お金を一切使わない男に学ぶ、新しい社会の作り方。


もしお金を使わない暮らしがあるとしたら、私たちの生活はどのようなものになるのだろう。そしてその暮らしが工夫に溢れていて、楽しくて、健康的で、しかも自然、そして人と人とを繋いでくれるとしたら。お金に頼りすぎた現代社会だからこそ知っておきたい、お金を使わずに豊かに暮らす方法。

お金を使わずに豊かな生活をする男

 ここに現代社会の中で、お金を一切使わずに生活した男がいる。「Moneyless man(お金いらずの男)」と呼ばれる彼がイギリスのテレビや新聞で紹介されるや、世界中から取材が殺到し、大きな反響を呼んだ。彼の名前はマーク ボイル。

 アイルランド出身の彼は大学で経済学を学んだ後、イギリスのオーガニック食品会社に勤めた。2008年「国際無買デー」である11月29日から1年間、彼はこのグローバル化の中心とも言えるイギリスで、「フリーエコノミー(無銭経済)運動」を実践的に行った。つまりお金を一切使わない半自給自足生活を実践したのだ。

 どうしても「お金を使わずに1年間生活する」と聞くと、「貧しい」 や「惨めさ」というイメージが付きまとう。しかし彼のこの1年の生活を通した実験結果はその真逆の「豊かな暮らし」の発見であった。

 彼の住居は不用品交換で入手したトレーラーハウスに太陽光発電パネルをとりつけたものを使用し、エネルギーはこのパネルからの太陽発電のみ。手作りのロケットストーブで調理し、歯磨き粉や石鹸などの生活用品は、植物や廃材などから手作りする。暖房は廃材で作った薪ストーブを使う。シャワーは川の水を太陽光で温めて使うソーラーシャワーを利用。

 移動手段は自転車やヒッチハイク。トレーラーハウスの駐車場所や耕作用の畑の土地は、有機栽培している農園を週に3日手伝うことで農園から提供してもらう。

 食べ物は自ら畑を耕したり、自分の住む地域から野草などを採集したり、農園からおすそ分けをもらったりしている。彼はその作業にとても喜びを感じているという。

“世界中に何百万種類もいる生き物の中で、人間だけが食べるのにお金が必要だと思っている。りんごの木にお金を払わなくても、りんごの木はりんごを食べたい人にりんごを与えてくれるよ“

 彼の行う「フリーエコノミー(無銭経済)運動」は、スーパーマーケットで包装された食べ物を「買う」ことが中心の現代の私たちの暮らしに疑問を問いかける。彼はお金を使わなくなってから、健康になったことを実感しているそうだ。「食」がお金や加工品などを通さず、土からダイレクトに彼の胃袋へと届いているからだ。

お金を使わないことで自然と繋がれる。

“ほとんどの人はお金を払わなきゃできないことがたくさんあるって信じている。そして僕に聞くのさ。「もしお金を使わないのなら、どうやって家を建てるんだ?どうやってテーブルや椅子を作るんだ?どうやって洋服を縫うんだ?」そういう時は僕はこう答えるよ。“鳥が巣を作るのと同じようにするんだよ”

 お金を使わなくても必要なものは手に入る、とボイルは言う。当然お金を渡して商品を受け取るような手軽さはないけれど、自分の周りの環境から素材を自分の手で集め、そして自分の手で作る。住む地域にある木からスプーンを作ったり、葦で枕を作ったりすることで、自分の周りの環境とつながることができる。

 現代における私たちの暮らしは、とても手軽で便利ではあるけれど、必要な物の素材がどこでどんな風に育って、どんなひとが、どうやって作っているかというのは、なかなか見えない。もし自分の足で探した素材を自分の手で作ったとしたら、私たちは自分を取り巻く環境にもっと興味を示すだろうし、来年も再来年も収穫できるような環境を作ろうと思うだろう。お金を使うことで隠れてしまった私たちと自然の繋がりが、お金を使わないことによって蘇る。そして買った物とは違った味わいと愛着が生まれ、決して簡単に捨てたりはできない。

 フリーエコノミー運動は自然と循環し、物を大切にするといった、私たちが本来大切にしなければいけない暮らしの知恵を蘇らせてくれる。

ペイ・フォワードという未来への贈与

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(Photo by Javier Bouzas)

 そしてボイルは「分かち合い(シェア)」する社会のあり方で、人間同士の絆とコミュニティの再生を提案している。不要な物を無償で人に分け与え、分け与えられる。助けが必要な時は無償で助け、助けられる。知恵が必要な時は無償で教え、教わる。それは人間がいつの時代も大切にしてきた生きる知恵だ。

 現代社会では「サービス」も含めた必要な物事の多くがお金で解決できる。それは一見とても便利なことのようである。けれど、それは個人個人を孤独化させ、人と人との繋がりを奪い、人々のコミュニケーションに大きな影を落としている。

 ボイルは無償で分け与えたり、助けたり、教えたりすることはペイ・フォワード(未来への贈与)だと言う。一見無償に見えるものの、その行為を通して人との繋がりができる。その繋がりがいつか自分を助けるというのである。お金を使わないことで人と人との繋がりまでも再生できる。

お金を使わない生活へシフトする

 お金を使わずに豊かに生きる、彼のこのアイディアは、1年の実践を通して信憑性を増した。これはある種の大きなチャレンジだ。お金というものは私たちの生活に多大な影響を与えている。それを一切切り捨てて生活してみる。それは価値ある経験になるはずだ。

 ボイルはインタビューの中で、もし一年も実践できなくても、夏のいい時期に一週間でも、たとえ週末だけでも、お金を使わず自然の中で暮らす体験をすることをお勧めしている。時にはお金を使う暮らしから抜け出して、お金を意図的に使わずに豊かな暮らしを実践してみる。

 生活を少しだけお金に頼らないようにシフトする。そんなことで思いの外、暮らしは豊かになるのかもしれない。彼のこの貴重な一年間の体験を通じて書かれた本、英題“The moneyless man”はなんと14ヶ国語にも翻訳され、世界中で読まれている。みなさんにも日本語版「ぼくはお金を使わずに暮らすことにした」を是非読んでみてほしい。

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Text by バンベニ 桃
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