東日本大震災から6年。「原発を卒業できる」と信じ、歌い続ける“何者も傷つけないハッピーな革命音楽家”

Text: バンベニ 桃

Photography: かむあそうトライブス

2017.3.24

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都会ではなく、田舎から発信するアコースティックなレゲエバンド「かむあそうトライブス」。彼らは、畑を耕し、薪を使い、自給的でシンプルな暮らしを好み実践している。メンバーは鍼灸師、畳職人、山小屋でレストランやデザイン事務所経営など、実にユニークな仕事をしながらの音楽活動だ。

今回Be inspired!は、電気に依存しないという、先鋭的な思想と発想を持ち、原発についても歌う彼らが日本で起こそうとしている「ハッピーな革命」について伺った。彼らの暮らしと音楽活動についてはこちらから。

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奄美大島ツアーにて パーカッションBongo Deva Photo by Charu

今、原発について歌う意義

最初に言っておくが、彼らは反原発運動を主にやっているバンドではない。彼らの音楽活動の根底は「田舎暮らし」にあり、自然と共に生きる楽しさから生まれている。2011年、東日本大震災の中、私たちは取り返しのつかない大きな事故を起こしてしまった。福島原子力発電所事故だ。その事故の中で、たくさんの人たちが、原子力とは何か、電気とは何か、とそれまであることが当たり前で、考えもしなかったことを一つ一つ辿って考えてきたことだろう。

ここにかむあそうトライブスの歌う「米ウタ」という曲がある。この歌は日本人のソウルフード「お米」について歌われいるが、原発事故によって水が放射能に汚染され、日本の食に起きている危機を表現している一曲だ。

「米ウタ」

Oh!米はいのち お米のいのちを
Oh!米はいのち お米のいのちを

ごはんをたべよう ごはんをたべよう
おいしいごはんを おいしくたべよう

(中略)

たんぼのおこめ みずのこめ
たんぼのこめ みずのこめ

水を汚すな 放射能
水に流すな 放射能
水を壊すな トリチウム
水に流すなストロンチウム

たんぼのおこめ みずのこめ
たんぼのこめ みずのこめ

だいちはいのち だいちはいのちを
だいちはいのち だいちはいのちを

ごはんをたべよう ごはんをたべよう
おいしいごはんを おいしくたべよう
おいしいごはんを感謝してたべよう
感謝して感謝していただこう

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つながりフェス/天からの光のシャワーを浴びるBONGO DEVA Photo by Charu

かむあそうトライブスの2ndアルバム「MAXI FOUNDATION」は震災後にリリースされた。1stアルバムは田舎暮らしの楽しさ満載なのに比べて、こちらは米ウタを始め、原発問題に触れている曲も多い。そんな「MAXI FOUNDATION」について、ボーカルのやじー氏にお話を伺った。

やじー:原発については、深刻なことだけど、大事なことだから、結構遠慮なく歌には込められたと思うし、周りにも応援してもらえて、人に聞いてもらえて、嬉しく思ってます。また僕らの歌をきっかけに、原発について考えてくれたりすると嬉しいですね。

大事なことでありながらも、なかなか原発について表現するアーティストが少ないのが現実だ。しかしあえてその問題から目をそらさずに、メッセージを乗せて歌う彼らの曲は、とてもストレートである。賛否両論である原発問題。彼らは原発について歌うことや、原発問題について発信することに対して難しさを感じていないのだろうか。また、リスナーに拒絶されたりすることはないのだろうか。

やじー:今のところ(リスナーに拒絶されるなどの)経験はないですね。でもSNSなどで原発の話に触れる時などは、どこまで書いたらいいんだろう?って考えさせられるところはあります。なかなかそんな話をしにくい空気というのはわかります。

そう話してくれたやじー氏。この時の取材も原発に触れる内容なので、慎重に話したいと一言一言丁寧にお話してくれた。またBe inspired!でも原発問題には、慎重にそして真摯に取り組みたいと思っている。原発問題はそれだけ敏感な問題であるのだ。しかしだからと言って、メディアが原発問題に触れることを恐れてしまっては、今の日本に解決の糸口はない、そう考える私たちは、積極的に、違う角度から新しいアイディアを取り入れ、読者にお届けしたいという気持ちでいる。

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つながりフェス/ピースな農耕シスター、ピアニカ トモエ  Photo by Charu

かむあそうトライブスが考える「電気」

震災後、電気についてたくさん考えてきた人も多いだろう。現代の私たちの暮らしは電気なくしては生きられないと言っても過言ではない。田舎で自給的な暮らしをするかむあそうトライブスだが、電気をどのように捉えているのだろうか。やじー氏が答えてくれた。

やじー:電気は便利の代わりだと思う。だから電気を使いすぎると体がだるくなってくると思う。じーっとする暮らしだから。やっぱりそれは便利だと思うんだけど、便利はいいことか、悪いことかっていうのが僕にはまだわかりませんね。歩くこととか、自転車に乗るとか、自分のエネルギーを使うことって、とても体にいい。僕たちは“耐乏(たいぼう)”は楽しいなっていう風にシフトしていってます。ちょっとずつ節約したり、それがすごいどこに住んでても、楽しく生きることのできるヒントだと思う。僕らの音楽を聴きに来てくれたら、そこに来ている人たちのいろんなカルチャーがミックスして一連で動いているのがわかるはず。そういうところに遊びに来てくれたら、きっと価値観が変わるし、心のゆとりがでてくると思う。めっちゃ楽しいので是非、ライブに来てもらいたいです。

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熊本One Love Peace Campドラムス 位田氏 Photo by Charu

戦後経済急成長する中で、私たちは便利な暮らしを求め直走ってきた。箒が掃除機に変わり、洗濯板が洗濯機に変わり、薪風呂が全自動の風呂に変わり、手洗いで洗っていた食器も食器洗い機に変わり、汲み取り式だったトイレはハイテクトイレと化し、便座はいつも暖かく、蓋の開け閉めまで全自動となった。その暮らしは戦前からしてみれば、とても便利な暮らしだと言えるだろう。しかしそれらの便利さは全て“電気”があってこその暮らしと変わっていったのだ。

「便利がいいことか、悪いことかわからない」。やじー氏の言葉は核心を突く。私たちの暮らしは戦後、便利さと引き換えに電気に依存し始めてしまった。私たち現代の日本人は電気がなくなることに一種の「恐怖」を持っているようにも思える。そんな中、田舎で便利さは都会に劣るものの、都会ほど電気に依存せずに自分たちが作るエネルギーで暮らす彼らの暮らしから、今私たちが見るものは何だろう。

※動画が見られない方はこちら

彼らの歌に込められたメッセージとムーブメント

レゲエの神様と言われるボブ・マーリィ。彼の歌は世界的に知られている。それは歌に込められた彼の革命的なメッセージがたくさんの人の心を掴んだからだと言えよう。そのメッセージは一般論ではなく、違った角度から見た社会、それをあのチャッチャッチャッチャという裏打ちのリズムで、民衆に伝える、それこそがレゲエミュージックの醍醐味なのだ。かむあそうトライブスのレゲエも例外ではなく、現代人へ意識のベクトルを変えてくれるようなメッセージがこもっている。

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田植えの休憩セッション ギター、サットマン Photo by Charu

「種ウタ」

種 種 種 種 種だいじ
種 種 種 種だいじ 種 種 種 種だいじ 
種はいのち 種はいのち
いのちにゃみんな 種がある
いのちにゃみんな みんな 種がある

(中略)

種に当てるな放射能 ハァーあいうえお
種に当てるな放射能 ハァーあいうえお
大きいことは良いことか? か か かー
多収穫はよいことかー? か か かー
小さい事はいいことだ だ だ だー
少ない事はいいことだ だ だ だー
あっはっはー あっはっはー 種 種 種 種 種だいじ

 
この曲は2ndアルバム「MAXI FOUNDATION」の種ウタという一曲だ。この曲についてやじー氏はこう語ってくれた。

やじー:この種ウタの作詞は、岐阜県瑞浪市在住の陶芸家、大泉讃さんがしてくれました。核のゴミ廃棄物の処分所にされるかもしれない場所(瑞浪超深地層研究所周辺)を歩き、山や谷、池や小川、木や草や花など、未来を担う子供達に繋ぐべきものが、放射能で汚染されないようにと、伝える活動をしている方です。彼に『歌詞を書いたから、よかったら使って』と言っていただいたんです。それにギターのサットマンが曲を作ったんです。彼は長老の陶芸家で、もう70歳近いと思います。昔から自己発電されてる方で、電力会社からは電気を引いてない。昔から手作りでリフォームして、田舎暮らしをしている人なんです。

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陶芸家 大泉讃さんNo Nukesのプレートを掲げる Photo by Charu

かむあそうトライブスの歌に賛同する人たちが、彼らと共にムーブメントを起こす。大泉讃さんもその一人だ。

やじー:『反原発』っていうことじゃなくて、別に『反』じゃなくてもいいよね、っていう。『エネルギーシフト』するってこと。使う電気の種類を変えるって意味もあるし、使う電気を節約するって意味もある。わざわざ反対しなくても、卒業する感じでいいと思う。消費を縮小するのは可能なことだから。

「反原発」などというと、反原発カルトなんて言葉もあるように、それだけで拒絶してしまう人も多い。彼らのモットーは「何者も傷つけないハッピーな革命」。人と対立せず、音楽でメッセージを届け、これまで私たちが信じ進んできた道に疑問を投げかけるのだ。

かむあそうトライブスの提案する原発のない社会の作り方

大量の電力が必要な現代の私たちの暮らし。そんな暮らしから原発のない社会を作りだすことは一体可能なのであろうか。今回一番聞きたいこの問いに彼らはこう答えてくれた。

やじー:そうだね、原発のない社会はできると思います。でも現状のみんなの電気の使い方ではできないんじゃないかって思います。辛くない方法で、自然エネルギーにシフトし、みんなの暮らしや企業や工場の電気の使用量が減ることで可能になると思います。必要なところは必要だけど、電気がない暮らしも結構楽しい。岐阜県は水力発電ですけど、全然まかなえてますよ。あと僕らは戦後、テレビの世界でCMで話が途切れることに慣れてしまっているんじゃないかと思います。ツイッターなんていうのも140字くらいで書くので、長く物事を考える能力っていうのが、低下しているように思える。冷静にみんなの問いかけとか、話し続けなければならないことがたくさんあるのに、次のことに意識がいってしまっている状態をなんとかしなくちゃいけないんじゃないかって。そこが大切な気がします。

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つながりフェス/6年前のあの出来事を風化させてはいけないとメッセージを奏でるやじー Photo by Charu

やじー氏が指摘するテレビやツイッターなどのSNSがもたらした私たちへの思考への影響。ニュースや問いかけを見て、自分の思いが浮かんできても、CMの後に流れてくる次の情報に意識が流される。震災のことも例外ではなく、テレビやSNSでその問題を見ても、そのことを問題視するのはニュースを見たその一瞬。次の瞬間には新しい情報が意識を流していく。震災から6年が過ぎた今、震災の被害に遭っている人からすると、とても長い6年であったに違いないが、それ以外の地域で暮らす人たちからは、どんどんと震災のことが忘れ去られていっている事実がある。自分の暮らしのエネルギーについて話し続け、考え続けることが、今の私たちには切実に求められている。そうでなければ、日本各地にある原発はすぐに再稼動をはじめ、また同じ問題を繰り返してしまうだろう。

またドラムを担当するメンバーの位田氏は愛知県にある自宅でガスを一切使わずに暮らしているという。屋根に取り付けた太陽温水器でお湯を作り、足りない時は薪だきボイラーで補うシステムでお湯を作っているという。夏場は太陽のみでも熱湯になるので水で薄めて使っているそう。また、計画・工事中であるが、自宅前の川の水力を利用して、発電動力と自宅の灯をまかなう計画中。

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太陽温水器のお湯が十分熱くない時は、まきボイラーで補う Photo by 位田氏

位田氏の奥さんのめぐさんは料理をひち輪や釜戸を使ってしている。時間はかかるけどその分、とても贅沢な食事の時間がおくれるのだそう。彼女が出している本「里山シンプル生活」では位田家の暮らしの様子をみることができる。

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位田氏自作のロケットかまどペチカ (ベンチシート暖房) ベンチの余熱でパンの発酵や保温等々重宝。Photo by 位田氏

位田氏:普通に暮らしていけるくらいだったら、太陽光などでも作れると思う。あと水力などの自然エネルギーというのもあるし。僕たちは自分たちで独立して山での暮らしを実践しているので、やっぱりそれには自家発電にも自分でチャレンジしたいと思う。自給自足の暮らしになれば、逆に依存していないから、何かあっても困らない、ということにも気がついた。

電気に依存した私たちの便利な暮らし。便利ではあるものの、その便利さがとても不安定なものの上に成り立っていることは、6年前のあの震災で私たちが痛感したことだ。電気が供給されなくなれば、何もできなくなるのではなくて、少しずつその依存から独立し、少々電気がなくても生きていける暮らし、そんな暮らしが日本各地で行われれば、きっとこの国は原発を卒業できる。それこそが、かむあそうトライブスが願う「何者も傷つけないハッピーな革命」なのだ。

かむあそうトライブス

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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