11作目: 「多様性を認めない社会」へのジョージ・クルーニーからの警告?笑いながらも考えさせられるコメディ映画『サバービコン 仮面を被った街』|GOOD CINEMA PICKS


社会派の映画を紹介するBe inspired!のシリーズ『GOOD CINEMA PICKS』では今回、ジョージ・クルーニーXコーエン兄弟製作の新作コメディ、『サバービコン 仮面を被った街』をピック。

人種差別問題を抱える50年代アメリカの「郊外ユートピア」を舞台に巻き起こる異常な事件の謎解きに、笑っていいのかだめなのか混乱しつつも、スリリングなエンターテイメントが楽しめるだろう。

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“理想郷”に潜む狂気

 2度のアカデミー賞脚本賞に輝くコーエン兄弟の脚本を元に、ジョージ・クルーニーが監督・脚本・製作を手がけ、2017年のベネチア国際映画祭コンペティション部門で高い評価を受けた『サバービコン 仮面を被った街』。

 主演は『ボーン・アイデンティティー』シリーズで知られるマット・デイモン。アクションスターとしても活躍しているが、今回は50年代の中年男性の役にリアリティを出すために体重を大幅に増量。その妻と双子の姉役、一人二役に挑戦したのは、ジュリアン・ムーア。『アリスのままで』でアカデミー賞女優賞に輝いた実力派だ。ほかにも『スター・ウォーズ フォースの覚醒』でレジスタンスの名パイロット役を演じたオスカー・アイザックなど、豪華俳優陣が集結した。

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オスカー・アイザック

 1950年代、アメリカ。郊外に開発された住宅街サバービコンは、夢のように平和だった。そこに住むロッジ家はまさに郊外ユートピアの代表的な住民だといえるだろう。保守的なサラリーマンの父ガードナー(マット・デイモン)、妻ローズ(ジュリアン・ムーア)、息子ニッキー(ノア・ジューブ)、そして足の不自由なローズを手伝う双子の姉のマーガレット(ジュリアン・ムーア)は念願のマイホームを手に入れ、理想的な生活を送っているかのようにみえた。

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 しかしある日、中産階級の白人家族しかいないその街に、一組のアフリカ系アメリカ人家族が引っ越してくる。「白人のためのユートピア」にそのマイヤーズ一家が越してきたことで街は狂い始めてしまう。ロッジ家のニッキーは、マイヤーズ家の息子アンディと野球を通して仲良くなっていくなか、住民たちは「アフリカ系アメリカ人一家の存在」が悪影響、脅威だと人種差別を正当化し、「自分たちが平和に暮らす権利」のためになんとしてでも一家を追い出そうと、悪質な嫌がらせを始める。

 この映画はそのマイヤーズ一家が越してきてから嫌がらせがピークに達するまでの狂気の1週間に平行してロッジ家に襲いかかる、異常な事件を描いている。

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笑っていいのか迷う、ノワール・コメディ

 「人種差別」という深刻な問題に直面する街を舞台にしたこの映画は、あくまでもコメディである。コーエン兄弟が得意としているのが「ノワール・コメディ」。ノワールはフランス語で「黒」を意味し、要はこの映画はブラック・ヒューモアがふんだんに散りばめられたコメディだということ。何をやっても裏目に出るドジな登場人たちはいずれも悪人。かわいそうとは思えないからなのか、目を背けたくなるような災難が彼らに襲いかかると「笑っていいのか?」と思いつつクスッとしてしまう。

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 また、コメディといえどもこの映画は私たちの社会でも起こりうる本質的な問題を捉えているといえるだろう。サバービコンの街で起こる「アフリカ系アメリカ人家族に対する住民の嫌がらせ」は現実に存在する街で起きた事件を元にしているのだ。その街とはレヴィットタウン。

 レヴィットタウンは1947年、不動産開発者・建築家 ウィリアム・レヴィットによる「家の大量生産」の先駆けとなった例である。17,000軒の同じデザインの家が立ち並ぶ郊外の街。当時、ニューヨークの都心は家賃が高すぎるため中産階級の白人ですら快適に住むことができず、レヴィットタウンはそんな人々の「楽園」として大々的に宣伝されていた。それは白人のための「アメリカン・ドリーム」を体現していたのだ。

 実際、12年間は住民の100%が白人だった。(参照元:The Gurdian)しかし1957年、アフリカ系アメリカ人家族のウィリアムとデイジー(本作のマイヤーズ一家のモデルとなった家族)が越してきたことで住民による大々的な“プロテスト”が始まった。彼らの家の前で一日中居座り騒音を立てたり、十字架を燃やしたり、やがてその“プロテスト”はエスカレートし、警察が介入しなければならないほどになった。

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 限りなく閉鎖的な場所で、大多数が「異常」だったとき、それは「普通」となる。『サバービコン 仮面を被った街』のなかの住民たちの「異常さ」には映画館の観客は恐怖を覚えるだろう。しかし、その世界ではそれが「正義」としてまかりとおっているのだ。

 これは聞き覚えがあるようなストーリーではないだろうか。島国で国外の視点をあまり取り入れず、閉鎖的な価値観を持ち続けている国、日本…。多様性を寛容しない社会の成り果てをみた、といったら大げさかもしれないが、現実世界を思い起こして身震いしたのは嘘ではない。

 「ロッジ家に襲いかかる事件」のダークな謎解きを楽しみながら、そんな映画の背景にも思いを馳せるとまた違った面白みがあるだろう。

『サバ―ビコン 仮面を被った街』

5月4日(金)

TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

 

© 2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES

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▶︎これまでの『GOOD CINEMA PICKS』

9作目:「エイズ問題」を見て見ぬふりをする政府や、製薬会社に抗議する若者を生々しくエモーショナルに描いた映画『BPM ビート・パー・ミニット』

8作目:摂食障害、セクシュアリティ、鬱。ティーンエイジャーの友情と葛藤をパンクに描いた映画『チーム・ハリケーン』

7作目:偽善的な世の中に波紋を起こす。「命を奪うことを楽しむ人間」の姿を非批判的に描いた映画『サファリ

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All photos via ©2017 SUBURBICON BLACK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
Text by Noemi Minami
ーBe inspired!

 

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