捨てられるべき“愛”を「指輪」へリサイクルさせた花の都パリ

2017.1.24

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数年前、『新しい靴を買わなくちゃ』という映画が公開された。主演の中山美穂と向井理がフランスで出会い、恋をする恋愛映画なのだが、それがまた非常に美しかった。もちろん、偶然男女が出会い、恋に落ちる姿はどの場所でも美しい。が、舞台がフランスであるがゆえにその恋愛はより美しく見えたのだと思う。どんな愛もフランスというだけで“箔”が付くのだ。その理由は「フランスは愛を知っているから」の一言に尽きる。

ロマンティックの街“パリ”を揺るがす「緊急事態」

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Photo by Lisa Norwood

“愛の国”に緊急事態が発生した。なんとパリ市が、パリのセーヌ川にかかる「ポンデザール橋」につけられた「南京錠」を撤去すると言い出したのだ。観光名所ともなっているこの場所は、特に恋人たちに人気のスポットで、恋人同士で訪れ、互いの名前を書いた南京錠を橋の欄干に取り付けると永遠の愛が約束されると言われている。しかし、どうやら無数の錠で埋め尽くされた橋はその重さで崩壊の危機が迫っているようなのだ。恋人たちが思いをはせた鍵の重さは約93トン。(参照元:CNN)これでは撤去も致し方ないと言える。

しかしこれには多くの反対意見もあり、「NO LOVE LOCKS」という南京錠反対のキャンペーンまで行われた。1900名ほどの署名を集めパリ区長に提出するという事態にまで発展したが、最終的にはパリ市は撤去を決めた。(参照元:The Gurdian

パリ市民を納得させた「意外な提案」

ロマンティックな街という印象があるパリという土地柄、撤去が決定した後も多くの物議を醸したこの南京錠問題。しかし意外な形で多くの人々の理解を得ることとなった。そのきっかけはパリ市が提案した“愛を大切にした対応”にある。撤去された南京錠は処分される…と思いきや、それを捨てずに競売にかけ、再販売することにしたのだ。そしてその売り上げは、難民支援のグループへの寄付となる。

販売開始は2017年春を予定しているが、すでに多くの問い合わせがあるようだ。パリ市によると売り上げ見込みは約10万ユーロ(約1220万円)。(参照元:THE HUFFINGTONPOST)多くの恋人が残した愛の証がまた違った愛という形で連鎖していく。この再利用方法に国民からは、多くの称賛の声が上がっていることは言うまでもない。

「100パーセント愛をリサイクル」した「指輪」

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パリ市の試みはさらに続く。当時、たまたま橋の美術修復の担当職員だったフランシスさんは撤去されゆく南京錠に書かれた恋人たちのメッセージを見て、その愛の大きさに感動を覚え、この愛の証をまた別の形で受け継ぐことができないかと考えた。そして出した結論は、なんとこの南京錠を指輪に変えることであった。フランシスさん曰く、「愛の証と言えば指輪だ!」とのこと。早速友人の鋳造職人のもとに南京錠を持ち込み、南京錠を指輪の形に変える方法を模索し始めたのだ。もちろん指輪にはデザインも大事。デザイナーである別の友人に相談してデザインの考案に明け暮れた。

そしてついに南京錠から作られた指輪が完成した。商品のキャッチコピーは「100パーセント愛をリサイクル」。ハート形の鍵穴の空いた南京錠を2つの手が施錠しているデザインがまた愛らしい。南京錠の真鍮は不純物も含まれているため、商品によって偏りがある。しかし、それでも100パーセント南京錠を活かすことを誓い、他の素材を使うことはしなかった。しかし愛と同じように、この一つとして同じ指輪がない特別感がまた“元”南京錠らしさを感じさせる。

フランスには「縁起の悪い愛」は存在しない

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Photo by damonnofar

愛が行き交う街フランス。街中では多くのカップルが抱擁やキスを交わし、それが夫婦となっても子どもの前でイチャイチャするのは当たり前だ。そんな風に愛を大切にする国だからこそ“南京錠を捨てたくない”という想いがあったのかもしれない。だが、それだけで彼らの気持ちを片づけてはならないだろう。そこにはきっと愛を大切にしなければならないという“覚悟”があったはずだ。南京錠をつけたカップルたちも、幸せなカップルなだけではなく、今はもう別れてしまっているカップルだっているだろう。そんな南京錠は、日本風にいうなれば“縁起の悪い”ものであるかもしれない。しかし、そんな南京錠から作られたリサイクル品でもフランス人が「欲しい」と思うのは、彼らが“いい愛”も“悲しい愛”もすべてが大切な“愛”であると認識しているからであろう。

失恋だっていい思い出とはよく言うが、それを受け止めるまでには時間がかかるし、受け止めきれない人もいる。でも、そんな悲しい愛も大切に“100パーセントリサイクル” できるフランス人は、すべての思い出はかけがえのないものであると私たちに示しているようだ。例えそれが自分のものではなく、他人の“愛”であったとしても。誰かが大切にしたそんな愛情は、連鎖をするようにまた他の人をも幸せにしてくれるのかもしれない。

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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