「お金ってダルいときない?」起業や大企業への就職を経てクリエイターのベーシックインカムを始めた23歳


前時代のルールに縛られず、新しい価値観を生み出してきたのは、いつだって若者だった。「若者の〇〇離れ」という言葉が示すのは、盛者必衰の理だ。

数々の変遷を重ねてきた「お金」に対する価値観も、また変わり始めている。

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お金に振り回されるのは、もうダルくないですか? だからお金がなくても生きていける環境を作ったんです

言葉の主は、24時間365日無料で使用できるコワーキングスペース、「Chat Base(チャットベース)」を運営する、株式会社MIKKE(ミッケ)の井上 拓美(いのうえ たくみ)さん。彼いわく、Chat Baseは「クリエイターのためのベーシックインカム」だ。

経済活動から離れた瞬間に、自分が“ヤバい”と思うものに時間を投資できるようになるじゃないですか。そうするといいクリエイションが生まれる。人間って余裕がないとダメ。明日食えるかどうかの心配をしてるやつがクリエイティブになれるワケがないんですよ

母から言い渡された突然の勘当、事業立ち上げのため父から借りた600万円、上場企業からの1300万円の出資、1ヶ月しか保たなかった会社員時代…。

紆余曲折を経て、今、新しい価値基準で社会に働きかけようとする23歳の半生を追った。

生きていくために起業。成功と挫折を重ねて気づいたこと

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 「何もする気がないなら家を出て行きなさい」。大学受験に失敗し、浪人生になるでもなく、就活するでもなく、家でダラダラと過ごしていた井上さんは母親にこう言われた。筆者なら気を取り直して勉強なり求人情報を漁るなりするところだが、彼は違った。

もう典型的なゆとり。やりたいことはないけど、もう一度受験勉強するのも、高卒フリーターになるのも無理だった。でも家を追い出されたから、何とか生きていかないといけないと。だから「お金を借りたら生きていける」って思って、銀行に通いだしたんです。馬鹿ですよね(笑)。

そのうち仲良くなった銀行員の方にいろいろ教えてもらって、事業計画書を作んなきゃお金は借りられないってことで、僕なりに案を練ってみたんですが、全然話になんなかった。だから最終手段で、6年ぶりに親父に会いに行ったんです

 両親の離婚を機に離れて暮らしていた父親のもとを訪ね、挨拶もそこそこに、「起業するからお金を貸してほしい」と迫った井上さん。「親不孝すぎる(笑)」と当時を振り返るが、起業家だった父親はこれを快諾。開業資金600万円と、事業に関するアドバイスを送ってくれた。

 そうして起業から1年半後には無事に借金を父親に返済。その直後にツテを頼って上京。SNSで親交のあった知り合いに誘われ参加したある上場企業のビジネスコンテストで優勝し、そのまま1300万円の出資を受けて、人生2度目の起業を経験することになる。

でもこれがうまくいかなかった。社員はすごく優秀だったけど、僕がチームをうまく回せなかったんです。それで廃業して、そのあと出資してくれた会社に誘っていただいて入ったんですけど、ストレスで蕁麻疹が全身に出るという。やる気満々で入社して、1ヶ月で辞めちゃいました。いろんな人に頭を下げて。このとき分かったのが、自分はどうやら会社員には向いてないらしいということ。だから圧倒的ストレスフリーな居場所が僕には必要だったんです。それで作ったのがMIKKEです

 この時彼は22歳。高校卒業からの4年間は怒涛の日々だった。

もう一つの居場所を作るために起業。創造性を最大化するために「自分でベーシックインカムを作っちゃった」

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 2017年に創業されたMIKKEのメンバーは、「飯を食って、話して、遊んで、寝て、とことん一緒に過ごして友達になれた人」のみ。だからなのか、家族経営のような雰囲気があり、居場所を作ろうと起業した井上さんだけでなくクリエイターの仲間たちにとっても、家とは別の帰って来られる場所としてオフィスが機能している。

 それが「また蕁麻疹が出たらしんどいから、ストレスフリーを重視した」という環境で、起業の経験を生かした今までにない経営コンサルティング、それに付随するデザインや開発などの制作事業を中心に行う同社が、2018年の2月にクラウドファンディングで資金を集めてオープンした、365日24時間無料で使用できるコワーキングスペース「Chat Base」のことだ。

Chat Baseには寝泊まりができるスペースがあって、シャワールームがあって、食べ物もある。つまりお金がなくても生きていける環境です。だからここに来れば、経済活動から離れられる。そしてその瞬間に、その人が思う“ヤバいもの”だけに時間を投資できるようになる。そうすると前よりいいクリエイションが生まれて、自然とその人に対する評価も上がっていくって仕組みです

 医食住を保証することで、生きていくためにお金を稼ぐ必要がなくなる。だから明日のことを考えず、“ヤバいもの(採算度外視でのめり込みたいアイデア)”に没頭できる。

 この単純な発想を形にしたのがChat Baseであり、彼がいう「クリエイターのためのベーシックインカム」である。

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 使用に当たって料金を取らないという特異なビジネスモデルの裏にあるのは、「明日食えるかどうかの心配をしながらクリエイティブになれるワケがない」という考えだ。

クリエイターは寝食を二の次にして、社会に対して表現したいことを突き詰めたいって常に思ってるんですけど、でも生きていくためにはお金が必要じゃないですか。僕は明日食えるかどうかの心配をしながら本当のクリエイションが生まれるのか疑問なんですけど、そんなこと言ったって生活していくためにはお金が必要です。

お金が理由で持ってるアイデアに賭けられないって人を見てきたから、それを変えたいと思ってChat Baseを作りました

 そんなChat Baseの使用条件はたった一つ。物事の価値を再定義できるクリエイターであること。例えば井上さんは今、“贈り物”専用の本屋をある会社と共同で準備しているというが、彼が目をつけたのは、“贈り物”という行為に隠されていた価値だ。

人からもらった本って、「自分では買わない本」だから予想外なことが知れて面白い。自分で買った本は「これ面白そうだな」っていうバイアスが無意識にかかってるから、心の底から感動することって実はあまりない。それを変えたくて。

しかも贈り物を選ぶ時間って、「喜んでくれるかなー?」ってワクワクしてるから、贈る側も楽しいんですよね。こんな感じで僕は今“贈り物”を再定義してるんですけど、こういうことができる人が集まってるのがChat Baseです

お金の限界が見えてきた? お金じゃ買えない価値ってなんだ

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 クリエイターを経済活動から解放するために作られたChat Baseで最近よく聞かれるのが、「ベーシックインカムってまだ導入されないの?」という言葉らしい。井上さんもそれに同調し、お金に関する意見を話してくれた。

もちろんお金は必要ですよ。でもクリエイティビティを邪魔するお金はいらないと思います。創造性はお金じゃ評価できないものですし。

それにお金は“価値交換の手段”としては世界史に残る最大の成功事例だけど、その反面、お金があらゆることをする上で一番便利なものになってしまったのが最大の弊害。昔は経済も成長してて、同時にモノがなかったから、モノを買って持つことが豊かさの象徴で、経済活動と幸福度の関係が近かった。

でも今はもう違う。モノが溢れてるから。頑張ってお金を稼いでモノを買っても幸福度が満たされにくくなってきた。だから今は無理やり“体験”を経済活動と結びつけて、なんとか幸福度に絡めようとしてる。でも、体験もお金と交換しちゃったら真の価値を得られないと僕は思う。

まあ価値観は人それぞれだし、僕がお金を稼ぐのに疲れたっていう話は置いといて(笑)、お金は限界になり始めてると思いませんか?

 果たして、お金は限界になり始めているのか。

 そもそもお金には複数の機能がある。その一つが「価値交換の手段」だ。井上さんの問いかけは、「“価値交換の手段”としてお金は限界にきてない?」 というもので、筆者もそれに同意する。

 今後もお金は、生活になくてはならないものとして、筆者にその必要性を訴えかけてくるだろう。衣(医)食住という価値の交換手段として、お金は必要不可欠だ。

 しかし一方で、お金じゃ買えない価値がある。

 かけがえのない友人を得ることも、「いいね!」をもらって承認欲求を満たすことも、お金には都合できない。クラウドファンディングなどのツールを使って、信用や共感をお金に変換できるようになったが、その逆は無理だ。

 お金じゃ共感も信用も親友も買えない。

 つまりお金は相変わらずなくてはならない。しかし、当たり前だがお金では買えない価値はあって、そういうものが少しずつ、確実に筆者の心を占め始めているのは確かだ。

 世代交代の秒針に合わせて、お金の価値の再定義は進み続けている。

井上拓美(Takumi Inoue)

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MIKKE

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MIKKEは、全ての人を「クリエイター」と再定義し、クリエイターとともに事業を生み出すコミュニティです。機械化・合理化が進む時代だからこそ、見落とされがちな「無駄なもの」に価値を見出し、人の感情に寄り添う事業を作っています。また普段忘れてしまっている感情や文化の価値を再評価し、ネット上だけでなく現実世界での人とのつながりやあたたかさを再起するための事業プロデュース/ブランディングを行っています。

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All photos by Jun Hirayama
Text by Yuuki Honda
ーBe inspired!

 

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