今時「豪邸に住むこと」なんて夢見ない。消費社会でポートランドが気づいた、“本当の自由”が手に入るタイニーな暮らし


アメリカでは、自分にとって本当に必要なものだけを残して生活をダウンサイジングし、小さな家でシンプルに暮らすことを選ぶ人たちが増えている。トレイラーに乗った居住面積約3.4坪という小さなタイニーハウスでの暮らしが、近年、「自由に近づく」と若者を中心に大量消費社会のカウンターカルチャーとして広まっているのだ。

オレゴン州ポートランドには、そんなタイニーハウス好きが集まり、大人8人+1人の赤ちゃんで共同生活を送るコミュニティがある。一見、窮屈で不自由そうな共同生活や小さな居住空間で、彼らがどのような“自由”を手に入れているのかを探った。

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夢は大きく、家は小さく。

 「タイニーハウス(スモールハウス)・ムーブメント」とは、小さな家「タイニーハウス」に住むことだけでなく、なるべくモノを所有せず、シンプルに暮らすというライフスタイルまでも含めた潮流のこと。タイニーハウスを選ぶ人たちは、アメリカンドリームの象徴のようなハリウッド・セレブの豪邸よりも、自ら作った小さなDIYハウスの方が負け惜しみなどではなく、かっこいいと信じている。

 このムーブメントが根付いた土壌は、リーマン・ショック後、大量生産・大量消費社会に疑問を感じる人が増えたことだと言われており、「ザ・スモール・ハウス・ブック」(2009)の著者ジェイ・シェーファーやTED講演「ドリーム・ビッグ、リブ・スモール」(2012) で知られるディー・ウィリアムなど、タイニーハウス・ムーブメントの立役者と言われる人々の活動もあって、シンプルなライフスタイルは、より多くの人たちに支持されるようになった。

 オレゴン州ポートランドは、DIYやキャンプ、サステナブルな暮らしが根付いており、タイニーハウスのホテルやワークショップ、施工店なども多いため、タイニーハウス・ムーブメントとの親和性が高い街だ。ここで、タイニーハウスが集まって共同生活を送る“タイニーハウス・コミュニティ”が、各地に先駆けて生まれたという。

シェア、ミニマル、コミュニティ、DIYなシンプルな暮らし。

全米初だというタイニーハウスのコミュニティ「シンプリー・ホーム・コミュニティ」があるのは、ポートランド北東部の住宅街だ。約39.3坪の「ビッグ・ハウス」と呼ばれる家の裏庭エリアに共同菜園を囲んで3軒のタイニーハウスが設置されている。

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ビッグ・ハウス

 それぞれ個性的なDIYタイニーハウスは、トレイラーに乗っていて、通常住人が入れ替わる時には、家ごと引っ越しする仕組みだ。実際につい最近、創立メンバーの1人が最近家ごと引っ越し、代わりに新しいメンバーが自宅と共に落ち着いたところだ。ビッグ・ハウスは、5人+赤ちゃんが暮らすシェアハウス兼共同スペースとして使われている。

 このコミュニティは、タイニーハウスのワークショップで知り合った仲間たちが集まり、2014年に始めたもの。単にそれぞれのタイニーハウスを設置してご近所同士になるだけではなく、助け合って豊かに暮らすことを目的としている。

 筆者は、4月中旬、創立メンバーの1人であるトニーさんにシンプリー・ホーム・コミュニティを案内してもらった。

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トニーさん

「背が高いからキッチンは高め」。DIYが故に手にできる“自由すぎるMY空間”

 トニーさんが、まず案内してくれたのは、彼自身がDIYしたタイニーハウス「ラスティック(The Rustic)」。全長約4.9m、幅約2.4m、車輪を含む高さ約4m。約3.4坪に、ロフトベッド、シャワー、トイレ、キッチン、リビングルームが収まっている。

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ラスティック

 自分が育った父親作のログハウスの心地よさを追求したというが、確かにキャビンのような印象だ。自分のために作った家だけあって、長身のトニーさんが使いやすいよう、キッチンカウンターはかなり高めで、スパイスやハーブの収納用のメイソンジャーは、天井に取り付けられている。この家のどこを一番自慢に思っているかを聞くと、「粗だらけで、ココって言える部分はないんだけど、とにかく自分で、自分のための家を作り上げたってこと自体」とのこと。

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収納用のメイソンジャー

 トニーさんの出身は、オレゴン州よりもの北部のワシントン州バンクーバー。タイニーハウスを建てる決意をしたのは、当時の恋人と別れ、彼女と暮らしていた家を出ることになった時だ。アパートを借りることも考えたものの、どうせならサバティカル休暇(長期勤続者に付与される長期休暇)を使って、職場の近くに自分で家を建ててみようと思い立った。突飛なことに没頭して、別れた恋人を忘れたいという気持ちもあったという。

 昔からDIYが好きだったとはいえ、家を建てることに関しては全くの素人だったのでタイニーハウス作りは難航したと当時を振り返るトニーさん。ワークショップに参加したり、YouTubeビデオを見たりしながら、4ヶ月かけてなんとか形になったという。

 後半は、「なんでこんなクレイジーなことを思いついちゃったんだろう」と、作業の大変さに自分を呪うこともあったそうだが、当初の目論見どおり、失恋からはすっかり立ち直った。それだけではなく、現在コミュニティで一緒に暮らしている仲間とも出会うきっかけになったという。

 このコミュニティの土地に落ち着く頃には、新たなパートナーとも知りあい、しばらく彼女と二人でタイニーハウスで暮らしたそうだ。今は、赤ちゃんが生まれてさすがに手狭になったため、ラスティックは知人のクリスさんに貸し、ビッグハウスで暮らしている。

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左:トニーさん 右:クリスさん

  敷地内には、ラスティックの他に「セレニティ」、「ハニーコーム(蜂の巣)」と呼ばれる2軒のタイニーハウスがあり、それぞれ女性が一人で暮らしている。サイズはどのタイニーハウスもほぼ同じだが、どちらも自分のためにDIYした城だけあって、オーナーの個性がぎゅっと詰まっていた。

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セレニティ

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セレニティ

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ハニーコーム

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ハニーコーム

タイニーだけど、豪邸よりも「自由な空間」がそこにある。

 トニーさんは、タイニーハウスの最大の魅力は「自由」だという。自分の好きなものだけを詰め込んだ車輪付きの家は、自分次第で、例えばカナダにだって今すぐ移動することができる。転勤になったり、災害に見舞われたとしても、新天地ですぐに暮らしを再開できる。そう思うだけで、気分が軽くなるという。

 また、日常的には、家賃や住宅ローン、固定資産税、光熱費、水道代といった支払いの負荷が少なく、経済的なストレスから解放されている。このコミュニティで暮らす大人は皆、それぞれの職業についているが、様々な生活費を抑えてお金を貯め、旅行に行く人も多いらしい。

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ビッグハウスを間借りしているサラさん

 大企業で働くトニーさんの同僚たちは、大概大きな家に暮らしており、トニーさんは、タイニーハウスにこだわっているため、同僚たちに「ジャイアント・ヒッピー」だと思われていると笑う。それでも彼は、以前の自分が暮らしていたようなモノの溢れる“普通の家”を訪ねるたびに、「無駄だなあ」とか、「不自由だなあ」と感じてしまう。けれど、人に生活のダウンサイジングを勧めるようなことはしない。なぜなら、本人が決めないと、とてもできることではないからだ。

 「モノが腐るほどあっても満足できない」「いくら消費しても満たされない」という日本でも見かける問題を抱える人々になにかアドバイスがあるか伺うと「止めろ!としか言えないなあ」と笑っていた。「人がなんといっても、自分で決めないとねえ」と話す彼に、ヒントだけでも、と食い下がると、デーブ・ブルーノの著書「100個チャレンジ:生きるために必要なモノは、そんなに多くない!(“The 100 Thing Challenge:How I Got Rid of Almost Everything, Remade My Life, and Regained My Soul”)」を勧めてくれた。

 本書では、ある会社経営者の著者が、自分の身の回りのものを100個に絞って生活する実践過程が紹介されている。消費が推奨され、モノが溢れる現代社会では、我々の多くが、いつの間にか増えた多くのモノに囲まれて暮らしている。その所有物の全てを一度「本当に、今の自分にとって必要か」と見直し、不要なモノを処分することで、消費社会の束縛から逃れ、心の平安を得られるという考え方だ。

 スペースに限界のあるタイニーハウスでは、自分にとって本当に必要なモノかを常に意識させ、無駄なものを手放すことを求められる。敢えてその状況に身をおくことが、トニーさんの「自由を手に入れるコツ」なのだ。

もはや家族。「素の自分」を受け入れてくれる、ホッとする場所。

 シンプリー・ホーム・コミュニティには、シンプルなライフスタイルや価値観を共有する仲間が集まり、単に近所付き合いをするのではなく、助け合って豊かに暮らすことを目指して運営されている。
 
 その運営基盤となっているのが、「共同生活の合意書(Community Living Agreements)」。合意書に含まれる内容は、米、豆、小麦粉、砂糖といった基本的な食糧を大量にまとめ買いしてシェアすることで値段を抑えるバルク購入や、毎日交代でみんなの夜ご飯を作るコミュニティ・ディナー、1週間に2時間のコミュニティワーク(通常、日曜にみんなでパーティーのノリで実施される)、現状や運営方針について話し合う月に2回のミーティングなどである。ミーティングでは、年長者や古参がリーダーというのではなく、誰の意見も同じだけ尊重されるという。また、合意書の項目として特に挙がってはいないが、シェアできるものは個人で所有せずに共同で使ったり、誰かが既に持っているものは、仲間内で貸し借りすることが自然に行われている。

 このコミュニティ内のシェアリングエコノミーは、経済面やスペース面だけでなく、人との交流できることも大きなプラスになっている。

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 このコミュニティの最大の魅力は「家族のような付き合い」だとトニーさんが言うように、仕事から帰って来れば、週に6日は誰かの作った夕飯が待っていて、一緒に食べることができるし、食後に一緒にギターを弾くことも多い。空港に行く必要があれば、誰かに気軽に車で送って、と頼むことができる。嫌なことや困ったことがあったとき、話を聞いてハグしてくれる人がいる。そんな家族のような人とのつながりに救われることが多いという。

 もちろん誰にも会いたくない時は、自分のタイニーハウスや部屋に行けば、プライバシーが得られるのも大切な要素だ。ずっと引きこもっていると、心配した誰かがやってくるそうだが。

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みんなの集まるビッグハウスのリビング

 一人暮らしに慣れていると、人との距離が近くて、窮屈そうに思えるこのコミュニティの暮らしだが、自分のことを気にかけてくれる人が側にいるのは、やはりいいものだろう。それに食事を共にしたり、ビッグハウスの台所やシャワーなど居住空間をシェアすることで、「よそ行き」ではない、素のままの自分を見せられる家族のような信頼関係が生まれるのではないだろうか。それは、窮屈どころか、住人たちに更なる自由と心の平安をもたらしているのかもしれない。

ポートランドが気付いた。たくさん消費することは「幸せじゃない」ということ。

 トニーさんは、娘のザザちゃんをこのコミュニティで育てられることを光栄に感じているという。それは、家族以外の人からの「家族のような愛情」に囲まれているから。そして、自分でタイニーハウスを建てたメンバーを筆頭とした女性たちが、みんなDIY精神や独立心に溢れていて、ザザちゃんのロールモデルにふさわしいと思っているからだ。「ザザちゃんはここで、物質的なモノよりも大切な、自由に生きるスキルを学んでいくだろう」と満足そうに彼は語る。

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トニーさんの娘のザザちゃん

 シンプリー・ホーム・コミュニティで出会った住人たちは、トニーさんをはじめ、皆、満足そうだった。多くを持たずに暮らす彼らが幸せそうなのは、自分で自分の「好きなこと」、「大切なこと」を見極め、自らアクションを起こせるという自信と、困った時に側にいて、力になってくれるコミュニティとのつながりを持っているからだと思う。それが、彼らを自由にしているのだ。

 アメリカや日本の大量生産・大量消費を信奉する生き方は、心の平安を乱すと多くの人が気づき、だんだん廃れていくだろう。物欲に振り回されるのはもうごめんだ、と感じているなら、シンプルに暮らす、助けあって暮らす方向に、小さくても自ら一歩踏み出してみてはどうか。少しずつ自由に近づけるかもしれない。

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Simply Home Community

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All photos and Text by Rika Higashi
ーBe inspired!

 

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