「肌色」「主人」「家内」。私たちが慣れ親しんだ日本語に潜む“差別”。


Politically Incorrect Dictionary】は、Be inspired!編集部が社会的にNGな言葉/コンセプトを集めて作った辞典だ。「社会的にNG」な言動/コンセプトとは、簡単に言えば、政治的、経済的、文化的背景から「それどうなの?」と思ってしまうもの。欧米では政治の場から日常まで、頻繁に議論されるテーマである。日本でもより良い社会づくりのためにそういった議論の場を生み出すべく、この辞典は生まれた。

今回は、【Politically Incorrect Dictionary】の番外編として「肌色」「主人」「家内」といった日本語特有の表現を取り上げる。これらの言葉がこの時代になぜ「社会的にNG」なのか?そして「伝統ある言葉を守ること」と「言葉の使い方を変えていくこと」のどちらを優先すべきなのかを考えたい。

Photo by  Kelly Searle
Photo by Kelly Searle

言葉に潜む悪しき文化たち

 思い返してみると小さい頃、塗り絵やお絵描きの時間には当然のように「肌色」の色鉛筆を使っていた。結婚相手を「家内」「奥さん」「主人」と呼ぶ光景に違和感もなかった。私たちはふだん言葉の持つ意味をとくに意識することなく言葉を発しているのだ。

 しかし言葉は、人間が誕生する以前に存在したものではなく、人間が長い歴史の中で、その時々の社会や文化、政治や経済に巻き込まれながら形成したもの。言葉にはそれが生まれた「背景」が必ずあるし、言葉を使うことはその国の文化や歴史を表現することなのだ。

 例えば「肌色」は、グローバル化が謳われる以前にこの島国で、多様な人種や外見が周知されていない時代に、人々が使っていた言葉である。だから肌色は、白色でも茶色でも黒色でもない。「薄いオレンジがかった白」くらいだろうか。黄色人種である日本人の平均的で理想的な肌の色を示す色だ。

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Photo by Désirée Fawn

 「主人」や「家内」という言葉も、日本特有の背景を持つ。言わずもがな「主人」は、女性蔑視に基づく従属関係が根幹にあり、自分が相手より劣った人間であることを表明する表現だし、「家内」は女は外で働かずに家の中で家事をこなすという古い家族観がベースとなっている。そのような感覚を肯定し「ご主人様」と呼ばせるメイド喫茶は日本の不思議な文化と言わざる得ない。

アウトな言葉とOKな言葉。基準は「人を傷つける言葉かどうか」

 上で紹介した言葉は、現代から見れば、かつての日本の悪しき文化が形成した言葉だ。そのため、近年のグローバル化やポリティカルコレクトネスの流れに応じこれらの代案として、「肌色」を「薄橙(うすだいだい)」や「ペールオレンジ」に、「主人」を「夫」に、そして「家内」を「妻」に言い換えようという動きがある。

 このような動きに対して、欧米的な視点の拡大にすぎず日本の文化や伝統を否定することにならないか?という懸念を抱く人もいるだろう。ポリティカルコレクトネスの過度な強調は悪しき西洋化だ、日本の文化は守るべきだ、という意見を持つ人は多いように思う。

 たしかに、伝統には向き合うべきだし、すべての言葉が文化的・地域的な背景を失ったらそれはそれで恐ろしい。辞書にはクリーンで単調な言葉しか残らないだろう。しかし、言葉が歴史的背景を持つならば、それを全肯定することはできない。なぜなら言葉には、無意識な隠れた「差別」が存在するからだ。
 
 それではアウトな言葉とOKな言葉、基準を設けるとしたらどのように決めるべきか?その答えは「人を傷つける言葉かどうか」ではないだろうか。誰かの心情を侵害してまで守るべき伝統など存在しない。「肌色」と聞いて日本に済む黒人はどう思うだろうか?自立したい女性を「家内」と呼び自分を「主人」と呼ばせることはいいのだろうか?このような視点で「言葉」を捉え直すことが、真に伝統や歴史に向き合う姿勢だと思う。

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Photo by Cristina Gottardi

言葉は生きている

 言葉はその時々の文化や社会によって生み出されてきた。辞書は、人間が作ったものだ。言葉は生きている。だからこそ、ちょうど人間や科学が長い年月を経て進化したように、言葉も時代に合わせて新しくすべきではないか?多様な人々が共に生きる社会の実現のためにも、差別のない明るい未来のためにも、わたしたちは言葉の使い方を今日から改めることができる。わたしたちが言葉の歴史をつくってきたなら同様に、わたしたちは歴史を変えることができるのだから。

Text by Reina Tashiro
ーBe inspired!

 

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