ハゲた殿方に「ハゲ!」と伝えて差し上げるのも愛なのです。|【連載3】ドSクリエイター菅原の「To the loveless.(愛を失くした人たちへ)」



ヘンタイの皆さん、ヘンタイに興味のあるノーマルの皆さん、ごきげんよう。ブランドリームス代表/コピーライターの菅原瑞穂です。(※彼女が何者なのか知りたい方はこちら
 
前回は「まつ毛は本当に“多くて長くて太い”方が幸せなのでしょうか?」と題し、フサフサまつ毛を偏重する世の中に苦言を呈しました。今回は「毛の話 ~男性編~」として、頭皮に生える毛の多寡について、つまり「ハゲ」や「薄毛」や「AGA」とか呼ばれる状態にフォーカスし、「ハゲた殿方を“そんなことないですよ”等と慰める行為は優しさなのか?」という新たな問題提起をしたいと思います。


 
 
まずは千葉県でいちばん顔が大きな友人の話をお聞きください。

わたくしの愛すべき友人である、千葉県でいちばん顔の大きな男の話をいたしましょう。
 
小さいながら工場を営む経営者でもあるN君。夫として父として妻や子を愛し、社員のことも家族同様に大切に扱い、勉強熱心で何ごとにも真摯に取り組む彼は、嫌うのが難しいほどの好人物です。
 
わたくしがとあるパーティでN君に会ったのは5年ほど前、東日本大震災から数ヶ月過ぎた夏の日のことでした。当時既にN君は、周囲の同業者から「顔が大きいひと」として広く認知されておりました。誰もが気軽にN君の顔面積の大きさについて話題にし、N君自身もそれをネタに笑いを取る。そこには気まずさも悲壮感もなく、幸せな笑いだけがありました。
 
初対面から程なく、N君の「顔の大きさ」がオープンになった経緯を聞く機会がありました。かつてはN君も周囲の人々も、N君の顔の大きさに言及するのは避けていたそうです。周囲はN君に対し終始気を遣い、N君は気遣いを感じ取って居心地の悪さを感じる。そんなよくある状況を一変したのが、同業の工場経営者A氏との出会いだったそうです。初対面の場で、A氏はN君に向かって「お前の顔めっちゃでかいな!」と言い放ったそうです。
 
「顔でかい」と面と向かって言われた瞬間、N君が感じたのは羞恥でも怒りでもなく、“開放感”だったそうです。「Aさんに思いっきり『顔でかい』って言われたときから、僕は楽になったんだ!」とN君は当時を振り返ります。A氏の「顔でかいな」発言が優しさゆえのものなのか、あるいは単に思ったことを口に出す性格ゆえか、わたくしには分かりません(後者である気はしますが)。A氏の意図はどうあれ、その一言はN君を何かから開放し、今日も彼はSNS上で清々しく顔の大きさをネタにしています。
 
本人の名誉のために書きますが、N君は決して“罵られて喜ぶ”タイプではありません(たぶん)。人並み外れて繊細な彼にとって、周囲の気遣いこそが小さな痛みの種だったのでしょう。小さい痛みでも、日常的に痛みを感じる生活は楽ではない。その痛みから、そして痛みを我慢し続ける自分自身からもN君を開放したのが、A氏の「顔でかいな!」発言でした。

 
 
善人ヅラした悪意のフレーズ「そんなことないですよ」

言葉で生計を立てているわたくしは、いくつかの言葉を“死んでも使うまい”と心に決めています。その1つが「そんなことないですよ」。憎んでいると言ってもよく、このフレーズを多用する人間のことも大概は嫌いです。「嘘つき!」「偽善者!」と思ってしまうのです。
 
何故わたくしが「そんなことないですよ」を憎むのか。それはこのフレーズには愛がないからです。他人を傷つけまいとこの言葉を発する人は、往々にしてこの言葉で相手をチクチクと傷つけます。善人ヅラした悪意。それが「そんなことないですよ」の本質だとわたくしは思っています。
 
例えば、職場の隣の席に頭髪薄めの殿方が座ってらっしゃるとします。“薄いかどうか微妙”とか“雨に濡れた時だけ薄く見える”レベルではなく、誰がどの方向から見ても薄いレベル。その方からある日突然、「最近薄くなってきちゃって」と話しかけられたら、あなたはどうしますか?「そんなことないですよ」と否定してあげれば、その方は「そっか。俺そんなに薄くないのか!」とハッピーになると思われますか?「そんなことないですよ」などという薄っぺらいフォローのお陰で頭髪が増えたりするのでしょうか?

 
 
「そんなに薄くないですよ」と言われて「そうかな?」と思うハゲはこの世にいません。

わたくしが知る限り、殿方が自ら自身のコンプレックスについて語り出すときは、それを否定して欲しいときではなく、肯定して欲しい時です(女性に関しては否定して欲しいコンプレックスについて自ら語りだすめんどくさい方も多くいらっしゃいますが)。
 
殿方は、基本的にいくつになっても中学2年生。彼らは、褒めて欲しい時に自ら自分をけなすような回りくどいことは滅多にしません(褒めて欲しい時、彼らは分かりやすく“自慢”するので)。仕事の上での失敗など、クリティカルではない話題に関しては「大丈夫だよ」とか「そんなことないよ」等の軽い否定を求めていることも多いですが、こと身体的な特徴に関するコンプレックスについては、否定ではなく肯定して欲しい時にしかまず口に出しません。
 
ですから、例えば頭髪薄めの殿方が「僕ってハゲてるからさ」とか「最近薄くなってきちゃって」等と言いだしたとき、その事実を否定する気遣いは必要ありません。「そんなに薄くないですよ」「えっ!そうですか?」「全然気づかなかったです!」等。優しさや気遣いでできているはずのその言葉は、刃となって殿方のハート(と頭皮)に突き刺さります。残り少ない貴重な頭髪の100本や200本は消し去ることのできる威力をもって。
 
断言します。ハゲた殿方に対する「そんなに薄くないですよ」等の無意味な慰めほど愛のない残酷な行為をわたくしは知りません。言われた人をチクリと傷つけ、場の空気を凍らせ、毛根に回復し得ないダメージを与えるのです。

 
 
ドS以外の方も使える魔法の言葉「なにかあったの?」

頭髪薄めの殿方が「僕ってハゲてるからさ」等と言いだした場合の100点満点の返しは「なにかあったの?」です。くどいようですが「そんなことないよ」等はいけません。ダイレクトに「なにかあったの?」と返しづらい場合(大勢の飲み会でワイワイ盛り上がってる時に突然言われた等)は、「ハゲ…てないこともないし、否定はしないけど…なにかあった?」等、場の雰囲気に合わせたクッション言葉を適宜挟んだ上で「なにかあったの?」と聞いてあげましょう。
 
その後のコミュニケーションは、お互いの関係性(恋人、友人、上司、等)によって変わってくるはずですが、意識すべきことは共通しています。第一にハゲを否定しないこと。「そんなにハゲてないですよ!」という言葉自体が「ハゲ=かっこ悪い」という前提条件に基づくのだと心得ましょう。第二に聞き役に徹すること。あなたが男性の場合はなにかしらの解決策を提示したくなるでしょうが、それは話を聞き終えてからすれば良いこと。聞き役に慣れていない男性は「俺だっていつかハゲます。他人事ではないですよ」と伝えラ・ポールを築きましょう。
 
既にお気づきかもしれませんが、「なにかあったの?」はハゲ以外のコンプレックスにも効く万能のセリフです。「僕なんて太ってるし」「僕ってブサイクだし」「僕って背が低いし」等々。身体的特徴に関するネガティブな発言が殿方から発せられたら、すかさず「なにかあったんですか?」と返して差し上げましょう。

 
 
自分の、そして他人のコンプレックスを肯定せよ

余談ですがわたくしが「僕ってハゲてるからさ」等と言われた場合、まずは「見ればわかるけど、なんなの?」と返します。「僕なんて太ってるし」「僕ってブサイクだし」に対しても同様に「見ればわかるけど、なんなの?」です。「僕って背が低いし」に対しては「わたくし背が低い人のほうが好き」と伝えるかもしれません(事実そうなので)。お相手がMっぽい場合は、「うん、知ってる。ハゲ(デブ、ブサイク、チビ)って罵ってあげようか?」と返して反応を見ます。
 
「罵ってあげようか?」に対し、肯定的な反応が返ってきた場合はいわゆる「言葉攻め」フェーズに移行します。「言葉攻め」は単に悪口を連ねる行為だと誤解されがちですが、わたくしは「言葉攻め」を、相手のコンプレックスを肯定した上で相手を罵る行為、だと考えています。コンプレックスの「否定」ではなく「肯定」に基づく点で、単なる悪口や罵詈雑言とは本質的に異なるのです。
 
誰もがコンプレックスを持っています。家柄、学歴、仕事、恋愛、結婚。すべてにおいて満たされた人生を歩んでいるように見える人にも、コンプレックスは必ずあります。誰もが持つコンプレックスを否定し続けるか、肯定した上で努力できるかで、人生の道筋は大きく変わるとわたくしは考えています。そして、コンプレックスを自分以外の他者に否定されるか肯定してもらえるかによっても、私たちの人生は大きく変わります。
 
「あなたハゲてきたからカツラかぶってよ!」という恋人と、「ハゲてきたけどやっぱりあなたが好き」という(あるいはハゲをネタにいじってくれる)恋人。あなたならどちらと一緒にいたいですか?
 
迂遠な話に聞こえるかもしれませんが、一人ひとりが自分のコンプレックスを認め、そして他人のコンプレックスをも受け入れられるような社会とは、すなわちどんな差別も存在しない社会なのではないでしょうか?

 

 
株式会社ブランドリームス 代表取締役/コピーライター菅原 瑞穂氏

2010年に社会貢献ビジネス専門のブランディングエージェンシー「ブランドリームス」を設立。
 
2014年以降はエシカル、マイノリティ支援、動物愛護、地域活性化に特化して、ロックでセクシーなコンセプトを掲げた社会改革に従事している。
 
現在は、「SMにエシカルを。エシカルにSMを」コンセプトに『To the loveless.(愛を失くした人たちへ)』というREBELでCRAZYでSEXYな社会変革プロジェクト立ち上げ活動中。
 
過去のインタビュー記事はこちらから。

 

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