#002 「人生が楽になった」。一児の母が39人の大人が住む家で子育てして気付いた“家族には正解はない”ということ|渋谷の拡張家族ハウス「Cift」が描く未来の生き方


 

2017年4月28日に渋谷にオープンした複合施設、「SHIBUYA CAST.」。

都会のど真ん中にあるこの場所で、血縁にも地縁にもよらない「拡張家族」になることを目的に、共に暮らし、共に働く集団がいる。名前は「Cift(シフト)」。

現在のメンバーは39名。半数以上が起業をしていたり、フリーランスのような形で働いている。ファシリテーター、弁護士、映画監督、美容師、デザイナー、ソーシャルヒッピー、木こり見習いなどなど、全員の肩書きを集めると100以上に。大多数のメンバーがCift以外にも、東京から地方都市、海外まで、様々な場所に拠点を持っていてその数も合わせると100以上になる。メンバーのうち約半数は既婚者で、何人かは離婚経験者。2人のメンバーはパートナーや子どもも一緒にCiftで暮らしている。そうした“家族”も含めると、年齢は0歳から50代にわたる。

バックグラウンドも活動領域もライフスタイルも異なる39人が、なぜ渋谷に集い、なぜ「拡張家族」になることを目指しているのか。

本連載では、CiftのメンバーでありこれまでにBe inspiredで記事の執筆もしてきたアーヤ藍が、多様なメンバーたちにインタビューを重ねながら、新しい時代の「家族」「コミュニティ」「生き方」を探っていく。

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アーヤ藍
Photo by Jun Hirayama

第2回目は、「ものづくり系女子」として、執筆・講演活動やイベント企画、広報等の仕事を手がけている神田 沙織(かんだ さおり)さん。

Ciftのなかでも、季節を感じさせるオーナメントを作ってくれたり、ユニークなイベントを次々と仕掛けています。Ciftの部屋は他の3人のメンバーとのシェアルーム。起業のパートナーでもある夫と1歳半の息子さんも一緒に、家族ぐるみでCiftでの暮らしを刻んでいます。

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神田 沙織さん
Photo by Jun Hirayama

「自分の気持ちに嘘をつきたくない」。元丸の内OLから起業

アーヤ藍(以下、アーヤ):まずは、さおたん(神田 沙織さんのこと)が今やっている「ものづくり系女子」について簡単に教えてもらえる?

神田 沙織(以下、神田):「かわいいものはかっこいい技術でつくられている」をキャッチコピーにしていて、かわいいっていう感性のものをかっこいい技術でどう実現していくか、逆に言うと、かっこいい技術を知っていれば、自分なりのかわいいものを作ることができる!っていうのをテーマにやってる。東京・神田に「Little Machine Studio」っていう場所をかまえていて、そこで個人向けの3Dプリンティングサービスをやっていたり、3Dプリンターに関する本を出したり、講演活動もやっていたりするよ。

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東京・神田の「Little Machine Studio」の様子

アーヤ:始めたきっかけは?

神田:大学卒業後、最初に入った会社が3Dプリンターの製造コンサルをやっていて、そこに今の「ものづくり系女子」のきっかけがあるかな。

…とはいえ、当時は大真面目だったけど、今考えるとしょうもない理由で就職したんだけどさ。私、大分県南部にある港町の田舎で生まれ育って、そこから日本女子大に進学して、「女子大生」っていう肩書きみたいなものを満喫していたんだよね。それで「女子大生の次はじゃあ丸の内OLかな」って田舎者のミーハーな発想で(笑)。その頃ちょうどできた新丸ビルをリクナビで検索して出てきた会社を受けたら、そのまま通ったっていう。入社したら「営業やって」って言われちゃって…。

アーヤ:外回りだと丸ビルに居られないじゃん(笑)。

神田:そうなんだよね(笑)。私が就職したのが2008年で入社した年の冬にリーマンショックが起きたから、飛び回ってた営業の人もずっと会社にいるようになって。「じゃあ社内で何かしよう」って提案した新規事業が3Dプリンターを使った個人向けサービス。それまで個人向けは金額が小さいからやらなかったんだけど、リーマンショックの影響もあって「やってみろ」って言われて。

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Photo by Jun Hirayama

私ずっと、田舎の狭い世界に生きづらさを感じて、ヤンキーみたいにすかして生きていたし、中学校の時にハマったL’Arc〜en〜Ciel(ラルクアンシエル)以外、夢中になったものって基本なかったんだけど、そのプロジェクトを任されてから一気にギアが入って、人生で初めて一生懸命になったんだ。毎日終電まで働いて、電車がなくなったら歩いて帰って、翌朝7時に起きてタクシーですぐ出社する…みたいな。

そんな風に4年くらい働いていくうちに転職もして「ものづくり系女子」として個人で執筆や講演の依頼をもらうようになったんだけど、転職先のボスから「お前、会社で働いているんじゃないのかよ。自分を売りすぎ」って言われてね。

会社員をしていると所属している企業や集団にとって良い回答をしないといけないじゃん。でも自分がやりたいこととかを聞かれたときに、自分が一番良いって思う回答をしたいし、自分の気持ちに嘘をつきたくはない。それで辞めちゃったんだよね。

そこから、ものづくり系女子とか3Dプリンターは、仕事ではなくて「自分ごと」にしようって決めたの。そこからアパレルプレスを経て、当時結婚2年目の夫と起業して今に至る…っていう感じかな。

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1日限定で、Ciftの自室を友人のファッションブランドのショールームにしたことも。

Ciftで暮らし始めて、人生が楽になった

アーヤ:Ciftに入ったきっかけは?

神田:もともとCiftのファウンダーであり、コンセプターであるけんちゃん(藤代 健介さんのこと)が家族みたいなものだったんだよね。Ciftの前身的なコミュニティ「PROTO(プロト)」にも私は入っていたし。夫もけんちゃんたちと会社を立ち上げているしね。

▶︎コンセプター 藤代 健介さんインタビュー記事はこちらから

アーヤ:Ciftに入ってみてどう?

神田:人生が楽になったよ。子育ても含めて、人生全体が楽になった。

小さい頃から人並み外れて”好き放題”やるタイプで、社会人になってからもそうだったのに、ここ数年は無理していたなって、Ciftに入ってから気づいたんだよね。

アーヤ:無理?

神田:ひとつには、会社をやっていると、年単位で成長させていかないといけないし、そのための戦略や計画を立てないといけない。私、それまでは「1年後に予想もしないようなことをしていたい!」っていう性格だったから。真逆の発想というか…。

もうひとつは「いいお母さんになろう」って頑張ってた。子育てにいい環境とかもすっごく気にしてて、生まれる前から全寮制の私立中学とか調べてたくらい(笑)。

子どもが産まれてから、ずっとブレーキをおろしたまま走り続けているような感覚だったんだよね。そのブレーキは世の中の“ふつう”みたいなものを内面化し過ぎたものだと思うんだけど。普通産後はこれくらい休むでしょ、とか、ふつうのママは…みたいなプレッシャー。別にそういうことを直接言われることってほとんどないし、気にしているのは自分自身でしかないんだけど。でも同じようなブレーキを、子育てという正解もないし答え合わせもしづらい営みの中で、どんなママでも、働き方を問わず、働いていなくても、感じているんじゃないかなと思うよ。

アーヤ:そのブレーキから解き放たれたのはCiftでの暮らしが影響してる?

神田:Ciftに誘われた時、まだ子どもが生まれて間もなかったから、最初は迷ったんだよね。でも、けんちゃんから「子どもごとおいでよ!子どもは障壁にならないよ?」って言われて、ハッとしたんだ。未経験の子育てという一大事業への恐れを感じていたこととか、その恐れからブレーキをかけていたんだなって。だから、Ciftに入る決断をしたこと自体がひとつの解放だった。そしてCiftで暮らす日々のなかでも、解放のプロセスを実践しつづけているような感覚がある。

アーヤ:「子どもがいるから…」って遠慮してブレーキをかけることって、確かに周りのお母さんたちと接していても、結構あるような気がする。まだ1歳半の子どもさんにとっては、Ciftのメンバーってどんな存在にこれからなっていくと思う?

神田:それは私もぜひ息子にインタビューしたい(笑)。彼が名前を覚えて懐いているCiftメンバーは何人もいるし、最近は朝、共用キッチンで朝食をとるときに「だれか、いるかな?」って言いながら歩いて行ったり、保育園から夕方Ciftに帰る日は、「みんな、いるかな?」って足をぴょんぴょんさせていたりして。彼の中にもCiftでの暮らしや、Ciftの家族と紡いでいる人生が確かに存在しているんだなって。大げさかもしれないけど、胸が熱くなるよね。

まだまだ小さいけど、コミュニティの中で成長すること、そこで私や夫という親だけでなく、いろんな大人や他の子どもたちと関わって行くことが本当に楽しみ。

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旦那さんと息子さんとともに。Ciftでは家族揃って過ごすことも多い。

今、息子は保育園に預けているけど、保育園は働く親が子供を預ける場所で、幼稚園は教育をする場所なんだよね。幼稚園だとお昼過ぎとかには終わってしまうから、子どもに「教育」を与えたいって思っても、うちみたいに共働きしている家だと幼稚園は選択できない。でもこれって、親や行政の、言ってみれば大人の都合じゃん。だから私はできるかぎり、出張でも取引先でも理解と協力をしてもらえるところには息子を連れて行くようにしてる。お勉強という意味での教育ではないけれど、結局は、周りの大人や仲間から学ぶことが、一番大きな人生の糧だと私は思うから。そういう意味でCiftも、私や夫とはまったく違うバックグラウンドの人たちが集まっているから、息子の可能性を無限大に広げられる、ある種の教育の場のようにも思っているよ。

それに、Ciftに住んでいるカップルやシングルのメンバーにとっても、子どもをもつことのシミュレーションにもなるような気がするし、今私が住んでいる部屋は、生後半年ぐらいの赤ちゃんがいる寺井 暁子(てらい あきこ)さんも一緒だけど、お互いの子どもを預け合うことで、「うわ〜2人子どもがいるのってこういう感じか!」って体感してみる機会もつくれる気がするし…いろんな可能性があるよね。

アーヤ:私もCiftで暮らすなかで、血が繋がっていない子でも、こんなに愛おしくなるんだなって知ったし、今から反抗期を迎えた時のことを想像して、泣きそうになるくらいだよ(笑)。

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Ciftメンバーの一人とともに、高山出張に行った際の写真

家族に「完成」「定型」「正解」は存在しない

アーヤ:シフトに入ってから、さおたんにとっての「家族観」って変わった?

神田:家族観は日々アップデートされるのを感じてる。…というか、自分のオリジナルの家族、両親と私と弟の「家族」はこれまでも今もよく機能しているから、家族についてこんなに意識して考えたことって今までなかった気がするんだよね。

自分が結婚して新しく作っている夫や子どもとの家族は、オリジナルの家族に比べたら、「まだまだこれから」っていう感じだけど、でも、作ろうとしている時点でできているとも言えるし。そういう絶え間無いあがきみたいなものを、今私はやろうとしているんだと思う。「完成」や「定型」、「正解」はなくて、家族であろうとする姿勢そのものが家族なんじゃないかなって、Ciftに暮らし始めてから強く思うようになったかな。

あと、拡張家族ってやっぱり革新的だと思ってる。私の結婚してからの家族、両親共働きに子ども一人って、都会にはよくいるペルソナだと思うんだけど、普通は、自宅の玄関を開けて外に出たら、自分の他に子どもが頼れたり、私たちが信頼して預けられる人って基本はいないと思うんだよね。でも、Ciftがやっている拡張家族って、玄関のドアを開けたら、そこにまた家族がいて、ドアを開けっ放しでも怖くないし、子どもも私も自由に行き来できる。その範囲をぐいぐい外に広げていきたいから、私は毎週のようにいろんな親子をとにかくCiftに招待しまくってるよ(笑)。

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Photo by Jun Hirayama

子育ても夫婦関係も、「家族」のなかに閉じていくと、自分たちで自分たちを駆り立ててしまい、気づくと息苦しくなっていることは少なくない。

共に暮らす仲間のなかに、子育ての“先輩”がいたり、逆にまったく未経験の“後輩”がいたりするなかで、「自分たちだけで背負いこむ必要はないんだ」と気付けたり、少し距離をおいて自分たちを見つめ直し、“縛られていたもの”に気づけることがあるのだろう。それは家族を「拡張」することの意義のひとつだと思う。

次回の連載もお楽しみに!

Cift

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Saori Kanda(神田 沙織)

1985年生まれ。大分県佐伯市出身、日本女子大学家政学部卒業。
著書に「3D Printing Handbook」(2014年出版、オライリー・ジャパン)3Dプリントサービス運営、ものづくり系女子としての講演・執筆活動を経て2015年株式会社wipを設立、FABプレスルームLittle Machine Studioスタジオマネージャー。2016年総務省「異能vation」プロジェクトに採択され研究にも取り組む。夢は工場を建てること。

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Ayah Ai(アーヤ藍)

1990年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。ユナイテッドピープル株式会社で、環境問題や人権問題などをテーマとした、社会的メッセージ性のあるドキュメンタリー映画の配給・宣伝を約3年手掛ける。2017年春にユナイテッドピープルを卒業し、同年夏より「ソーシャル×ビジネス」をさらに掘り下げるべく、カフェ・カンパニー株式会社で精進中。

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All photos via Cift unless otherwise stated.
Text by Ai Ayah
ーBe inspired!

 

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