Flickrで一躍有名に。無名だった文学少女が、男女差別を無くす「平和な写真」を撮り続ける理由


まだ気温が暖かく、外でのんびりするのがちょうど気持ちいい秋の日、下北沢のカフェで空いた席を探していると、笑顔で「ここ座っていいよ」と声をかけてくれた女の子がいた。

彼女の名前はエイルル・アサラン。ベルリンを拠点にしているトルコ人のフェミニスト・フォトグラファーだった。

(Photo by Joseph Wolfgang Ohlert)

(Photo by Joseph Wolfgang Ohlert)

 「私誰とでもすぐ友達になっちゃうの!」とすでに仲良しになった様子の店員さんに笑顔で声をかけ、読んでいた哲学者エーリヒ・フロムの「愛するということ」という本を私と話すために閉じた。少女のように純粋で、生粋の文学少女という印象を彼女と話していると受けた。

 日本にはアート系雑誌の撮影を頼まれ、仕事で来ているという。フォトグラファーになろう!と気張っていたわけでもなく、なんとなくFlickr(写真共有サイト)にあげていた写真が母国トルコで注目をうけ、一躍若手フォトグラファーとして有名になった彼女。

 写真のために、自身のために、ジェンダーやセクシュアリティに対して保守的な故郷トルコを離れた。トルコは大統領が公然と「男性と女性は平等ではない」「働く女性は未完全の人間だ」「女性は公共の場で笑うべきではない」などと発言するほど、ジェンダーに対して非常に偏った意見を持っている国だ。(参照元:NBC News)一方移り住んだのは、ヨーロッパの中でもリベラルで有名な街ベルリン。マイノリティにとってヨーロッパ1過ごしやすい街を目指し、「表現の自由」の確立と移民の受け入れに力を入れている。(参照元:World of Wanderlust

 そんなベルリンで活動するエイルルの写真は女性の「性」について表現していると見られる作品が多く、メディアではいつも「フェミニスト・フォトグラファー」として取り上げられる。エイルルにとって「フェミニスト・フォトグラフィー」とはなんなのか。彼女のインスピレーションとは、信念とはなんのか。ベルリンに戻った彼女に話を聞いた。

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あなたにとってフェミニスト・フォトグラフィーってどんなもの?

“私の考えだと、女性や、女性を取り巻く問題をテーマとし、社会の現状を変えようとしているフォトグラファーが撮る写真がフェミニスト・フォトグラフィーだと思う”

フェミニストとして、写真を通して実現したいことは何?

“ただ女性と男性が平等に、争うことなく暮らせるような幸せな社会になって欲しい。みんなが愛しあい、尊敬しあうことができるように…”

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写真を撮る時のインスピレーションはなに?

“私の周りの全て。全ての人。旅にでるのも大好き。新しい場所を訪れたり、新しい文化に触れたり、新しい人に出会ったり…そんなことからインスピレーションをいつももらう。本を読むのも大好き。私自身、写真でストーリーを伝えたいといつも思っているの。あと、もちろん映画も!”

彼女の作品の中でも特に興味深いのは、ティンダー(欧米を始めとする世界中の若者に大人気の出会い系アプリ)を使ってモデルを探し撮影した、その名も『ティンダー・キャスティング』というプロジェクト。

▶︎Tinder Casting

たくさん友達がいそうなのに、どうして出会い系アプリ「ティンダー」を使ってキャスティングをしようと思ったの?

“ティンダーでみんなが載せている自分の写真にとてもインスピレーションを受けたの。(ティンダーっていうメディアプラットフォームが私が普段使っているものと全然違ったっていうのもあるかもだけど)例えば、自分の腕に自信のある男の子がいたとして、彼のティンダープロファイルは二頭筋がよく見えるような写真…。つまりこのプロジェクトは、出会い系アプリと、社会の中に存在する「美の基準」についてだった”

ティンダーをする人みんなに言えることかもしれないけど、ティンダーを通して見つけたモデルと実際に会うのが危険だと感じたことはない?

“そうでもなかったよ。でも撮影の後に本当にデートをしようっていってくる男性を断らなきゃいけなかった。あと、トルコだったらこのプロジェクトやらないかも。トルコとヨーロッパでは女性への見方が全然違うし、知らないトルコ人男性を撮影するのはちょっと怖いから”

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SNSって賛否両論だよね。特にアーティストには。好きなように世界中の人に届けられるという側面もあるし、アクセスが簡単すぎて、作品の価値を下げているという人もいる。エイルルはSNSについてどう思う?

“大好きだよ、もちろん!もしSNSがなかったら写真やってなかったと思う。Flickrがあったから、色々な人と写真を通して繋がることができた。彼らが注目してくれることや、サポートをくれるから写真を続けていける”

ドイツのウェブマガジンDAILY BREADで話してたけど、Flickrで気持ち悪いコメントを男性が送ってくるのは不愉快だね。どうして彼らはそんなことするんだと思う?
▶︎DAILY BREAD

“彼らは写真の中の女性がモデルをしているから、それだけで自分たちとセックスをしたいだろうって思うの。彼らの頭の中では、モデルをするような女の子は「尻軽」「アバズレ」なんでしょ。気色悪い考え方だけど、それが現実…”

そんなメールもらうなんて気分悪いよね。そういったことで写真を撮るのが嫌になったことある?

“まあね。たまに私にとって、とても個人的だったり、大切な写真をそういう意地悪な人たちが見ていると思うと嫌気がさす。でもそういう人だけをブロックするようなフィルターはオンラインに存在してないからしょうがないよね…”

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今はどんなプロジェクトをしてる?

“またティンダーのプロジェクトをやってるの。自費出版で本にするつもり。それが終わったら、トルコ料理についての新しいプロジェクトをしたい”

フォトグラフィーとして次のステップは?

“このままフォトグラファーであり続けること:)”

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 「フェミニスト」とは特に日本では「男嫌い」や「過激」というイメージがつきまとうが、本来は「どんなジェンダーの人にも平等な世界」を信じ、そんな社会づくりのために行動できる人のことだと思う。

 エイルルのように、淡い素敵な女性のポートレートで「女性の性」について表現するのもその一貫なのだ。「攻撃的な主張」や「辛い体験を共有」することで生まれる結束ももちろん大事だが、平和な方法でポップに男女差別を無くす取り組みは、「ただ女性と男性が平等に、争うことなく暮らせるような幸せな社会」のために適したアクションだと言えるだろう。

 彼女の才能が見出された場所はFlickrというインターネット上の写真のコミュニティーで、活動の場もティンダーなど、彼女のアーティストとしての基盤がインターネットにあるのも興味深い。

 インターネットを拠点にポジティブなアートを通した社会的活動。それはまさに今の若者のあり方なのかもしれない。今後もBiは「社会を変えるためのアート」を生み出すアーティストに注目していきたい。

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All photo by Eylül Aslan
Text by Noemi Minami
ーBe inspired!

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