「イスラム教に無知な日本人へ」。東京ストリートを楽しむ平成生まれのムスリムに聞いた、ぶっちゃけ話。VOL.1

Text: Shiori Kirigaya

Photography: Chihiro Lia Ottsu unless otherwise stated.

2017.10.19

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日本にいるムスリム(イスラム教徒)の数は現在10〜20万人程度だといわれ、現在も少しずつ増加してきている。その多くは留学生や企業の研修生としてアジアを中心とする地域から訪れているのだ。

そんな彼らの存在を知っていても、彼らがどのように日本で暮らし、日本での生活をどのように感じているかまではわからないかもしれない。今回Be inspired!は日本で暮らすムスリムの若者たちにインタビューを行ない、彼らが話してくれたことをシリーズで紹介していく。

今回答えてくれたのは、イスラム教に厳格なことで知られるサウジアラビア出身の2人、写真の左から日本に住んで7年のばする、6年のゆせふ。

Photo by Chihiro Lia Ottsu

ムスリムとは、イスラム教を信仰する人(イスラム教徒)のことをさす。7世紀にムハンマドが開祖となったイスラム教は、唯一神アッラーを信仰し、啓典は『コーラン』。1日5回メッカの方角へ向かって礼拝をし、イスラム暦の9月である「ラマダーン」には日没まで断食をすることが特徴で、断食には自身を清める以外に貧者の立場に立つという意味がある。また、不浄な動物とされる豚肉を食べることや飲酒などが禁止されている。

ー神様とはムスリムにとってどんな存在ですか?

ゆせふ:日本人とあまり宗教の話はしないから聞かれたことはなかったけど、答えるとしたら神様は1人で、完璧で、どこにでもいてなんでも理解できる存在。サウジアラビアではみんなが学校で学んでいて知っているから、この話題で話すことはないです。

ー宗教的な衣装を着ていないようですが、日本人からムスリムだと気付かれますか?

ばする:正直、俺らの見た目はムスリムっぽくないじゃないですか。だから「何人ですか?」って聞かれて「何人だと思いますか?」と言うと、アメリカとかって答えが返ってきます。スカーフを被っている女性なら外見でムスリムだとわかるかもしれないけど、男性はイスラムの服装をあまりしないから気付かれにくい。

ー日本人はムスリムをどう思っているでしょう?

ばする:失礼な言い方かもしれませんが、日本の若者は世界で何が起きているかに興味ないですよね。それまでは何のイメージもなかったと思うけれど、“イスラム国”が有名になってからは、「イスラム=テロ」というイメージで見られるようになったと思います。過激派組織「IS」を、あたかもイスラム教を代表した国かのように“イスラム国”と訳すのは適訳じゃないし、すごく嫌でした。

ゆせふ:サウジアラビア人の多くが「テロはよくない」という考え方を持っています。

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ー日本人から差別を受けた経験はありますか?

ばする:ムスリムには見られないからかもしれないけれど、日本でイスラム教徒だからって差別されたことは特にありません。

ーよく話題に出されるサウジアラビアでの女性差別は、実際のところどうですか?

ばする:前はあったと思いますが、最近はサウジアラビアも変わって、制度上はほとんどないと思うし、直近では男性と同じように運転する権利が認められました。5、6年前にはアパレルで働く女性が全然いなかったけれど、今ではよく見かけるようになったんです。これからも変わっていくと思います。

ー最近のサウジアラビアでは、ほかにどんな変化が見られますか?

ばする:それまでは宗教警察みたいなのがあって、例えばヒジャブをつけていないと捕まることがあったけれど、今はなくなって考え方も変わったんですよ。前と比べたら若者にとって住みやすい国になったんです。そのあたりを緩和して若者を留め、外国から来る人も増やしたいという考え方に変わってきています。

ー日本での食事はどうしてますか?

ゆせふ:食べるのが禁じられている豚肉が入っているかどうかを気にしています。コンビニに行ったときにも食べ物の中身を確認して、豚肉以外の肉は食べていてます。ストレスになるけれど、こんなことも外国にいるからまあ仕方ないって。

ばする:食に対して厳しいようだけれど、ムスリムはハラル*1だけでなく、キリスト教やユダヤ教の屠殺方法が施された肉も食べられるので、アメリカとかオーストラリアとかブラジルの肉なども食べていいことになっています。だから意外にも食べられる肉は多いのです。

(*1)イスラム法で合法のもの

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ー日本に来て何か変わりましたか?

ばする:サウジアラビアにあまりシャイな人はいないんですよ。でも、日本の人は結構シャイだから、自分も少しシャイになりました。日本人の友だちがまったくいない人の場合は、考え方も現地にいるときと変わらず日本語もあまり話せるようにはならないみたいですが。

ゆせふ:サウジアラビア人は、アメリカ人とコミュニケーション能力が似ているんですよね。日本ではありえないかもしれないけれど、サウジアラビアでカフェに行ったら隣に座っている人とすぐ話し始めるのは普通だし、初めて会った人と話していて「明日何かある?」って聞いて「ない」ってなったら、また次の日に会うこともあるんです。

ばする:あとは、イスラム教徒が人目を気にするのは、きちんとイスラムのルールを守っているかということだけですが、日本に住んでいてそのほかのことでもまわりの人の目を気にしたり、気を使ったりするようになりましたね。

ー日本人がイスラム教徒に対して抱いている、変なステレオタイプはありますか?

ばする:サウジアラビアは、イスラム教というより「石油がすごい」とか「お金持ち」とかってイメージが強いと思います。

ゆせふ:あとは一夫多妻制についてかな。4人と結婚している人は超少ないし、1人が基本です。

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ばする:みんながラクダ持っているっていうのも嘘で俺は乗ったことないし、砂漠ばかりって思うかもしれないけど町は結構都会で、砂漠にはアウトドアで行くくらいで、住んでいるわけじゃない。「日本に行くと絶対サムライに会える」のが間違っているのと同じで、伝統的な服装をしている人もいればそうでない人もいるんです。

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ムスリムといえば、「宗教的な衣服を身につけている」というイメージが強いかもしれない。だが、インタビューに答えてくれた2人の服装を見ればわかる通り、服装1つとっても、さまざまなムスリムが存在する。

ムスリムについて理解するには、イスラム教の戒律を知ることが言うまでもなく重要だ。しかし世の中には多様なムスリムの人たちがいて、多くの日本人と同様でカジュアルなファッションを楽しんでいる人もいるという事実を知るだけでも、彼らの存在を身近に感じることができるかもしれない。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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