#001 乳がんを患ってから起業。病気にかかると行動に制限をかける人が多いなか、“新しい肩書き”を手にした女性|車椅子ジャーナリスト徳永啓太の「kakeru」


初めまして、車椅子ジャーナリストの徳永 啓太(とくなが けいた)です。

ここでは私が車椅子を使用しているマイノリティの一人として、自分の体験談や価値観を踏まえた切り口から”多様性”について考えていこうと思っています。
そして、私の価値観と取材対象者さまの価値観を“掛け合わせる”、対談方式の連載「kakeru」をスタートします。

様々な身体や環境から独自の価値観を持ち人生を歩んできた方を取材し、Be inspired!で「日本の多様性」を受け入れるため何が必要で、何を認めないといけないかを探ります。

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徳永 啓太

今回は「はじめる」をテーマに活躍されている方の背景や、なぜ始めたのか熱い想いを伺ってみたいと思います。インタビューしたのは2017年に起業をした中島 ナオさん。彼女は学芸大で美術教育・デザインを学び、会社員として働いていましたが、2014年に乳がんを患っていることが発覚。がんの治療を行いながらも環境を変えるため学芸大大学院に進みます。

再び学び、デザイン教育の研究を進めていた際、
身体と向き合う事で生まれたヘッドウェア「N HEAD WEAR」を開発。その鮮やかで他にはないデザインによりメディアから注目を浴びます。現に私もそのヘッドウェアが彼女を知るきっかけになりました。その後、彼女が起業し、新しいことを”はじめる”決意をした理由とは。

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左:徳永 啓太 右:中島 ナオさん

▶徳永啓太
日本の「多様性」に疑問符をつける。“健常者であることが良しとされる国”を車椅子で生きていて感じること

“暗い”や“辛い”というがん患者のイメージを払拭する女性

 インタビューするまで考えることの無かった「がん」について自分の事のように情報を集めてみることからはじめました。そこで感じたことは、日頃から将来起こりうる病や怪我、事故などに関心を持ち、意識しながら生活をしていないという事でした。例えば、風邪を引かないとその予防策について調べないし、怪我をしないとその症状について関心を持ちません。予想をしていないからこそ、その分自分に大きな病にかかったとき「まさか自分が」と大きなショックを受けます。

 特に「がん」はその一つ。重い症状と今のメディアの影響により、がん患者と聞くと“暗い”や“辛い”というイメージを持ってしまいます。実際私もそうでした、彼女に会うまでは。

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N HEAD WEARを被る中島 ナオさん

中島ナオ(以下、ナオ):これ自分で作ったんです。いまあるアイテムに被り続けたいものがなくて。そしたら見知らぬおば様に”いいわね、素敵ね”って声をかけて頂いて嬉しくて。

 今回、私は中島さんの病について知りたいと思いがんの質問ばかり用意していたが、それは不毛なことであるという事に後々気付かされます。そしてこちらからお願いしたインタビューにもかかわらず、最初に質問したのは彼女からでした。積極的で明るい姿勢に、また私の凝り固まったイメージを更新してくれました。彼女は私が持っていたイメージを払拭するかのように明るくキラキラしていました。

ナオ:徳永さんは車椅子に乗っていますが、身体的に病が進行するってことはありますか?

徳永 啓太(以下、徳永):私は脳性麻痺という障害名で体が動きにくく、力が弱かったり細かい動作ができなかったりしますが進行性ではないです。強いていうなら老化でしょうか。それは一般の方と同じだと思います。

沢山ある情報のなかで見えてくる「白」か「黒」

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ナオ:私と徳永さんには共通する部分と違う部分があるのかなと思って聞きました。今、私は進行する怖さを持つ病を抱えています。がんになり、その後の時間軸が変わりました。ですが、がんと言ってもステージ(がんの進行レベル)であったり年齢であったり一括りでは言えません。同じ属性の中でも多種多様であると思っています。

徳永:なるほど、今インターネットの普及で検索すればいろんな情報がでてきますよね。私は当事者ではないからブログなどを読んで理解はできますが、どうやっても自分の事のように捉える事が出来ず、他人事になっていると気づきました。ナオさんはわかった時どんなことをしましたか?

ナオ:病がわかったのは2014年です。身近に同じ病の人がいなかった事もあり、がんについての先入観はあまりありませんでした。なので自分で調べなきゃという意識が強くて複数の先生に話を聞きました。お医者様との対話は重要だと思っていて、それは今でも同じですね。

徳永:状況が変わると今ある情報の見方、発信の仕方も変わってくると思いますがどうでしょうか。

ナオ:個人の闘病ブログと呼ばれるものは、もちろん参考になる場合もあると思いますが、私としては参考にしにくいと感じていました。細かく書かれたものを当事者として見ると、自分の状況と当てはまる人はそういないからです。あと、いろいろ情報を探していく内に気づく事があり、例えば「がんを克服!」というものか、「亡くなった方の人生」のようなものか、つまり情報が白か黒の二極化している事でした。治療をしながら生きていく私にとって、目立つ描かれ方が両極端なのは希望を持ちにくいなと思いました。

白と黒の二極化とは、がんを患ったが治った人の方法論や自書伝など「治る(生)」を元にした情報を“白”、がんを患って亡くなった方の人生を感動的なエピソードや絶望や恐怖として伝えられる映画や本、つまり結末が「死」をテーマにした情報を“黒”とメディアのあり方を表現したもの。どちらも早期検診を促すものとなっていて、治療中の生活を豊かにするような情報が少ないという現状を示している

徳永:確かに白(生)と黒(死)の情報だけでは生きづらいですね。メディアも御涙頂戴のような感動させる過剰な演出が多いように思います。それも大事ですが、人間として当たり前のように考えるちょっとした欲望などに注目がいかないから情報にリアリティがないんです。現時点で症状と向き合いながら情報を発信している方は少ないと思うんです。だからリアルな情報をナオさんから更新してほしいなと思ってます。もちろん一括りにはできないことを前提としてお聞きしたい。

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ナオ:私がブログで発信を始めたのは、がんになっても大丈夫と言える社会を実現させたいと思ったからです。それは医学的にも社会的にも今は実現できてないと思います。それを変えたくて。というのもまだまだがんになったら生活の中で手放すことの方が多い、職業だったり私生活などでも諦めている人が多いと感じるからです。私がやっていきたいことは”白”と”黒”と二極化された情報だけでなく、その間グレーの中で生活する上でもっと希望が持てる情報を届けたいと思ってます。そういった考えに至るまでは個人的にSNSで顔を出すことすら好まないタイプでした。

▶ナオさんがグレーについて綴ったブログ『輝くグレーの世界もあるんだよ!』はこちら

徳永:SNSで顔を出さない人だったなんて想像つきませんでした。変わった転機はあるのでしょうか。

ナオ:1年半前(2016年)に転移してステージ4(がんが他の臓器に転移し手術が難しい状態)になり状況が変わったことですね。治療とずっと向き合っていかないといけない状況です。この先どこまで続くかわからない、現状を変えるしかないと、丁度この時期に具体的な行動を始めていきました。

リアルと向き合ってできるデザイン「N HEAD WEAR 」

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徳永:ヘッドウェアを作ったきっかけやそこから同じ境遇の方に伝えたいことはありますか。

ナオ:様々な変化にその都度対応しなければならないと生活し難い場面が多いので、今の体に”慣れる”ということも大切だと思います。もちろん最初は力が弱くなるとか、髪がなくなるとかショックを受けました。そのショックを和らげたり、付き合っていくために生まれたのがヘッドウェアです。以前は髪がある姿を追い求めていた時期もありました。ウィッグだったり、その上から帽子を被ってみたり、育毛剤を試してみたりしていました。ですが、その髪の毛を再び失うことになる。大きな状況の変化にその都度対応していく事は精神的にキツくなってきます。元の姿に戻るために時間と労力を使いましたが、このヘッドウェアはそれから解放できる存在だなと思っています。また私と同じ症状の方だけじゃなく、頭髪の悩みを抱えている方もいますし、避けられない事実ってありますよね。そういった方にこんな選択肢もあるよって、少しでも誰かの価値観を揺さぶるようなものになったらいいなと思います。

徳永:この連載では多様性という言葉をキーワードにしていて、みんなと同じになるとか型にはまるとかそういう日本人特有の価値観を変えたいと思っています。ナオさんのヘッドウェアもその役割を担っているんじゃないかと思います。

自分が持つ体験からくるアイデアを形にするべくデザイナーになり、起業をした

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徳永:がんになってからデザイナーになって、そして起業したんですよね。

ナオ:そうです!以前、会社員としてデザインの仕事をしていた時期もありますが、その後は教育関係の仕事をしていましたし、具体的にデザイナーとして歩み始めたのは病気になってからです。というのもやはり希望を感じるものを作りたくて、確かに無理していくことはないけれども、何かを失っても、諦めなくてもすむ側面はあると思っています。だからあえていっぱい始めてみようと思って。始めた事はヘッドウェア以外にもいっぱいあります。

徳永:実は今日インタビュアーとして、ナオさんから普通聞きづらいような事を聞くのが私の役目だと思っていました。でもそうではなくで、生活の事情を踏まえたうえで解決できるデザインを提供したいんだなと思いました。私でいうと例えば車椅子で生活する上で排泄の事情や、街中で困る情報を提供する事で読んだ方が関心を持ったり共感してもらったりする事で広めていく。それに価値があると思っているんですが、ナオさんは別の角度から発信していきたいんだなと感じました。

ナオ:ヘッドウェアもそうですが、問題に対して今あるものと違う路線で形にしていきたいですね。以前は洋服でさえ買うのをためらった時期もありました。それはこの先どうなるかわからないからいつまで着られるかわからないんです。そう言った背景を持つ私がこれからもいろんな事を始めて発信する事で、同じ境遇の方が希望を持ってくれたらいいなと思ってます。ヘッドウェアも私が一点一点作るというよりは他の企業や専門性を持つデザイナーさんと繋がって発信できたら広がるんじゃないかと思っていますし、その他構想している事を形にするべく起業する事にしました。自分で作っていくのに限界がある事も理由としてありますが、私はやりたいことを、いろんな方と一緒に叶えていきたいと思っていて、社会と接点を持つことが大きな希望につながるとも考えています。

徳永:ナオさんの場合やれる事って沢山あるって事ですよね。ヘッドウェアはその一つであって職業に縛られているわけではないからいろんな分野で活躍できることが強みですね。

ナオ:活躍していきたいですね!ガンになった時、何者でもなかったからこそ、行動し続けられているのかもしれません。起業し、関わってくださる方が増えてきている今、大きな可能性を感じています。

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 中島ナオさんがおっしゃられた「がんになると生活の中でやっていたことを手放していく人が多い」という点。全てが同じとは思いませんが、挑戦する事を諦めた方がリスクを伴わないので過ごしやすいのが正直なところだと思います。私も車椅子に乗っていると物理的なことでストレスを感じたり、時間がかかったりするのでこれを理由に諦める方が楽です。しかし、それだと世の中を何も見れないし体感もできない。大げさかもしれないが、世の中を変える事だってできない。挑戦する事が増えれば痛みも比例して多くなるけれど、いろんな人・情報を知る機会になり、多様性を認め自分で考えるきっかけにもなります。

 また生き方をデザインする事は、マイノリティーに関わらず皆に共通する事です。今回の場合は被りたい物が無かったから作った事が始まりだと思います。この記事を読んでくださった人には、この機会に型にハマらず生きていく事は、人生を充実したものにするためであるということを知ってもらいたいと思います。中島ナオさんは同じ境遇の人と繋がり、情報を分かち合えるところが利点だと思っていて、彼女はその役割をデザインを通じて、特定の人に限定することなく自然と広げている。蜜蜂が花粉を遠くに届けるように、自然と我々の生活の中に溶け込みメッセージを届けて欲しいと思います。

Nao Nakajima(中島ナオ)

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ナオカケル株式会社 代表 / デザイナー(QOL デザイン、デザイン教育)
1982 年 横浜市生まれ。大学卒業後、空間デザイナーとしてメーカーに勤務。
教育系NPO法人へ転職。2014年がん発症(31歳) 自らの体験を通して 「ガンをデザインする」ことに取り組む。
2017 年 東京学芸大学大学院 美術教育専攻修了 教員免許(美術)取得。同年12月 ナオカケル株式会社を設立。

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中島ナオ氏も参加する徳田祐司個展『Another Eye』

開催期間:2018年3月2日~28日
場所:CLEAR EDITION & GALLERY

企業ブランディング、商品企画、広告コミュニケーションなど、広範囲のプロジェクトを手掛け、国内外60以上のデザインアワードを受賞してきた徳田祐司の個展が2018年3月2日(金)より、六本木CLEAR EDITION & GALLERYで開催される。
徳田は自身が代表を務めるデザインエージェンシー株式会社canariaのビジョンのひとつに「Design makes a Positive Way.」を掲げているが、今回の個展『Another Eye』にも同様の想いが込められている。詳しくはこちら

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Keita Tokunaga(徳永 啓太)

BlogInstagram

脳性麻痺により電動アシスト車椅子を使用。主に日本のファッションブランドについて執筆。2017年にダイバーシティという言葉をきっかけに日本の多様性について実態はどのようになっているのか、多様な価値観とは何なのか自分の経験をふまえ執筆活動を開始。

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All photos by Keisuke Mitsumoto
Text by Keita Tokunaga
ーBe inspired!

 

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