タトゥーはアートから医療に?女性タトゥーアーティストに聞いた「日本の刺青文化の現状」について思うこと。


2015年9月、大阪で活動するタトゥーアーティスト、タイキ氏が警察により突然の摘発を受けた。

理由は「医師法違反」。彼はこれまで衛生面の管理は怠ることなく、客からのクレームや問題が起きたことは一度もなかった。しかし、警察は「針先に色素をつけながら皮膚の表面に色素を入れる行為」は医師法上の「医行為」にあたると解釈、タトゥーを彫るには「医師免許」が必要だと主張したのだ。

はたして本当にタトゥーを彫るのは免許を持った「医師」でなければいけないのだろうか?偏った法解釈と伝統文化の間で揺れる日本の刺青業界の今とは。

「イレズミ文化」を守るため始まった、「法」との戦い

 2015年、タイキ氏が摘発された時にはすでに大阪では警察によるタトゥー/刺青スタジオの一斉検挙が行われており、スタジオのオーナーや従業員に何人もの逮捕者が出た。元々は暴力団絡みの事件などのみを取り締まっていた警察が純粋なタトゥーアーティストにまで捜査の手を伸ばし始めたのだ。現在、タイキ氏は「医師法違反による刑事裁判」で「偏った法解釈」から「日本の伝統文化・アート表現」としての「イレズミ」を守る為戦っている。そしてタイキ氏を中心に彼の仲間たちが立ち上げたプロジェクトがSAVE TATTOOINGだ。

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Photo by SAVE TATTOOING

 日本のタトゥー文化がアートの一つとして正しく発展していくことを願い始まったこの「SAVE TATTOOING 」では、裁判を戦う為の支援としてチャリティーでのカンパを募ると共に、講演会などのイベントを開催することで「タトゥーを社会的に認められた環境で安心かつ安全に行えるように法整備を求めていく活動」を行なっている。

 そして今回Be inspired!は、この裁判の事実を受け、日本のタトゥー業界で生きる2人の女性タトゥーアーティストに「日本の刺青業界の今」について話を伺うことにした。タトゥーや刺青に対して「マイナスのイメージ」が拭いきれない日本社会の中で女性がタトゥーアーティストとして生きていくこととは?全く異なるタトゥースタイルを持つ2人が自分自身や現在の日本の刺青業界について語ってくれた。

独特な世界観が見せるタトゥー文化の新たなスタイル。「CILO」

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Photo by APOCARIPT

Be inspired!(以下、Bi):自己紹介と自身のタトゥースタイルについて教えてください。

 幼い頃からラクガキをするのが好きでした。高校卒業後ファッションの専門学校でスタイリスト科を専攻し、在学中からスタイリストをはじめ、独立と同時にパリに渡りました。1年後に帰国し、東京でスタイリスト再開した際、タトゥースタジオAPOCARIPTの大島托氏に自分の絵をタトゥーとして入れてもらったときにこの世界に誘われました。現在は、スタイリストをしながらタトゥーアーティストとして活動しています。

 タトゥースタイルとしては既存の形やジャンルに捉われず、自身の内側から湧き出たものを形にする、「アールブリュット」を得意とし、作品によって手彫りとマシン彫りを使い分けています。小さな作品の点在でバランスをとることが好きで、気の抜けた、風の通る作風でありたいと思っています。にじんだりかすれたりしているラインの方が人間や人間の細胞っぽさがあり、その人の内側から浮き出たものを感じさせるので好きです。もともとその人の心の中にあるものを彫っている感覚なので、そんなラインがしっくりきます。

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Photo by CILO

Bi:なぜタトゥーアーティスト/彫師になろうと思ったのですか

 今のお師匠(APOCARIPT:大島托氏)に誘われて。彫り師さんを探しているとき、自分の好きな絵を描く彫り師さんを見つけられませんでした。そんな中見つけたのが現在の師匠大島托氏。世界中で活躍する彼だったからこそ私の絵を彫りの世界に落っことしてくれたんだと思っています。お師匠に誘っていただけなかったらこの世界に入ることはなかったです。その人のためだけに、絵が描けるということ。その人と一生を生きる絵になるということ。そんなところに惹かれて、彫りの世界に入ることに決めました。

Bi:女性×タトゥーアーティストという存在でいることについて、周りの反応や自分自身が感じていることはありますか

 女性の彫師は少ないので喜ばれます。女性の方からも相談しやすいと安心して依頼してもらえます。

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Photo by CILO

Bi:タトゥーを入れる人が増えつつある中、まだまだ施設や職業など規制されることの多い日本の社会についてどう考えていますか

 日本は偏見の多い社会なので仕方がないなと思います。みんな右に習えで、拒否しておいたほうが楽なこともあるから。偏った情報の中にいる限りそれは無くならないと思います。Be inspired!さんのように、いろんな角度から彫りを示してくれるメディアが増えればいいなと思います。きっと少しづつでも変わっていくと思います。こんな考え方もあるんだよ。こんな人もいるんだよって。広めてほしいし、知ってほしい。知ってから判断してほしいなと思います。

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Photo by CILO

Bi:2015年に大阪でタトゥーアーティストが摘発されました。罪状は「医師法違反」。現在本人並びにタトゥーを愛する多くの仲間たちが「日本のイレズミ文化」を守るために裁判で闘っています。タトゥーを入れる行為に「医師免許」が必要であるという法解釈についてどう思いますか

 彫り師さんはみんな誇りをもって彫っていると思います。医療と一緒くたにしないでほしい。日本の伝統文化を濁らせないでほしい。彫り師だけの免許制度を作ってほしい。

Bi:あなたにとってタトゥー/刺青とはどんな存在ですかまた、社会にとってどんな存在であってほしいですか

 心がかたちになったもの。心とからだをつなぐもの。人の想い。

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Photo by CILO

日本の伝統、和彫文化の後継者。「彫天」

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Bi: 自己紹介と自身のタトゥースタイルについて教えてください。

 伝統的な日本の図柄を中心に18年間奈良県で彫師をしている彫天(ほりてん)です。

Bi:なぜタトゥーアーティスト/彫師になろうと思ったのですか

 まだ私が若い頃は今ほど刺青を入れている人も、彫師も少なかったのですが、知人に紹介してもらい、自分がタトゥーを入れてもらった時感動して、私も絶対に彫師になりたいと思いました。

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Photo by 彫天

Bi:女性×彫師という存在でいることについて、周りの反応や自分自身が感じていることは

 両親は最初は賛成ではありませんでしたが、その後の私の様子を見て真剣さが伝わり、今では家族、友人は皆応援してくれています。その他の方については、不動産屋で相手にされなかったり、弁護士事務所ではっきりと「見た目の問題があるので、出入りは遠慮してほしい」と言われたり、やはり世間の風当たりは強いですね。

Bi:タトゥーを入れる人が増えつつある中、まだまだ施設や職業など規制されることの意多い日本の社会についてどう考えていますか

 上記のような経験があり、 私自身も風当たりの強さを感じていますし、海外へ行く際も入国拒否の問題も大きいと思います。暴力団でもない、前科もないのに必要以上に調べられ入国できなかった話もよく聞きますし、銭湯や温泉については現在こんなにも外国人のタトゥーを入れておられる方が増える中、とても先進国の対応とは思えません。

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Photo by 彫天

Bi:2015年に大阪でタトゥーアーティストが摘発されました。罪状は「医師法違反」。現在本人並びにタトゥーを愛する多くの仲間たちが「日本のイレズミ文化」を守るために裁判で戦っています。タトゥーを入れる行為に「医師免許」が必要であるという法解釈についてどう思いますか

 恐らくタトゥー、刺青が好きな方なら全員が「おかしい」と答えると思えます。私は元々美容師ですが、カミソリを使うなら理容師免許、針で治療するなら鍼灸師免許…そもそも刺青は治療行為ではないのに“医師法”というのは理解に苦しみます。刺青とは無縁の家庭で育った政治家の方たちのエゴだと思います。

Bi:あなたにとってタトゥー/刺青とはどんな存在ですかまた、社会にとってどんな存在であってほしいですか。

 日本の刺青は世界中の方たちに愛されており、私は彫師という仕事を通して海外の様々なアーティストの方たちと交流を持ったり、お客様に信頼して体を預けて頂くことで色んな悩みなど人に言えない事を話して頂いたり、私にとっては他の仕事ではできない経験をしたり、存在価値を味わえる仕事です。私の個人的意見としては、こんなに世界中に古くから刺青という文化があり、小さな子供たちでさえ 自分の身体に落書きしたりするという事は、人間が本来持っている装飾本能であり、刺青を入れるということはごく自然な事だと考えています。刺青を入れている方、入れていない方がお互いに批判しない世の中になればと願っています。

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Photo by 彫天

 「彫る側」「彫られる側」両者の様々な思いや決意、信念が一つの形となって刻み込まれるタトゥー/刺青。今回の「純粋なタトゥーアーティストの摘発」により、今後タトゥーだけでなく私たちの生活の中にある様々な伝統文化やアート表現が「偏った法解釈」によって規制される可能性が見えてきた。アートや文化を守るのは「法律」ではなく人々の「意志」であり、古くから受け継がれる伝統や私たち一人一人の「表現の自由」を守るためには自分たちで行動を起こさなければならない。

 そしてその一歩を踏み出したのがタイキ氏率いる「SAVE TATOOING」。彼らの活動の詳細やプロジェクトへの支援はこちらのリンクからご覧いただける。また、2017年8月4日にはタイキ氏が戦う「大阪タトゥー裁判」の最終弁論が開かれ、この最終弁論に多くの人が集まり、本件の重要性を世間に広く認知してもらう事で法整備活動にも大きなメリットに繋がるため、是非多くの人に参加してもらいたい。

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Photo by SAVE TATTOOING

 伝統文化、アート表現と「法規制」。私たちが本当に守るべきマナーやルールは何かを考えることが私たち自身の「表現自由」を守り、私たちの誰もが「自分のやり方」で社会に、世間に、堂々と声をあげられる世の中の実現に繋がるのではないだろうか。

Text by Chisato Tanabe
ーBe inspired!

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