「エイズ問題」を見て見ぬふりをする政府や、製薬会社に抗議する若者を生々しくエモーショナルに描いた映画『BPM ビート・パー・ミニット』|GOOD CINEMA PICKS #009

Text: Shiori Kirigaya

Photography: © Céline Nieszawer

2018.3.18

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HIV/エイズと聞いて「死」を連想する人は近ごろでは少ないだろう。だが20数年前ならそうはいかなかった。その時代に死んでいったのは、イギリスのロックバンド クイーンのフレディ・マーキュリー、アーティストのキース・ヘリング、学者のミシェル・フーコー、俳優のジャック・ドゥミなどの著名人を含む多くの人々。

社会派の映画を紹介する『GOOD CINEMA PICKS』では今回、そんな時代のエイズ問題を見て見ぬふりをする政府や、抗エイズ新薬の研究結果を出し渋る製薬会社と闘ったアクティビストたちを、ドキュメンタリーのようにリアルに、ハウスミュージックのビートを織り交ぜながら描いた映画『BPM ビート・パー・ミニット』をピックした。

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80〜90年代のエイズ・エピデミック時代の若者たち

映画に登場するのはHIV/エイズ*1が発生してほぼ10年しか経っていない90年代初頭のパリを舞台に、世界的に「エイズ問題」を訴えるアクティビストグループ「ACT UP」のメンバーの若者たち。彼らは血液に似せた赤い液体を製薬会社に行って撒いたり、許可なく高校でコンドームを配ったりと、とにかく「行動」に出る活動していた。

作中で描写されているのは、そこでの若者たちの「戦争」と呼べるような生きるためのアクティビズム、議論、そしてハウスミュージック*2に合わせてナイトクラブで踊る様子。それに加え、HIVに感染しながらも精力的に活動するACT UPパリ創始メンバーのショーンと、HIV陰性だが活動に共感して参加していたナタンのラブストーリーが描かれている。

(*1)HIVは「ヒト免疫不全ウイルス」と呼ばれる。エイズはHIVに感染して免疫が弱くなり、普段は感染しない病原体にも感染しやすくなって引き起こされる病気の総称
(*2)ハウスミュージックの発展はゲイカルチャーと関係が深い。ちなみにBPMは心拍数および音楽のテンポの単位で、『BPM ビート・パー・ミニット』の原題『120 BPM』は、ハウスミュージックの一分間当たりの拍数120を意味している

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エイズ有効な薬が出回るようになったのは、1995, 1996年になってからだった。それまでは、HIV/エイズに対する理解が世界的になく、同性愛者に対する偏見が根強かったため「エイズ=ゲイ、薬物使用者、刑務所に服役している者、セックスワーカーの病気」と考えられており、対応が見送られてばかり。

そんな状況下で生き残った者として、これ以上苦しむ人が増えないように、そして偏見をなくそうと立ち上がったのが、当事者を中心とした若者たち。ショーンが劇中でそう話していたように、もし自分が死んでしまったら遺灰をデモで蒔くような“政治的埋葬”を望む者たちも少なくなかったというくらいに、活動には命が捧げられていたのだという。

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なるべくワンテイクで撮り、“リアルさ”を追求した

「ドキュメンタリーのように思えた」。そんな感想がこの映画に多く寄せられている。監督を務めたロバン・カンピヨ氏は、なるべく作り込みすぎない作品にしようと、ワンテイクで撮れるように指揮していたという。監督本人も、同作の舞台と同時代にACT UPに参加しており、その記憶から当事者たちを被害者として描くのではなく、“闘うアクティビスト”として描くことにこだわった。だがその一方で、当時は白人ばかりであったACT UPに、劇中では黒人を登場させるなど「包括的さ」の願いを込めた脚色がされているとも話している。(参考:VICE

また、一般的につまらないとされる「議論を交わすシーン」を、同作の重要なポイントとして幾度も入れているところが監督の挑戦といえるだろう。メンバーが過激な抗議行動に出たあと、それが正しいことだったのかを振り返って話し合ったり、デモでのアプローチの仕方を提案しあったりなど、活動の意味を再確認しながら、具体的にどう活動を進めていくべきなのかを真剣に議論している様子が見られる。

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闘わなければならないのは、目に見える「病気」だけではない

テレビで映し出されるデモの様子を見て「それに参加したって何も変わらない」という考えを抱く人も少なからずいるだろう。だが、実際に物理的な「エイズ」という病だけではなく、それに対する偏見をなくしていくのにも、彼らの行動主義的な行動には意味があった。本作のように映像を通して、言葉を使って誤った言説に反論したり人々に印象づけたりすることの影響は決して小さいものではない。「偏見」などに対してはむしろ、言葉を使って闘わなければ解決できないのではないだろうか。「過激な行動を重視するアクティビズム」に焦点が当てられている本作を見て、そんなところにも思いを巡らせてみてほしい。

予告編

※動画が見られない方はこちら

『BPM ビート・パー・ミニット』

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2018 年 3 月 24 日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、ユーロスペースほか全国ロードショー

配給:ファントム・フィルム
© Céline Nieszawer

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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