「裕福層のゴミ」は「低所得者の学び」に。最終学歴「小卒」だった男が建てた社会を変える“ゴミの図書館”

2017.9.1

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あなたは読み終わった本を、どうしているだろうか。古本として蘇らせたり、そのまま捨ててしまう人もいるかもしれない。しかしその1冊の本が多くの人の運命を変えることもあり得るのだ。南アメリカ北西部に位置するコロンビアではゴミとして捨てられていた1冊の本が、多くの人の「希望」となっている。

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「捨てられた本を“救出しなきゃ”と思ったんだ」

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コロンビアの首都ボゴタには、捨てられた本が集められた図書館がある。この図書館を作ったのは、生まれたときからこの地に住む55歳のホセさんだ。ゴミ清掃員として働く彼が図書館を作るきっかけになったのは20年前のある日のこと。ゴミとして捨てられている1冊の本を見つけたことから始まる。

私は多くの人が本を捨てていることに気が付いたんだ。だからそれらを救出しなければと思ったんだよ。(引用元:BBC

ホセさんが住む地域にはその頃、図書館というものがなく、そもそも本に触れる機会さえも貴重であった。それにも関わらず、ないがしろにされている本の存在を目の当たりにした彼は「助けなければ」と思ったそうだ。特にボゴタ市の北部は裕福な家庭が多いため、そこで多くの本を集め、貧しい人が住む南部の人たちのために本をキレイにして届けていたという。彼の心の中には“たくさんの本が捨てられている場所の地図”がひっそりと備わっていると言う。初めは同僚たちに「狂っている」と言われていたが、今では一緒になって本集めに協力してくれているそうだ。(参照元:VIBE

貧困の街に、「初めての図書館」が開館

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そんな風にして本を集めて3年後。ホセさんはもっと多くの人に無料で本を読む機会を与えようと“言葉の影響力”という意味を込めて「Strength of Words」と名付けた図書館を自宅を改造して開館した。

特に僕が住むこの南部の地域は悲惨だったよ。子どもたちのための学習の場がない。でも、こんな低所得地域からでも“私は博士号を取得した”と言える子どもが出てきて欲しかったんだ。だからすぐにでも図書館の建設を始めなければと思ったね。(引用元:ALJAZRRRA

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開館から約20年が経ち、今では25,000冊もの本がここには集まってきた。それをホセさんはさらに貧しい遠隔地に持っていき、より多くの人たちが無料で本と触れ合える機会を広めている。

不思議なもので、私たちが多くの本を贈れば贈るほど、たくさんの本がまた手元に来るんだよ。(引用元:BBC

彼の言動に心を動かされ、今では彼が作った図書館に各国からボランティアたちが集まって本を寄付したり子どもたちに勉強を教えたりしているという。「非常に甘やかされた環境だね」とホセさんは嬉しそうに笑う。(引用元:ALJAZRRRA

「50歳」の「高校生」、誕生

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実はホセさん自身もこの図書館によって“学び”を手に入れている。ホセさんの最終学歴は「小学校卒業」。もちろんもっと勉強がしたかったが、貧困のために勉強よりも早く働くことが求められていたので、勉強をする機会さえも持つことができなかった。しかし彼は“教育こそが根本的に貧困を解決するのだ”と信じ、図書館を学びの場とする活動を続けた。その結果、この図書館に通ったほとんどの子どもは大学に進学し、今では行政の予算編成に加わったり、この図書館を運営するための責任者として活躍することとなった。

そしてホセさんも50歳という年齢で高校に入学し、多くの知識を手に入れた。今はそれを活かして、自治体からの資金的な協力を得ながら図書館での読書会や勉強会などを開くことができている。さらには海外のブックイベントにも参加をし、この図書館の存在をアピールしているそうだ。

高校卒業までの3年間は大変だったね。朝はまだ日が出てない頃から働いて、少しの仮眠をして、その後に学校に行ったんだ。(引用元:BBC

そんな彼の勤勉な様子に周りの10代の高校生たちも刺激を受けた。

自分は「社会の一部」であるという「意識」

ホセさんが図書館を作り、「学びの場」を与えたものの、今でもここには学校に行くことのできない子どもが多くいる。それでもこの無料の図書館で本を読むことで世界を広げ、これまで小学校や中学の卒業と同時に働くことが普通であった彼らの夢を広げているのだ。さらにホセさんは、貧富の是正を求めて結成された反政府グループにも本を提供し、彼らが通常の生活に戻ったときの助けになるように努めている。

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ホセさんは「本は希望と平和のシンボルだよ」と語る。(引用元:AFP) 学ぶことで視野が広がると、社会のためにやれることがどんどん増えていくのだろう。1冊の本が25,000冊になり、多くの人の可能性を広げている。地元紙は「ロード・オブ・ザ・ブック」と彼を称えているそうだ。(参照元:lonelyplanet)しかし、なぜホセさんは誰かのためにここまで一生懸命になれるのだろうか。その答えはホセさんの妻が語った言葉に隠れていた。

彼は社会の一部です。(引用元:ALJAZEERA

そう、私たちは生きている限り「社会の一部」なのだ。そんな当たり前のことをホセさんはしていただけ、ということなのかもしれない。日本人はコロンビアに比べると教育水準は高く、多くの知識を持っている。ホセさんのように、その知識を貧困で苦しむ人のために少しだけ使ってみてもいいのかもしれない。私たちは決して個人で生きているわけではない。「自分は社会の一部」であるという意識を一人ひとりが持つことができたなら、きっと世の中は“よりよく”なっていくはずだ。

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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