#009 なんで女子から男子にチョコをあげる日なの?性別関係なく人を愛する私がバレンタインにムカついている理由|カミーユ綾香の「マイノリティ爆弾」


 

リムジンよりこんにちは。カミーユ綾香です。

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この車は長いです。おそらく車内でバク転できます。信号に引っかかったタイミングでバク転をキメてやろうと思い、車内の縦のスペースを整理していると、ハートの風船とかチョコレートとかが邪魔します。あ、そうかこれはバレンタイン的な演出かと思いまして、ふと幼少時代のバレンタイン事件を思い出したのであります。

バレンタインデーに自分が「パンセクシュアル(全性愛)」であることを知った

 スラム街、北九州市出身の私は、小学校低学年のときに初恋を経験しました。相手はネバーエンディングストーリーという映画に出てくる、アトレーユです。長髪のドイツ人のこどもです。当時の私は年中裸足で泥まみれの同級生と殴り合いをしていました。そんなクローズの世界で生きていましたので、アトレーユを一目見たときはその衝撃の美しさに腰を抜かしてしまい、あ、もうこれ同じ人間じゃないと思いました。

 アトレーユに惚れ込んで数ヶ月、バレンタインがやってきました。どうやら好きな人にチョコレートを贈るらしいとわかり、アトレーユにプレゼントするためチョコレートを買いました。映画ネバーエンディングストーリーはドイツで制作されていたので、おそらくアトレーユもドイツに住んでいると踏んだ私は、ではどうやってドイツまでチョコレートを届けようかと考えました。

 そこで思いついたのが、川です。その頃、音楽の時間にモルダウの歌とか歌っていたので、北九州の工業地帯のどぶ川でも流れる先はチェコのモルダウに流れ着いて、そこからドイツの川に入って、最終的にはアトレーユに届くと考えたのです。普段は学年一位となる為に死闘を繰り返していたので、恋愛的なことを周囲の人間に相談出来ませんでした。そんななか一人でぎりぎり考え付いたのが、このモルダウ作戦だったのです。

 作戦決行当日14日の早朝、ちゃんと本人に届くように「アトレーユヘ」と書き、拙い愛の言葉を綴った手紙を添え、家と学校からちょっと離れた工業地帯のどぶ川に投げ込みました。どぶっていうかヘドロなので全然流れないのですが、完全に初恋に浮かれている私はうっとりとしてぐちゃぐちゃになって沈みゆくチョコレートを見つめていたのであります。

 作戦を無事に完了した私は、普段どおり登校してクローズの世界に戻りました。給食時間にみんなで殴り合いと雑談をしていると、今日はバレンタインデーだよねという話になりました。このときに知ったかぶりの少女が、「バレンタインデーは、女子が好きな男子にチョコレートをあげる日だよね」と言ったのです。はい、ここです。この言葉、私は意味が分からなかったのです。それは何故か。それは、私がアトレーユを男子とは意識していなかったからであります。つまり私はアトレーユという長髪の美しい泣き顔のこどもが好きだったわけで、その子が男子であろうが女子であろうが私の愛に変化はなく、相手の性別なんてどうでもよかったのです。長じてこれが、「パンセクシュアル(全性愛)」というセクシュアリティであることを知りました。ですがまだ幼かった私は、同級生のいうバレンタインが理解できず、何故女子が男子を好きになると決めるのかとか、何故自分の好きなアトレーユを男子というつまらない枠に入れるのかと思い、ムカついたのでした。

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 北九州と並ぶスラム街として、流星街という場所があります。人間国宝、富樫義博先生の漫画ハンターハンターに出てくるスラム街ですが、その街が世界に発するメッセージとして、こういうものがあります。

我々は何ものも拒まない だから我々から何も奪うな

 恋愛でも宗教でも思想でもそうなのです。自分や他者が信じたり愛したりするものを奪ったり否定しなければ、全てはうまく行くのです。色んな極論や例外はありますが、大原則として奪わずに、自分と相手の絶対不可侵領域を守るという認識があると、大抵のものごとはうまくいきます。

 何を信じて誰を好きになろうとその人の勝手です。私は相手が男でも女でも日本人でも外国人でも前科者でもサイコパスでも、誰にもなんにも否定されたくない。どぶ川に沈んだチョコを思い出しながら、愛してやまないクロロ団長にチョコレート送りたいなと思う今年のバレンタインでありました。

CAMILLE AYAKA (カミーユ 綾香)

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北九州市出身。在日韓国人と元残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。
警固インターナショナルの代表としてアジア各国を飛び回りつつ、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。「マイノリティの爆弾」を「マジョリティ社会」に投げつけるために2017年5月から本メディアBe inspired!で連載中。

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All photos by Keisuke Mitsumoto
Text by Camille Ayaka
ーBe inspired!

 

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