「一般の方にも、もっと気軽に来てもらいたい」。元AV女優が始めた“偏見のない性感染症専門クリニック”


「性感染症」に対してどんなイメージを抱いているだろうか?自分には関係のない病気と考えてしまいがちかもしれないが、最近の日本では感染者数が増加の傾向にあるという。特に増えているのは梅毒*1で、クラミジア*2、淋病*3も常に蔓延している。さらには、HIV*4の感染者数も拡大しているのだ。

そんな事実を知ったとしても、検査を受けるために病院へ足を運ぼうとするにも壁がある。ではそれをどう問題提起したらいいのかと、筆者が頭を悩ませていたとき、インターネット上で偶然見つけたのが、「池袋駅前ライフクリニック」というその名の通り、池袋駅西口前にあるクリニック。ここでは同クリニックを立ち上げた元AV女優の夏目ミュウ(なつめみゅう)氏と、稲垣徹訓(いながきてつのり)院長へのインタビューを通して知ることになった、実は身近にある性感染症の事情、そして同クリニックのこだわりについて届けたい。

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夏目ミュウ氏

(*1)外陰部の粘膜などに、発疹ができたり皮膚が隆起したりする病気
(*2)性別を問わず症状が出ない場合も多いが、放置しておくと子宮や卵管、尿道、精巣、陰嚢などに炎症が起こり不妊の原因となることもある
(*3)淋菌に感染することでかかる病気。症状が出ない場合もあるが、膿性の分泌物が出たり出血したりすることもある
(*4)ヒト免疫不全ウイルス。HIVに感染して免疫が低下して合併症を引き起こした状態がAIDS(エイズ)と呼ばれている

まずAV業界や性風俗業界で働く人たちの健康をサポート

 2018年5月7日に開院したばかりの池袋駅前ライフクリニック。立ち上げた夏目ミュウ氏は「今思えば儲けるためだけだったら、クリニックをつくる労力が同じくらいで単価の高い美容整形外科とかにしたほうが効率がよかったのではないかと思っているんですけどね」と笑っていたが、開院に踏み切った一番の理由は、日本における性感染症感染率の増加と、それに対する知識のなさへの危機感を感じていたから。そして、まずターゲットにしたのはAV業界や性風俗業界での仕事に従事する人たち。

 「私のまわりだけかもしれませんが」と前置きしながら、給与が足りず性産業に従事する人たちが身近に多くいたことも立ち上げに関係していると彼女は話してくれた。

夏目:セカンドの仕事としてなんか未来もみえずに、うっかりなんかの理由で風俗で働いたり、お金がほしくて流されて嫌だけどAVやってたりとか。彼女たちのなかには身内の借金などがあって一発逆点してお金を貯めようって思ってきてたり、人によっては誇れた理由ではないかもしれないけど、頑張って従事しようとしても、これだけ病気が蔓延しているために道を絶たれるっていうこともあって。自分一人が気をつけてもまわりの人の意識や知識がないことによってまた再発したり。

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Photo via Ikebukuro Life Clinic

 日本のAV業界でも2016年にようやく、仕事を受けるにあたって性感染症の検査表の提出が義務付けられるようになったが、性風俗業界では統一された基準はなく店舗に任されており、多数の人との性的接触*5をするため必然とリスクが高くなる。

 だが病院で検査しようとしても、性病科は男性専用としているところが多く、性感染症専門のクリニックは数が少ないため混みすぎていて時間をかけて相談ができないという状況だった。また、現実的な話をすると性感染症の検査で「陽性」が出てしまうとしばらく仕事ができないため、ゆるい検査を行っていて「陰性」が出やすいクリニックの需要があることがさらに根深い問題だ。そんななか彼女は、とにかく病気の早期発見のために検査における精度の高さを最重視している。

(*5)性感染症への感染は基本的に性交渉を通じておこるが、確率が非常に低いもののプールや温泉、岩盤浴場などで感染することもある

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性に関する話がタブーなのが問題

 性感染症に対する認識が低い背景には、学校や家庭での性教育の不足や、性に対する社会的なタブーがある。夏目氏はAV業界に入ってきた新人の様子を見て、その現実を肌で感じてきた。

夏目:AV業界に関していえば、検査が必須なので月一回は受けることになり、自分でもいろいろ気をつけるようになると思います。クリニックを始める前からですが、体感として検査に引っかかっているなというのは、ほかの仕事をしていてAV業界に入ってきた人というイメージがあるのですよね。自分で性器を見たことがないとかちゃんと洗ったことがない人も多くて、そういうことって教わらないじゃないですか。本当誰が教えるべきなでしょうね。もう学校で教えてくれればいいんですけどね。

 性器をケアするという考えは、確かにあまり浸透していない。だが、夏目氏が「身体が健康だと病気にかかりにくいのと同じで、たとえば膣が健康だと膣が病気にかかりづらい」と話しているように、ほかの身体のパーツと同じように正しいケアが必要となる。彼女のクリニックでは、必要があれば800円で膣洗浄が受けられるし、自分にあったケアの方法を相談することももちろん可能だ。

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稲垣:やはり性感染症のこと以前に性教育に関して早い時期からもう少し、オープンにしていただきたいっていうところはありますね。小学校の高学年に対して学校の先生が教育するのには難しいところもあると思うので、医師とか保健所の看護師などの専門家が赴いてとか、そういう形での授業を絶対するべきだと思います。ですが実施しようとしても、自治体なり、学校が拒んでしまうという現状がありますよね。「これ以上は話さないでくれ」とかね。

 日本では性産業の規模が大きいのにもかかわらず、家庭や学校などで性的な話をしてはいけないという空気感が少なからずある。ホルモンバランスを整えられ、月経前症候群の緩和をはじめとする利点のある低容量ピルに関する事情をみてもそうだ。一般の人々の知識がないために、当たり前にあるべき身体にとって有用なものへアクセスが妨げられているのが現状。「時間はかかるにせよ、正しい知識を身につけられる性教育を地道に行っていくことが、将来的な予防政策の一環になる」と、稲垣医院長は話していた。

 また性教育の質の確保のみならず、政府が性感染症の検査への助成金を出したり、学校や企業での健康診断に組み込んだりするなどの制度化が実施されれば、日本の性感染症事情は大きく改善されると考えられる。

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膣内検査を行うための検査台
検査はスタッフによって丁寧に行われ、時間はほぼかからない

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同クリニックが厳選した検査キット

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検体を取り終えたら、スタッフが検査薬で反応をみる

性感染症に対して偏見のないクリニック

 夏目氏そして稲垣医院長の話から浮かび上がってきたのはやはり、普段触れられることの少ない日本の問題だった。その問題の根深さや、一般の人にとって性感染症の検査を受けるまでに何重もの壁があることを受け止めながらも、信念を強く持ってクリニックを運営しているのが今回のインタビューを快諾してくれた夏目ミュウ氏だ。「私みたいなのを面に立たせてくれる稀有な病院だと思いますよ」と口に出していたが、AV業界にいたからこそ患者に寄り添えるという面もある。

夏目:来てくださる方はやはり性産業の方が多いので、AV女優だった私はそこに対して別に偏見もないですし、一般の方にももっと来ていただきたいですね。本当に偏見なく診てくださる先生とかスタッフばかりですし、私もまあいろんなことが人生であったので相談乗れます。

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 来院のしやすさへのこだわりは強く、「性感染症クリニック」「性病科」などを名称に入れていないだけでなく、カフェのような空間を想起させる青色で統一された明るい院内にも表れている。そのほかの特徴としては、保険診療を行っていない病院だからこそできる、時間をかけた、性感染症や自分の身体に関する悩みの相談だ。

稲垣:そこまで忙しい病院ではないので、そういう意味では、ほかの病院よりはゆっくりお話はできると思います。性感染症に関して相談があればいくらでも時間はとるので。

 さて、いざ興味を持っても心配なのは検査を受ける頻度や検査にかかる料金かもしれない。頻度に関しては、性風俗産業に従事している方やそこに通われてる方なら月一、またはパートナーが変わったタイミングで検査を受けることを勧めている。料金については、最も低価格の検査が6,000円のライトセット(クラミジア・淋菌の検査)で、現状では性風俗で働く人の割引を行っているという。さらに来院者が増えたら、ペア割引も始めたいそうだ。

池袋駅前ライフクリニックの存在意義

 夏目氏から聞いた話だが、通信販売で購入できる性感染症検査キットがベストセラーになっているらしい。それらの精度については一概にいえないが、医師が介入した検査のほうが検出率が高いため、数回に一度だけでも医師による検査を勧めたい。クリニックに足を運ぶことで、人々の間に知識が広まっていない性感染症に関して、医師に気軽な相談をする機会が作れるということも非常に重要ではないだろうか。

 風邪にかかっていることを隠す必要がないように、性感染症にかかっていたとしても恥じる必要はないし、何かあれば医師と相談しながら治療を進められる。性感染症の検査を受けるのに抵抗がある人たちにも、性感染症をほかの病気と同様に扱い、自分のこととして考えるようになるまで時間がかかりそうだが、性感染症に対するスティグマを崩していくのにも同クリニックの存在は大きい。

Myu Natsume(夏目ミュウ)

Twitter

2001年より17年間AV業界に在籍。
モデルを経て、4年後、監督、プロダクション経営に携わり業界を引退。SOD匿名社員。2018年5月7日に性感染症(STD)検査専門の池袋駅前ライフクリニックを立ち上げる。

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Tetsunori Inagaki(稲垣徹訓 院長)

池袋駅前ライフクリニック院長 稲垣 徹訓です。
ネットでどんなことでも検索でき便利な時代になった一方で、誤った情報、過度な説明が氾濫しており、それらを見て心配される患者様が多数いらっしゃいます。
そのような中で、何が正しい情報なのかを患者様の目線にたって、適切な医療を提供できるよう努力させて頂きます。

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Ikebukuro Life Clinic(池袋駅前ライフクリニック)

Website

性感染症(STD)専門クリニック外来
〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-16-1 新東第一ビル6F ※池袋駅西口8番出口目の前
Tel:03-5904-8775(お気軽にお電話ください!)
休診日:水曜日、日曜日、祝日
池袋駅前ライフクリニックは、あなたと誠実に向き合って性感染症の最適な検査を行っております。

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Text by Shiori Kirigaya
ーBe inspired!

 

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