電気代ゼロ。ゴミも少なく。あの狩猟女子が「お金に頼らない結婚式」を選んだ理由。


※記事内に動物の解体などの写真が掲載されているため、苦手な方はご注意ください。

キッカケは東日本大震災。あの悲劇の震災を機に「暮らしを自分で作る」と決心し、都会の女の子から田舎の「狩猟女子」へ一変した畠山千春さん。

移住から約4年の月日が経ち、今年の9月に、台風で大荒れの中、太陽光発電を利用した自給自足の結婚式を挙げた。今回はそんな新婚ホヤホヤの彼女に、福岡県糸島でのワイルドでパワフルな暮らしや、「お金ではない人生の豊かさ」について伺った。

(Photo by 福田和貴)

(Photo by 福田和貴)

いざという時にお金がなくても生きていける暮らし

 “3.11の後、都会というのはいろんな所から物が運ばれて成り立つ場所なので、物流が途切れてしまうと、すごく危険だと思ったんです。だから、いざという時にお金がなくても生きていける技術と、信頼できる人たちとコミュニティを作ろうと思って。それで移住し、シェアハウスを始めたんです”

 インタビューでそう語ってくれた畠山千春さんは、2013年5月に浩一さんと二人で、福岡県糸島市に移住した。彼女は新米猟師として「わたし、解体はじめました ─狩猟女子の暮らしづくり」を出した作家でもあり、「狩猟」という、極めて男らしさが漂うジャンルに20代女性が挑戦したということで当時注目を集めた。

 移住先として人気のある糸島は、山と海に囲まれた四季折々の自然が美しい土地だ。しかも博多市街や空港へも1時間以内で行けるなどアクセスも大変良く、田舎にいながらも、少し車を走らせれば都会も楽しめるという絶好の条件。

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(Photo by 畠山千春)

 現在は築80年の古民家をメンテナンスしながら「いとしまシェアハウス」を運営している千春さん。この集落には18世帯しかおらず、苗字もたったの4つしかないとか。このいとしまシェアハウスで暮らすシェアメイトは8名。一人一芸という、おもしろい入居条件があるこのシェアハウスでは、「パタンナー」「ヨガの先生」「料理人」「整体師」「新米猟師・ライター」の他、近くの「酒蔵で働く蔵人」が3名と、なんともユニークな構成だ。

(Photo by 畠山千春)

(Photo by 畠山千春)

“シェアハウスは、自分たちの暮らしを作るっていうのがテーマなんです。そして自分自身が実演してみる場所でもあります。畑仕事にしても、米や大豆など作物に分かれてリーダーがいて、それぞれのリーダーがスケジューリングをして人手が足りない時に、みんなが手伝うんです”

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(Photo by 畠山千春)

 東日本大震災をきっかけに、彼女の暮らしは一変した。それまで食べ物や、エネルギー、暮らしの中で必要な物は全てお金と引き換えに手に入れていた彼女が、震災時、お金はあるのに食べ物を食べられないことを体験。震災後はその暮らしに危険を感じ、自分の暮らしを見つめ直した結果、「自分たちの手で暮らしを作る」というライフスタイルにたどり着いたのだ。

 いとしまシェアハウスでは食べ物と仕事とエネルギーを自給することを大切にしている。食べ物は地域の人たちに教えてもらいながら作物を育てたり、山に狩猟へ行ったり。週末にはマルシェやワークショップなどのイベントを一緒に開催し、各自が生活の足しに。エネルギーも太陽発電を取り入れたりと、徐々に進化させていく予定。

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(Photo by 畠山千春)

“私は関東出身だから、移住するときに「こんな田舎に引っ越してきて、リスキーなことするね」ってみんなに言われたんです。でも私がこの暮らしをしているのは、私にとってはリスクヘッジだと思ってるんです”

 リスクヘッジ。彼女がそう表現したのには理由がある。なぜなら都会では手に入らない「幸せ」や「豊かさ」を知っているからだ。 たしかに、都会の暮らしは職業のオプションも仕事のチャンスも多いし、なにより買い物も移動も便利だ。それらは“幸せなこと”であり“豊かなこと”かもしれない。しかし、田舎の不便さから生じる「手間暇をかけた生活」こそが格別なものだと彼女は感じるようになったのだ。

 彼女はこのシェアハウスで手作りの暮らしを作り上げていくことに情熱を持ち、ワクワクと楽しみながら行っている。そのポジティブなムードが伝わり、それは周りに広がっていく。そして今年9月に行われた千春さんと浩一さんの結婚式、その名も「手作り結婚キャンプ」には、全国から同じように「自分の手で暮らしを作ること」をモットーにしている仲間約250人も集まった。

前代未聞。太陽光発電で結婚式。

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(Photo by 福田和貴)

 今年9月18日に大雨の中、糸島で行われたウェディングは「みんなで作る、手作りの結婚キャンプ」のテーマで、大勢の仲間に支えられて一風変わった素敵な結婚キャンプを開催。高額で使い捨てが当たり前の結婚式とは全く異なる結婚キャンプとなった。

“MY食器持参、キャンプイン、エネルギー自給、食材も顔が見える人や地元から、衣装もエシカルなものでまかなうなど、関わってくれた人みんなが幸せになれる気持ち良い空間作りを目指しました”

 花嫁の憧れのウェディングドレス。しかし作った人の顔も見えない高額なウェディングドレスをレンタルすることに疑問を持った彼女は、People Treeのフェアトレード商品で、バングラディッシュの女性が作る手織り、手刺繍のものを選んだ。ウェディングドレス1着につき1万円が、タラパナ・スワローズで運営する小学校の新入生の制服の費用に充てられている。

(Photo by 宇宙大使☆スター)

(Photo by 宇宙大使☆スター)

 結婚パーティでの食事。料理を作る人も、その食材を作る人も、作った人の顔が見えるフードにこだわった。食材は二人の仲間が作ったオーガニック野菜や、自然養鶏に取り組む生産者からのお肉を。その味は格別だったに違いない。

 「ゴミ問題」も結婚キャンプの課題の一つであった。大きなパーティに「ゴミ」は付き物。 彼女はゴミのスペシャリスト特定非営利活動法人ゼロ・ウェスト アカデミーに協力を依頼。事前に一升瓶やアルミ缶の引き取り場所を探し、当日はゴミを細かく分別するゴミステーションを設置。会場を訪れる人にも、MY食器持参、お祝品のラッピングフリーの呼びかけを行った。その結果、なんとゴミはゴミ袋数袋分しかでなかったそう。

 そして今回の結婚キャンプで一番のチャレンジが、太陽光発電だけのエネルギー自給。当然だが、結婚式などの大きなイベントでは大量の電力が必要となる。それを太陽光パネルだけで自給しようというのだ。大きなイベントを太陽光発電だけで行うことが初めてだった二人が出会ったのは、自然電力株式会社という自然電力のプロフェッショナルの方々。彼らも彼女の結婚式に賛同してくれ、なんと太陽光パネル一式を貸してくれることになった。本番は台風の影響で大雨となったが、前日からの蓄電で、なんとか乗り切ることができた。

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(Photo by 福田和貴)

“『自分たちで作る』ことをワクワク一緒に実験してくれる友人達と一緒に、とても楽しい場を作ることができました。スタッフも参加者も顔が見える信頼関係があったからこそ実現できたのだと思います。『楽しい』という気持ちがたくさんの人へ伝わり、この日のような結婚式がもっと広まっていきますように”

 そう願う千春さん。彼女は自分の結婚式を仲間たちとこうして作り上げることで、それが可能な社会であることを示してくれた。ここに彼女の結婚キャンプの様子のビデオがある。大雨なんて関係なく、たくさんの仲間と手作りで盛り上がったとっても素敵なパーティ。

ITOSHIMA WEDDING CAMP 1DAY VILLAGE FESTIVAL from KOKIN on Vimeo.

「肉を食べる」ということ

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(Photo by 畠山千春)

 千春さんのもう一つの顔といえば「新米猟師」の顔。彼女は自ら罠をかけ、それにかかった動物を屠り、肉を解体し、料理して食べる。彼女に狩猟を始めたきっかけを伺った。

 

“3.11がきっかけで『暮らしを自分で作る』という中の『肉を食べる』ってところを自分でやるってなった時に、猟師という方法があったのが、すごくシンプルな理由です。一番最初は鶏を絞めたんですけど、目の前で一つの命が消えてしまう瞬間を見て、最初は取り返しがつかないことをしてしまったんじゃないかと思ったんです。でもそこで止まらずに、それを全部捌いて、自分で食べるってところまでやって、最後は『食べるということは、こういうことかもしれないな』と実感していたんです”

 そう語ってくれた千春さん。それまで日常的に食べていた肉が「命」だと実感した瞬間であった。この経験を通して彼女は命と向き合うことになる。欧米化が進む現代社会の私たち日本人の多くは日常的に肉を食べている。ただ私たちが食卓に上るその肉を「命」だと感じて食べているかと問われると、情報ではわかっていながらも、なかなか実感することができない。これは日本の歴史にも関わることだが、日本人にとって屠殺シーンなどは暴力的、残虐的、汚れたことだというネガティブなイメージが強く、これまでフタをされてきた。

 この初めて鶏を絞めた体験をブログ「ちはるの森」に書くと、反響が大きく、彼女は各地でワークショップを開くようになる。そしてたくさんの人がこのワークショップに参加し、「肉=命」と実感できる貴重な体験をしている。

“体験するまでは自分自身もその過程が想像できてなかったんです。物事のプロセスを想像できる人が増えていくことが、豊かな社会につながるんじゃないかなと思っているので、そのきっかけに“知る”“体験する”という選択肢があったらいいなと思います。ただ、こういう話って“これが正義だからこうすべき”という方向に進んでしまいがちなのですが、正しさや物の捉え方は人それぞれだと思うので、強制するというよりは自分ごととして向き合ってくれる人が増えたらいいなと思っています”

 プロセスを大切にしている彼女だから、狩りや解体作業を積極的に行い、フタをされていた、そのリアルをメディアに発信してきた。現代社会の暮らしでは、「生き物と循環している」という感覚を持つことは非常に難しい。しかしどんなに科学・技術が進んだとしても、私たちは地球の循環の中で暮らしていることに変わりはない。彼女の活動は、そんな命の循環を垣間見ることができ、とても大切なことを気づかせてくれるのだ。

自分で責任を取れる生き方

“自分で責任を取れる方が気が楽なんですよ。今の暮らしを始めたきっかけの3.11。私は横浜で暮らしていたので、福島原発の作ったエネルギーを消費していた。それを自分ごととして考えることができなかったことへ対する憤りのようなものがあったんです。責任を負えないものに依存するのは嫌だな、と思って今の暮らしを始めたんです”

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(Photo by 畠山千春)

 自分で責任の取れる生き方。お金を払って買っているものには、いろんなことが複雑に絡まり合っていて、そのプロセスをなかなか見ることができない。自分の食べているもの、使っているもの、着ているもの、使っているエネルギー。彼女はあの東日本大震災の原発の大事故の後、自分の生き方がその事故と関係していたことを実感した。そして、自分の暮らしを見つめ直した時に、自分で責任のとれる、シンプルな生き方にシフトする道を選んだ。潔い決断である。

 そして始めた糸島での手作りの暮らし。責任の負えないものに依存せず、自分の手で作り出していけるように。浩一さんと二人で始めたこの暮らしも、賛同するシェアメイトが加わり、手作りの暮らしはいつしかムーブメントのように広がっていく。

 彼女のムーブメントにこんなに賛同者が集まるのは、彼女自身がそのプロセスを楽しみ、ワクワクと積極的に実演、そして発信しているからだろう。それは都会の暮らしと田舎の暮らしの両方を共感できる彼女だからできることなのかもしれない。
そして同じ信念を持った信頼できる仲間と作るコミュニティは、都会の暮らしで忘れかけていた「お金に頼らない、助け合い暮らし」の大切さを私たちに気付かせてくれるのだ。

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Text by バンベニ 桃
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