「暮らしの延長に存在する仕事」を生み出す。“グルテンフリーの麺”で地域に貢献する29歳の男の思想|EVERY DENIM山脇の「心を満たす47都道府県の旅」 #003

Text: YOHEI YAMAWAKI

Photography: ERU AKAZAWA unless otherwise stated.

2018.7.1

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こんにちは!EVERY DENIMの山脇です。EVERY DENIMは僕と実の弟2人で立ち上げたデニムブランドで、2年半店舗を持たず全国各地でイベント販売を重ねてきました。 2018年4月からは同じく「Be inspired!」で連載を持つ赤澤 えるさんとともに、毎月キャンピングカーで日本中を旅しながらデニムを届け、衣食住にまつわるたくさんの生産者さんに出会い、仕事や生き方に対する想いを聞いています。
 
本連載ではそんな旅の中で出会う「心を満たす生産や消費のあり方」を地域で実践している人々を紹介していきます。

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奥が兄の山脇 耀平、手前が弟の島田 舜介

▶︎山脇 耀平インタビュー記事はこちら

今回の旅は6月7日〜12日。広島県、山口県、島根県を巡りながら、たくさんの人に出会ってきました。システムエンジニアとトマト栽培を兼業する新しい形の農家さん。オーダーメイドの家具をつくりながら、人が集う場所づくりまで手がける山口の職人さん。漁師の街で地域に愛される大漁旗を生み出しつづけてきた工房の6代目。

そんなたくさんの出会いの中から今回紹介したいのは、グルテンフリーの玄米麺を通じて耕作放棄地の再生に取り組むという、地域に対して、社会に対してポジティブなインパクトを与えようとしている小倉 健太郎(おぐら けんたろう)さん。彼の原動力とビジョンについてお話を伺いました。

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小倉 健太郎さん

様々な暮らしを巡る中で実感した食の大切さ

島根県松江市の出身で、大学進学を機に上京した小倉さん。環境問題や持続可能な社会に関心を持っていたことから、在学中にソーシャル・ビジネスを行う企業で働いた。その後大学を休学し、ニュージーランドに滞在。日本とは異なる人々の暮らしを肌で体感する。2011年の東日本大震災をきっかけに帰国した後は、東北にて復興支援に携わった。

ニュージーランドの生活では「命の使い方」についてじっくりと考えました。一生に一度しかない自分の人生を何に捧げるべきなのか。そんなことに思いを巡らせていたとき、日本で震災があって帰国したんです。東北で復興の支援に関わる中で、出会った人々のたくましさにとても影響を受けました。

困難な状況にあっても自分の頭で考え、生きるための食糧をつくり、文字通り“自分の足で立っている人”たち。小倉さんはそんな彼らの力強さに惹かれると同時に、食べ物が地域内で持続的に生産されることの大切さを痛感した。

食に関わる分野で生きていくことを決めた小倉さんは大学卒業後、新卒で京都の豆腐屋に就職。2013年に地元の島根に帰郷し、のちにパートナーとなる小倉 綾子(おぐら あやこ)さんとともに、合同会社宮内舎(みやうちや)を立ち上げることになる。

宮内舎とは、島根県雲南市という中山間地域でグルテン(小麦)フリーの“玄米麺”を製造販売している小さなカンパニーです。僕らが暮らすこの大東町(だいとうちょう)という町は、年々耕作放棄地が増えています。理由は、町民の高齢化や近年の米の買取価格の低下により、農家さんが仕事を維持できなくなっているから。この状況をなんとかしようと考え始めたのがすべての始まりでした。

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宮内舎が玄米麺とともに展開する白米麺

大東町のような中山間地域は、山から流れる新鮮な水を一番に手に入れられるという環境もあって米作りには適しているそう。そんなお米を農家さんから相場より高い価格で買取り、食品として製造販売することで地域に貢献する、というのが小倉さんの想いだった。

グルテンフリーの玄米麺の着想に至ったのには、綾子さんが小麦アレルギーだったというのもある。小麦アレルギーである綾子さんも食べられるような、麺を開発して世の中に届けていきたい。そんな2人の夢は形となり、2015年6月の販売から4ヶ月で販売1万食を突破。現在では取引先を40社以上に広げている。

地域の暮らしの延長を考える

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話を聞く限り一見順調そうに見える宮内舎の取り組み。しかし、ここまでの道は決して平坦ではなかったと小倉さんは話してくれた。

実は宮内舎では、玄米麺以外にも宿泊施設やイベント運営など他の事業を展開していた時期があります。でもどれもしっくりこなかった。結局どの取り組みも、この雲南市大東町で生きる人たち、すなわち自分の足で立っている人たちの暮らしの延長になかったんだと思います。

地域に深く携わる、地域に根ざした事業を行っていく上では、そんな風に「今をここで生きる人たちにフィットするかどうか」を考えることはとても大事だと思います。その上で、玄米麺は間接的に農家さんの売り上げを支えることになるし、関わり続けることで何よりコミュニケーションを生める。

小倉さんは農家さんの生きがいをとにかく重視する。取引を行うことで会話が生まれ、町にも活気が出てくる。玄米麺の販売数を伸ばしながらも、数字として見えづらい価値にしっかりと目を向けているのは、「地域にとって何が幸せな状態か」を考え尽くしているからこそだろう。

極端かもしれませんが、この土地で生まれ、先代から暮らしを引き継ぎ、ここで生きてきた人たちにとっては、農業を行うということ自体が人生と結びついていて、本当に大切な生活の一部なんです。「農家という生き方を肯定できる」かどうかを、宮内舎の事業で少しでも感じて頂ければと思います。そしてそれは必ずしも規模の尺度では測れないものだとも。

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玄米麺を通じて届けたい“関係性”

田を耕し、育て、稲を収穫する。農業を営む中で保たれる美しい景観と、暮らしの根幹である食糧をつくる農家という生き方。大東町という一つの地域の中で生産と消費の循環を維持していくこと。そんな玄米麺づくりという形で未来にチャレンジしていく小倉さん。最後に、これからの展望について伺った。

僕らが玄米麺を通じて届けたいのは「人と関わり合う物事の関係性」です。この土地で人々が農業を続けてきたという歴史。農業を行う上での自然との共生。動物・植物の存在。霊への信仰。さまざまな関係性をきちんと理解した上で事業を行いたいし、その関係性の大切さ、豊かさを発信していきたいと言う想いが根幹にあります。

これからこの地域を訪れる多くの人たちと、たくさんの関係性を共有したい。そして未来に向かって関係性を耕していきたい。玄米麺という形あるモノが、そんな関係性づくりのきっかけになれば嬉しいです。

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与える・与えられるといった一方的な関係でなく「共有」という言葉で最後を締めくくった小倉さん。柔らかい物腰と熱い眼差しをあわせ持った魅力的な雰囲気に、お話の最中筆者はずっと惹かれていた。

宮内舎が根ざす島根県雲南市大東町はパートナーである綾子さんの地元で、小倉さんも同じ島根県出身といえど、この地域には外から入った形となる。取材中もずっと重視されていた関係性。大切だからこそ簡単には築けない、中の人との関係性をつくっていったその努力は並大抵でなかっただろう。

過去を理解し、今を見据え、未来を描く。その結晶として宮内舎が届ける玄米麺は、モチモチとして優しい食感が特徴の味だった。農家さんという作り手と、小倉さんたちという伝え手の暖かな関係。両者の関係性に想いを巡らせながらいただいた食事は、代え難い豊かな体験となった。

関わる人たちのことを自分ごととして捉え、生き方を尊重した上で進む道筋を示す。どんな仕事をする上でも通じる大切な本質を小倉さんには教えていただいた。そして遠くない先、小倉さんが繋ぐ関係性が地域を暖かくするだろうと、そんな姿にワクワクしながら、またこの町に来たいと思った。

宮内舎

公式サイトFacebook

島根の中山間地域から“グルテンフリー”の“玄米麺”をつくる小さなカンパニー。耕作放棄地が増えつつける過疎地から“グルテンフリー”の玄米麺を製造販売する。耕作放棄地を再生する取り組みや、協力農家たちと減薬の取り組みによって地域づくりを行なう活動も行う。

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山脇 耀平 / Yohei Yamawaki

TwitterInstagram

1992年生まれ。大学在学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM」を立ち上げ。
オリジナルデニムの販売やスタディツアーを中心に、
生産者と消費者がともに幸せになる持続可能なものづくりの在り方を模索している。
繊維産地の課題解決に特化した人材育成学校「産地の学校」運営。
2018年4月より「Be inspired!」で連載開始。
クラウドファンディングで購入したキャンピングカー「えぶり号」に乗り
全国47都道府県を巡る旅を実践中。

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キャンピングカーで巡る47都道府県の旅のスケジュール

第4弾:2018年7月12日(木)〜7月16日(月・祝)

行き先:
7月12日(木)宮城
7月13日(金)山形
7月14日(土)山形
7月15日(日)福島
7月16日(月・祝)福島

現地でのイベント情報は随時更新していきます!詳しくはTwitterをご覧ください。

第4回 旅の食事会
日時:7月21日(土)18:00~21:00
場所:Cookpad.inc
〒150-6012 東京都渋谷区恵比寿4-20-3 恵比寿ガーデンプレイスタワー12F
参加費:無料(懇親会に参加される方3000円)
詳細はこちら

※こちらはBe inspired!に掲載された記事です。2018年10月1日にBe inspired!はリニューアルし、NEUTになりました。

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