#004「10分間、トイレに閉じ込められるのが当然の国」で私が学んだ“当たり前の危険性”。 | カミーユ綾香の「マイノリティ爆弾」


北京よりこんにちは、カミーユ綾香です。

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北京はいつも私を興奮させます。心を大きく進化させます。進化論で有名なダーウィンは、【生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである】と言いました。まさにその通り。ぐずぐず言わずに変化に馴染まないと、お前、死ぬよ。そう教えてくれる都市が北京なのです。

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 昨夜のことです。

 食事会で中国民族料理屋に行きました。騒々しい店内に広がる各席(部屋)には名称がついており、私達の席は【勝利村】でした。民族感溢れる名称です。途中、中座してお手洗いに向かいました。御手洗いにも名称がありました。【靖国神厕所】と言う名前でした。訳すると【靖国神社便所】という意味です。さすが民族料理屋。抗日スパイスが効いています。そう思いながら入ると、鍵のかけ方が妙に複雑でした。中国ではトイレの鍵をかけない方も多いのですが、私は日本での習慣を持ち込んで、そのまま鍵をかけました。ちゃんと鍵がかかったか確認しているうちに、事件が起こりました。鍵が閉まり過ぎて、開かなくなったのです。数分、鍵をガチャガチャさせていると、扉の前に中国人店員がやって来ました。扉の向こうから何か言っていましたが、密閉されたトイレの個室なので、よく聞き取れません。私も焦って「ちょっとよく聞こえない!分からない!わたし日本人だし!」と叫んでいたのですが、店員も同じように東北訛りの中国語で叫び続けます。

 このとき、私の脳裏には、あるニュースの映像が流れました。中国でたまに起こる、壁や穴に頭が挟まって抜けなくなった、子供の救出映像です。そして、戦慄しました。…もしかすると、私の救出劇もテレビで流されるのだろうか…北京の民族料理に閉じ込められて、中国の消防隊に助けられるのだろうか…そして中国のテレビで、【日本人が民族料理屋の靖国神社便所に閉じ込められた(笑)】みたいな報道をされるのだろうか…これはやばい。

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 愛国者として思うところもあるけれど、それにしても面白過ぎる!自分の心の中で閉じ込められた恐怖より面白さが勝ったときに、ふと腕の力が抜けました。そしてするっとドアノブを左にねじったときに、鍵が開いたのです!扉を開くと中国人店員が立っており、涼しい風がさっと流れました。北京の淀んだ空気が、野原のそよ風のように私を吹き抜けました。そして私は、これまでの人生で最も心を込めて「謝謝」と連呼したのであります。

 脱出後、自分の席に戻り隣の人に事件についてちらっと話したのですが、2秒で流されました。そうなのです。トイレに10分ほど閉じ込められることなんて、普通の出来事なのです。トイレに閉じ込められたくらいで心配されようなんて、お前メンヘラかよ、というスタンスです。それよりも反省すべきは、無理やり鍵をかけようとした私の適応力の低さです。世界は広い。礼儀も羞恥心も習慣も、それぞれの地域によって違う。たまたま日本人がトイレに鍵をかけるのを当然の習慣としているからといって、それを全員がしない地域がおかしいわけではない。寧ろ、そういう地域でかかりにくい鍵を無理にかけようとした、私が傲慢だったのです。

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 世界中どこでもトイレで鍵をかけるのは当たり前、と考えているのであれば、それが当たり前の範囲でしか生きられません。それは、ちょっとつまらない気がする。世界は広く、多種多様です。トイレに鍵をかけるのって、二時間飛行機に乗ったら、当たり前じゃなくなるんだよね。そう思ってみることから、扉は開けて進化が始まるのではと思うのでありました。

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CAMILLE AYAKA (カミーユ綾香)

北九州市出身。在日韓国人と元残留孤児の多く住む多国籍な街で育つ。警固インターナショナルの代表としてアジア各国を飛び回りつつ、十数言語による語学スクールとインバウンド支援の多言語ウェブサイト制作会社を運営する一方、難病の重症筋無力症とパンセクシュアルというセクシュアリティの当事者として、様々なマイノリティの生きやすい社会を目指して精力的に活動中。「マイノリティの爆弾」を「マジョリティ社会」に投げつけるために5月から本メディアBe inspired!で連載開始。

All photos and text by Camille Ayaka
ーBe inspired!

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