SNSの規制が厳しい中国で彼らが西洋の流れに負けず、アジアの音楽とアートを世界へ発信する理由

Text: AMI TAKAGI

Photography: Noemi Minami

LOCATION PROVIDED BY SON OF THE CHEESE

2018.5.18

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友達や知り合いに知らないアーティストを勧められたときや、ライブに誘われたとき、音楽を探る前にSNSで検索したことはないだろうか?Instagramのフォロワー数のチェックや、Apple Musicのアクセス数のチェック、もしくはFacebookのイベントの「参加予定」の人数のチェック。今の若者にはSNSは必要不可欠といっても過言ではない。流行りだけでなく、何が“イケている”と見なされているのかが瞬時にわかる。

しかし、これで本当にそのアーティストの良さが見えるのだろうか?今回、Be inspired!はSNS上の数字判断に流されずに活動する、そしてアジアのアーティストを西洋へと発信しているグループ「Yeti Out (イェッティーアウト)」に取材した。

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Yeti Outメンバーのアーサー、エリセン、トム

純粋な興味と地下室でのパーティーからの始まり

Yeti Out (イェッティーアウト)は、イギリスと香港をバックグランドに持つ双子の兄弟Arthur Bray(アーサー・ブレイ)とTom Bray(トム・ブレイ)、そしてのイギリス出身のErisen Ali(エリセン・アリー)の3人によって2010年にロンドンで始められた。

隠れたライブハウスやクラブでアンダーグラウンドのパーティーイベントの主催から、有名ブランドのAdidas、Prada、Off-Whiteのイベント、アートショーまでも行う彼ら。始まりは、アーサーとエリセンの「Yeti in the Basement (イェッティー・イン・ザ・ベイスメント)」というアーティスト、イベント、アルバムをレビューする音楽ブログだった。

それぞれ音楽とナイトカルチャーに情熱を持っていたアーサーとエリセンはイギリスの大学で出会い意気投合。興味本位で始めたブログを通して彼らの音楽への情熱と感性が認められ、特集を頼まれたり、イベントに呼ばれるようになったと話す。

まだ学生だった彼らは、これを通してプレスのパスをもらいあらゆるイベントにタダで行けるようにブログを活用したという。ゲストDJのミックスもブログに投稿していた2人は、パーティーを開催し、そのDJのセットを組んだりと自分たちでイベントを手がけるようにもなっていった。近所迷惑を避けるため、家具を全てどけ、サウンドシステムを入れ自分たちの地下室でイベントをしていた。

この地下室のパーティーが始まりだからこそ、「アンダーグラウンド」な音楽と活動こそがイェッティーアウトだと語る。ブログの投稿をする度、文章の終わりに「イェッティーアウト」と書いていたから今の名前が生まれた。その後双子のトムも活動に加わりイェッティーアウトは発展しいった。

一括りに出来ない自分だからこそ、自分のセンスを信じて生かす

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チャイニーズ*1とのミックスである双子はアジアとのつながりは常に持っていた。「俺らはめっちゃチャイニーズ。その文化のなかで育ったからさ」と語ったトム。だからこそ、イギリスで大学を卒業しアジアに移り住んだときにはイギリスに止まらず、アジアでイェッティーアウトを広めることにした。

現在、エリセンがロンドン、アーサーが香港、そしてトムとグループのベースが上海という形でグローバルに活動中。はじめは、単純にロンドンでの活動の延長線でイギリスの音楽やアーティストをアジアへ発信していたのだが、アジアの知られざる音楽シーンに入っていくにつれ「流れは逆であるべき」だとを気づいたという。

「4,5年前にはアジアの音楽なんてロンドンでは興味を持たれなかったよ」と話すエリセン。それでも、自分たちのセンスを信じ、アジア国外では知られていないアーティストやDJの発信を続けた。彼らが広めたとはいわないが、今ではイギリスに止まらず欧米全体にアジアの音楽は注目されてきていると実感しているという。

(*1)インタビューの際、自身を「チャイニーズ」と呼んでいたためそのまま記す

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私達の好みはどこまでSNSに染まっているのか?

しかし、彼らの拠点は中国。共産党政権がコントロールしているインターネットの元でメディア活動をするのは困難だ。FacebookやInstagramだけでなく、GoogleやYoutubeさえ規制がかかっているのが現状。イベントや音楽のプロモーションの難しさや、ファンの音楽へのアクセス、ダウンロード制限などの壁は数知れず。ショーをするときは、国外のソーシャルメディアでショーのプロモーションをし、中国国内の人にも音楽をチェックしてもらうために中国でアクセス可能のサイトで音楽をアップロードしている。

中国国内で使われている音楽アプリXiami( シャミー)、QQ Music(キューキューミュージック)そしてWeChat(ウィーチャット)を使いこなしてアーティストをサポートし、発信しているのだ。大変な思いは多々あるという。それでも、トムはこの様な環境であるからこそみえてくるものがあると話した。

ソーシャルメディアは人の認識に大きな影響を持つ。いまいちなアーティストであっても、インスタのフォロワーが多いこともあるし、実際には才能はあってもフォロワー数が少ないこともある。フォロワー数からくるイメージはあてにできない。中国では、ソーシャルメディアのプラットフォームがほとんど検閲されているからこそ、逆に皆が平等にアーティストをみているといえるかもしれない。いい音楽を見つけるにも、ちゃんとしっかり音楽を模索しないと誰がイケてるかわからない。だからこそ、才能がある人こそが認められる。俺たちは、プロモーターとしてアーティストの才能をソーシャルメディアに沿ってではなく、彼ら独自のイメージ通りに発信する責任と力を持っているんだ

自分が見つけだしてこそ意味がある

3人の音楽やナイトカルチャーへの熱意から始まったイェッティーアウト。イギリスでアジアの音が注目されていなかったときからその価値を信じ、発信し続け、アジアではSNSの基準に流されることなくいいアーティストを世に送り出している。私達は、流行りやSNSに頼りすぎて自分自身の好みを自分の基準で探れなくなってしまっているのかもしれない。イェッティーアウトの精神は、現代社会に気づきを与えてくれる。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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