「カワイイってだけでペットを飼う人が多い」。モデル咲月が“動物と人間のフェアな関係性”を主張する理由

Text: Shiori Kirigaya

Photography: Robert Kirsch unless otherwise stated.

2018.5.21

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もしペットを飼うなら、動物の譲渡会を開催する団体からもらうのではなく、「ペットショップ」や「ブリーダー」から購入するのがいいという感覚がないだろうか?

モデルでZINEなどの物作りをし、最近では映像作品への出演が増えてきた咲月(さつき)も、幼い頃は同じような感覚だった。だが、「ペットショップ」でカジュアルに動物を手に入れることには、大きな問題があるという。今回Be inspired!はペットや里親について知ることのできるギャラリーイベントを企画した咲月に、イベント開催にあたっての思いをインタビューした。

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愛犬ぐらと戯れる咲月

動物の譲渡会を開催する団体からもらうほうがフェア

咲月が初めて犬を飼ったのは、小学5年生のとき。当時ペットショップに動物を見に行くことを楽しみの一つにしていた彼女だったが、母親からは「ペットショップで買うのではなく、動物の保護を行うNPOやブリーダーからもらうことを考えてみない?」と言われ、知り合いのブリーダーから一匹もらう話になっていたものの、タイミングが悪く実現しなかった。その後、飼いたいと思う犬に出会えたのは、祖母の家を訪ねた際に偶然寄ったペットショップ。彼女はそこで気に入ったチワワを買ってもらい、「ぐら」と名付け、現在も大切に飼っている。

そんなわけで結局飼い犬はペットショップで購入することとなり、実際に自分で施設を見に行くこともなかったが、動物を保護する団体やブリーダーから犬をもらう話を聞いた当時の気持ちを振り返ると、想像がネガティブにしか働かず「どんな犬が来るのだろう?」と不安があったという。しかし譲渡会を開催する団体やペットショップ、ブリーダーについて調べていくうち、ペットショップから買うよりも動物愛護団体から譲渡してもらうほうが飼うにあたっての基準が厳しく試験期間を経なければ飼えないため、双方にとってフェアな関係を築きやすいことを知ったのだ。さらに、譲渡会から里親として犬を迎えることはその一匹の犬を救うだけでなく、譲渡会を開いた動物愛護団体に一匹分の枠を空け、殺処分の対象とされていた犬のなかから一匹を保護することにもなり、それだけで二匹の犬や猫などが助けられることになる。

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カワイイという理由だけで犬を飼う人が多い日本

咲月は、日本でも勉強していたアートを学ぶため2017年にイングランド南東部に位置するブライトンに一ヶ月滞在した。その際に感じたのは、現地の犬が日本で見かける犬と比べてはるかに自立していて、ペットというよりもパートナーとして生活していること。これには動物の生体販売をするペットショップが少なく、ブリーダーや動物愛護団体を通して譲渡してもらうのがイギリスでは一般的なことも関係しているかもしれない。したがって、飼い主も信頼関係を意識してペットと接することが前提にあり、必要以上に吠えないし、リードなしでも公園で遊べるなど、飼い主の言うことを聞くような関係性を作りやすい。

そして日本でよく見かけるような、可愛がることにお金をかけるのではなく、しつけに時間とお金をかけるという印象を咲月は持った。彼女が滞在していたブライトンでは犬を連れた人が多く、ロンドンでは犬を電車の中でも見かける。日本では、ゲージなどに入れないと犬を連れて電車に乗れないがイギリスではリードをつけて乗っている犬がほとんど。彼女がホームステイしていた家にもスタッフォードシャー・ブル・テリアの犬がいたが、しつけがされていて家族ときちんとコミュニケーションをとるところをよく見たという。

「カワイイからとか、癒されようとするためだけに飼っている人が多いよね」。日本のペットを飼う環境について咲月に聞いてみると、彼女はそんなことを指摘した。ペットとの対等な関係性が感じられないような叱り方やリードの引き方をしている人たちを見かけることが少なくなく、心を痛めるという。また動物の知識がなくても気軽に動物が購入できるペットショップが多いだけでなく、本来なら母親から離してはいけない幼すぎる子犬や子猫が日本の「(動物に限らず)幼くて可愛いものが好きな傾向」を受け、ビジネスのために売られていることも国内での大きな問題だ。それとは反対に、咲月が調べたところによると、世界でも動物愛護に関して先進的なのはドイツ。寄付金や寄贈されたものなどを使った動物保護のシステムが整っており、動物のシェルターに人間が使っても快適なくらいの広さの空間が一匹ごとに設けられ、保護された動物が専門家のサポートを受けながら生きられるそうだ。

犬の子どもも、人間の子どもと同じで個性的

ここでやはり考えるべきなのが、動物に対する意識の問題ではないだろうか。「預けたい」という内容の電話がかかってきたり、飼っていた動物を置いていってしまったりする人が多くいるために、ウェブサイトに電話番号や住所を載せない動物保護施設があるくらい、責任を持って育てられない人が多いのだ。だが、これをペットの犬ではなく、人間の子どもに置き換えて考えてみるとどうだろう?それぞれの家庭の事情は異なるが、言うことを聞かないからと途中で育てるのをやめたり、どこかに置き去りにしたりするという選択は当然「虐待」だとみなされる。人間の子どもを育てるのと同じで、ペットだって飼うと決めたなら、飼い主である人間がリードをし最後まで向き合う覚悟が必要だ。

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人間の子どもと同じで「何々をしなさい」って子犬のときに言ってもすぐにできない。でもそれを理解しないで、なんでもできると思って飼い始める人がいることも、引っ越しや飼い主自身の病気が理由で飼えなくなる人もいるんだなってペットの問題について調べるたびに感じていて。飼い主と犬の関係性がうまく築けずに結局団体に預けられる場合もあるけど、それは動物に対して理解がないから。だから飼い主がちゃんとペットのどんな性格も個性として理解できるようにならないとだめだし、その子と出会ったことが運命だと思って付き合ってほしい。しつけの仕方を学ぶことも、そばにいるペットがいたずらしたり噛み付いたりしたときに向き合える心の余裕を持つことも必要だと思う

里親についてカジュアルに知ることのできるギャラリー

譲渡会で犬をもらい里親になることについて、咲月はこう説明してくれた。「犬や猫などの里親になりたい場合には、住んでいる自治体の動物愛護センターで譲渡についての説明を聞いてから、譲渡会を行っている団体について尋ねるのがいい。繁殖をビジネスにしているだけで正しく管理を行っていないブリーダーや、動物にかかるストレスを考慮せず夜遅くまで営業するペットショップ、愛護団体を名乗った利益目的の団体もあるためインターネットを頼りにするだけではなく実際に足を運んで、ルールを守った団体から犬や猫などの動物を迎えることが必要」。

動物愛護について関心を持って調べてきた彼女は、これに限らず自分の知った事実を何らかの方法で人にも伝えたいと考えていた。だが、なかには人が知りたくないと思うようなショッキングな事実もある。そんなものを含めた内容を、相手を暗い気持ちにさせないようにどう伝えるか悩んだ彼女だったが、自身の好きなアートやファッション、音楽といった表現方法を使うことを思いつく。

ペットショップには、何も調べなくたってすぐに動物が買えちゃうカジュアルさがあるから行きやすいんだなって。じゃあアートとかファッションとか音楽を通して、里親になってくれる人を探したり、NPOの人とかとのつながりをもっとカジュアルに作ったりできるような場所があったらいいなって考えて今回イベントをやろうって思った

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5月26日から原宿で開催されることになった彼女のイベント“Growls”*1では、動物愛護について調べたことをまとめた咲月のZINEや、古着屋と共同で動物に関するグッズが販売されるだけでなく、里親になることに興味のある方へ団体を紹介したり、動物の愛護に関する署名活動などを行ったりする。署名活動には、「動物を飼うためのライセンスを作る」という項目があり、それが実現したなら、ペットショップで目があった可愛い子犬をその場の衝動で買うということはなくなり、飼う責任を持った人でなければ飼い主になれなくなる。

「犬や猫などの動物が日常生活で身近な人にもそうでない人にも、人間と一緒に住んでいるペットや、動物園・水族館などで飼育されている動物たちに対し、改めて接し方や命の大切さを考えてもらいたい」。そんな思いが咲月をイベントの企画へ向かわせた。動物の愛護について知りたい・里親制度に興味があるけれど、団体の施設を訪ねるのは勇気がいるという人も気軽に立ち寄ってみてほしい。

(*1)動物がうなるという意味があり、主張したくてもできないペットたちに代わって主張したいというメッセージが込められている

咲月(SATSUKI)

WebsiteInstagram

女優として本格的に活動を行うことを目指しながら、不定期にZINEや曲などを作って伊勢丹新宿などのイベントで発表している。

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Growls

2018/5/26-6/1
Opening party 5/26 15:00-19:30(誰でも入場可)
5/27-5/31 13:00-20:00
6/1 13:00-19:00
東京都渋谷区神宮前6-6-9 YUMMY MART原宿店2F

・同イベントのために作られたポスター、ステッカー、ZINEの販売、祐天寺の古着屋Nitakoと共同での洋服や食器などの動物に感するグッズの販売

・東京都近郊にお住まいの里親希望の方を社団法人ランコントレ・ミグノン に紹介、同団体への500円募金、同団体のオリジナル商品であるガチャガチャ、ステッカー、トートバッグ、ソックスの販売、“動物の愛護及び管理に関する法律”見直し案の署名活動

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Photography by Chihiro Lia Ottsu
Directed by Chico
Model Yaz & Hamu chan, Satsuki & Gura
Special thanks to Robert Kirsch & Tim Borchert

一般社団法人ランコントレ・ミグノン

Website

東京メトロ副都心線の北参道駅が最寄りのペットサロン、動物病院、犬猫などの動物のシェルターが併用された譲渡施設。毎月第2日曜日、第4土曜日に譲渡会が開催されている。株主への配当を“救えた動物の数”にするなど経営面やオリジナルのチャリティーアイテムもユニークなもので溢れている。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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