#004 「アフリカンファッション=カラフル」は時代遅れ。ケニアの若者が“白黒”のアパレルブランドを始めた理由|ノマド・ライター マキが届ける『ナイロビ、クリエイティブ起業家の肖像』


アフリカ・欧州中心に世界の都市を訪れ、オルタナティブな起業家のあり方や次世代のグローバル社会と向き合うヒントを探る、ノマド・ライター、マキです。

Maki & Mphoという会社を立ち上げ、南アフリカ人クリエイターとの協業でファッション・インテリア雑貨の開発と販売を行うブランド事業と、「アフリカの視点」を世界に届けるメディア・コンテンツ事業の展開を行っています。

width=“100%"
ナイロビのカフェ兼デザインショップWasp & Sproutにて。
Credit: M. Zentoh

この連載では、わたしが今最も注目しているケニア・ナイロビのクリエイティブ起業家たちとの対話を通じて、オルタナティブな生き方・働き方・価値観を紹介します。

ここで取り上げるクリエイティブ起業家とは、音楽、ファッション、アート、デザイン、料理などのカルチャー・コンテンツを創造し、発信する起業家のこと。ネット、スマホ、SNSによって、インフラが限られていたナイロビなどの場所でも、以前から存在していたクリエイターたちの活動がより活発化・顕在化し始めてる一方、日本での認知は限定的です。

日本や欧米とはまた別の視点から、他の人とは違う生き方を探したいという人々に向けて、なんらかの刺激や手がかりをお届けしたいと思います。

ナイロビ・ブランド「BONGOSAWA」の仕掛人

width="100%"
BONGOSAWAの仕掛人、クリス・カマウとムサ・オムシ

 連載第4弾のゲストは、ナイロビ発のファッションレーベル「BONGOSAWA(ボンゴサワ)」を手がける、クリエイティブチームのムサ・オムシとクリス・カマウの2人。高校時代からの親友だった2人は、ナイロビを拠点にそれぞれの道を歩んでいましたが、2009年にナイロビらしさを発信する自分たちのブランド「BONGOSAWA」を立ち上げました。ケニアの国語および公用語の一つであるスワヒリ語で、BONGOとは「脳」、SAWAは「同じ」という意味。つまり、BONGOSAWAとは、志を同じくするものたち=「同志」を意味するブランド名なのです。

 同志とはムサとクリスの関係でもありますが、世界の同世代の若者たちに向けたメッセージでもあります。インターネット、スマートフォン、SNSのおかげで、いまやケニアのナイロビでも、日本の東京でも、ほぼ時間差なく、ほぼ同じ情報にアクセスすることが可能。この連載でも紹介しているように、インスタグラムでの情報収集や発信は、ナイロビの若者にとっても普通のことです。このような文脈のなか、BONGOSAWAも世界の人々たちに届くグローバルブランドを目指しています。

 筆者は、2015年にナイロビで開催されたクリエイティブ起業家たちが集まる屋外イベント、Sondeka Festival(ソンデカ・フェスティバル)でムサに初めて出会い、彼が立ちあげたグラフィックデザイン会社のスタジオも何度か訪問しています。昨年は、それまでインスタでの交流しかなかったムサのパートナー、クリスにも会うことができました。ナイロビというローカルなつながりを保ちつつ、いかにグローバルを目指すか。このBONGOSAWAの挑戦には、日本の若者が世界に挑戦していくためのヒントが隠れているかもしれません。

自分たちのために始めたファッションブランド

width=“100%"

マキ:まずは、2人の出会いやバックグラウンドについて教えてもらえるかな。

クリス:ムサと僕は、もともと高校ぐらいからの親友で、いつも一緒につるんでいるような仲だったんだ。2人ともファッションが大好きだった。とはいえ、当時(10年以上前)はあまり選択肢がなかったんだけどね。それでもカッコイイアイテムが欲しかったんだ。

マキ:高校卒業後は、どんな進路を歩んだのかな。

ムサ:僕は、ナイロビ大学に行ってデザインを学んだ。卒業後は、グラフィックデザイナーとして3年ぐらい広告代理店で働いた後、Made with Loveというデザイン会社を立ち上げた。

クリス:僕は、大学には行かなかったんだ。当時は、大学という4年間のコミットメントはちょっと違うかなと思って。なんか教室で座って講義を聴くというスタイルが自分には合わないと感じたんだ。今もその考えは変わってはいないけど、若かったし、楽観的に考えていた。進学しなかったことを後悔することもなくはないけど、自分にとっては毎日が学びであるし、いまの自分を形成してくれたまわりに感謝しているよ。キャリアとしては、コピーライターの仕事を中心にやってきた。

width=“100%"

マキ:ファッション好きの2人が、あえて自分たちのブランドを立ち上げたのはなぜ?

クリス:問題があったんだ。さっき言ったようにあまり選択肢がなかった。ちょっとカッコイイアイテムが見つかったとしても、サイズが合わなかったり、高すぎたり。でも一番の問題は、自分たちを体現するようなナイロビの若者向けのブランドがなかったということなんだ。例えば、カルバン・クラインとか、なんか違った。自分たちの心に響かない感じだった。ストーリー性も感じられなかったし。

マキ:日本もケニアも、欧米ブランドに憧れるみたいな傾向は多少あると思うけど、2人はそういったものに憧れたり、それらを取り入れたりしたわけではない。BONGOSAWAブランドに感じられる、ピースフルな反骨精神みたいなのは、そういった背景からきているのかもね。

クリス:そうかもね。それで、「ないならじゃあ自分たちで始めよう」ということで、2009年頃にブランドを始めた。といっても、始まりは、自分たちのための服を作ってた。それが、次第に友人などを中心に広がり、ブランドとして成長していった。じゃあ次の柄、次のデザインに挑戦しよう、という感じで。

ブランドの核心はコラボレーション

width=“100%"

マキ:BONGOSAWAというブランドについて教えて。

ムサ:ナイロビという街を体現したブランド。ナイロビを盛り上げるブランド。自分にとってナイロビはホームであり、すべて。

クリス:ナイロビという都市、スラムに至るまでの街のエネルギーや鼓動を伝えるブランド。

マキ:わたしもBONGOSAWAのTシャツなどを何枚か持っているけど、基本的に黒ベースに、白のグラフィックデザインというモノトーンなストリート・スタイルが特徴的だよね。

ムサ:アフリカのファッションというと「カラフル」というステレオタイプがある。でもBONGOSAWAはあえて、黒が基本。特徴的なグラフィックで、メッセージ性を大切にしている。例えば、「The Courier」というテーマのカプセル・コレクションでは、実際に「The Courier」というタイトルのオンライン雑誌を自分たちで作って、そのグラフィックやコンテンツをTシャツなどのアパレルにした。雑誌の第1号のメッセージは「解放」だった。次のコレクションでは、「ナイロビ、労働者回帰」をテーマにガテン系の労働者たちにインスピレーションを受けたストーリー展開を予定している。

width=“100%"

クリス:ブランドとしては、コラボレーションが核心にある。ぼくらは様々なアーティストとコラボレーションしている。名の知られていないような若手も含め。ミュージシャンから詩人まで、様々な立場のクリエイティブ起業家たちとコラボする。ぼくらは彼らをサポートしている。でも同時に、お互いに高めあっているんだ。協力することで、よりよいものを作る。

ムサ:ブランド名には、個人とコミュニティの関係性を提示する意味もある。BONGOSAWAは、個人を尊重しつつ、どうコミュニティとともに成長していくかというムーブメントでもあるんだ。

width=“100%"

「ナイロビ発グローバル」という挑戦

マキ:わたしは、何度かナイロビを訪問しているし、ナイロビのクリエイティブシーンが盛り上がってきているのを肌で感じている。でも、日本を含めて、世界にはまだまだ伝わりきれていないと思う。BONGOSAWAというムーブメントは、どのようにしたらもっと世界に広まっていくかな。

クリス:ナイロビという地元で活動していても、グローバルな視野やマインドセットを持ち続けることは絶対に必要。ただ、それだけでは足りないんだ。世界のカルチャーシーンに対してもっとプレゼンスを発揮していかなくてはならない。そのためには、オーセンティック、つまり本物・信頼できるものであることが重要。それから、ナイロビのクリエイティブ業界がもっと持続可能なものになっていかなくてはならない。

マキ:持続可能というのはどういう意味かな。

クリス:個々のビジネスが育っていくだけでなくて、産業を作って行く必要がある。さっきコラボレーションという話をしたけど、クリエイティブ業界にいるみんなが協力しあって、もっと団結して、世界にアピールできるようなものを作りあげていかなくてはならない。

width=“100%"

マキ:具体的にはどんな取り組みを始めているのかな。

ムサ:僕は、過去4年間BONGOSAWAに集中してきたけど、いまは自分のクリエイティブ・スタジオの存在意義をちょっと見直しているところ。新しい仕事を作ったり、新しいクリエイティブ起業家をキュレーションしたり、彼らがもっと活躍する機会を作ったりしていきたい。

具体的には、ファッションデザイナーやヴィジュアル・アーティストから、クラフト・家具メーカー、建築家、音楽家まで様々な若手をピックアップしていきたい。彼らのマーケティングの手伝いや、物理的なスペースの提供をすることで、彼らと消費者とのつながりを作り、事業を拡大させていくためのプラットフォームになる。アパレルビジネスに関しては、洋服の仕立てに関するワークショップを開催したり、小規模の生産をサポートするような仕組みも整備していきたいと思っている。

マキ:ムサたちの挑戦は、クリエイティブ事業のバリューチェーンを、発案から生産、マーケティングから販売まで全面的に担うインキュベーション事業だといえるね。まさに、さっきクリスが言っていた「産業をつくる」ということにつながる事業展開だと思う。

ムサ:結局、ナイロビやケニア、強いてはアフリカのクリエイティブ産業が、もっとグローバルに展開していくためには、アフリカ大陸のクリエイターによる、アフリカ大陸の人材のためのプラットフォームがもっと必要なんだと思う。こうしたプラットフォームが増えることによって、アフリカ人クリエイターがもっと集積されて、アフリカから世界に対しての発信力が高まる。同時に、発信力が高まることによって、さらにアフリカ人クリエイターが集まっていくという仕組みができるのだと思うよ。

width=“100%"

マキ:いままでは残念ながら限られていたけれど、特に欧米の文化的な領域においてアフリカのプレゼンスは少しずつ高まってきていると、個人的には思っている。賛否両論あると思うけど、一度も植民化されずにテクノロジー先進国として発展した仮想のアフリカの国ワカンダを舞台にしたスーパーヒーロー映画で、全世界で記録的なヒットを起こした『ブラックパンサー』についてはどう思う?BONGOSAWAのムーブメントにとって追い風になるのかな。

クリス:ブラックパンサーは、個人的には、必ずしも、最高に優れた表現方法だったとは思っていないけど、アフリカをテーマにして、もしくはアフリカにインスピレーションを受けた映画として、一つの大きな通過点だといえると思う。黒人プロデューサーやライター含め様々な人々が協力しあって、(アフリカ人が)待ち望んでいた、アフリカ人が主人公のアフリカが舞台になっている未来志向の物語を、世界中の観衆に対して伝えたという意味では、非常に勇気付けられるものだった。

ぼくらは、あまりにも長い間、蚊帳の外に立たされてきた。アフリカには素晴らしいものがある。しかし、それがどれだけ奥深いものであったとしても、世界の関心は低く、その価値が世界に知られていないのは、もっとも悲しいことだ。

マキ:ブラックパンサーは、一つのハリウッドの成功事例でしかないけれど、世界がアフリカにより注目していくという動きは、今後ますます増えていくだろうし、そう願いたいね。

クリス:一人の起業家として、アフリカの成長、アフリカ人の活躍、アフリカの経済成長をリアルなものとして感じている。一方で、若者に与えられたツールやリソースは非常に限定的なんだ。若者に機会がないというのは、アフリカの機会を捨てているようなもの。多くの人々がより豊かな生活を送れるようになる機会をね。

一方で、ポジティブなマインドも持ち続けている。クリエイティブ業界の様々なチャレンジはあるけれど、ぼくらはよりよい状況をつくっていけると思っている。

width=“100%"

自分たちのニーズを満たすためにブランドを始めたムサとクリスですが、いまは若者が担うアフリカの未来に向けて、どのようにクリエイティブ産業をつくっていけるかという、より社会的な課題に挑んでいるようです。

わたしは、この2人の挑戦のストーリーを聞いていて、「企業は社会の公器である。企業は社会とともに発展していくのでなければならない」というパナソニック創設者の松下幸之助の名言を連想しました。

社会の一員として、健全な社会経済の発展にどう貢献するのか。グローバルなプレゼンスをどう発揮してくのか。いまの時代において、これは大企業に限らず、個人個人が直面する課題でもあるかもしれません。

自分の身近な課題をどう解決し、同志と協力することで、どうしたらムーブメントを作れるか。BONGOSAWAの挑戦、そして彼らの織りなすファッションレーベルが、成熟経済の日本に暮らす若者にとっても、インスピレーションになればと願っています。

BONGOSAWA

Instagram

width=“100%"

マキ

ノマド・ライター

Maki & Mpho LLC代表。同社は、南アフリカ人デザイナー・ムポのオリジナル柄を使ったインテリアとファッション雑貨のブランド事業と、オルタナティブな視点を届けるメディア・コンテンツ事業を手がける。オルタナティブな視点の提供とは、その多様な在り方がまだあまり知られていない「アフリカ」の文脈における人、価値観、事象に焦点を当てることで、次世代につなぐ創造性や革新性の種を撒くことである。

width=“100%"

 
▶︎ノマド・ライター マキが届ける『ナイロビ、クリエイティブ起業家の肖像』

#003 「物理は一番アーティスティックな学問」。“理系ジュエリーデザイナー”に聞く、想像を創造に変える方法

#002 誰もが知っている「ハンバーガー」で、アフリカのネガティブなイメージを刷新する起業家姉妹

#001 「正しいことをしているという確信」。選択肢がありすぎる現代でも道に迷わない観察者、ヴェルマ・ロッサ

▶︎オススメ記事

世界を飛び回るコペンハーゲン育ちの日本人クリエイターが明かす、デンマークデザインの神髄

「無条件で子どもを愛してあげて」。10歳のドラッグクイーンと母に学ぶ“自分らしく生きることの大事さ”

All photos via BONGOSAWA
Text by Maki
ーBe inspired!

 

17796351_1292335647470919_7270991422615929419_n
この記事が気にいったら
いいね!しよう
Be inspired!の最新情報をお届けします