最も嫌でした。

ーアメリカにいて自分が“日本人”だと強く感じるときはどんなときですか?

アニメやマンガを読んでいて面白いと感じ、日本食(特にお米)を食べている時には自分はやっぱり日本人なんだなと感じます。

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ーあなたにとってアメリカで“日本人”でいるとは、どういうことですか?

お寿司といった日本食の魅力を知っていて、アニメやマンガ文化といった事に他より精通している人はアメリカにおいて日本人っぽいとは感じる。だが、それは別に血であったり外見ということではなく、内面的な部分で日本人であると感じます。だからこそ、アメリカで日本人であるということに対して意味を深く考えたことは正直ありません。ただ1つ挙げるのであれば、文化や生まれ育ち、話す言語になんら関係なくその人は日本人であるとは思います。

ーあなたにとってアメリカで“日本人男性”でいるとは、どういうことですか?

自分にとってアメリカで日本人男性であることは、アメリカでアメリカ人男性であるということと同じ意味だと思っています。もちろん、見た目は異なりアメリカという場所においては、人から異質に見られることはなくはないが、だからといって自分は「異質な日本人」であると感じた事もなければ、友人関係やコミュニケーションにおいて問題を抱えたことはありません。だからこそ、見た目は異なってもアメリカにおいて自分はただの男であり、そこに「日本人」、「アメリカ人」といった違いはないと思っています。

ーもし何か言い残したことがあればぜひ。

アメリカにおいて日本人であるということと異なるのですが、産まれ育ちがアメリカである自分が日本の大学へ進学し引っ越して来たときに、言語をつい最近覚えたにも関わらず、住んだ経験もないのに見た目が日本人だから日本の常識を知っていて当たり前という価値観を押し付けられ怒られた時は非常に理不尽に感じました。そして、もし自分がアメリカで引っ越しなどを経験し、人間関係を0から新しく構築しなければならい状況下に置かれていたら、同じことを経験したかもしれないと感じました。

biki【20代前半】

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Photo by Storm Luu

ーどれくらいアメリカに住んでいましたか?アメリカのどこですか?

幼少時代から3~4年ごとに日本とアメリカを行き来し、アメリカは合計で13年ほど住んでいました。主に東海岸のニューヨークです。

ーアメリカの好きなところはどこですか?

アメリカの一番好きなところは、政治的にも社会的にも深く屈折し矛盾だらけな分、それに対して必死に戦っている人が多く存在すること。移民大国として「自由の象徴」と見られがちな一方、白人警官の黒人射殺が頻発したり、世界一の囚人数を抱えていてそれが増える一方だったり、不法移民の自宅拘束や取り締まりがますます厳戒になったり、理想と現実の差がものすごく激しい国であるのも事実です。 でも私はアメリカが好きなわけではなく、自分が一員だったニューヨークのクィア(LGBTQ、性的マイノリティ)のコミュニティが好き、と言った方が正確かもしれません。私の周りのクィアの友達の中には、 特に黒人やラテン系の子達には、非常に貧しい環境に育ち、親にも見放され、幼い頃から自らを養ってきた人がいました。アメリカの社会の根底に人種差別がどれほど深く存在しているか、またそのような苦闘を乗り越えなければならないのに、親や通常の社会の支援システムに頼れないなか、どれほどクィアの友達のコミュニティが支えになるかということも、そんな彼・ 彼女らの日々闘う生き様を見て痛感しました。

ーアメリカの嫌いなところはどこですか?

自己表現、つまり自分の強い芯を見つけ、それを社会に表現することが肯定される一方、いわゆるマイノリティの人々がそれを実行しようとすると社会構造によって踏みにじられ、差別され、どん底にまた突き落とされる、というループが存在するのも、アメリカという国の矛盾の大部分を占めていると思います。

例えば、今アメリカではトランスジェンダーの女性への関心が高まり、Janet Mock(ジャネット・モック)*2やLaverne Cox(ラバーン・コックス)*3などの国民的人気を誇るスターも出てきている。どのようにしたら彼女らの生き様をリスペクトできるか、という議論が多く交わされています。その反面、トランスジェンダーの人の殺害件数は去年が過去最高を記録。 これはたったの一例で、星の数ほどこのような極端な矛盾がアメリカには混在しています。

(*2)トランスジェンダー・アクティビスト、ベストセラー作家。
(*3)トランスジェンダー女優。Netflixテレビシリーズの『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』で一躍有名に。

ーアメリカで“日本人”でいていいことは?

アメリカで日本人として生きることで一番メリットを感じること…というのは難しいけれど、私がアメリカに長く住んでて一番大事だと思うことは「solidarity」。あまり日本語でぴっ たりする言葉はありませんが、強いていうなら「連帯感」でしょうか。日本にいると、中国人や韓国人、在日外国人の方への差別的な言及が絶えないことに、心からうんざりしてきます。アメリカの、特にニューヨークや他の都市部に行くと、日本人という枠組みがどれだけ狭苦しくて制限のあるものかが実感できるようになったからです。そして、チャイナタウンで必死に生き抜いている中国人に親近感を感じたり、アジア系アメリカ人の友達とアイデンティティーについての会話を重ねるうちに、日本人ではなくアジア人、もしくはアジア系アメリカ人 (Asian-American) としての連帯感が深まるのです。

また、有色人種(People of Color)の一員として他のアジア人やラテン系、そしてアフリカ系などの人々と共に人種差別を体験し、日本人という概念が薄まり、他の国の人々との横のつながりへの意識が高まりました。それは同じアジア人への差別も絶えない今の日本に住んでいるだけでは、なかなか身につかない考え方だと思っています。

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ーアメリカで“日本人”でいるのが嫌なときは?

ニューヨークにいると、やはり移民だらけの多種多様な大都市なので、日本人という意識は薄れていく気がしますが、少しでも田舎へドライブしたり、都市を出て、アジア系が少なく白人が多い地域にいくとガラッと雰囲気は変わります。スーパーのレジやレストランなどで「あなたはどこからきたの?」や「まあ、英語が上手ね!」などとアメリカ出身である可能性を最初から否定するような質問をされる機会が一気に増えます。つまりアジア系アメリカ人であるかもしれないのに、出身国を聞かれたり、英語が上手などと言われるのは他国者扱いされるということ。私は国籍は日本人ですが、人生の半分以上をアメリカで過ごし、アジア系アメリカ人と日本人の中間あたりに存在している感覚なので、そういう扱いをされるといつも複雑な気分になります。

ーあなたにとってアメリカで“日本人のクィア”でいるとは、どういうことですか?

先ほどの質問と重なりますが、アメリカに住むことによって、私が日本人のクィアであること、というよりも、アジア系のクィアであること、及び有色人種のクィアであること(これを Queer Trans People of Colorと指し、略してQTPOCと言います)の連帯・同胞意識が強まりました。私が肌で感じたアメリカのクィアの特徴は、ジェンダーやセクシュアリティだけのアイデンティティーというよりは、生き方全体を示唆するものです。その考え方においては、クィアとして生きるには自分のジェンダーやセクシュアリティの問題だけでなく、人種、階級、障害、 経済システムなどの色々な差別に対して抵抗して生きるという思いが込められています。ですので国籍などの枠組みを超えて、根本的に、人類における差別、という一番醜いものをどうすれば少しでも改善できるのか。そのような大きな課題にコミュニティが一丸となって取り組む姿勢があります。

例えばQTPOCの人への暴力が日々絶えないのが現状で、ニューヨークのコミュニティのトランスジェンダーの人が帰り道に何者かに襲われ大怪我などをした場合、SNSを通じてそのニュースがたちまち拡散され、クラウドファンディングで治療費や生活費が何千ドルと集まり、知り合いのつながりで病院から送り迎えをするなどのサポートチームが完全なボランティアで結成されたりします。もちろんこのようなひどい現状が存在するからこそ、なくてはならないコミュニティの支援システムなのですが、私は実際にニューヨークでこのQTPOCコミュニティの自立し徹底したサポートを見受け、「日本人」という枠組みではなくコミュニティベースの連帯感の中で生きていくことの重要性を感じました。

bandcamp:https://mothertonguem3u.bandcamp.com/
insta:https://www.instagram.com/hibikini/

VOL.2へ: 溝口香純、岡田佑亮(ジミー)


 

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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