#003 「物理は一番アーティスティックな学問」。“理系ジュエリーデザイナー”に聞く、想像を創造に変える方法|ノマド・ライター マキが届ける『ナイロビ、クリエイティブ起業家の肖像』


アフリカ・欧州中心に世界の都市を訪れ、オルタナティブな起業家のあり方や次世代のグローバル社会と向き合うヒントを探る、ノマド・ライター、マキです。

Maki & Mphoという会社を立ち上げ、南アフリカ人クリエイターとの協業でファッション・インテリア雑貨の開発と販売を行うブランド事業と、「アフリカの視点」を世界に届けるメディア・コンテンツ事業の展開を行っています。

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ナイロビのカフェ兼デザインショップWasp & Sproutにて。
Credit: M. Zentoh

この連載では、わたしが今最も注目しているケニア・ナイロビのクリエイティブ起業家たちとの対話を通じて、オルタナティブな生き方・働き方・価値観を紹介します。

ここで取り上げるクリエイティブ起業家とは、音楽、ファッション、アート、デザイン、料理などのカルチャー・コンテンツを創造し、発信する起業家のこと。ネット、スマホ、SNSによって、インフラが限られていたナイロビなどの場所でも、以前から存在していたクリエイターたちの活動がより活発化・顕在化し始めてる一方、日本での認知は限定的です。

日本や欧米とはまた別の視点から、他の人とは違う生き方を探したいという人々に向けて、なんらかの刺激や手がかりをお届けしたいと思います。

理系ジュエリーデザイナー、ハジラ・キメリアの肖像

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ハジラ・キメリア

 連載第3弾のゲストは、独自のジュエリーデザイン・ブランド、「Koitoto Design(コイトト・デザイン)」を手がける、ハジラ・キメリア。ケニア・ナイロビの中流家庭で生まれ育ったというハジラは、高校のころから理系で、大学でも生物学、化学、物理学などを学び、最初の就職先も生物医療関係の機関での化学研究員をしていました。その後、いくつかのキャリア・ステップを踏み、いま、カスタマイズを得意とする、ジュエリーデザイナーとして、ナイロビを拠点に活動しています。彼女のアクセサリーやジュエリーは、地元のビーズや布などを使っているという意味で、「アフリカン」なテイストも感じられるのですが、意外にも彼女の創造とデザインの工程のベースとなっているのは、アフリカン・カルチャーではなく、物理学や化学など理系的思考だそう。

 共通の友人を通じて、筆者がハジラに出会ったのは2015年。その後、毎年ナイロビを訪問するたびに、カスタムメイドのピアスを作ってもらったり、自宅やスタジオでのジュエリー制作の工程を見せてもらったりしてきましたが、彼女のジュエリー制作の哲学や思考については聞いたのは、実は今回が初めて。ハジラの話にある、「想像力」を「創造力」に変える工程は、わたしたちが既成概念に捉われずに、もっとクリエイティヴになるためのヒントになるかもしれません。

「リケジョ」からクリエイターへの転身

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マキ:ハジラは、今は主にジュエリーデザインを手がけているけれど、元々は、理系で研究所でも働いていたんだよね。簡単に今までの経歴を教えてもらえるかな。

ハジラ:OK。わたしは、ケニアの中流家庭に生まれて、ナイロビで育った。元々、理系的なものに興味があって、高校の時から生物学、化学、物理学などを学んでいて、大学は米国のボストンにある大学に留学をした。そこでは、最初、生物学を専攻していたんだけど、途中で、ちょっと違うかなと感じて、化学に転向したんだけど、最終的にはやっぱり物理学がおもしろいと思い始めて。ただ、物理学の勉強を始めたころには、もう卒業間近だったんだけどね。

それで、卒業後の3年間は、そのままアメリカで生物医療関係のラボに就職して、生化学研究員として商品開発に携わっていたの。

マキ:アメリカで研究員をしていたとは知らなかった。わたしが始めてハジラにあったのは、2015年だけど、そのときは、ハジラはジュエリー制作もやっていたけど、メイクアップアーティストの仕事もしていたよね。

ハジラ:生化学研究員の仕事は楽しかったんだけど、実は副業もし始めて。それが、たまたま化粧品の代理販売の仕事で、その仕事を通じて、化粧品のこととかマーケティングのこととかを学んだ。でも、そうこうしているうちに、米国での研究員の仕事がなくなってしまって、ケニアに帰国した。

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マキ:そうだったんだね。ちょっと余談だけど、前回インタビューしたママ・ロックスのサマンサも英国での仕事がなくなって、帰国して起業したって言っていて。日本だと、「解雇されて起業」みたいなエピソードが少なかったりするんだけど、人材の流動性が高い外国企業だと割と普通にあることだよね。とはいえ、サマンサにしても、ハジラにしても、その後のフットワークの軽さやバイタリティの高さは、すごいと思う。

ケニアに帰国してからは、就職は考えなかったの?

ハジラ:考えなかった。自分で自分の時間を管理するというワーク・スタイルに慣れてからは、就職はまったく視野に入ってない。何か一つでも売ることができれば、上司はもう要らないっていうのをモットーにしてる。アメリカで扱っていた化粧品をケニアに持って帰ってきたら、それがケニアですごく好評だったから、しばらくは米国製の化粧品販売をしていた。で、その流れで、メイクアップアーティストとしての仕事も始めた感じ。メイクをしているうちに、自分の中でのクリエイティビティが芽生えてきて、ジュエリーを制作を始めたという経緯。

マキ:なるほどね。そこで、ジュエリー・デザインに繋がったというわけだね。

「物理学」と「ジュエリー・デザイン」の意外な関係

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Photo by ACanvasPicture

マキ:ちょっと話は戻るけど、そもそもサイエンスとか生物学に興味を持ったきっかけってあるのかな。

ハジラ:物理学は一番アーティスティックな学問だと思っていて。つまり、非常に抽象的なことが多くて、多くの「イマジネーション(想像力)」を必要とする。生物学は、例えば、カエルの解剖とか、目に見えるもので、臓器がどうなっているかとか、ある意味明確。化学に関しても、可視化することができる。例えば、化学反応による色の変化とか。ランダムな要素もない。でもわたしにとっては、物理学はある意味そのランダムな部分とか、目に見えない部分の法則を司っている学問だと思っていて。だから、イマジネーションがないと、物理学は好きになれないと思う。

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マキ:それはとても面白い視点だね。今のハジラのジュエリー・デザインに繋がる筋が少し見えた気がする。物理学に想像力が必要という部分をもう少し詳しく教えてもらえるかな。

ハジラ:物理学は、目に見えない力を扱う学問。実際は見えないものや、見たこともないものを可視化して、理解するには、イマジネーションが必要になってくる。結構、「解釈不能」みたいなことも多いから。例えば「ある分子が、ある空間に存在して、ある動きをしている…」みたいな概念を習って、それを想像のなかで、可視化することが求められる。

ジュエリー・デザインに置き換えると、どうやって顧客のイメージを形にするかということにとっても非常に重要な要素。特にわたしはカスタムデザインのジュエリーをよく作っているので、例えば顧客がどんなものを欲しているのかとか、彼らの感情とかを汲み取って、それをビジュアルにして提示する必要がある。想像力がなかったら、カスタムジュエリーは作れないと思う。

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マキ:目に見えないものを、目に見えるようにするというところに、物理学の学びが生かされているのは面白いね。ハジラのジュエリー・メイキングの工程について、少し教えてもらえるかな。

ハジラ:だいたい抽象的なものからスタートするかな。自分のムードとか、顧客のキャラクターとか個性や感情とか。当然、顧客の好みや、ジュエリーを使う場面も考慮する。だいたいは、大枠として、「控えめタイプ」か「目立つタイプ」によって、2つの方向性が決まる感じ。顧客要件のイメージがついたら、ビーズやパーツなどの素材選びに入る。控えめだったら、暗めの色を使ったり、レザーやテグスを使うことが多い。逆に、目立つタイプだったら、金や鮮やかな色のビーズを使ったり、自分が得意とするワイヤー・アートを作ったりするかな。

マキ:デザイン・スケッチはしないのかな。

ハジラ:基本、わたしはスケッチはしない。自分の頭の中で、すでに完成形がイメージできていて、何を目指しているかがはっきりしているから。逆に、スケッチを書くと製作プロセスが鈍化してしまう。クライアントに頼まれてやったことはあるけど、効率はあまりよくなかった。スケッチはそれなりに時間や手間もかかるし、もうすでに頭の中にイメージがあるから、作ってしまったほうが早い。もしかしたら、スケッチが面倒くさいと思ってしまうからかもしれないけど(笑)。

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マキ:起業のセオリーでも、MVP(ミニマル・ヴァイアブル・プロダクト:実用最小限の製品)をまず作ることを目指すという考え方があるけど、まずやってみて、手を動かして、形にするというプロセスは、想像力と現実化したり、クリエイティビティを活発化させる上で、一番重要なことかもしれないね。

スケッチがない場合、顧客とのイメージ共有はどうやってやっているのかな。

ハジラ:だいたいヒアリングをして、わたし自身が完成イメージを可視化できたら、オンラインでそれに近いような画像を探して共有したり、すごく簡単にサンプルを作ってみたりするかな。たまに簡単なスケッチをすることもあるけど、基本は既存の画像でイメージ共有をしている感じ。

ちょっと難解で「意味不明」なデザイン

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マキ:ハジラのジュエリーデザインは、ビーズだったり、布だったり、ワイヤー、プラスティックだったり、いろいろな素材を組み合わせたりしたものが多いよね。そういったクリエイション哲学にも、サイエンスの知識や経験が生かされているのかな。

ハジラ:わたしは物理学、化学、生物学の順で、それぞれ少しずつ、自分のジュエリーデザインに影響していると思う。物理学というのは、ちょっと近寄りがたいイメージがあると思う。難しい概念が多かったり、苦手な人も多い。いろいろな未知数な領域があって、派生概念も多い。そういった意味において、つまりちょっと「難解なこと」を考えるのが好きなのかも。それで、そういった難解なことを考えたり、想像したりした結果が、ジュエリーデザインにも反映されていて、ちょっと「変わった」デザインになったりしている。

でも、考えすぎなデザインになったときは、少しシンプルにしてみたりもする。お客さんはシンプルなデザインが好きだったりするから。でも、いつも必ず、ちょっと「変な組み合わせ」つまり、「意味不明」な組み合わせを取り入れるようにはしている。例えば、変わった石と変わったビーズで、変わった色や形を組み合わせてみたり。こういった、その物体の組み合わせを想像したり考えたりすること自体が、物理学的なプロセスといえるかな。つまり、最初にいろいろ想像して変わった組み合わせを考えて、でもそれが最終的に何か美しいものとして完成する。

それから、化学は、化学的な結合だったり、化学反応がおきて何が起こるかということ。つまり、変わった部品同士をどう組み合わせていくかというのを考える。どんな化学結合があるかを考えるような感じで。組み合わせて、一つの作品をつくるために、結合部分の小さなことまで考える必要がある。

そして、最後に、最終形は、生物学的な要素。自分の身の回りにある自然のもの。鳥だったり、花だったり。自然に存在する美しいものに影響を受けて、最終的なジュエリーができあがる。

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マキ:アフリカとかケニア的なカルチャーは、影響しているのかな。

ハジラ:アクセサリー作りにあまりアフリカらしさはないかな。色、テクスチャー、材料は特徴的だけれど、必ずしもアフリカのカルチャーが影響しているわけじゃない。両親は地方出身だけど、欧米的な影響を受けて、都会で育ったし。サイエンスのバックグラウンドのほうが、ジュエリーに影響している。アフリカの文学もあまり知らないし、あまり興味もないけど、サイエンスはすごく興味あるし、確実に自分のクラフトに影響していると思う。

「想像力」を「創造力」に変えるヒント

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マキ:ハジラは、イマジネーションをクラフトに変える才能に優れているんだろうね。自分はクリエイティビティがないと感じる人も多いと思うけど、自分のイマジネーションをどのようにクリエイティビティに繋げることができるかな。なにかアドバイスがあるかな。

ハジラ:一番重要なのは、他の人の評価を気にしないことかな。自分がどう感じるのか、自分が何を作りたいのか。考えすぎたり時間をかけすぎるのもよくない。クリエイティブな人は、他の人がどう思うかとかっていうのを気にしない。それは全然重要じゃない。誰かのためにクリエイトするのではなくて、自分が挑戦してみたいことをやってみること。

他人の目や評価を気にしすぎると、クリエイティビティはどんどんと萎縮してしまう。他人と比較するのもダメ。当然、他の人の真似もダメだし、あなたのアイデアはあなたのアイデアであり続ける。

想像を創造に変えるためには、やっぱりまずできることからやってみるのがベスト。まずは身近なこと。例えば、家にあるもので、家族や身近な人のために何かを生み出してみるとか。そういうことをやっていくうちに、どんどんクリエイティブになっていって、資金やリソースが増えていく。身近なことから始めることで、クリエイティビティの基盤ができていれば、スケールを広げることができると思う。

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マキ:他人の目を気にしないというのは、日本やケニアのようにコミュニティ重視で、非個人主義的な社会のなかでは、必ずしも簡単なことではないけれど、そういったバリアを超えて、自分のイマジネーションをもっと形にしていくことができる人が増えるといいね。

最後に、ハジラの今後のビジョンを聞かせて。

ハジラ:アフリカン・ジュエリーを、アフリカ人たちの間での主流ジュエリーにすること。真珠やゴールド、ダイアモンド以外にも、同じように素晴らしいアフリカ大陸産の素材があるということを、もっと広めていきたい。アフリカ人発のデザインが、欧米産のもの以上に素晴らしいものとしてみてもらえるようにしたい。少なくとも、マサイ・ビーズは、それなりにグローバルな位置づけを確立させている。アフリカ人が手がけるアフリカン・ジュエリーを、公式の晩餐会などの重要な場にもっと露出させていきたいと思う。

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物理学の学びに必要とされる思考プロセスが、ジュエリー製作に応用されているというのは、個人的にとてもおもしろいモノづくりのストーリーだと思いました。ハジラ自身もそのプロセスを最近意識し始めたようですが、「サイエンス」の要素がもっと彼女のコイトト・デザインのブランディングに反映されていったとしたら、より面白い広がりがあるのではないかと期待しています。

わたしたちが、自分自身がクリエイティブじゃないと感じてしまうのは、まさに他人と比較しているから。ハジラのメッセージは、わたしたちが自分自身の夢やイマジネーションを、もっと創造につなげて、実現化していくためのヒントになるのではないでしょうか。

ハジラ・キメリア(ココイト・デザイン)

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ケニアやアフリカにあるビーズや石などの素材を使った、ユニークなカスタムジュエリーを製作するジュエリー・アーティスト。コイトト・デザインのジュエリーは、日本からの受注にも対応している。

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Photo by Photo via Phowzie

マキ

ノマド・ライター

Maki & Mpho LLC代表。同社は、南アフリカ人デザイナー・ムポのオリジナル柄を使ったインテリアとファッション雑貨のブランド事業と、オルタナティブな視点を届けるメディア・コンテンツ事業を手がける。オルタナティブな視点の提供とは、その多様な在り方がまだあまり知られていない「アフリカ」の文脈における人、価値観、事象に焦点を当てることで、次世代につなぐ創造性や革新性の種を撒くことである。

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All photos via Koitoto Design unless otherwise stated.
Text by Maki
ーBe inspired!

 

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