#010「服って廃れるものと廃れないもの、この2種類がある」。編集者・軍地彩弓が“前シーズンの服を着る”基準|赤澤えると『記憶の一着』


こんにちは。赤澤 えるです。
思い出の服を持ち寄る連載『記憶の一着』、第10回です。
たくさんの服が捨てられる世の中で、残る服って何だろう。それはどうして残るのだろう。それを手放す時ってどんな時…?
服の価値、服の未来、
ゲストのお話をヒントに考えていく連載です。

本日のゲストは編集者でありファッション・クリエイティブ・ディレクターの軍地彩弓さん。雑誌『ViVi』でフリーライターとして活動後、『VOGUE GIRL』の創刊・運営に携わり、現在は雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクターから、ドラマのファッション監修、情報番組のコメンテーターまで、幅広く活躍している女性です。各方面から引っ張りだこの彼女が選ぶ、「記憶の一着」とは?

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赤澤 える

憧れの存在だった『記憶の一着』とは

赤澤 える(以下、える):『記憶の一着』について聞かせてください。

軍地 彩弓(以下、軍地):3年前くらいに買ったサンローランのもの。元々サンローランというブランド自体がすごく好きで憧れていました。エディ(Hedi Slimane:2012年より4年間にわたりサンローランのクリエイティヴ・ディレクターを務めた人物)が入った時は衝撃的でした。デザイナーによってブランドが変わるっていう、ありありとしたことを見た。それでサンローランの“エディが作るジャケット”が欲しくて、手に入れました。

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サンローランのジャケットを纏う軍地 彩弓氏

える:もう一着ありますよね。こちらはどういったアイテムですか。

軍地:もう一着もサンローランです。14、5年前に知人からもらった、ステファノ・ピラーティ時代のコート。この時もサンローランに憧れがあって長く着ていました。ViVi時代は若いということもあり、安くてカジュアルな服ばかり着ていたしそういうものばかり扱っていて、サンローランのようなブランドは憧れ。バッグは買えても服を買うという感覚は遠い存在で、自分がそういうものを買えるようになるとは思っていなかった。そんな中たまたまサンローランのコートを知人からプレゼントされました。

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知人からプレゼントされたサンローランのコートを着ている軍地 彩弓氏

える:良いなぁ…私にとってももちろん憧れの存在です。

軍地:ラグジュアリーブランドの服は、日常で着ているカジュアルな服とはまったくレベルが違います。袖を通しただけで伝わる素材のよさ、滑らかさ、シルエット、パターンの素晴らしさ。欲しいシルエットは毎シーズンの気分で変わるけど、このトレンチコートは繰り返し着ています。サンローランに憧れて、初めて着たコートに感動して、その後自分で買えるようになって憧れのジャケットをパリで購入しました。

私が“ブランド品”に惹かれる理由

える:どれくらいの時に「これが憧れだなぁ」と明確に感じたか覚えていますか?

軍地:もともと映画が好きなのですが、『昼顔』にでていたカトリーヌ・ドヌーブがポンパドールのヘアスタイルに、サンローランのトレンチコートを着ていたのが最初ですね。それでブランドの名前を知りました。スダンダードな一枚のトレンチコートなのですが、女性らしさが際立って「こういう大人になりたいな」と思いました。私にとって初めて憧れたブランドなのです。

オードリー・ヘップバーンは『ティファニーで朝食を』の中でジバンシイのドレスを着ているとか、その頃の雑誌で学んで。そこからブランドへの憧れが生まれたんだと思います。ファッションは女性像を作ります。洋服で女性の印象は変わりますし、スタイルという概念も雑誌や映画から学んでいました。

える:ただ単にヴィトンやシャネルの財布や鞄を持つということに憧れている人はよく出会ってきましたし、じゃあどうしてそのブランドが欲しいのか?という質問に答えられない人は珍しくないと思います。軍地さんの場合は、そういう憧れとは全く違った感じですね。

軍地:もちろんバッグも憧れですよね。だけどファッションは時代、時代の女性像が込められていて、毎回ショーを見るたびにワクワクしました。当時「ファッション通信」という番組があって、中学生の頃からその番組を見るのがとても好きでした。大内順子さんが伝えるパリコレやミラノコレに興奮しました。ファッションの力をテレビの前にいて感じていたんです。パリのランウェイはすごく遠かったけどいつかあの場所に座りたいという強い思いはありました。

える:今の軍地さんに繋がっていそうな感情ですね。

軍地:今ファッションの仕事をしているのはあの時のことがすごく影響しています。親に「早く寝なさい」って言われながらも23時に居間に出てきて、ショーの様子をテレビで観たりレポートを聴いたりしたあの時の感覚は忘れられない。ひとつひとつのブランドが全く違う世界観を見せてくれる。ベルサーチはすごく強い女だったり、シャネルはゴージャスなブルジョワだったりとか。サンローランはある種コンサバティブで、品の良いパリっぽさがある。そういうファッションを見ている時に自分が得た興奮っていうのは、根底にずっと残ってるんだなと思います。

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思いを伝えてもらえる売り方・手放し方をしたい

える:この服をもし手放すとしたらどんな時ですか?

軍地:手放すか…私あんまり服を売らないんですよね。なかなか手放せない。実はあまりフリマアプリでは売っていないんですね。

える:どうしてですか?

軍地:価値が伝わりづらいから。自分がそのブランドのものを買った時の思いをちゃんと伝えられるような売り方・手放し方をしたい。PASS THE BATONなら伝わりそうだからどれを持っていこうか悩んでいるところですね。

える:思いを伝えてもらえるかどうかで、受け取る側の受け取り方も変わると思います。伝えてもらえた方がより大切にできる理由が増える気がしますというか。

軍地:109に行けばテーラードのジャケットでも3,900円であるかもしれない。それはそれで良いのだと思うけど、じゃあ3,900円と40万円の違いは何だろうって考えてみると、やはりそれは確実にある。自分はファッションの仕事をしてきているという、背中に芯を入れるような一枚っていうのは買っておくべきだなって思うんです。いつかこれらの服もヴィンテージになると思うけど、私は90歳のおばあちゃんになっても着ると思う。

える:軍地さんはファストファッションについてどう感じていますか?

軍地:私は100%否定はしません。着ることもありますよ。反面、作られている背景はきちんと把握しておくべきだと思いますが。H&Mがカール・ラガーフェルドとコラボレーションした時、批判的な意見に対してカールは「100万円のものを1人に届けることと、1万円のものを100人に届けること、それは価値としては当価値だ」というようなことを言っていたんです。それは私にとってはすごく腑に落ちた。カールは本当に純粋に“女性を美しくしたい”っていう思いのある人。それを叶えるために、自分のデザインをたくさんの人に届けるっていうことを選択肢のひとつとして考えている。その時彼は「ファッションの民主化だ」と言っているのだけど、たくさんの人の幸せを考えることはとてもデモクラティックであると思います。安いからいい、とだけは単純には思いませんが、H&Mのコラボレーションのようにお手頃に、憧れのデザイナーの“粋”が感じられるものはやはり欲しいと思いますね。作る側は“残るもの”や“残すもの”を意識して、考えながら作ってほしいなって思います。

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ファッションは、ただの服じゃない

軍地:この対談のお話をいただいた時、自分はどれだけ繰り返し服を着ているのかなって考えてみたんです。編集者という仕事柄、毎日ものすごい数の新しい情報に触れているし、なかなか前シーズンのものって着られないんですよね。これは自分の悩みでもあるんだけどね。今までは職業柄のこともあるし性格も元々飽きっぽいのもあって新しいものに対してガツガツしていられたんです。でも最近は「前シーズンのものを着ても良いよね」って思えるようになって。そうすると私の場合、前の服で着られるものって意外と限られてるなぁと気付いたんですよね。たった半年前のものだけど今これ着るとダサいねってものも出てくる。でも、このサンローランの服は「今着てもやっぱり良いな」と思えるものなんですよ。服って廃れるものと廃れないもの、この2種類があると思っていて。

える:その違いって何ですか。

軍地:パリのディオール展に行った時、歴代のディオールの服を見てファッションの領域を超えた素晴らしさがあると感じました。この展示を見るために長い行列ができ、お年寄りから子供まで見に来ている。ファッションにはそれだけの力があると。

える:具体的にどんなものをご覧になったのですか。

軍地:1945年のニュールックと呼ばれるバードレスとか。それが当時のそのままで置いてあるんですけど、今まさに着たい!と思える。70年以上のデザインがとても新鮮に見えて、今でも着たいと思わせる廃れない美しさがある。歴代のデザイナーたちの素晴らしさに圧倒されるのですが、私が一番新鮮に感じたのは創立者であるムッシュ・ディオールが作ったそのドレスだったんです。戦後すぐに作られた70年前のドレスが今でも私を興奮させるということに衝撃を受けました。

える:観てみたい…

軍地:ピカソやダリやコクトーのような当時の現代アーティストのアートって、今見ても古く感じない。
それと同列に並んでいるのがディオールのファッションなんです。ムッシュ・ディオールにそういうアーティストたちとの交流があって、その時代の空気から一枚の服が生み出されている。そこには情熱だったり心だったりテクニカルなことだったり、その時のお針子さんの1針1針の空気もその1枚に全部凝縮されていて、それを見ているだけで涙が出てくるの。「ファッションの仕事をしていて良かったな」って再確認できて、忙しい時期だったけど無理してパリに行って良かったなって気持ちにもなりました。感動したなぁ。

える:素晴らしいですね。

軍地:ファッションって“ただ今日着る”っていうだけじゃなくて、アートでもあるし、人間が作る最高峰のもの。ものすごくレベルの高いものだってこと。ただの服じゃない。廃れないものの美しさ、良さ、世界観があるんですよ。だからみんなヴィンテージを好きになるのかも。若い子の方がそれを自然と選別しているのかもしれれません。さっきも言いましたが、だからこそ作る側の人は、服に命を吹き込んで欲しい。そうして、結果“残るもの”や“残されるもの”を意識して作って欲しいのです。必ず世の中のためになるから。

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 服そしてファッションに囲まれる生活あるいは人生を送っている軍地さんが選び出す一枚、とっても素敵でした。人が纏うもの、人を飾るもの、世界を変えてきたそれが辿ってきた歴史に対し熱を感じる幸せな時間。

 「(ファッションは)アートでもあるし、人間が作る最高峰のもの。ものすごくレベルの高いものだってこと。ただの服じゃない」という言葉があった時、あぁそれだ!と強く頷きながら聞いていました。私たちは“日常の中でただただ消費・消耗されていく服”を生み出したいわけでは絶対にない。そういう価値観のもとでこの仕事をしていたので、大きな正解をまた与えていただけた気分です。私も自分の大切な服がヴィンテージになるようしっかり愛していこうと思います。

軍地 彩弓

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大学在学中からリクルートでマーケティングやタイアップを中心とした制作の勉強をする。
その傍ら講談社の『Checkmate』でライターのキャリアをスタート。

卒業と同時に講談社の『ViVi』編集部で、フリーライターとして活動。
その後、雑誌『GLAMOROUS』の立ち上げに尽力する。

2008年には、現コンデナスト・ジャパンに入社。
クリエイティブ・ディレクターとして、『VOGUE GIRL』の創刊と運営に携わる。

2014年には、自身の会社である、株式会社gumi-gumiを設立。
現在は、雑誌『Numéro TOKYO』のエディトリアルディレクターから、ドラマ「ファーストクラス」(フジテレビ系)のファッション監修、
情報番組「直撃LIVEグッディ!」のコメンテーターまで、幅広く活躍している。

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Eru Akazawa(赤澤 える)

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LEBECCA boutiqueブランド総合ディレクターをはじめ、様々な分野でマルチに活動。
特にエシカルファッションに強い興味・関心を寄せ、自分なりの解釈を織り交ぜたアプローチを続けている。
また、参加者全員が「思い出の服」をドレスコードとして身につけ、新しいファッションカルチャーを発信する、世界初の服フェス『instant GALA(インスタント・ガラ)』のクリエイティブディレクターに就任。

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All photos by Ulysses Aoki
Text by Eru Akazawa
ーBe inspired!
※記事内の写真は編集されています

 

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