「次世代の幸せのヒントは“農”にある」。オンライン農学校を展開する農村のトレジャーハンター


「農業は稼げない」「農業は大変だ」と誰もが口を揃える。そして農業を“かっこいい職業”だと考えている人もそう多くはないだろう。私たちの生活を支える産業であるのに、なんとも残念な話である。

そうした農業の“イケてないイメージ”を、刷新しようと挑戦する男が東京にいる。コズ株式会社の代表取締役 井本 喜久(いもと よしひさ)氏。彼は、農業とは対極にあるインターネットやデザインのチカラを使って“農”の世界に新風を起こそうと汗を流す。

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彼はもともと広告マンで自らを「策士」と呼ぶ。農とは無縁の広告畑から、なぜ今になり、農の文化を変えようと汗を流すのだろうか?会社を独立して広島でアパレルショップを創業、20代で借金5,000万円、そして農の世界へ。激動の人生で見つけた農の魅力と、彼の哲学を紐解いていく。

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アルバイト社員から経営者に。大失敗と成功の先に見えた、本当にやりたいビジョン

 井本さんの仕事のルーツは、広告業界。もともとセールスプロモーションを軸とし、さまざまなメディアを絡めたコミュニケーション企画を得意としていたそう。アルバイトとして入社した20歳から7年間の修行を積み、そのなかで自ら考えた「策」によって世の中を変えていけるかもしれない、という「根拠のない自信」が備わる。そして自ら会社を立ち上げた。

 企画力とコミュニケーション力をフル活用しつつ「元気のない地方を活気づけたい」。これが、独立後最初に描いたビジョン。地元広島に戻り、アパレルショップを設立した。

地元が田舎なので、そこに新しい価値を見出し、地域を盛り上げたかったんです。当時は「文化の発信といえば、ファッションだべ」くらいにしか考えていなかったと思います

 しかし、勢いだけで始めた事業は大失敗。多額の借金を背負ってしまうことになる。そんなときに救ってくれたのが、前職時代の社長だったそう。先の見えない事業にもがいている井本さんを見て、半ば呆れながら出資をしてくれたという。100%子会社になり、広告事業で再スタートを切った。

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田舎では大失敗したけど、そのおかげで多くのことを学びました。地域で商売と社会の結びつきの大切さを知れたんです。特に東京に戻って一兵卒からやり直したのが良かった

  再スタートしたのと同時に広島で地域おこし(社会貢献活動)にも積極的に参加しながら、ビジネスを手がける。その頃から「目の前のお客さんを喜ばせる楽しさ」と「社会に貢献することの充足感」を掛け合わせるとビジネスのスケールが大きくなることを実感。ただ、それでもどこか「不毛感が拭えなかった」と井本さんは語る。

クライアントのことを考え抜けばビジネスは上手くいくし、それが社会に貢献する活動とリンクすれば、間違いなく大きな成果をもたらすんだと知ったんですが、クライアントと社会が満足しても僕自身が満足してなかった。「僕が心からやりたいこと」って何だろう?の疑問が益々大きくなっていったんです

 そこで「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」“三方よし”の近江商人になることを決意。「売り手」である自分も心から楽しめることを仕事にしたいと考え、ジンジャーエールとフライドポテトの専門店「BROOKLYN RIBBON FRIES」を友人と立ち上げることに。

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Brooklyn Ribbon Friesは、「リボンフライ(専用のポテトカッターで螺旋状にカットしたフライドポテト) & 手作りジンジャーエール」のブランド。
ブルックリンに息づく洗練されたカルチャーを反映し、素材や味はもちろんのこと、お客さんを「おもいっきり笑顔にする」ための心遣いに溢れている。

“三方よし”の近江商人になる。食で社会に貢献するため、農に目を向けた

 「自分のやりたいことで、目の前のお客さんを喜ばせたい」その一心でお店を誕生させた。しかしそれは近江商人の哲学的にいうと「売り手よし」「買い手よし」まで。やはり最後に、井本さんが思い描く“三方良し”を実現するためには、「世間よし」までバランスさせた商売(社会に貢献できる内容の商売)にする必要があった。

人の身体って食べたもので作られているじゃないですか。だから、食で社会に貢献するにはどうしたらいいか考えたんです。たどり着いたのは“農”でした。メインメニューのジャガイモも、生姜も、当たり前だけどルーツは“農”にあります。豊かな食のヒントは“農”にある。だから“農”に目を向ければ、本当の“三方よし”に繋がるはずだと考えたんです

 生きることは食べること。そして何を食べるかは、どう生きるかに繋がっている。食の源泉である”農”の世界をデザインすることは、人の生活をデザインすることに他ならない。食で社会に貢献するには、農的な暮らしから食のあり方を見つめ見つめ直す必要があると考えたわけだ。

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農の面白さで“次世代のPEACE”を作る。新型農家を育てる「The CAMPus」とは?

 井本さんいわく「“農”の世界には解決すべき課題が山積み」。農業従事者の高齢化、担い手不足による離農者増や、耕作放棄地の増加などなど、さまざまな要因が重なり合い、まだまだ農家を目指す若者たちの数も少ない。そうした“農”に対する重苦しい雰囲気をぶち壊す必要がある。ある種「農改革」ともいえるムーブメントを起こすために、井本さんが立ち上げたサービスがオンラインの農学校「The CAMPus(ザ・キャンパス)」なのだ。

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静岡県沼津市の泊まれる公園「INN THE PARK」で行われた
The CAMPusのオープンニングパーティの様子

 「The CAMPus」はインターネットとデザインの力を駆使し、それぞれの農家が持つ独自の哲学、価値観、暮らし方などを講義としてオンライン上で発信。「人生を充実させるシンプルな生き方のヒントは“農”の中にある」というメッセージを伝えている。アナログな産業をメディア化することで、誰もが気軽に農業と接点を持てる環境を生み出した。また実地研修という農村体験の機会も用意していて、農家の仕事とその地域の“リアル”を肌で感じることも可能だ。

世の中の人が“農”に少しでも興味を持つことで“消費”が活性化し、農家さんの“商売”へと繋がる。商売が回り始めれば地域を豊かにできる。地域が豊かになれば、またそこに次世代が集まって来るでしょう。もしかしたら、そのなかに地域の新時代を担う農家なる人が現れるかもしれない。そういった“農”を軸にした地域活性のムーブメントを作りたいんです

 井本さんは、“農”の現場には食だけでなく、現代人の暮らしをより楽しくするヒントが満載であると語る。農村の暮らしは「幸せな人生の縮図」なのだそう。

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静岡県沼津市の泊まれる公園「INN THE PARK」で行われた
The CAMPusのオープンニングパーティの様子

僕は元々農家の息子で子どもの頃からずっと米作りを手伝いながら育ち、棚田で手で田植えをする時代を経験しました。家の裏山に流れる川の水で米作りをする。そしてその裏山の雑木を剪定したものが薪木となって釜戸でご飯が炊かれる。水田以外に畑があり、自分たちが作った野菜を祖母やお袋が美味しい料理にしてくれて食卓に並べてくれた。

今思うと、なんて豊かな暮らしなんだろうと思うけど、当時はそういう農村の暮らしがダサいと思ってました。「ここには何にも無い!」という虚無感みたいなものが大きかったように思います。

大学から東京に出て都会の暮らしに慣れ、当たり前のようにビジネスの世界に飛び込んで生きていくなかで、もっと美味しいものを食べたい、もっと健康的に暮らしたい、などの欲求が大きくなっていきました。

そんな時に子どもの頃を思い出してみると、農村の「当たり前の日常」がいかに素晴らしいことだったのかということと、実は「あそこにすべてあったんだ!」と気付かされました。旬の野菜をその季節に食べる。自分たちが食べたいものは自分たちの手で作る。無いものは作ればいい。この「足るを知る」精神がカッコイイと思えるようになりました

 

 弱肉強食の資本主義に疲れてしまう人は少なくない。資本主義の洗礼を浴びた一人として、「低燃費な最小単位の生活の面白さ」がある農村の暮らし方にこそ、次の新しい時代を切り拓いていく“知恵”が溢れているように思ったのだそう。ある種「成長することを義務付けられた生きづらい社会」を「楽しい社会」へと変化させるキッカケが農村にはある。

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20代、30代、40代の病んで働く人たちが、楽しそうに帰っていける場所を作りたいと考えています。会社が倒産したらどうしよう、クビになったらどうしようって、「ストレスで、気がついたらハゲちゃった」って人には、「ちょっと農的暮らしに触れてみたら?」って声をかけてあげたい。失うことを恐れて生きている現代人の拠り所に「The CAMPus」はなると思うんです

 “農”の面白さをイキイキと語る彼を見ていると「各地に宝を追い求めて旅する冒険家」のようにさえ見える。農業をリデザインすることで、暮らしそのものをアップデートしようと試みているのではないだろうか。

「The CAMPus」は“農”で暮らしのあり方を変え、都市でも地域でも、そこに暮らす人々の“ココロとカラダを元気にする”ための取り組み。各々が自分の生活のなかにどう“農”を取り入れ人生を充実させていくのかを考えるキッカケになればと思っています。日々の暮らしを少しだけ丁寧にしてみると、きっと日常の風景が美しく変化するはずです。

農村の暮らしは、誰もが顔見知りで、暮らす人々全員が家族のようにつながっています。そんな幸せな経済圏があることをもっと多くの人に知って欲しい。そして「The CAMPus」は、次の時代を担う人々に、いきいきと楽しく「働く」ための手段でもありたいと考えています

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 人間である以上、誰もが価値の生産者であり、その消費者である。しかし消費が当たり前になり、人間は消費することへの感謝を忘れがちだ。「The CAMPus」は、誰かの手によって私たちの生活が成り立っていることを教えてくれる。

 人が生きていくためにもっとも重要なインフラである“食”にフォーカスを当て、自分が生産者にも消費者にもなれる“農”をフューチャーした、人間の生活そのものを見直そうとする取り組みは、私たちにとって「本当に大切なことは何か」を気づかせてくれる。

 「モノと情報に溢れた忙しい日常に疲れたとしても、ちょっと手を止めて農村の原風景を思い浮かべてほしい。そこにある最小単位の暮らしに思いを巡らすだけで、気持ちは少しづつ前向きになっていくはず」。優しい口調で語る井本さんの言葉にハッとしたなら、ぜひ一度「The CAMPus」をチェックしてみて欲しい。あなたが今、何かの壁にブチ当たった状態だったとしても、そこから抜け出すヒントが“農”の世界で簡単に見つかるかもしれないから。

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The CAMPus

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The CAMPusは、学び舎としてのCampusと、Camping with us! という呼びかけを合わせた造語です。もうひとつCAMPという言葉には「野原」や「畑」という意味もあります。それらの意味を統合し『大自然でキャンプするかの如く仲間と協働して畑を耕しながら暮らし、学んでいく場所』にしたいという想いを込めて名付けられました。

日本農業の未来には、テクノロジーを磨くことよりも、情熱的な人が育つことの方が大切であると考えます。農業をもっと多くの人に「かっこよく、たのしく、もうかる」ものであると実感してもらいたい。そしてその数をどんどん増やしていきたい。

The CAMPus は、インターネットをプラットフォームとした『日本の農業の未来を担う若者たちの”ワクワク”を育むWEBマガジンタイプの学び舎』です。

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All photos by Jun Hirayama
Text by Mitsufumi Obara
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