「ビーガンと肉がテーマ。私たちは何を選択すべき?」タブーなしの“新しい会話” [NEUtalk vol.3]


媒体名の変更(10月からNEUTになります)やウェブサイトのリニューアルを控えたBe inspired!が送るシリーズイベント「NEUtalk(ニュートーク)」。業種、年齢、性別、人種といったバックグラウンドとなるすべての壁を取っ払い、いままで交わらなかった人を招き、そこで生まれる「新しい会話(ニュートーク)」をしようという試みだ。

その第3回目が8月26日、国連大学で毎週末開催されている「Farmer’s Market(ファーマーズマーケット)」のコミュニティクラブ向けイベントが主に開催される「Farmer’s Market Community Lounge(ファーマーズマーケットコミュニティラウンジ)」で開催された。

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トークテーマは「いま話したい、肉とビーガンのこと」。

ゲストは、獣肉と昆虫をメインに、ディープな珍味を肴として楽しめる「米とサーカス」をはじめ、多彩な飲食店事業を手がける株式会社宮下企画のPRの宮下慧(みやした せい)さんと、ビーガンカフェのパイオニアであり、現在はビーガンレストラン「 8ablish(エイタブリッシュ)」のほか、ビーガンフードのケータリングなどの飲食事業を展開する、株式会社エイタブリッシュの共同代表である清野玲子(きよの れいこ)さん。

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宮下慧さん(左)清野玲子さん(右)

残暑著しい夏の終わりの日曜日、約50人の来場者を迎えて、“肉とビーガン”という対極するキーワードを切り口に、食にまつわる諸問題に切り込んだ。

年間約200億円の被害額と駆除される約100万頭の獣たち

 トークセッションの頭で司会が投げかけた、「害獣=悪という言葉で括られがちな獣たちを食材として扱い始めた理由を教えてください」という問いかけに、宮下さんがこう答える。

まず、前提として共有しておきたい数字がありまして。害獣と呼ばれる獣たちが、農作物へ与える被害額は年間約200億円。そして、年間に駆除される獣たちの数が100万頭を超えます。しかし駆除された獣肉はほとんど市場に流通していません。これってすごくもったいないし、なにより“命をいただく”という観点から獣たちに申し訳ない。

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 2010年に彼女がお店を開いた当時は、まだジビエ*1の存在があまり知られていなかったが、「もったいない、そして命に申し訳ない」という現状があることを知ってほしく、それを伝えるためにお手頃な居酒屋価格でジビエの提供を始めた。

 宮下さんが飲食店「米とサーカス」に込めたメッセージは、「害獣と呼ばれ、世間的にはいかにも悪者というイメージが固定されてしまっている獣たちの認識を変えたい」というもの。

(*1)「狩猟された鳥獣を食肉する」という意味のフランス語。近代以前のヨーロッパの貴族を中心に現在まで発展してきた食文化。日本ではシカ、イノシシ、ウサギ、鳩、鴨、カルガモ、キジ、カラスなど、狩猟の対象となる動物はすべてジビエの範囲に規程される

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 害獣と蔑まれるものの、獣たちが意図を持って人間に害をもたらすわけではない。近年の著しい被害はむしろ、人的要因でもたらされている。耕作放棄地の増加、食糧を含むゴミの不法投棄、山間の開発、外来種の増加…。枚挙にいとまがない。人間目線の“害”を押し付けられた格好の獣たちにとっては、いい迷惑だろう。

 米とサーカスでは害獣のイメージを変えるために、比較的ポピュラーな鹿や猪のほか、熊やアライグマなども取り扱っている。“害獣”以外にも、ラクダ、ワニ、ダチョウなどなど、なかなかお目にかかれない食材が楽しめる。

 ちなみに昆虫(こちらもタガメ、蜂の子、イナゴ、ゲンゴロウ、コオロギ、蚕のサナギ、セミなど多士済々)を扱うようになったきっかけは、「たまたま」だという。

いろんな食材を当たるなかでたまたま辿りつきまして。実際に食べてみるとそれぞれ味が違うし、おいしかったし、いいんじゃないかと思って。最近では国連が、世界的な食料危機の対応策として昆虫食を普及させようとしていますし、そういう背景もあって、うちでも真面目に取り組んでみようと思ったのが事の始まりです。

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当日「米とサーカス」から届けられた「鹿骨スープ」。獣臭さはなく癖のない素朴な味わいが意外!

 世界的に憂慮すべき課題となっている食糧危機(だが同時に、食料廃棄も課題となっており、日本では年間約1,900トンという途方もない規模の食べ物が無駄になっている)。増え続ける世界の総人口に対して、地球にある資源は有限だ。

 こうした背景があるため、食肉産業が大量の飼料を作るために膨大なエネルギーを費やしていることや、家畜を生育する際に排出される二酸化炭素が環境汚染を引き起こしていることについて、各方面から再三に渡り「改善を」との指摘がなされている。

 しかしだからといって、急激な方向転換を強制する術は、同じ穴のムジナである私たちにはない。漁業についても、膨張し続ける需要に応えられるポテンシャルは望めないと考えられている。ひるがえって昆虫食は、いままで多くの人々が目を背けて、あるいはその可能性を考えもしなかったという点において伸びしろがある。昆虫食は今後、良くも悪くも注目を集めるジャンルになるだろう。

極端と中庸で内輪揉めを起こすビーガニズムの虚しさ

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当日会場で作られた、「東京生まれ、無農薬育ち」の青梅ファーム産ハチミツを使用したハニーサワー。夏にぴったりの清涼感!

 先に触れた食肉産業の是非だが、そこに従事する人々と反目しやすいのが、ビーガニズム*2の実践者だ。原因は、ビーガニズムと食肉産業の現状が相反する点にある。

 そんなわけで、ときに両者が意見を交わす場が設けられるのだが、このとき、過激な言動や行動に出る一部のビーガニストたちの存在が、結果的にビーガニズムへの理解を損なう弊害になっているのではないかと清野さんは指摘する。

 彼女は生まれてから数ヶ月後、お肉が大好きだった母の母乳のにおいを嫌って飲むのを拒否したぐらい、根っからのベジタリアン。仕事のストレスでまいってしまい「とりあえず食べるものを変えよう」と思い立ち、約10年ほどストイックなビーガニストとして過ごしていた時期があった。

ビーガンだった時期に環境問題について理解を深めたのですが、同時に「世界の環境が激変するなかで、自分の思想やセオリーに固執して食と向き合っていくのでは難しいな」と実感しました。また、動物や環境のためにストイックな活動されている方たちについては、その主張が強すぎて、返ってくる反応が両極端になっているんじゃないかと感じていました。過剰なビーガニズムが、賛否をわけてしまっているように思ったんです。

(*2)ベジタリアンの一種であるビーガン(絶対菜食主義)は動物性食品・製品の一切を拒否するという精神をさす

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 ここで司会が、「もしかして喧嘩をふっかけられたことがあるとか?」と清野さんにうかがうと、「いや、まあ喧嘩をふっかけてくる人はなかなかいないですね(笑)」と返答。しかし、同じビーガンでも意見の食い違いによるズレはあるようだった。

たまにビーガンとして各方面へ積極的に活動されている方がいます。私はそれを否定しませんが、話が極論になりがちではあると思います。私は人間の都合を優先した畜産や養蜂にはまったく反対の立場です。ただ、動物性食品と製品を完全に拒絶して生きていけない環境もこの世界にはあるわけです。

だったら多大なエネルギーを消費する食肉産業ではなく、狩猟からもたらされる鹿肉をもっと市場に流通させるとか、週に一回でも動物性の食品を摂らない日を設けるとか。そういう、一生無理なく続けられる、サステイナブルな考え方でビーガニズムをとらえてもいいんじゃないかと思うんです。

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当日レストラン「エイタブリッシュ」から届けられたビーガン仕様のパウンドケーキ。自然な甘さがグッド!

突然ベジタリアンにならざるを得なくなったらどうしますか?

 サステイナブル×ビーガンを実践する一つの方法としてとして提案したいのが、フレキシタリンというスタイルだ。文字通りフレキシブルとベジタリアンをかけ合わせた言葉で、「柔軟性のあるベジタリアン」を意味する。具体的にいうと、肉を食べる日もあれば菜食を貫く日もあるという具合だ。

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 筆者は今年の春、とある皮膚病をわずらい、医者に「あーあんまりお肉食べないほうがいいねえ」と言われ絶句した口なのだが、そんな事情もあって、フレキシタリアンとなってはや半年。過剰な制限がいらないという気楽さもあって、いまではこのスタイルをポジティブにとらえている。

 加えて、生粋のベジタリアンが食事にどれほど苦労しているのかを、この身を持って実感できたのは大きな気づきだった。

 食品の裏に貼ってある食品表示シールを見る癖がついてわかったのだが、大抵の食べ物には動物性の原材料が使用されており、ベジタリアンというだけで、極端に食の選択肢が制限されてしまうのだ。特に日本の食品表示の体裁は、ベジタリアンに向けての配慮がなされていないため、とにかく食べられるものを探すのが面倒なのである。筆者のように、突然ベジタリアンにならざるを得ない状況が訪れる可能性は誰にでもある。対岸の火事ではないことは強調しておきたい。

“食べる”とは

 トークセッションの締めは、「食べるってなんだ」という禅問答のような問いを、ゲストのお二人に考えていただいた。

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清野:お金を出せば大抵のものが食べられるいま、そのお金をどこに使うのかという意識で、食と向き合うことが求められるのかなと。わたし個人で言えば、できる限り生態系に迷惑をかけない生き方=食べ方をしたいと思います。

宮下:食の選択肢がたくさんあるいまは、知ることが大事だと思います。食料廃棄の問題を知り、食糧危機の問題を知ったうえで選択する。“いただきます”という言葉にある意味を考えながら、これからも食べていこうと思います。

 本稿が、あなたにとっての「食べるってなんだ」を考えるためのヒントになれば幸いである。

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Farmer’s Market @ UNU

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Farmer’s Market @ UNU は農と都市生活を結びつけるプラットフォームです。
私たちは以下の活動を通じて、都市に暮らす人々の生活に貢献することを目指します。
– 農家と私たちの間の対話を生み出し、健康的な食べ物とその源に対する理解を促進する。
– 農家と人々を直接結びつけ、相互理解によるコミュニティをつくることで、農家がより質の高い農業を継続できるよう支援する。
– 生活者である私たちが“マイファーマー”と言えるほど信頼できる農家から、新鮮で健康的な食べ物を買う楽しみをつくる。
– 私たち生活者も農業のプロセスに関わり、営みを理解するきっかけを提供する。

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Photo by Jun Hirayama

宮下慧(みやした せい)

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宮下企画 ブランディング担当
グラフィックデザイナーとして勤務後、2010年に「美味しいは楽しい」「楽しいは美味しい」をテーマに夫とともに「宮下企画」を立ち上げる。現在、ジビエ居酒屋「米とサーカス」を含む6つの飲食店を経営、主に企画・ブランディング面を担当している。
「米とサーカス」は、一般的に“害獣”や“害虫”と呼ばれる野生鳥獣と昆虫に注目し、先入観を捨てて多様な食文化に触れてもらうことを目指している。

米とサーカス

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Photo by Jun Hirayama

Reiko Kiyono(清野玲子)

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株式会社エイタブリッシュ代表、クリエイティブディレクター
幼少よりベジタリアンとしての食生活を送る。制作会社などを経て1997年に、ビジネスパートナーの川村明子さんとともにクリエイティブカンパニー「ダブルオーエイト」設立。ビーガンカフェ「カフェエイト」を皮切りに、現在は本格的なビーガンレストランとマフィン&コーヒーショップを運営。オーガニックのさまざまなフィールドの人々とのネットワークを持ち、オーガニックフードのご意見番的存在。

Restaurant 8ablish

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MUFFINS AND COFFEE 8ablish

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Photo by Jun Hirayama

▶︎これまでのNeutalkイベントレポート

「僕らはインターネットを使って先祖返りしてる」。タブーなしの“新しい会話” [Neutalk vol.2]

「日本は老害が多いしメディアは腐ってる」。タブーなしの“新しい会話” [Neutalk vol.1]

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13店目:“なるべく”カラダに良いものを、手作りで。「食事は楽しいこと」だと再認識できる正直な渋谷のレストラン、GOOD MEALS SHOP。| フーディーなBi編集部オススメ『TOKYO GOOD FOOD』

All photos by Noemi Minami & Yuuki Honda unless otherwise stated.
Text by Yuuki Honda

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ーBe inspired!

 

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