世界を飛び回るコペンハーゲン育ちの日本人クリエイターが明かす、デンマークデザインの神髄


※この記事はウェブメディア「EPOCH MAKERS」の提供記事です。

width=“100%"

東京・代官山の本屋で目に飛び込んできた、デンマーク生まれのクリエイター兄弟「The Inoue Brothers」。圧巻の映像から描かれる独特な世界観。コペンハーゲンのスタジオでの井上聡さんへのインタビューは想像以上にエネルギッシュで、デンマークの核心へと導かれるように僕らは夢中で語りあった。この記事を読み終えたとき、あなたはこの国を嫌いになっているかもしれない。

width=“100%"

井上聡|Satoru Inoue

The Inoue Brothers共同代表

1978年、コペンハーゲン生まれ。グラフィックデザイナーとしてデンマークで活躍した後、2004年に2歳下の弟・清史とアートスタジオ「The Inoue Brothers/ザ・イノウエ・ブラザーズ」を設立。

日本の繊細さと北欧のシンプルさへの愛情を融合させたデザイン。そして、いいものを作って社会を前進させる「ソーシャルデザイン」にこだわる。

今年1/25に初の書籍『僕たちはファッションの力で世界を変える ザ・イノウエ・ブラザーズという生き方』を出版。

▶︎インタビュー&文:別府大河
▶︎現場写真:Natsuko&別府大河
▶︎TOP写真デザイン:山田水香
▶︎写真提供:The Inoue Brothers

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

width=“100%"

width=“100%"

width=“100%"

width=“100%"

デザインムーブメントのカラクリ

ー「Style can’t be mass-produced…(スタイルは大量生産できない)」僕はこのコピーが大好きで。The Inoue Brothersのどのプロジェクトを見ても、まずどれもカッコいい。とにかく心が動かされるんですよね。

僕たちがやるのはソーシャルデザインだけど、その前提としてクリエイティブにものすごく力を入れているんです。どれだけ社会的に素晴らしい活動をしても、人の心を打てなかったら結局は届きませんから。

あと、そういうものをつくっていると共感してくれる人が増えて、自然と感度の高い人たちが集まって来てくれるんですよね。しかも多くの場合、「お金」ではなく「物やスキル」を交換して創作していて。だから、あんなクオリティの高い映像をつくるのも、お金はほとんどかかっていないんですよ。「ギャラは払えないけど、交通費とホテル代を出すから一緒に来てくれない?」これが、世界屈指のフォトグラファーや映像ディレクターとのやりとりで。

width=“100%"

もちろんそうやって僕らを信頼して投資してくれた仲間には必ず恩返しをします。その後も仕事をお願いしつづけるし、僕たちも常にカッコいい仕事をすることを約束する。そして、僕らの評価が上がったら、仲間のみんなのことも広める。

このスタンスは、僕らがアンデスの奥地でやり取りしているアルパカセーターの毛皮の生産者の方々とも同じで。実際に生産者に会いに行って、家族や親友のように仲良くなる。そうして築いた信頼関係の上で、生産者と直接取引する「ダイレクトトレード」をして、売上を還元しています。

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

ー人の心を打つ創作活動(=クリエイティブ)も、社会問題を解決する活動(=ソーシャルデザイン)も、「信頼の上で直接やり取りして創作する」ことはまったく同じなんですね。

実はこのやり方って、アーネヤコブセン(アルネヤコブセン)やフリッツハンセン、ルイスポールセン、ハンスウェゲナー(ハンスヴィーイナ)、フィンユールといった、デンマークデザイン界のレジェンド(巨匠)たちの創作のやり方でもあって。彼らも「友達だから」「仲間として」とよくコラボレーションをしていたんですよ。

たとえば、アーネヤコブセンがデザインした部屋の中にはルイスポールセンの代表作「PHランプ」が、ルイスポールセンの照明がメインの部屋の椅子は全部アーネヤコブセンだったり。こんなの、どんな大企業でも予算オーバー。でも、アーネヤコブセンとルイスポールセンは親しくて、直接のそういったやり取りがあったから、こんな豪華な空間をつくることができた。

そして、そんなルイスポールセンのPHランプも、ネジの職人や電気コードの職人とネットワークから生まれているんです。一流のものをつくる人がそれぞれネットワークになって、大きなムーブメントを起こしたんじゃないかと。デンマークデザインを裏側から覗くと、レジェンドたちにはシェアの思想があったことがわかるんです。これって、どんな業界のどんな立場の人であろうと、誰にでもできることだと思うんですよね。

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

クリエイティブである必然性

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

ー世界中を席巻しているデンマークのデザインはそういった中から生まれてきたんですね。そもそも聡さんはどうやって育ったんですか?

日本人の両親のもと、ぼくと弟の清史はコペンハーゲンで育ちました。高校卒業後、清史はロンドンの美容師学校「Vidal Sassoon(ヴィダルサスーン)」へ、僕は国内最高のデザイン学校「The Danish Design School(デンマークデザインスクール)」へ進学。

期待を膨らまして入ったものの、学校のレベルがあまり高くなく、学業の傍ら広告代理店でインターンシップを始ました。その後、1997(8)年に大学を中退してグラフィックデザイナーとしてコペンハーゲンの広告代理店に就職。

20歳のとき、当時最前線で活躍していた同世代の仲間5人とデザイン会社を起業しました。とにかく世界一のグラフィックデザイナーになろうと。結果、バング&オルフセンやフリッツハンセン、ロイヤルコペンハーゲン、カールスバーグなど、デンマークのあらゆる大企業と仕事をやれるまで登りつめました。

width=“100%"

ースピード感が凄まじいですね。

デンマークのいいところは、スキルさえあればすぐにチャンスが巡ってくるところ。なぜなら、国の社会経済が発展しているので、流通が整備されていて、ネットワークが張り巡らされているから、クオリティの高い仕事をしたら瞬く間に有名になれるんですよ。しかも、国が小さくて人口も少ないから競争相手も多くない。

さらに地理上、デンマークはヨーロッパ大陸と北欧の結節点にあるから、もともとインターナショナルなマインドもある。何をやっても否定されない文化も根づいている。こういう環境だからこそ、デンマークにはいいデザイナーやアーティストが育っているんだと思います。そして、僕もその恩恵を受けたひとりなんです。

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

葛藤。そして新たな挑戦へ

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Pacomarca

ー実際にトップまで駆け上がった聡さんだからこそ説得力があります。その後、どういう経緯でThe Inoue Brothersをつくったんですか?

デンマークの頂点が見えてきて、次はヨーロッパ、世界へと進もうとしていたときに、仕事に違和感を抱くようになったんです。仕事の内容や規模が大きくなっていくほど、打ち合わせは契約書の確認になっていき、デザインはまず最初にコンプライアンスに準じないといけなくなったり。「全然自由にクリエイティブな仕事できないじゃん」って。

弟もヴィダルサスーンで当時史上最年少でアートディレクターに就任。華々しい活躍の裏で、彼も似たような不満を抱えていたんです。それを機に、僕はデザイン会社を解散し、2004年に弟と貯金をすべてつぎ込んで「The Inoue Brothers」を設立。

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

「クライアントのもとで仕事はしない」「投資家も入れない」、そして「単なるデザインではなく、社会に貢献するソーシャルデザインをしよう」とだけを決めて始動。

大量生産が社会を破壊するのが明らかになりつつあった当時。アメリカの電気自動車メーカー「テスラ」、デンマークなら風力発電機メーカー「ヴェスタス」らが先導して、社会問題をデザインで解決する「ソーシャルデザイン」の世界的なムーブメントが僕らを後押ししてくれたんですよね。

でも今思えば、僕らを動かしたのはそれだけじゃなかった。ソーシャルデザインを突き詰めていくと、その思想はデンマークデザインの根本でもあったんですよ。

People’s Design

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

ー「ソーシャルデザイン」と「デンマークデザイン」はどういったつながりがあるんですか?

レジェンドと言われるデンマークのデザイナーには共通して、「People’s Design(人のためのデザイン)」という考え方があったからだと思います。無駄なものを削ぎ落とし、余計なコストをかけない。機能性を大切にして、値段が高くても一生使えるように長持ちさせる。彼らの作品は、使う人の姿をどこまでも想像して、愛情を込めてつくられているんです。

ーなぜそもそもデンマークのデザイナーにはそういった考え方があったんですか?

デンマークが農業国家だからだと思いますね。国民の大半は農家。仕事熱心で、道具が好き、道具には機能性を重視します。日中は外の寒い畑で働いたら、夜は家に帰って家族と心地いい時間を過ごしたい。だから、落ち着く暖色の明かりの中で、お気に入りの家具と過ごすライフスタイルが育まれました。

それらすべてのデザインの主人公は「人」。物は「人生と家族と環境」を楽しむための道具だったんです。

width="100%"
奥さんのUllaさんはとてもチャーミング。

レジェンドたちがさらに面白いのは、職人気質の傾向が強まりつつあった中で、ある程度の量産を始めたこと。素晴らしいものを数少ない人に楽しんでもらうより、たくさんの人にいい家具を使って素敵な人生を送って欲しい。そういった思いから、アーネヤコブセンらデザイナーは、質を保ちながらも工場で生産できるようにした。

デンマークデザインは、どこまでも「人のためのデザイン」だったんですよね。だからこそ今もなお、世界中でこんなにも多くの人々に愛されているんだと思います。

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

光があれば影がある

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

ー洞察が深くて面白いです。デンマークのデザインは、「人のため」の積み重ねだったんですね。一方で、デンマークのデザインは現在、かなり大企業化していますが、それはどういうことなんですか?

実はそこにもデンマークらしさが滲み出ているんです。デンマークの強みといえば、デザイン以外に貿易があります。この歴史をひも解くと、デンマークの負の側面が見えてくるのと同時に、この国の本当の魅力がわかってくるんですよ。

デンマークは海賊ヴァイキングの名残か、常にその時に一番強いところと組む性質があるんです。「ヒトラーが強そうだからヒトラーと組もう」「ヒトラーが負けそうだから次はイギリスだ」と。

たとえば、アメリカのブッシュ大統領がイラクを攻撃し始めた時、全世界で唯一株価が跳ね上がったのが、デンマーク最大の貿易会社「A.P. モラーマースク」。理由は、アメリカの武器を運ぶのがマースク。戦後、建物を直す物資を運ぶのもマースク。だから僕らの周りは全員マースクが嫌い(笑)。

width="100%"
Photo by Robert Lawrence

翻って、今のデンマークのデザイン。これがここまで売れ始めたきっかけは、日本とアメリカでの北欧ブームが大きいと思います。それを機にどんどん商業化して、今やほとんどの有名なデザイン会社はアラブか中国の投資家が持っている状況。デンマークのデザインは、一番強いところ(=お金持ちのアラブや中国)と組んだことによって、自らの手を離れて形骸化してしまった。

だから、「人のためのデザイン」が生まれたのもデンマークの文化だし、そうでなくなってしまってるのもデンマーク人の昔からの考え方だと思うんです。デンマークが面白いのは、こんなにも善悪がはっきりしてるところなんですよ。

width="100%"
Photo by Isa Jacob

width="100%"
Photo by Isa Jacob

すべては「信頼」から

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

ーこんなインタビューは初めてで、刺激的です(笑)。聡さんはデンマークのことを客観的に観察しながらも、デンマークの素晴らしいところを受け継いで活動しているところが面白いですね。

The Inoue Brothersはソーシャルデザインにこだわろう、「人のためのデザイン」を突き詰めようと立ち上げましたが、特に当てがあったわけではありませんでした(笑)。そんな時、デザイン会社を解散したばかりの僕を、ある研究者が見つけてくれたのがきっかけでした。

その人の研究内容は「アルパカの毛皮は世界一高級なのに、アルパカと共に生きる人々はなぜ南米で一番貧しいのか?」。彼が10年以上研究して出した結論は「原因は、ブランディングとデザインが発達していない教育」でした。そこで僕に「交通費が自腹でよければ、すべて案内するから来ないか?」と。僕はふたつ返事で「行きます」。

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes|研究者のAlonso

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

35時間かけてたどり着いたアンデスは、標高5000メートルの高地。着いてまもなく、生活すらままならないはずの人たちが、家からパンなどあらゆるものを出してきて、すごく温かくおもてなしをしてくれたんです。それはあまりにも衝撃的で、感動的で。僕はデザインを教えに行ったはずなのに、本当の愛や人生で大切なものを彼らから学んで帰国。

すぐさま弟にそのことを伝え、2ヶ月後、次はふたりでアンデスへ行き、アルパカセーターのプロジェクトはスタート。毛の刈り方を指導し、世界最高級のセーターを実際に見せるなど様々な試行錯誤の末、普通は40〜50年はかかると言われている最高級のアルパカセーターの制作を10年で実現に成功し、たくさんの方々に届けられるようになりました。

そして現在、僕たちはアルパカセーターと同じように、自分たちが本当にいいと思った鹿児島の陶器をフランス人アーティストとコラボでつくったり、東北で白いTシャツを生産過程にこだわってつくったり、世界でも希少なローコットンから衣服を作るプロジェクトも進めてます。もちろん全部ダイレクトトレードで。

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

width="100%"
Photo by Robert Lawrence in Andes

ー幅広い活動をされながらも、The Inoue Brothersの軸は本当にブレませんよね。

すべての活動のベースは「信頼」なんです。生産者やクリエイターとの信頼関係があることはもちろんのこと、僕らは流通の人とも絶対に価格交渉しません。僕らに提案してくれた価格は、きっと職人さんが悩み抜いて出してくれたもの。もし下げるとなると、その職人さんの仕事のクオリティが落ちてしまう。アンデスの山奥でも日本だろうとデンマークだろうと、これは僕らの普遍的な哲学です。

クオリティの高いものをつくるには、仲間の信頼に応えてこちらも信頼することが大切だと信じています。だからこそ、デンマークデザインはレジェンドたちのコラボレーションによってここまで発展した。そして、僕らも彼らのように、こんなシンプルでカッコいいやり方で、「人のためのデザイン」を生み出し続けていきます。

The Inoue Brothers…出版記念
「デンマーク育ちのクリエイター兄弟が紡ぐ本当のエシカルと新しい生き方」EPOCH MAKERSコラボイベント

会期 2018年03月06日(火)
定員 50名
時間 19:00~20:30(開場18:45~)
ゲスト 井上聡さん 、石井俊昭さん、 別府大河さん
場所 TSUTAYA TOKYO ROPPONGI 2F 特設イベントスペース

参加費 書籍購入で無料 or 500円
共催・協力 PHP研究所
申込方法 Facebookイベントページより「参加」ボタンを押す

width=“100%"

EPOCH MAKERS

デンマークに聞く。未来が変わる。

Website

世界の片隅で異彩を放つ、デンマーク。この小さな北欧の国は、情報化がさらに進んだ未来の社会の一つのロールモデルになり得る。EPOCH MAKERSはその可能性を信じて、独自の視点から取材し発信するインタビューメディア。

EPOCH-MAKERS

Text by Taiga Beppu
ーBe inspired!

 

Untitled design (1)
この記事が気にいったら
いいね!しよう
Be inspired!の最新情報をお届けします