13作目:ダム問題を抱えながらも、強く美しく生きる里山の人々を記録した映画『ほたるの川のまもりびと』 |GOOD CINEMA PICKS


とりわけ印象に残ったのは、その豊かな暮らしだった。長崎県こうばる地区。夏にはほたるが舞い飛ぶこの里山に生きる人々の日常には「結束」という言葉がよく似合う。

結束せざるを得なかったのだ。長崎県がこうばる地区に石木ダムを建設するために現場調査を始めた1962年以来、彼らは長きに渡り抗議活動を続けてきた。『ほたるの川のまもりびと』はそんな住民たちの日常を記録したドキュメンタリー映画である。

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まもりびとたち

 今回この映画の監督を勤めた山田英治氏が石木ダムと、何十年にもわたり地元を守ろうと反対運動を行う住民について耳にしたのは2015年。監督はすぐに建設が予定されている長崎県、こうばる地区を訪れた。

 ダムの建設計画に伴い葛藤のすえ土地を離れた住民たちも多く、この地区に残るのは今では13世帯54人。監督のイメージしていた「ダム建設に反対運動している人=マスクしてヘルメットをかぶって怒ってる人」はどこにもいなかった。代わりにそこで目にしたのは、美しい自然と住民同士の暖かいつながり、一言でいえば豊かな暮らしだった。

 いうまでもなく石木ダムが建設されれば、その暮らしは水の底に沈む。だが監督が映画で焦点を当てたのは、その悲惨な事実や住民の反対運動ではなく、そこにある日常だった。彼らを決して「過激な人々」や「かわいそうな人々」として描写するのではなく、失われるべきではない豊かな暮らしに目を向けることで、観客に明るく考えるきっかけを与えたかったのである。

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 作中でみられる、こうばる地区の豊かな自然を知ってもらうために始められた「ほたる祭り」を準備する住民の様子にはうらましさすら覚える。子どもも、お母さんもお父さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな一緒になって料理を作ったり、川で魚を捕まえたり。なんとも楽しそうである。

 不思議なことに、そしてこんなことをいうと不謹慎なのかもしれないが、ダムの反対運動すら楽しそうにみえてしまう。一日もかかさず建設予定地に足を運ぶ住民たちは、バリケードを作るためにゲートの前に一列に並べたアウトドアーチェアに座り、蒸したさつまいもを分け合ったり、スーパーの値引きについて話したりしている。

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 だが、場面場面で挿入される反対活動のアーカイブ映像や画像で急に現実に引き戻される。機動隊を前に「帰れ!帰れ!」と泣きそうになりながら叫ぶ子どもたちの姿に動揺する。こうばる地区の住民は、選択肢を与えられることもなく、56年間一日も休むこともなく、毎日毎日闘い続けてこなければならなかった。

ダムの建設反対が体のなかに染み込んでいるんですね。もう取り除きたいんですよ

 地域の女性たちのリーダー的存在である岩下すみ子さんが映画のなかで言うこの言葉に、この地域の人々が背負ってきた重荷の重さを感じさせられるだろう。

ダムは本当に必要なのか

 さて、そんな地元の人々の姿を目の当たりにして浮かんでくるのは、本当にダムは必要なのかという疑問である。河川工学者 今本博健は、石木ダムの建設は必要ではないという。もともと、長崎県と佐世保市の共同政策であるこのダムの主な目的は治水と利水だが、ダムの建設が必ずしも解決策とはいえない。

 まず利水に関していえば、確かに佐世保市は平成19年に渇水を経験した。しかし、現在佐世保市が主張している一日最大給水量(17000m2)は現実的に必要な量を上まわっている、というのが今本教授の見解である。節水機器の普及や漏水対策、今後増える見込みがないことを考慮すれば、市が出している数字は適切ではない。また、利水が目的であれば、改善の余地は他にあるという主張もある。佐世保市では、老巧化が進んだ水道管が原因で一日平均9,350m3も漏水しているそうで、水が地中に漏れ出すと地盤が弱くなるため道路にも悪影響が出る。利水の確保が目的であれば、まずは漏水対策をすることもできるはずである。(参照元:石木川 まもり隊

 治水についても県の主張には疑問が残る。長崎県の計算だと、100年に一度の大雨が降ったときに川の増水を緩和するためにダムが必要となる。ところが、石木ダムの建設予定地にダムを作ったところで、ダムより上流に位置する波佐見町と川棚町は浸水してしまう。また、2014年に長崎県知事が「河道整備が完成すれば、過去と同規模の洪水は石木ダムなしで対処できる」と明言しているという。今本教授によれば治水に必要なのは、ダムではなく河床掘削や堤防の補強なのである。

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不条理を知った以上何か伝えなければならない

 「不条理を知った以上何か伝えなければならない」。山田監督は作品を作った動機についてそう話していた。ダムが本当に必要であるならば、住民は故郷を諦めるつもりでいたそうである。しかし、必要がないにも関わらず大切な故郷を、豊かな自然を破壊するとなれば、それはまさに不条理にすぎない。

 こうばる地区のダム問題は私たちの日常には関係のない話に聞こえるかもしれない。しかし、このダムの建設には長崎県や佐世保市はもちろんのこと、少なからず国の税金も使われる。私たちが国に納めた税金が、美しい自然を、素敵な暮らしを、愛に溢れる人々のつながりを破壊することに使われるかと思うと、どうも落ち着かない。

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 この石木ダム問題については音楽家 坂本龍一氏をはじめ、俳優 伊勢谷友介氏や作家 椎名誠氏など多くの著名人が声をあげている。

 「民主主義では民が主幹であり、一部の政治家、企業ではなく民の利益が守られるべきだ。それが『公共』ということ。たとえ13世帯だけだとしても、その小さな公共を守れなければ、大きな公共も守れないのではないか」。坂本氏がこうばる地区について長崎新聞に話した言葉である。(引用元:『長崎新聞』2018.3.26)

 この映画の撮影が終わったあと、住民たちが寝ている間に建築予定地に機材が運び込まれ、事態は加急速している。地元の人たちはブルドーザーの前に座り込みをして今日も反対運動を続けている。

 『ほたるの川のまもりびと』の劇場公開は7月7日(土)よりユーロスペースにて。ぜひ劇場に足を運んでほしい。

『ほたるの川のまもりびと』

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7月7日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
九州地区は先行公開

<ユーロスペース ゲスト情報>

7月7日(土) 加藤登紀子さん+山田英治監督

7月8日(日) 嘉田由紀子さん(元滋賀県知事)+辻井隆行(本作共同プロデューサー、パタゴニア日本支社長)

7月9日 (月)末吉里花さん(一般社団法人エシカル協会代表理事)+山田英治監督

7月11日 (水)津田大介さん+山田英治監督

7月13日 (金)いとうせいこうさん+山田英治監督

2週目以降も続々決定中!

プロデューサー:山田英治、辻井隆行、江口耕三 監督:山田英治 撮影:百々新 編集:豊里洋、野崎健太郎 編集監修:安岡卓治 音楽:青空 制作:NPO 法人 Better than today. 2017 年 / 日本 /86 分 / デジタル /16:9/ ドキュメンタリー

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▶︎これまでの『GOOD CINEMA PICKS』

12作目: メディアが報道しない、北朝鮮の“普通の暮らし”とは。撮影監督が韓国籍を放棄して挑んだドキュメンタリー『ワンダーランド北朝鮮』

11作目: 「多様性を認めない社会」へのジョージ・クルーニーからの警告?笑いながらも考えさせられるコメディ映画『サバービコン 仮面を被った街』

10作目:“性別”の枠を超えた愛とは。二度と訪れない、二人の青年の一夏を描く『君の名前で僕を呼んで』

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55杯目:「亀裂ではなく対話を求める」。伊勢谷友介、坂本龍一も参加する “あるダム”の必要性を問うプロジェクト。#いしきをかえよう|「丼」じゃなくて「#」で読み解く、現代社会

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All photos via ぶんぶんフィルムズ
Text by Noemi Minami
ーBe inspired!

 

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