楽しそうに「死体とセルフィー」をする不謹慎な若者たち。


今や自分の写真を投稿したり、友人の近況をチェックしない日はないほど、立派なコミュニケーションツールとして身近な存在となったSNS。中でも旅行の写真は、楽しい思い出としてすぐにSNS上にアップしたいもの。歴史ある建造物や美しい風景を背景にセルフィーを撮るのは、すでに一般的になり、観光地ではセルカ棒を片手に笑顔で写真を撮る旅行客で溢れかえる。

しかし、ここ最近セルフィーによる事故が絶えない。データ調査会社「PRICEONOMICS」によると、インド中西部の湖で男女8人がボートでバランスを崩し投げ出され、うち7人が溺死。中国では25歳の男性が、滝の上から滑落死。どちらもセルフィーを撮ろうとし、誤って命を落としてしまったのだ。(参照元:PRICEONOMICS)

だが、死亡事故に繋がる危険な場所での撮影を控えることの他に、私たちのセルフィーに対する意識を変えていかなくてはいけない問題がある。

プロジェクト「Yolocaust」とは

(Photo by sparkle-motion)

(Photo by sparkle-motion)

 1934〜1945年、ナチス・ドイツが政権を握っていた頃。ドイツで600万人以上のユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」が起こった。ドイツ以外にも、当時占領下だったポーランドやその他の国でも、ユダヤ人絶滅を目的に作られた強制収容所が建てられた。そこでは強制労働、人体実験、射殺が日々行われ、毎日数千人がガス室に送り込まれ命を奪われた話は有名だ。

 この大惨事で犠牲になった彼らのために、ベルリン・ブランデンブルグ門付近にはホロコースト記念碑が建てられ、毎年多くの観光客が訪れる。歴史上最大級の悲劇が起こった場所であるが、コンクリート製の大小様々な石碑がグリット状に並ぶその独特なデザインから、スタイリッシュな写真が撮れる場所としても有名で、ここでも笑顔でセルフィーを撮る人々が後を絶たない。

 セルフィー以外にも、石碑と石碑の間を飛び移ったり、上に寝そべったり、ジャグリングやヨガのポーズをきめてみせたりと、思い思いに楽しんでいる写真をSNSでは見ることができる。

 しかし、その状況に「待った」をかけたのが、ベルリン在住のイスラエル人Shahak Shapira氏だ。FacebookやInstagramにアップされた笑顔のセルフィー写真やポージングをきめた写真と、強制収容所で過ごす痩せ細ったユダヤ人、横たわった死体が並ぶ悲惨な映像を組み合わせた彼のプロジェクト「Yolocaust (ヨロコースト)」は、ドイツだけでなく世界中に衝撃を与えた。Yolocaustの名前の由来は、ソーシャルメディアの人気ハッシュタグ「you only live once(人生一度切りなんだから今を思いっきり生きようよ)」の頭文字を略した「Yolo」に、「Holocaust(ホロコースト)」を繋ぎ合わせたものである。



 Yolocaustの公式サイトは250万以上の人々が閲覧し、またShapira氏の元には、ホロコーストの研究者、戦争で家族を亡くした人々、授業の一環でこのプロジェクトを使用したい教師から、多くのフィードバッグが届いているという。さらに写真を撮りSNSにアップした当の本人たちからは、謝罪の言葉とともにSNSから写真を消すというメッセージが届き、Shapira氏が社会に与えたインパクトはかなり大きい。

 Yolocaustは若干荒手だが、私たちにこう問いかける。果たしてどれだけの人が、その歴史を知った上で写真やセルフィーを撮っているのだろうか。また悲惨な歴史を知れば、そう簡単に笑顔でセルフィーを撮ったり、SNSに写真をアップすることもできなくなるだろう。

セルフィーで落とされる命

 セルフィーを撮りたいがために、誤って命を落としてしまうこともあれば、逆に私たちが命を奪ってしまうこともある。


 アルゼンチンにあるサン・ベルナルド市のビーチで、ある日イルカの赤ちゃんが岸に打ち上げられてしまった。そこにいた人々は海にイルカを返してあげられたにも関わらず、より近くで見たいがために引き上げ、なんと息絶えるまで触ったりセルフィーを撮ったりしていたという。さらに驚くべきことに、このビーチでの事故は今回が初めてではなく、去年も同様にアルゼンチンで2匹のイルカが打ち上げられ、そこにいた大勢の観光客はイルカを囲みお祭り騒ぎ。うち1匹が命を落としてしまったという痛ましい事故が起こり、世間を騒がせた。


 この息絶えたイルカはすでに弱っていたのか、または人間との接触で死に至ってしまったのかは定かではない。しかし暑い日差しが降り注ぐ中、自らの手で海から引き上げたこと、そして海に戻そうともせずセルフィーを撮り続けたことは、現代社会に生き、SNSに依存している人間の浅はかさを示しているのではないか。救える命を救わず、SNSに写真をアップすること、もしくは普段見ることのできない動物や風景とのセルフィーを撮り、多くの友人から「いいね」を得ることの方が大切なのか。これは現代人の抱える病のひとつといっても、過言ではないのかもしれない。

写真を撮る前に、一呼吸

 不謹慎な場所でのセルフィーに、命を奪ってまで撮影されるセルフィー。この問題は日本も他人事ではない。SNSに依存し過ぎた私たちは、楽しい思い出づくりはもちろん、盛れている写真をアップし、SNS上で友人からの「いいね」を得たいがために、歴史ある場所や美しいビーチに足を運ぶ。それがきっかけとなって歴史や自然を知ることは良いことだ。しかし、過去にそこで何が起こったのか、写真より大切なものは何なのか。写真を撮る前に一度考えることが、現代を生きSNSに依存してしまった私たちに必要な処方箋なのではないか。

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Text by Ruka Yamano
ーBe inspired!

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