「今の日本のマスメディアは私たちをなめてる」。22歳のHIGH(er) magazine編集長haru.が「タブーの存在しない雑誌」を作った理由


 

出版社や新聞社の編集者100人の投票で決められる「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」。23回目を迎える今年の大賞は「ベッキー31歳禁断愛 お相手は紅白初出場歌手!」(週刊文春1月14日号)だった。

雑誌ジャーナリズムの未来のために作られた同賞だが、他の賞も「一夫一婦制では不満足『乙武クン』5人との不倫」(週刊新潮3月31日号)のような不倫をスクープしたゴシップ記事ばかりが受賞している。(参照元:編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞, 朝日新聞デジタル, 産経ニュース)こんな日本の状況に、あなたは危機感を感じるだろうか?

Photo by Noel

自主規制の多い、日本のマスメディアがだめな理由。

最近のマスメディアは、面白くないし、自主規制しすぎだと思う。芸能人のゴシップよりも、もっと発信することがあるって思うし、視聴者をなめてるって感じる。あと女性誌で“モテるための特集”を本気でやっているとしたら本当に馬鹿げているなって思う

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 インディペンデントマガジン「HIGH(er) magazine(以下ハイアー)」の編集長を務めながら、東京藝術大学に通う22歳の学生haru.。彼女に最近のマスメディアについての考えを聞いてみたら、こんな答えが返ってきた。マスメディアは広告主が気に入るものを意識し、売り上げや視聴率を気にして伝えるべき内容よりもただ読者の興味を引きそうな情報ばかりを発信しているということだ。

読者に一切媚びないインディペンデントマガジン「HIGH(er) magazine」

 haru.が率いるハイアーは、彼女やその他のメンバーのまわりにいる「まだスポットライトの当たっていない面白い子たち」を紹介するインディペンデントマガジンとして始まった。

 今までに3号が発行されており、ファッションだけでなく政治やフェミニズムなど日本人が普段話さないようなテーマを扱ってきた同誌は、彼女と同世代の女性から50代の男性まで幅広く読まれている。

 最近ではハイブランドのフェンディとharu.がブロガーを務める雑誌ELLEgirl、そしてハイヤーのトリプルコラボレーションのオファーが来るほどの知名度と影響力を持ってきているのだ。

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 そんなハイアーにharu.たちが創刊から一貫して込め続けている想いは「常に自分たちに正直であること」で、彼女たちが「常日頃考えていることや疑問に思うこと、一般的にはタブーとされること」を発信し続けている。それが「どこにも属さず、誰にも口出しされないインディペンデントマガジン」として存在する意義ではないだろうか。

自主規制してたら、インディペンデントでやってる意味がない。だからバッシングされようが、政府に圧力をかけられようがこれは本当に変えたくなくて。だから広告とか入れないっていうのもそうで、ブランドとかと考え方が合わないっていうのもありそうだから、だったら入れないでずっとやって行きたいな。そうするのは金銭面では大変だけどね

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 このように彼女たちは自主規制せず、読者が喜ぶことを追求するのではなく自分たちの好きなことを発信してきた。またよっぽどのことがない限り、広告を入れるつもりもなく、雑誌や民放テレビとは正反対の姿勢で、ただ自分たちのやりたいことを貫いてきている。フェンディとのコラボレーションの際も、先方が彼女たちのスタイルを面白がってくれて「自由に作っていいよ」と言ってくれたから引き受けたそうだ。

SNSでも「言いたいことをなんでも言っちゃう」スタンス

 インフルエンサーやインスタグラマーなどのSNSを通じた影響力を持つ人々が近頃注目されている。彼らの特徴は「見せたい自分・なりたい自分」を明確にしてセルフブランディングした自分をメディア化することだ。果たしてharu.の場合はどうなのか。SNSでネガティブな面も隠さない彼女に、自分自身をどんな存在として見せようとしているのか尋ねてみた。

私はあんまり考えてなくて、結構SNSで言いたいことを言うタイプ。SNSで感情は見せない友達も多くて、写真あげるときにキャプションは情報だけにしてる子もいるけど、私は感情的なことも書くことがあるし、SNSだからこういうことは言わないとかはむしろ考えない。でも、生理の話とかをあえてすることはあるかな。いまだに生理は隠さなきゃいけないもの、っていうイメージが強いから。自分たちの身体のことだよ?何が恥ずかしいのって思う。女性だけでなく男性にも知ってほしいし。言葉にしてやっと初めて対話が生まれるから

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 セルフブランディングに力を入れる人の多いなか、彼女のようなスタンスがかえって人を惹きつけるのかもしれない。また、あえて何もブランディングしないことが彼女のブランドだと考えることもできる。そんなharu.も政治についてSNSに書くと見知らぬ人に批判されることが多いというが、それでも動じる様子は見られない。

「haru.ちゃんはすごい大好きだけど投稿がうざいです」ってメッセージが来たことがあって、そんなの知らないし、人のためにやってないからって。あとはデモに行ってたとき、デモの写真をSNSにあげると「なんでデモをやっているのに楽しそうにしてんだよ」っていうメッセージが知らないおじさんから来たり。でもあんまり気にしてない。何かを発信したら反応が来るのは当たり前だし、それがポジティブとは限らないから

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 彼女は日本人の多くがタブー視したり、気難しいものとみなしたりしている政治の現状の“やばさ”を長らく感じていて、そんなことも「みんなで考えられるオープンな場」を作りたいと考えていた。だから「政治は堅いもの」という見方を少しでも変えられるように、ハイアーではファッションや音楽と同じ目線で政治も扱っているという。

 そうすることで、政治にまったく興味がなくてもファッションや音楽の特集に惹かれてハイアーを手に取った人の目にふと政治の話が入って、世の中の情勢や政治を知るきっかけとなるかもしれない。

「自分の考えを嫌でも言う習慣」ができたドイツでの生活

 haru.のバックグラウンドには、小学2年生からの2年半と高校の4年間*1のドイツ生活がある。ドイツでは日本と異なり、どんな小さなことに対しても自分の意見を発することが求められる。例えば、何を食べたいか聞かれたとき「なんでもいい」とか「どっちでもいい」は答えにならないのだ。

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常に自分だったらどうかなとか、自分だったらどっちかなとか考えることが日々あった。クラスではディベートみたいなのが自然に起きる。先生が質問を投げかけたら意見が飛び交う状況に慣れていたから、日本に帰ってみんなが授業中に全然喋らないことにびっくりして。今日も先生に「どう思う?」って聞かれたから、「ああ、意見求められている」と思って、授業中にすごく喋っちゃって。私はたくさん喋るんだけどみんなは静かだから、先生と個人授業みたいになっちゃう(笑)

 今ハイアーでしているように、彼女が自分の考えていることを紙のメディアで表現するようになったのもドイツにいたときだった。

 自分の意思ではなく、親に東日本大震災後に日本にいることを心配されて急に祖父母の暮らすドイツの高校に通うことになったharu.は、1年生から12年生までずっと同じ教室で学んでいるような生徒たちに囲まれた環境にしばらく慣れることができなかったという。

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 そのときは言葉でも自分の思っていることを表現しきれなくて「自分はこういう人なんです」と発信するZINE*2を1年かけて制作した。そんな自分のために、あるいは友人に伝えるために作るパーソナルな媒体をZINEと定義し、「パーソナルだけれど、他の人も考えているかもしれないこと」を積極的に出し、社会とつながっていく存在のハイアーをMAGAZINEと、彼女は定義する。

 そうやって彼女たちが魂を込めて制作するハイアーは、ウェブではなく絶対的に「紙」でなければならない。物として存在すれば、それが物理的に読者に寄り添えるからだ。

ウェブでは記事を公開しない。あえて紙にしてる。紙なら物としての安心感があるし、存在感と責任感があるし。もう顔とか自分たちの恥ずかしい部分まで出して、うちらが作っているよって見せて、言ってることに責任持ちたい。それでいて、いつでも読者のそばにいたいという感覚がある。紙媒体という物としてそばにいたい。ほんと自分を全部出しているからウェブで出したら魂が崩壊しそう(笑)

(*1)ドイツの教育制度では大学進学を希望する生徒は多くの場合、4年間の高校教育を受ける
(*2)一般的に自主制作の紙のメディアを指す

「家のトイレに置いてあって、家族みんなで読む雑誌にしたい」

 ハイアーについてharu.から意外な言葉を聞いた。それは、感度が高くておしゃれな若者たちが作っているにもかかわらず、媒体をアンダーグラウンドなものにはしたくないということ。しかも自分たちの恥ずかしい部分までさらけ出し、「ダサさ」を内包することで親しみやすさを読者に感じさせているのだ。

なんか若い女の子が作っている女の子向けの雑誌って紹介されがちなんだけど、自分たちではあまりそう思ってなくて、年上の人たちにも読んでもらいたいし、男の子にも読んで欲しい。だから、次号では結構世代も性別もばらばらな人たちを集めみたり。それからインディペンデントマガジンってアングラみたいなイメージを持たれているかもしれないけど、“裏でやってる何か”ではなくて本当にいろんな人に読んで欲しい。かっこいい若い子だけじゃなくて。家のトイレとかに置いてあって家族みんなで読むみたいな感じがいいなって

 発信するだけではなく、今の時代を共に生きている読者と問題を考え、まわりの人たちをたくさん巻き込んで“一緒にハイアーしていくこと”(一緒に考えて作っていくこと)をharu.たちは目指している。メンバーは今後入れ替わっていくかもしれないが、「自分たちに正直でいる」スタンスを曲げずに変えずにハイアーは彼女たちのライフワークとして続けられていく。

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 日本社会では政治や性など、人間が社会で生きていくうえで知っておくべきことがタブー視されているため、それらについてメディアが自主規制して報じないことが多い。そこでハイアーという「規制なく自由に話せるプラットホーム」に人々を巻き込んでいくのが編集長のharu.を中心とするハイアーのメンバーたちだ。

 彼女たちのような影響力を増している若者たちが「普段口に出さないこと・タブーとされているもの」を自然体で誌面やSNSに出すことで、それらが読者の日常に馴染んでいき、彼らを呪縛するタブーの意識を少しずつなくしていくのかもしれない。

 また、「何かを考えていて行動したい気持ちがありながらもそのやり方がわからない人」にとって、ハイアーは動き出すきっかけや手本となる。彼女たちが好きでやってきたことが、彼女たちをフォローする人々を惹きつけているのだから未来はきっと明るいのではないか。

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haru.

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Instagram:@hahaharu777

Twitter:@hahaharu777

HIGH(er) magazine:@higher_magazine

『HIGH(er) magazine issue no.4 launch party』

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遂にハイアーの4号目が7月26日に発売される。ローンチパーティに参加してハイアーを買うだけでなく、haru.をはじめとする制作メンバーに会おう。

日時:2017 年 7 月26 日(水)16:00 – 21:30

場所:KATA Gallery(東京都渋谷区東3-16-6 LIQUIDROOM 2F)

All photos by Noel Kenny
Text by Shiori Kirigaya
ーBe inspired!

 

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