「私は“即興の魔力”に取り憑かれた」。社会的弱者が分断された日本を音楽で変える「即興楽団UDje( )」を率いるナカガワ エリ【後半】

2017.2.17

Share
Tweet

シングルマザー、重度の障害を持つ弟。母親と弟の間で揺れ動く思春期を過ごしたナカガワ エリさん。生き辛さを感じていた彼女が偶然始めたアフリカの太鼓「ジャンベ」。人生に失望していた彼女は、そこから少しずつ即興で音と声を使ったワークショップを行い、自分の中に変化を感じるようになる。「即興楽団UDje( )」(うじゃ、以下うじゃと記す)の始まりだ。

自分救済から弱者救済に繋がる彼女の活動が起こすストーリーの前編はこちら

うじゃが訴える、障害者とその家族を取り巻く社会問題

エリさんの3つ年下の弟は、視覚障害、知的障害、癲癇、強い自閉症といくつもの障害を併せ持っている。幼い頃から彼女は弟と彼の同級生と関わる中で、言語のみに頼らないコミュニケーションになじんでいったという。それが今のうじゃの原点となった。

 

言葉じゃないんです。言葉でやっちゃうと伝わらないことが多い。純粋に体同士とか声とか太鼓の方がわかりやすい場合があるし、満たされることも多い。それって障害者だけのことじゃなくて、大人も頭で考えて、しゃべって、コミュニケーションして繋がったように錯覚しているけど、実は表面的なつながりでしかないんですよ。体でダイレクトにいろんなことした方が、もっと繋がりができます。

width="100%"
(音のワークショップ_千葉盲学校青年学級/千葉 Photo by淺川敏)

そう語るエリさんは、今日も全国の障害者施設や老人施設、生活に困窮した人たちが利用する救護施設などを巡り、アフリカの太鼓ジャンベを使って即興音楽を作りコミュニケーションを生み出すワークショップを行っている。エリさんが関わっている障害を持つ子供の家族から聞いた、深刻な問題を話してくれた。

 

障害を持つ子供の親というのは、子供が大声を出したり、変わった行動をとったりする時に『どうやって静かにさせるか』『どうやって社会に合わせていくか』『変な風に見られないようにするにはどうすればいいか』など、周りに迷惑をかけずに生きていくにはどうしたらいいのかっていうことで悩んでいるんです。でも私は逆じゃない?って思います。合わせられる人が合わせればいいはずなのに、合わせられない人が、なぜ合わせなければいけないのか?って。だって彼らに負荷がかかるでしょう?障害の子っていうより障害の子を取り巻く環境が閉塞的というか抑圧的だと思うんです。障害者を一箇所にまとめておくのも、その方が便利で簡単だから。だから施設を作って、ある意味一つのところにまとめておくことで、大人が扱いやすいようにしていると思うんです。

width="100%"
(音のワークショップ_地域作業所カプカプ川和/神奈川 Photo by秋山佳子)

確かに現代社会では障害者は健常者と関わることが非常に少ない。障害を持っている人は健常者と比べてできないことも多く、いろいろと世話はかかるが、いつの時代もどの国にも障害者というのは社会に必ず存在する。その障害者が見えにくい現代の日本社会。私たちは障害者との関わり方がわからずに、戸惑いのような気持ちを胸に抱えていないか。障害者と、その家族が抱える不安や生き辛さを、社会全体が理解しサポートすることが私たちの社会には求められている。

width="100%"
(参加型ステージ_親の会クリスマスイベント/東京 Photo by木村雅章)

今年1月、うじゃは「福祉連絡会」というものを立ち上げた。これまでの活動で千葉、東京、神奈川、大阪、三重、広島など、たくさんの福祉施設と関わってきたが、福祉施設同士の交流があまりないことにエリさんは気が付く。

例えば老人施設で働いている人が、知的障害者施設で働いている人とつながるようなことが大切です。自分の働いている施設しか知らない人が多いから。だからこそ分野を横断するようなネットワークづくりが大事だと思うんです。まだどうなるかはわからないんだけど、福祉に関わる人同士が会う場を作り、今後何か新しいことができたらいいなと思ってます。うじゃの活動には人と人とを繋ぐっていう役割もあって個々に違う価値観が出会い、何かしらの作用を起こす場、そういうところからおもしろい変化が起こっていけばいいと思います。

固定概念に捕らわれずに、そこに当たり前のようにあった壁を取っ払ってしまうエリさんのパワー。彼女のような発想が現代の福祉の世界に新しい旋風を巻き起こしてくれるのかもしれない。

弟が与えてくれた彼女の生きる道

width="100%"
(参加型ステージ〜集合写真_釜ヶ崎の夏祭り/大阪 Photo by淺川敏)

2009年に始まったうじゃの活動も今年で8年目。直感を信じて行動するというエリさんは、自分の与えられた環境を振り返ってこう語る。

 

うじゃは私の中で、家族のつなぎ直しになったんです。今でも問題はありますが、捉え方が変わりました。母との付き合い方も変わりました。私が背負っているものも、ひとつずつ降ろす作業ができてきたなって。やっぱり弟の存在は大きい。そしてうじゃ。弟がいたからこそ、こんなことを深く考える人生になった。弟は何食わぬ顔でそこにいるだけなんだけど。でもそうやって役割を私に与えてくれているのかもしれません。

人生に失望していた8年前の姿から想像もつかない人生を今彼女は送っている。彼女と仲間たちが起こしたこの、うじゃという活動は、言葉だけに頼らないコミュニケーションの技法を身につけることで、人間不信になった人たちの心を癒し、自信の持てない子供達に自信を与え、コミュニケーションが困難な障害者に表現方法を与えてきた。

感じたことはやってみたい、体がやりたいからする。社会の中で自分が置かれてる立場に関わらず、分断された人と人の垣根を取り払い、誰もが自分らしく生きていける社会を築くこと。そのことだけを目指し次々と新しいことにチャレンジしてきた即興楽団UDje( ) 主宰のナカガワ エリさん。彼女のこれからの活動にも注目していきたい。

大阪で救護施設のステージ近日公開

大阪に移り住んだエリさんは、知り合いの紹介で吹田市にある救護施設でワークショップを始めることとなる。エリさんが“おっちゃん”と呼ぶこの利用者たちは生活に困窮している人だったり、精神的にまいっていたり、体に障害があったりなど、社会に適合するのが困難な人たちが多い。ここで3年間、月1回のワークショップを行ってきた。

この施設の利用者の人たちの中にも「もう人と関わるのはいやだ」「もう人は信じたくない」「面倒だ」と、人とのコミュニケーションから離れ、孤立してしまっている人も多いという。そんな中、うじゃのワークショップに興味を持ってくれた人たちが毎月参加してくれている。

 

去年の10月にこのメンバーで初めてステージに立ちました。おかげでみんなのやる気が出てきてすごく変わったんです。最初は恥ずかしいことはできないと言っていた人たちが、いろんな提案を始めたりとか、足が不自由な人がいたら手を貸してあげたり、演目を自分で決めたりするようになりました。以前は彼ら同士の中でコミュニケーションをとることはあまりなかったようだけど、ワークショップを通して繋がりが生まれ、思いやりの気持ちも芽生えてきたと思います。

そして今、彼らの願いは、うじゃと一緒に他の施設に慰問に行くことだという。

今月2月26日に大阪で開催される、障害の有無にかかわりなく、誰もがあるがままの自己を自由に大らかに表現するロック&アートフェス「HAPPY カムカムロック&アート」。このイベントに救護施設のメンバーがうじゃと一緒に「即興楽団UDje( )×千里寮芸能団のコラボバンド」として出演するという。演目名は「参加型即興演舞〜声を出そう、踊ろう、悪い獅子をやっつけろ!」。興味のある方は是非参加してみてほしい。

width="100%"
(うじゃと救護施設有志によるコラボバンドの参加型即興演舞_大道芸祭り/兵庫 Photo by細見大悟)

HAPPY カムカムロック&アート

日程:2月26日(日)
料金:500円
会場:さをり会館  大阪市都島区中野町5-13-4【MAP

【Open】11:00~
ガムテープ太鼓づくり(11:00~12:00まで)持ち帰りの場合は300円
さをり織り体験(11:00~17:00 30分500円)
高田雄平のリストバンド作り(11:00~17:00 500円)

姫路まさのり(13:00~)
ゆるみま食堂(11:00~20:00)
NAGAYA CAFE(11:00~17:00)

【MAIN EVENT】13:00~
すずむしバンド
カラン☆コロン
ここなっつ
SUKIDARAKE MAFIA
シェイクオブロック
即興楽団UDje( )×千里寮芸能団
太陽ドラム×梶原徹也(ex-THE BLUE HEARTS)

【AFTER PARTY】17:30~(※20歳未満の来場はご遠慮ください)
嫌になっちゃうズ
中宮竜善×かのうさちあ
ザ・リラクシンズ
アカリトバリ
はちようび
And more…

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

Share
Tweet
★ここを分記する

series

Creative Village