社会参加型音楽フェス“ロックコープス”が日本人の常識を覆す。創始者に聞いた、日本で開催する「6つの意義」

Text: Chisato Tanabe

Interview & Photography: Jun Hirayama

2017.7.11

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2017年も気が付けば半年が過ぎ、いよいよ夏に近づく7月に突入した。“夏”の風物詩といったら、花火大会、バーベキュー、海水浴場やキャンプ、そしてなんといっても“音楽フェス”。友人やフェスに参加している全員で音楽を楽しみ、夏の思い出を作る最高のイベントのひとつではないだろうか。

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Photo by ⓒRockCorps supported by JT

昨年Be inspired!でも取り上げたRockCorps(ロックコープス)ものそのひとつである。ロックコープスは音楽を楽しめるだけでなく、一味違った体験をすることができる。今回は創始者でCEOでもあるステファン・グリーン氏(以下スティーブン氏)に話を聞いた。

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誰かのために働く有意義な4時間。

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Photo by ⓒRockCorps supported by JT

世界的ムーブメントになっているアメリカ発ロックコープスは、“Give, Get Given”(与えて、初めて与えられる)が合言葉のフェス。過去にはアメリカ、イギリス、フランスやイスラエルで開催され、レディーガガ、マルーン5やリアーナなどのアーティストがロックコープス参加者と一緒にボランティアに参加した。日本での開催は4年目なる。今年は福島県から幕張メッセ(千葉県)に舞台を移し、アメリカ出身のガールズグループFifth Harmony(フィフスハーモニー)など計3組のアーティストの参加が決定している。(2017年7月11日時点)

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このフェスの特徴は、「お金でチケットが手に入らない」というところ。チケットを手に入れたい人は、4時間のボランティアに参加し、その対価として無料でフェスを楽しむことができるのだ。東日本大震災の被災地支援をはじめ、都市部の環境管理や自然保全など、20種類ほどの活動があり、誰でも気軽にボランティアを楽しめるものになっている。誰かのために体を動かし得たチケットで参加するロックコープスは、間違いなく人生の特別な時間や体験になるはずだ。

ロックコープを日本で開催する「6つの意義」

ロックコープスは、日本にボランティアの活動を広げられるだけでなく、将来的に私たちの常識を革新させる「6つの意義」があるとスティーブン氏は話してくれた。

①日本の若者に「新しい世界」に飛び込むチャンスを与えることができる。

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Photo by ⓒRockCorps supported by JT

「新しい出会いが欲しい」とか、「ライブが面白そうだから参加してみよう」とかどんな理由でもいい。ロックコープスを通して、自分が今まで考えもしなかった新しい世界への扉や自分の一面が見つかるかもしれない。私たちは皆さんがアクティビストになる入口になれたらいいと思う。

新しいことに挑戦するのはワクワクすることだが、それと同時に環境の変化に恐怖や緊張を感じたり、また初めの一歩を踏み出すためには勇気を振り絞らなくてはいけない。世界価値観調査によると、アメリカ、アフリカやアジア諸国に比べ、日本の20代の若者が新しいことに挑戦する冒険心志向は極めて低く、世界でも最低レベルだと言われている。(参照元:Newsweek日本版

スティーブン氏は「参加する理由が、“社会貢献をしたいから”以外でも構わない。ロックコープスに参加する皆さんに、新しい何かを始める機会や体験を与えたい」と話してくれた。ロックコープスはそんな日本のさとり世代の若者たちに、“ボランティア”という活動を通して、予想もしない運命的な出会いや新しい体験をするための入口となってくれるのだ。

②政府でもビジネスでもない、国民が社会を変えることができる。

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Photo by ⓒRockCorps supported by JT

スティーブン氏はインタビューで、社会の中の“サードセクター”の重要性を言及した。サードセクターとは政府や営利企業以外に、社会貢献を目的としてチャリティーやボランティアを行う非政府・非営利団体のような組織のことである。日本では東日本大震災後、社会をサポートする組織として注目され、2011年に発表した『東日本大震災からの復興の基本方針』では、サードセクターが“新しい公共”として、復興の担い手になることが提言され、サードセクターは社会を良くするためには欠かせない存在になりつつある。

社会を変えるムーブメントを起こすには、政府や営利企業ではなく、サードセクターの存在が不可欠である。彼らと国民が一緒に活動することで、国民は自分自身に社会を変える力があるという事実に気がつくはずだ。

国民が「自分たちにも社会を変えられる」と実感するようになるには、ロックコープスのように、NPO・NGOや市民団体のようなサードセクターと国民が力を合わせ、社会を良くするためのムーブメントを作っていくことが重要となってくる。

③音楽は社会問題を問いかける存在になる。

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スティーブン氏は「日本だけでなくアメリカやイギリスでも、レーベルやアーティストが社会を混乱させることを恐れ、万人受けする“売れる音楽”を作るせいで、メッセージ性の薄いポップミュージックが世間に溢れている」と指摘した。

アーティストは、社会で起きている問題を強く訴えかける挑戦的な音楽を発信すべきだが、現代の音楽は社会の問題を訴えかける強いメッセージが込められていない。社会と音楽のようなカルチャーの関係が密接になることで、大きなムーブメントが起き、社会は必ず変わっていくはずだ。

ロックコープスの要でもある「音楽の力」。彼は、音楽こそが社会に蔓延する問題を訴えかける最適な手段であり、また社会や人々を動かす力を持っていると信じている。

ニューヨークタイムズで“アメリカで最も多様的な音楽フェス”と評されるAFROPUNK(アフロパンク)や自らを“アクティビスト・オーケストラ”と呼ぶThe Dream Unfinished(ザ・ドリーム・アンフィニッシュド)は、「音楽の力」で人種の多様性や固定観念の払拭を人々に訴えかけ、大きな反響を呼んだ。また「音楽、ファッションやアートのようなカルチャーは世界中どの国でも、社会に存在しているものだ。これらは人種や性別の壁を越えて、一体感を与えてくれる」と彼は話してくれた。音楽は私たちに最高の一体感を与え、ムーブメントの後押しをしてくれ大切な存在なのだ。

ロックコープスは、日本の音楽シーンを変え、彼が信じる“社会を動かす「音楽の力」”をわたしたちに体感させくれる。

④ボランティアに“真面目な人”以外も参加できるようになる。
 
医療福祉系大学生700人に22項目からボランティアのイメージに当てはまる全てを選択してもらった結果、学生の68%が「思いやり」、60%が「社会奉仕活動」と回答し、一方で「充実感」と答えた学生は38%であった。日本のボランティアは、一日一善している人だけの活動だと思われているようだ。(参照元:大学生の「ボランティア」に対する認識
 
しかし、スティーブン氏は「欧米では、ボランティアは文化や生活の一部になっていて、日本ではいい印象ではないパーティ好きの人や特定の恋人を作らない人も、ボランティアに参加している」と教えてくれた。

社会問題に取り組む人は「真面目な人」だけがするものだと思われているが、クラブで毎晩踊っている人でも、彼女や彼氏が数えきれないほどいる人でも、ボランティアに参加する。(世間的に)“悪い”イメージを持たれている人でも社会にいいことはできるのだ。

金髪でタトゥーが入っている人も電車で老人に席を譲るし、二股している大学生も財布が落ちていたら交番に届ける。ボランティアも同じで、見た目や性格は関係なく誰でも参加できる活動だということを、ロックコープスは私たちに教えてくれるのだ。

⑤日本の大人も忘れかけている、「若者のパワー」に気づくことができる。

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Photo by ⓒRockCorps supported by JT

世間では若い世代を悪く評価することが多い。しかし彼らは、野心家で「なにか新しいことをしたい」と感じ、またコミュニティーを大切にする世代。そんな世代だからこそ、活動する場を作ってあげれば、それを上手く活用して社会を変える大きなムーブメントを起こせると期待している。

大人やメディアは「いまどきの若者は~」「これだからゆとりは~」と言うことがある。しかし、スティーブン氏は若者の力を強く信じていて、「若者がスマートフォンに依存していると社会で言われているが、実際はデバイスそのものではなく、“友達とのつながり”を大切にしているのだ。コミュニティーを重視し、地位を得ることよりも新しい経験を得るために行動する若者だからこそ、ロックコープスを土台にして、社会をよくするために一丸となって活動してくれると思う。」と話してくれた。

ロックコープスを通して、日本の若い世代の力を存分に発揮できる場が与えられれば、「若者の力」は再認識されるだろう。

⑥将来的にボランティアが若者にとって身近な存在になる。

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Photo by ⓒRockCorps supported by JT

「ボランティアには参加してみたい」と思っていても、参加する若者はまだ日本では少なく、3000人にアンケートを実施したところ58%の人がボランティアに興味関心を示しているが、実際に参加しているのはたった35%であった。(参照元:内閣府

一方で欧米諸国では、国家全体でボランティアの活動をサポートし、幼いころから参加しやすい環境が作られている。例えばアメリカでは、1993年に国家が社会奉仕活動の機会を保証する“National and Community Service Trust Act of 1993”(ナショナルアンドコミュニティーサービストラストアクトオブ1993)が法律として制定され、全米の公立高校16,000校のうち、83%の学校の生徒がボランティアに参加している。また国語や数学と同じように一般教養の一部として扱われ、社会奉仕活動が教育課程の一環になっている”サービスラーニング”の制度が小学校から導入されている。(参照元:文部科学省

ロックコープスが発信力の強い都市圏で開催することによって、ボランティアやわたしたちのメッセージを全国に広げることができる。またロックコープスを通じて、今の若い世代だけでなく、今後社会を担っていく次の世代の人々が、ボランティアに親しみを持てるようにしたい。

そう語るスティーブン氏率いるロックコープスの“誰でも気軽に参加できるボランティア”は、いま若い世代だけでなく次の世代にも、「意識が高い行為」と思われているボランティアのハードルを下げ、身近な存在へと変えてくれるのだ。

ロックコープスが教えてくれる「新しい世界」

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ロックコープスは今の若い世代だけでなく、これから生まれてくる世代に「社会問題を解決するために取り組むのは、決して難しいことではない」ということを教えてくれる。現代の日本では「社会問題に取り組むって意識が高い」と思われている。しかし、ロックコープスが日本で続いていくことで、ボランティアのような社会活動が日本のスタンダードとなり、また新しい体験や出会いから社会活動をすることの充実感を得られるようになる。今後の日本の動向はロックコープスを通じて、著しく変化していくことに期待したい。

Stephen Greene

RockCorps

ボランティアに参加したい方はこちらからチェック!

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※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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