今日が今日のためにある国デンマーク、無料だらけの社会福祉の実態とは?

Text: Taiga Beppu

2017.4.25

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※この記事はウェブメディア「EPOCH MAKERS」の提供記事です。

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EPOCH MAKERS – デンマークに聞く。未来が変わる。

世界の片隅で異彩を放つ、デンマーク。この小さな北欧の国は、情報化がさらに進んだ未来の社会の一つのロールモデルになり得る。EPOCH MAKERSはその可能性を信じて、独自の視点から取材し発信するインタビューメディア。

URL:http://epmk.net

福祉国家として有名な北欧の国、デンマーク。消費税率25%、国民負担率約70%(日本は約40%)と、かなりの高納税国である。その一方で、医療費無料、出産費無料、教育費無料、充実した高齢者サービスなど、社会福祉がとても充実している。まさに、「ゆりかごから墓地まで」国が面倒を見てくれるのだ。

思えば、僕たち日本人は「この試験に受からなかったらどうしよう」「あの会社に入れなかったら、入ってもクビになったらどうしよう」「将来のために貯金をしておこう」と考える時間は少なくないだろう。

その点、デンマークではそんな心配はほとんどいらない。今日は明日のためではなく、今日のためにある国なのだ。

どんな社会システムも一長一短だが、デンマークの社会福祉を知ることは、日本社会を考える上でも大切である。本記事では、社会福祉の具体的な内容について紹介し、そこから見えてくるデンマークの国民性をあぶりだす。

医療費無料

この国の医療システムは2段階によって成り立つ。「家庭医」と「病院」。緊急の場合を除いて、病気や怪我をすると、まず家庭医に診てもらう。さらなる検査や治療が必要となれば、病院へ引き渡される、というのが大きな流れ。

ただ、家庭医の診断はとても厳しい。なかなか薬を出してくれず、必要最低限の治療しか行わない。場合によっては、「3日寝れば治る」と薬も出してもらえないこともあるんだとか。しかも歯科治療は例外で、全額自己負担。

「医療費無料」と言うが、たしかにデンマークの医療制度に完ぺきではない。しかし、それにはいくつかの理由がある。まず、無料だからと患者が多すぎれば、いくら高税率だろうと財源がもたない。そこで、家庭医は患者の診察時に仕分けをして、財源の無駄遣いの歯止め役となっているのだ。

それだけでなく、患者を効率的に治療するのにも有効である。日本では、重症で緊急事態なのに診察に何時間も待たされることがよくある。それに対して、デンマークの場合、病院には軽い症状の患者は来ないため、迅速に効率よく診療ができるのだ。

軽症の患者にはお金を出さないが、その代わり命に関わるような重症であれば、惜しみなくお金を投じ、国が100%負担する。これがデンマークの方針であり、それを可能にするダブルチェックの仕組みはとても合理的だと言える。

出産費無料、育児制度も充実

日本の少子高齢化は、数ある諸問題の中でも最も深刻な一つだろう。人口問題を扱う上で、デンマークの出産・育児制度は注目に値する。

人口の少ないデンマークでは、女性労働者の確保は必要不可欠である。女性にどんどん働いてもらって、税収を上げる。もちろん、女性の出産・育児制度を整備することは、少子化対策にも貢献している。

日本で50~100万円ほどかかる出産費用は、デンマークでは国が100%負担する。もちろん、出産前後の検診も含めて、すべて無料。働く女性がもらえる有給休暇は、民間企業で29週間、公務員で34週間。父親も2週間の有給休暇が与えられる。
 
出産・育児休暇が長くはないと思う人もいるかもしれないが、それは女性のスムーズな職場復帰を促すためであり、それを可能にするだけの育児制度が充実しているがゆえに成立している。

育児サービスには、保育園だけでなく、「保育ママ」や「ベビーシッター」の存在が大きい。いずれも有料であるものの、保育園には所得に応じた大幅な減額処置があり、「保育ママ」や「ベビーシッター」には75%の助成金が支給される。

日本と同様、デンマークにも子ども手当がある。0歳から18歳まで、年齢に応じて支給される。

たとえば、2014年の子ども手当は、
 
▽ 0〜2歳
年間約320,500円(17,616クローネ)
▽ 3〜6歳
年間約253,500円(13,944クローネ)
▽ 7〜17歳
年間約200,000円(10,980クローネ)

 

さらに、障害や重病を持った子供を持つ親には様々な支給が行われる。このように、デンマークの出産・育児制度は女性の出産を促進しつつ、職場への復帰の後押し、国力の強化にも深く寄与しているのだ。

無料の教育費、不思議な教育制度

義務療育は10年制。6歳から幼稚園クラスに1年間、その後1年生から9年生まで学校(小学校+中学校)に通うのが一般的である。高校は、普通高校、工業高校、商業高校と大きく3種類あり、ここである程度の進路が決まる。

卒業後、大学に入る前にギャップイヤーを使って、旅したり、職業体験を積んでから、大学に入る、あるいは仕事に就く人が多い。だから、大学の学生の年齢は千差万別。しかも、その大半はそのまま大学院に進学するため、卒業して仕事に就くのは20代後半となる。

幼稚園クラスから大学まで、教育費は無料。デンマークでは、選挙権が与えられる18歳から大人とみなされ(子ども手当も17歳まで)、保護者が親から国へとバトンタッチされる。そのため、大学在学中は一人につき毎月91,000円(5,000クローネ)が国から支給される。大学は「お金をもらって行く」がデンマークの常識なのだ。

教育費よりも特殊なのが、デンマークの教育制度である。義務教育期間中、小学校、中学校では、どんなことが得意なのか、どんな職業に就きたいかなどを考えさせられる。テストらしいテストもなく、そして、高校からの学校は「資格」となる。

日本でも医師や弁護士、会計士の資格はあるが、デンマークの「資格」はまったく異なる。職業の一つひとつに資格が存在するのだ。そして、その資格が高ければ高いほど給料が高かったり、いい役職に就けるような仕組みになっている。ただし、資格を取るための入学試験はなく、授業料もかからないので、どんな人にも平等にチャンスがあるのがこの国の特長である。

充実した年金制度と高齢者福祉

高齢者への手当も充実している。まずは年金制度。デンマークの年金には、「国民年金」「労働市場付加年金」「早期退職年金」の3種類がある。

ここでは、年金制度の基礎となっている国民年金について説明する。国民年金は、国民に最低限必要な生活を送るためのお金。公平性を保つため、収入や家族構成など様々な年金所得者の状況に応じて、毎年調整され、配給される。驚くべきは、高所得者の中には国民年金を一円ももらえない人がいるということ。

日本人の感覚からすると、「高所得者こそが一番高い税金を払っているのに、年金をもらえないのはおかしい」と思うだろう。しかし、デンマークの人々は、「みんなが幸せに暮らせるなら、自分に見返りがなくてもいい」と考えるのだという。これがデンマーク人独特の「共生」の精神である。きれいごとのように聞こえるかもしれないが、そうでなければこの制度はとうの昔に崩壊しているだろう。

次に、高齢者福祉について。デンマークも高齢化が問題となっている。ローカルなバーに行けば、高齢者が席を占拠する光景をよく目にする。デンマークでは、民間企業や団体による高齢者の介護を禁じているため、すべての介護は行政組織によって行われる。

中でも代表的なものが、在宅介護サービス。市の役所などが無料で各家庭にスタッフを送り込み、トイレや着替え、食事などのお手伝いをしてくれる。緊急事態となればいつでもすぐに駆けつけてくれるのだそう。

他にも、合法的な高齢者支援を目的としたボランティア団体があったり(若い女性がデートしてくれるボランティアもあるんだとか!)、国が葬儀費を支援してくれるサービスもある。

他にも「失業者保険」「傷害者保険」「生活保護支援」など、様々な福祉サービスがあり、どれもかなり充実している。

もちろん、デンマークも自殺や移民問題など様々な問題を抱えている。しかし、デンマークの福祉制度は多くの社会問題を解決し得るヒントになるはずだ。

そして何より、この社会システムを実現可能にする、デンマークの人々に根付く「共生」の価値観は、現代の世界に最も欠けていて、未来においてとても大切なものではないだろうか。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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