4作目:「いいね!」のために生きている。恐ろしいSNS社会の将来を暗示する映画『ザ・サークル』。|GOOD CINEMA PICKS


 

もし自分の生活が24時間、一千万人以上の人間にカメラで監視されているとしたら?今は、考えるだけで恐ろしいと思う人が大多数ではないだろうか。しかし、それが私たちの未来かもしれない…?

映画には人を変える力がある。これまで知らなかった世界に連れて行ってくれる。ストーリーを通してこれまで出会ったことのない価値観に感化される。今まで見たことのない美しい景色に心動かされる。映画には無限の可能性がある。

今回の社会問題に焦点を当てた映画を紹介する『GOOD CINEMA PICKS』では、エマ・ワトソンとトム・ハンクス出演作、テクノロジーの進化にともなう現代社会特有の問題について考えさせられる『ザ・サークル』の監督ジェームズ・ポンソルト氏に話を聞いた。

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ジェームズ・ポンソルト監督
Photos by YOSHIKO YODA

「監視社会」になりつつある日本への警報

マジメな田舎の優等生メイ(エマ・ワトソン)は世界No.1のシェアを誇る超巨大SNS企業「サークル」に念願の入社を果たす。創始者でありカリスマ経営者のベイリー(トム・ハンクス)が掲げる理想は、全人類がすべてを隠すことなくオープンにする“完全”な社会。ある事件をきっかけにベイリーの目に留まったメイは彼女の生活の24時間をすべて公開するという実験モデルに抜擢され、あっという間に一千万人を超えるのフォロワーを世界中から獲得し、アイドル的な存在となる。だがそこには思わぬ悲劇が待ち受けていた…。

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 『ザ・サークル』の軸となっているのは、「監視社会」と「プライバシー」の問題であるとポンソルト監督は話す。日本では、2017年6月に「共謀罪」の趣旨を含む改正組織的犯罪処罰法が成立し、“安全のため”と言ってもどこまで政府が国民を監視するべきなのか議論が巻き起こった。そもそも“安全のため”にこのような法律が本当に必要なのか?権力の乱用ではないのか?成立したものの、反対意見も多かったのが記憶に新しい。監督は、「監視社会」への普遍的な疑問をこの映画で投げかける。

自分の行動を逐一監視・記録されて、そしてシェアされるのであれば、それはこの映画の物語が描く未来図であって。実際の社会も、もしかしたらそっちに向かっているのかもしれないけれども、そんな監視社会にいる人間というのは果たして自由だといえるのかどうか。そして、自由意志を持っているといえるのかどうか、というのが大きな問いかけだと思う。

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Photo by YOSHIKO YODA

でも、私たちは見られることを望んでいる?

 しかし一方、「プライバシー」を考えるうえで避けられないのが、私たちの日常生活のなかでも浸透しているSNSなどを通した「過剰なまでの共有」。政府に強制されるまでもなくインスタグラムやツイッターで個人の生活を過剰に共有しているのは私たちなのだ。

 映画のなかで、主人公メイは進んで私生活を24時間世界に公開し、一千万人を超えるフォロワーたちはメイをオンラインで熱狂的に追っかける。その様子は観客には異様な光景として映るだろう。しかし、規模は違うものの、これはまさに現代社会で起きていることではないだろうか。

 私たちは自らSNSでプライベートを共有、あるいは他人のプライベートを日常的にのぞく。SNSの精神面への悪影響も指摘されるなか『ザ・サークル』はプライベートを24時間共有するメイという極端な例を見せ、観客にSNSカルチャーがこのまま進んでいってたどり着く場所を暗示しているのかもしれない。

監視は必要?SNSは本当に“悪”?答えが全く見つからない

 とはいっても、「監視」にも利点はあるし、SNSを単純に否定することはできない。

 近年、食品業界やファストファッション業界の劣悪な労働環境や環境・働く人へのダメージが摘発され、企業の行なう事業の「可視化」が重要視されている。アメリカでも政治家が使う資金の流れを明らかするウェブサイトが注目されたりと、消費者や国民として「知る権利」を求めるという流れは今後も続くだろうし、続くべきであろう。

 SNSに関しては、これまでマスメディアでは取り上げられることのなかった、たとえば人種的・性的マイノリティのコミュニティが主張できる場となり、無名の才能ある人々が発掘されるきっかけにもなった。事実、ポンソルト監督はSNSに肯定的な見方も持つ。

ツイッターができた初期の大きな事件としては*1「アラブの春」があった。また、北英では学生たちの届かなかった声をツイッターを通して上げられた。そして、大事件とか何か危機にさらされているときにSNSって結構活躍するし、あとは、たとえば単純に愛する人とその距離が遠かったとしても常に連絡が取れるとか、そういう意味ではSNSの可能性は未知的だよね。東京にいる友達に会うために外国から航空券を買ってまで会いには来られないけれど、ネットでつながるみたいな意味では誰でもつながれるから。僕は妻とフェイスブックで出会って今子どもが2人いるんだけれど、それもフェイスブックのおかげだし。そういうところはいいっていえるかもしれない。

(*1)2010年から2012年にかけてアラブ諸国において発生した、前例がない大規模反政府デモの総称。このデモの呼びかけにはフェイスブックやツイッターなどが利用され、SNSが大きく影響したと言われている。

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Photo by YOSHIKO YODA

 監督は映画のなかで私たちに何が正しいのか教えてはくれない。しかし、インタビューでヒントとなることを教えてくれた。それはSNSを使うときの「バランス」。

SNSは自分の延長線上のものだと思うし、僕自身は本人を前にして言えないことはネットでも言わないようしようと思ってる。だから、やっぱり自分の発言への責任、それからその自分の言動の言質というか、「自分が言ったんだ」っていうことの責任みたいなものは常に意識して使わなければいけないんじゃないかと思う。人は自分が“名無し”になったときに、不親切な、冷酷なことを言えてしまう。顔の見えないネットの人間として。だから、それぞれの人が自分の境界線みたいな一線をちゃんと見極めて、自分なりのバランスっていうものを見つけていくしかないのかなって思ってる。忘れちゃいけないのは、まず自分が気にかけなければいけないのは、現実世界のリアルな人間関係、それがうまくいっているのかどうかということ。そして、たぶんネットとかSNSとかって副次的なものであるべきで、メインに来るべきものではないんだよね。そして、実際の人間関係の代わりにはならないんだと思うことも大切かと。

 この映画の最後には見た者の考えによって、何通りにも読み取れるエンディングが待ち受けている。見終わっていい意味でモヤモヤするのは筆者だけではないだろう。

『ザ・サークル』

11月10日(金)TOHOシネマズ 六本木ヒルズ 他全国ロードショー

© 2017 IN Splitter, L.P. All Rights Reserved.

配給:ギャガ

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Text by Noemi Minami
ーBe inspired!

 

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