#004 幸せって友達よりも稼ぐことだっけ?“沈みゆく島”ツバルに行って「幸せの方程式」を知った日本の若者たち|「世界は気候変動で繋がっている」。若き環境アクティビストのリアルな声。by 350.org


「環境活動=まじめ=つまらない」。そんなイメージを吹き飛ばす環境NGOが日本に存在する。それが「国際環境NGO 350.org Japan (以下、350)」だ。

年齢、職業、性別、人種もとにかく多様。下は6歳の子どもから上は70代のおばあちゃんまで。また、シングルマザーや障がいをもった人、外国人もメンバーにいる。そこで主体的に動いているのは主にミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた世代)の若者たち。

少しでも多くの人に、楽しみながら環境活動ができることを知ってもらいたい!そこで、Be inspired!では、以前本誌でも紹介した350のフィールド・オーガナイザー イアンが、350の活動に関わる人をインタビューする連載をお届けする。その名も『「世界は気候変動で繋がっている」。若き環境アクティビストのリアルな声。by 350.org』。

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350のフィールド・オーガナイザー イアン

 連載4回目の今回は、350のボランティアメンバーである、ニーナとサトシとの対談。2人はイアンと共に、海面上昇の影響で世界で一番最初に沈むと言われている島国「ツバル」に2か月間(1月〜3月)行き、島民のインタビューやマングローブの植林、ドキュメンタリー動画の撮影などをしてきた。

 未来の見えない国に暮らしながらも、底抜けに明るい人々と触れ合って見つけた自分なりの”幸せの基準”、そして自分達ができる環境活動について語り合った。

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左からサトシ、イアン、ニーナ

 東京都内の田舎、羽村市に生まれて川と山で遊んで育ったサトシ。オーストラリアにて環境学を学んだ後、今は環境専門の広告屋さんを目指して、ネット広告会社に勤務。浅草で友達と一緒に古民家に住んでいる。

 もう一人は愛知県生まれで、ミシガン州のデトロイト育ちのニーナ。デトロイトは、彼女いわくとても危険な街らしい(実際にアメリカで最も治安が悪いと言われている)。ツバルへ行くために、仕事を辞めて頭も剃った。現在はメディア関係の仕事を探し中。

▶︎350.org Japanイアン氏のインタビュー記事
『「日本の銀行が環境破壊に加担する事実」を知らない日本人へ。25歳のアクティビストが提案する解決策とは』

世界一つまんない国「ツバル」

イアン:ツバルに行く前にツバルにどんなイメージを持ってましたか?

サトシ:高校の授業でツバルの写真を見た。白い集会所の前に灰色の海水が上がってきているやつ。シンプルに言うと、めっちゃ暗いイメージがあった。“沈みゆく悲劇の国”みたいな。とにかく沈むっていうイメージが先行してて、なぜか人がいるっていうイメージがなかった。

ニーナ:350のイベントで初めてツバルのことを知ったんだけど、私も島にはあまり人がいないイメージがあったし、沈んじゃうんだ、かわいそうって思ってた。

あと、「ツバル やること」っていう言葉を検索したら、一番上にブログが出てきて、そのタイトルが「ツバル、世界一つまんない国」だった。

イアン:すごい言われようだな笑 自分もメディアの報道をそのまま受け取っていて、「沈む国」というイメージ強くて、みんな悲しみにくれているんだと思ってた。

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ご飯が美味しくなくても、選択肢が少なくても、幸せな国

イアン:それぞれ実際にツバルに行ってみてどんな印象を持った?

サトシ:イメージしてた暗い雰囲気とは違ったな。飛行場から出た瞬間からめっちゃ賑やかで、活気があって。ヤシの木や色んな植物が生い茂ってて、家もすごいカラフルだったし。

ショッキングだったのが、普通に歩いてると、目があったら誰とでも会話が始まるみたいな。もうタロファ*1を言わずに通りを歩けなかった。

ニーナ:私は、第一印象はすごい貧困に見えた。特に豚小屋とかが滑走路の横にあって臭くて。ご飯はあまり美味しくないし、バリエーションも少ないし。一つの家に大勢住んでるし。でも2ヶ月くらい滞在していると、先進国ではないけど、貧困ではないなと思った。島の人たちはしっかりと生きる術を持っていて、例えばその日食べる魚は自分で獲ってきたりして、たくましく生きてた。日本に比べると「暮らしの水準」は低いし、色々なことの「バリエーション」は少ないかもしれないけど、みんな幸せそうだった。

サトシ:みんなお腹はすいてない。ホームレスもいないし、無職でも生きていけるし、そういう人たちも別に疎外されていないのが日本と全然ちがう。

イアン:疎外されないどころか、無職の人や障害がある人を、家族とかコミュニティが協力して支えているのを見て、自分はすごい感動した。あとは海がやっぱ綺麗だったな〜。

サトシ:うん、後はやっぱり島が小さいよね。コーズウェイ*2とか、すごい印象的だった。首都のフナフティの大部分が、幅10数メートルしかなくて、視界の中に右側の海と左側の海が入ってくるのがすごく衝撃的で、ツバルが気候変動に対してすごい脆弱だというのを確かに感じた。大きな波でもきたらひとたまりもない。

ニーナ:島民の人も島が脆弱だってすごい感じてる。すごい小さな島だし、これは確かに沈むかもしれないな、って私も思った。

(*1)タロファとはツバル語で「こんにちは」。「私たちはお互いを愛し合ってますよね」というニュアンスがある

(*2)コーズウェイは首都のあるフォンガファレ島の北部に位置し、海岸から反対の海岸まで2mほどしかない場所

沈むより先に、住めなくなる

イアン:実際に気候変動の被害はどうだった?

サトシ:俺が行った時は、キングタイドっていう一番潮が高くなる時期で、飛行場の滑走路や、普通の集落でも海水が地面から湧き出てて、歩くのが大変になる高さまで冠水してた。

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イアン:ツバルはサンゴ礁でできた島だから地盤が結構スカスカで海水が湧き出てくるんだよね。

サトシ:すごく印象的だったのが、水たまりで子ども達がバシャバシャ楽しそうに遊んでたこと。子ども達はめっちゃハッピーなんだけど、実はその水溜りはかなり汚ない。ツバルってトイレが垂れ流しの場合が多くて、ゴミも多いし、そこを楽しく遊んでるんだけど、あの水は飲んだりしたらすごくやばいはず。

イアン:俺もそれこを歩きながら、絶対うんこ混じってるなーと思ってた(笑)ツバルは真ん中が凹んだ形状になっていて、その部分の海抜がとても低いから、大潮が来ると海水が湧き出てきて浸水しちゃうんだよね。近年、その被害は大きくなってきてるって島の人たちが言ってたな。

ニーナ:そうそう。浸水していた地域に住んでるおじさんが言ってたけど、昔は足首辺りまでしか水が上がってこなかったらしい。でも今は膝あたりまで来てるって。

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サトシ:実は海面は上昇していなくて、都市化したツバルの地面が沈下してるだけなんじゃない?っていう説があるけど、それはデータで違うことが証明されている。日本では「ツバルが沈むのか沈まないのか論争」みたいなのがあるけど、現実を見て欲しいなと思った。人々はすでに海面上昇による被害を受けていたからね。

イアン:そうだね。きちんと調べれば、海面の上昇が地盤の沈下をはるかに上回っていることがデータでわかる。そして言う通りで、例えば1980年前までは地下水を引けた井戸が、海面が上昇したことで今は海水しか取れなかったりと、生活に大きな影響を及ぼす被害がすでに出てたね。

データだけで論争を完結しようとするのは、不完全すぎるなって思った。現地の「リアル」な現状を見て、島の人の声を聞くことが大切だよね。

ニーナ:そうだねー。島の人から海面上昇以外には、気候変動の影響で季節が変わったせいで、まとまって雨が降ることが少くなって、干ばつが頻発するようになったって話もあったな。あと、サイクロンが怖いって言ってた。途上国だから、家とかしっかりしてないし。嵐の時には風が隙間から入ってきて怖かった。

イアン:100年くらいしたらツバルは「沈む」と言われているけど、その前に暮らしの条件がどんどん厳しくなっていって、人が住むのが難しくなってくだろうね。そう思うと確かに「悲劇の島」なのかなーとも思ってしまう。

次の世代のための移住か、ツバル文化とともに沈むか

イアン:今回はツバルの人々にインタビューしてきたけど、島の人たちはどういう風に気候変動の影響を受け取ってた?

サトシ:今回は 50人ぐらいに気候変動についてインタビューしたんだけど、受け取り方は人それぞれだったかな。海面上昇を体感している人や海外の大学に行った人とかは、気候変動でツバルに危機が訪れているのを知っていて、それに向けて準備はしといた方が良いだろうと言ってた。

海面上昇が起きてツバルが沈んじゃうなって人の中でも2つくらいに分類できて、「ツバルと一緒に沈みます派の人」と、「次の世代をことを考えると移住した方が良いよね派の人」。あとはもう単純に「ツバルは沈まねぇよ」みたいなおっちゃんとかもいた。

ニーナ:ツバルが沈んだ場合でも、移住しないでツバルと一緒に沈むっていう人が、おじいちゃんおばあちゃんだけじゃなくて、若者にも多いのが印象的だった。移住したらツバルの文化はどうしてもなくなっちゃうから、どうしても移住したくないですっていう。

そして「危険は感じるけど、神様に救われます」っていう人が、かなり少数派だけど、確かにいたね。ツバルには実はキリスト教が根付いていて、それを言っていたのはトランプ支持者の神父さんだったけど…

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島でメカニックをしているシーラ氏

サトシ:俺が印象的だった人は、島のメカニックでバイク修理をしているシーラさん。30歳中盤くらいで、シーラさんはツバルが沈むというのは信じている。彼には1才の息子がいて、ツバル文化を失いたくないから移住は嫌だけど、次の世代のことを考えると移住せざるをえないって言ってた。

あと、ツバルってバイクが結構走ってて、食べ物とかも結局輸入品に頼っているところもあるし、「ツバル人である自分たちも気候変動に加担している」って言ってたんだよね。

だからと言って、今ある生活を変えるのは難しいから、再エネ(地球環境に対して負荷の少ない自然界のエネルギーである「再生可能エネルギー」のこと)に移行してはどうかっていう考えを持っていて、すごい先進的だと思った。

ニーナ:私は、みどりっていう23歳の女の子の話はすごい心に刺さったな。ツバルのことを愛しているけど、ここはいつか海の下に沈んでしまうから、より豊かな生活と、安全な未来を求めて私は絶対に海外に住んで、そこで家族を育むって悲しそうな顔をしながら言ってた。

イアン:みんなツバルのことを愛しているのがインタビューで伝わってきたよね。でも島の人々にとって気候変動や海面上昇が、人生を左右するほどにリアルな問題であったことに、自分は驚愕した。今の日本ではありえない感覚だなって。福島では実際にそういう問題が今も起きているんだけどね。

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幸せのなり方に迷いのないツバル人と、選択肢が多すぎて混乱している日本人

イアン:ツバルにいる間、口を揃えて「この国は人々の幸福度がめっちゃ高い」って言ってたじゃん。それはなんでだと思う?

ニーナ:インタビューした人たちに「幸せですか?」って聞くと、全員が「幸せです」と即答だったのには本当に驚いた。「幸せです」どころか、「めっちゃ幸せです!」って元気そうに答えてた(笑)それが衝撃的で、なんでこんなシンプルな生活なのに、こんなに幸せになれるんだろうって思った。

イアン:同じ質問を日本人にしたら即答する人は果たしてどれくらいるんだろうね?

サトシ:おれは、やっぱりツバルの人々は幸せへのハードルが低いのかなって思った。良い意味で!

日本に生まれて、学歴社会で、子どもの頃から勉強して良い学校に行きなさい、それで次は良い会社に入って良い生活をしなさいみたいな。良いものを求められて、自分も良いものを求めてしまう。良いことがあった時に素直に喜べずに、次の良いこと、もっと良いことを考えてしまう。でも、ツバルの人たちは日々の些細なことに幸せを感じている感じだった。

イアン:すごいわかる。生きていければ良い。それが幸せなんだ。っていう考えに揺らぎが無かったよね。それは裏返すと、彼らはどう幸せになれば良いのかっていうのに一切混乱がないんだと思う。日本だと選択肢が多すぎるから幸福をどう得るのか混乱してる。

日本では、競争のなかで物事を図ろうとする傾向があると思う。例えば友達のはずなのに、年収を比べて、俺の年収低いみたいな。その手前で、この人と自分が友達であるという関係性をもっと大事にすべきでしょ。それを嬉しく思うことが、幸せなんじゃない?って思った。単純に「周りの人は大切に」ってことだね。

ニーナ:うん。向こうにいて日本人は、一番の幸せへの近道であるはずの家族や友達とかそういうところを置き去りにして、仕事を追いかけてるって思った。

ツバルだったら、家族と一緒に暮らすことが一番の幸せだって言ってるのに、今の日本だったら、社会人で親と一緒に暮らしていたら少し引け目を感じなければいけないというのが、ちょっとおかしいかもと思った。

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幸せを推し量る基準を手に入れた。目指すはツバルのおばちゃんの笑顔

イアン:ツバルから帰ってきてなにか考え方は変わった?

ニーナ:実はツバルに行く前は、東京で私はすごい不幸を感じていて。全部東京のせいにしてた。「東京が嫌」、「東京のこれがやだ」って。それが広がって、「日本がやだ」、「日本人のこういうところがやだ」になってた。私も日本人なのに、嫌になってきちゃってて、とにかく日本を出たいと思ってた。

ツバルに行ったら、すごいみんな幸せで、自分も幸せを感じて。最初はもう日本に帰りたくない、ツバルに住めたら良いなーって思った。

イアン:帰ってこないつもりだったんだ(笑)

ニーナ:そう。東京に帰るのが恐怖になってきて。またアンハッピーに戻っちゃうって。でも実際に帰ってきて、一週間経ってもツバルで感じていた幸せが残っていた。なんでだろうって考えてみたら、ツバルで私の幸福がどこからくるのか学んだから、ツバルにいなくても、東京でも幸せでいられるんだろうなって思った。本当に、人生変わりました。

イアン:それすごいわかる。日本にいると、「この人は幸せなのかな?」っていうのがわからないじゃん。幸せを推し量る対象がなかなか見つからなくて、なにが幸せなのか、理解する基準が定まらない。朝の電車乗ってるとみんな幸せそうじゃないし。日々人々があまりにも忙しそうで。

でもツバルにいって、道端でゆっくり歩きながら「タロファー」って満面の笑みで言ってるおばちゃんを見ると、そうか、これこそが「幸福」という状態なんだなって腑に落ちた。この人は幸せのものさしで見た時の最上級に位置しているんだなって(笑)それが今日本に帰ってきてからも、幸せを推し量る基準になってる。目指すはあのおばちゃんの笑顔とハピネスなんだなって。頑張るぞって(笑)

サトシ:ツバルって環境問題のシンボル的存在になってて、世界中から「かわいそう」っていう目で見られてるけど、別に生きている人たちが常に悲しみに暮れている訳じゃない。逆に、俺らなんかより全然ハッピーな気がする。

でも、ツバルが沈んでしまうかもしれないのは事実。先進国だからとか、気候変動を起こしてる責任があるからとかじゃなくて単純に、あのめちゃくちゃ明るい人々の笑顔が好きだから、自分にできることってなんだろうって考えた旅でした。

イアン:みんなも似たような感じだと思うけど、自分は気候変動が奪うかもしれないものをもっと身近に感じたくて、今回ツバルに行ったんだよね。そこで見たのは、未来のいく末に混乱しながらも、日々笑顔を掲げ、幸せに暮らす愛すべき人たちだった。彼ら・彼女らから本当に多くを学んだ。そのおかげで、日本に帰ってきてからも「できることをやろう」っていうモチベーションを確保できていると思う。

ツバルについてもっと知りたい、あるいは 350 Japan が行っているダイベストメントについてもっと知りたい!って人がいれば、ぜひ 350 Japan の活動に参加してほしい!なにより、楽しい仲間に出会えるし。

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ツバルのために今あなたがとれるアクション

 気候変動の影響を受けている人々は、私たちとは違う遠い世界に生きているように感じてしまう。でも実は、私たちは彼らに会うことができる、彼らと友達になれる。「先進国の責任」じゃなくて、気軽に友達を助けるような気持ちで始める環境活動があって良いのではないだろうか。

 350では、活動をともにするボランティアを募集している。少しでもビビッとくるものがあったなら、ぜひ参加してみてほしい。

SATOSHI & NINA & IAN

ボランティアに参加する / Facebook / Twitter /  Instagram / 銀行を変える

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▶︎これまでの350の連載はこちら

#003『「何を食べものと決めるかは社会ではなく自分」。ビーガンに風当たりの強い日本で、私が肉を食べない理由』

#002『「 “遊びながらやる感覚” で環境活動にも参加したい」。映像で環境NGOをポップにするクリエーター』

#001『「環境活動に正解はない」。若きアクティビスト3人が語る、真面目なだけじゃない“地球の救い方”』

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「幸せって何ですか?」デンマークが世界一幸福な理由を現地で有名な研究者に聞いてみた!

#003 「死ぬのが怖いんです」。ある高校生の普遍的な悩みに、28歳の彼女が出した答えとは。| “社会の普通”に馴染めない人のための『REINAの哲学の部屋』

All photos by Jun Hirayama
Text by Satoshi Tamura
Location provided by PUBLIC HOUSE 渋谷
ーBe inspired!

 

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