あなたの「心臓の音」展示できます


(Photo by Howard Walfish)

(Photo by Howard Walfish)


フランスには、少し変わった芸術家がいる。
 

彼の作品は絵画でも彫刻でもない。
 

人々の“心臓”を材料にして、彼のアートは作られるのだ。


 

 
2万人の心臓を集めた男

(Photo by Karl Steel)

(Photo by Karl Steel)

黙々と作品作りに打ち込む……一般的にアーティストに対して持つ印象はそのようなものだろう。
 
しかし、フランスの芸術家、クリスチャン・ボルタンスキーはひたすら「他者の命」に着目し、長い年月をかけて風変わりなインスタレーションを作り上げた。
 
2005年より彼が集め始めたのは、なんと人々の心臓音。
 
世界各地、9カ国以上で人々に声を掛け、現在およそ2万人分の心臓の音が彼の【作品】の一部となっている。
 
氏いはく、作品作りのきっかけはこうだ。
 
好きな人の写真をアルバムにして見る代わりに、心臓音を聞いたらどうだろうと思ってプロジェクトを始めたんだ
 
ユダヤ系フランス人の父親の死を経験したボルタンスキーの作品には、ホロコーストや人の生死、記憶、戦争を連想させるものが数多く存在する。
 
心臓音コレクションも、その一つと言えるだろう。
 
かつて生きていた人物、今もどこかで生きている人物の命の音を聞くことによって、命の繋がりを想起せずにはいられない。

 
 
東京から約5時間。離島の上の心臓音美術館

(Photo by 久家靖秀)

(Photo by 久家靖秀)

東京から飛行機と船を乗り継ぎおよそ5時間。
 
瀬戸内海の豊島に、クリスチャン・ボルタンスキーの小さな美術館が存在する。
 
その名も「心臓音のアーカイブ」。
 
この平屋作りの小さな建物の中には絵画も彫刻も飾られていないため、「美術館」と称するのは語弊があるかもしれない。
 
その名の通り、彼が世界各地から収集した心臓音の“保管庫”なのである。
 
訪れた人は登録料を払えば自分の心臓音を作品の一部としてレコーディングすることができる。
 
つまりこれは、現在進行形で作成中のアートなのだ。
 
施設の中に入り、扉を一枚開けると真っ暗な空間が広がる。
 
誰かの心臓音がランダムに再生され、部屋中に大音響で鳴り響く。
 
速い鼓動、不規則なリズムを刻む鼓動、今にも止まってしまいそうな鼓動など、心臓の音にも個性があると分かる。
 
部屋の中央には小さな電球がひとつぶら下がっており、鼓動の音に合わせて明滅する仕組みになっている。
 
これも、彼のインスタレーション作品の一部だ。
 
現在、写真も音楽もインターネットで検索すれば瞬時に見聞きすることができる。
 
しかし、こうして集めた心臓音を、小さな島に保管する理由について、ボルタンスキーはこのように語る。
 
「『心臓音のアーカイブ』をインターネット上にのせるとしたら、それはとても簡単なことですが、私はこの作品を豊島に設置することを望みました。そうすると、人々は作品を体験するために豊島まで時間をかけて行かなければなりません。そうした時間を考えると、自分たちが聞く心臓音かどんなものか豊島に向かいながら想像するかもしれません」
 
心臓音は生まれてから死ぬまで自分と共にあるというのに、その音に改めて耳を澄ませる経験は非日常的なものである。
 
音と共に明滅するランプと、部屋中を振動される大きな音は、鑑賞者に嫌でも『生死』を突きつけることになるだろう。

 
 
細胞アートが人々を「死」から救う!?

Cellular by Ouma from WTA – Werner Thöni Artspace on Vimeo.

※動画が見られない方はこちら

 

日本にも、人体の一部をモチーフとして扱う作家が存在する。
 
「細胞アーティスト」のOumaである。
 
彼女は“細胞”をモチーフにした作品を作り続け、国内外問わず作品を発表している。
 
元獣医師のOumaは、多くの患者の死に立会う中で、治療の代替としてのアートを考案した
 
そして、生命の最小単位である「細胞」をテーマにし、鑑賞者体験型の作品制作をスタートしたのだ。
 
彼女の作品の特徴は「鑑賞者が作品を切り取って持ち帰ることができる」こと。
 
“本作は握りこぶし大に一度だけ切り取ることができます。作品を持ち帰りたい場合は10ユーロ。置いて帰る場合には、握りこぶし大の作品は壁に晒します。飾られている他者の心臓サイズの作品を買い取ることもできます。”
 
ギャラリー一面に広がる“細胞”に包まれ、触れ、切り取る。
 
ボルタンスキーの心臓音を鑑賞している時と同様に、命に対峙し、自分や家族の死に思いを馳せる時間となるだろう。

 
 
命を考えるアート

(Photo by Ed Yourdon)

(Photo by Ed Yourdon)

生と死は、私たち人間にとって永遠とテーマと言っても過言ではない。
 
病気や戦争、家族の死、殺人事件、安楽死、中絶、自殺……etc
 
ニュースを探せば、人の死に関する話題がない日など無い。
 
人が生きること・死ぬことは、常に私たちの身の回りに存在し、「正解」が決められない最も難しい分野と言えるだろう。
 
それらに、一つの答えを提案するのがアートだ。
 
私たちの身近にある命の音や形を、ストレートに「作品」として突きつけ、命とは何か、死をどう扱うべきかを考える機会を与えてくれる。

 

via.ベネッセアートサイト直島, 東京都庭園美術館
 

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