「無邪気に走って、無意識に発電」。“ヒト発電”を可能にしたサッカースタジアムがブラジルのスラムを救う


ブラジルのファベーラ(スラム街)といえば、ギャングや麻薬組織の温床となっている貧困地区であり、頻繁に起こる銃撃戦などの話題に事欠かない。しかしそのすべてが、絶対に足を踏み込んではいけない危険地帯というわけではなく、観光ツアーが組まれるようなファベーラも存在する。

観光といえばブラジル随一の都市、リオデジャネイロにあるファベーラの数は1,000を超え国内でも最大規模を誇り、無数の家々がひしめき合い住人が闊歩している。

そんなリオのファベーラの一つ、「Morro da Mineira(モーロ・ダ・ミネイラ)」に、振動を電力に変えるユニークな発電方法を世界各国に提供しているPavegen(ぺーヴジェン)社と、石油会社のShell(シェル)社の協力のもと作られたのが、今回紹介する名もないサッカーコートだ。

Photo by 撮影者

選手が走れば走るほど、“電力を生み出す”サッカーコート

 2014年、ブラジルを3度のワールドカップ制覇に導き、歴史上最も優れたフットボーラーの1人として知られるサッカー界の王様ペレ(エドソン・アランテス・ド・ナシメント)が、英国のテクノロジー会社ペーヴジェンと連携し、祖国ブラジルのファベーラ、モーロ・ダ・ミネイラに建てたサッカーコート。それは一見普通のコートだが、プレーが行われるピッチの下には200個の発電パネルが埋め込まれており、プレーする選手たちの走る振動に合わせて、電力を生み出すことができる。

 以前こちらの記事で「踊れば踊るほど環境に優しいナイトクラブ」を紹介したが、最近話題の「振動を電力に変える」発電技術をサッカーとかけ合わせ、プレーすればするほど電力が生まれるというこの仕掛け。生み出された電力はピッチを照らす照明を通して、昼でも夜でもボールが蹴りたくて仕方がない子どもたちが、夜でも安全にプレーできる環境を作り出した。ゲームやスマホとは無縁の子どもたちには、ボールが一番の遊び相手なのだ。

 サッカーを通して子どもたちを見守る。それもファベーラのど真ん中で。サッカー狂国ブラジルらしいやり方である。(参照:外務省, Pavegen

※動画が見られない方はこちら

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国全体の好景気が届かない、ファベーラの現状

 リオには600万の人口があるが、そのうち4人に1人、約150万人がファベーラに住んでいると推計されている。だが住めば都というように、実はファベーラは案外暮らしやすいという声も聞かれる。それでもインフラや教育機関が整っておらず、貧困から抜け出すチャンスが乏しい状況が続いているのだ。

 モーロ・ダ・ミネイラにも十分な電力が行き届いていなかったのだが、そこへペーヴジェンが手を差し伸べ、発電できるピッチを作った。彼らの「スポーツを通じて地域社会全体を鼓舞する」という理念に、先述したサッカー界の王様ペレも共感し、彼は竣工式にも訪れた。

 ペレがペーヴジェンの事業に共感を示したのは、その理念だけでなく、この現状に憂いを感じていたというふしもある。GDP(国内総生産)が9位と、近年が成長著しいブラジルの経済状況だが、国全体の好景気がファベーラまで届いていないのが現状だからだ。(参照:日刊SPA!

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 政府もこの状況を打破しようと、上流層による投資や中間層を貧困地域に移らせる政策を実施するなど対策を試みたが、比較的安全なファベーラに中間層が流入すると、もともとそこに住んでいた貧困層が、危険なファベーラへの立ち退きを余儀なくされるという新たな問題が起こる。

 さらに格差拡大により、中間層から貧困層への転落が増加。先月末にブラジル地理統計院が報告した調査結果によると、国民の10%が、国全体でひと月に生み出される収入の40%を得ているという。(参照元:ブラジル地理統計院

子どもたちが「貧困」から抜け出すためのサッカー

 恒常的な格差に悩まされ続けるそんなブラジルで、貧困から脱するための現実的な手段としてサッカーがある。ペレに負けず劣らずの実績を誇り、元ブラジル代表でワールドカップのMVPにも選ばれたロナウドなど、ファベーラ出身のサッカー選手は多い。ファベーラに暮らす子どもたちは、ますますサッカーにのめり込むのだ。

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 夢を追いかける子どもたちが夜も全力でプレーできるように、大人たちは今日も精を出してサッカーにいそしむ。「子どもたちの未来のために」と願いながら。子どもたちは今晩も力の限り駆け抜ける。そのプレーを見守る明かりは、明日もまた灯るだろう。

 地域の大人たちとユニークなテクノロジーの活用法に後押しされ、近い将来、ここから次世代の名プレーヤーが生まれてきたとする。彼らのプレーを通して世界は知ることになる。ファベーラの新たな一歩を踏み出していることを。

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All photos by Shell Project
Text by Yuuki Honda
ーBe inspired!

 

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